GX推進法とは|カーボンプライシングと企業への影響・対応策を解説

2026.06.02
国内規制

「GX推進法という言葉は聞くが、自社にいつ・どんな影響があるのか掴みきれない」。脱炭素をめぐる企業の現場では、そうした戸惑いをよく耳にします。

GX推進法とは、脱炭素への移行と経済成長の両立をめざす日本の法律です。2023年5月に成立し、今後10年で官民あわせて150兆円超のGX投資を引き出す枠組みを定めました。CO2排出に価格をつけるカーボンプライシングの導入も、この法律が土台です。

本記事では、GX推進法の目的と4つの柱、カーボンプライシング(化石燃料賦課金と排出量取引)の仕組みと導入時期、企業への影響、そしてサステナビリティ担当者が今から取るべき対応ステップを順に解説します。実務の判断に使える形へ整理しました。お役に立てれば幸いです。

GX推進法の全体像

脱炭素(GX)への移行

クリーンエネルギー中心への転換

両立をめざす
GX推進法

経済成長

新産業・競争力の創出

10年で官民150兆円超のGX投資
カーボンプライシングの導入

目次

GX推進法とは|脱炭素と経済成長の両立をめざす法律

GX推進法とは、脱炭素への移行を成長の機会と捉え、日本経済の構造転換を後押しする法律です。2023年5月に成立し、投資の促進と負担の仕組みを一体で定めた点に特徴があります。まずは正式名称と目的を押さえましょう。

GX推進法の正式名称と成立時期

GX推進法の正式名称は、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」です。長い名称のため、実務では「GX推進法」と略して呼ばれています。2023年5月に成立し、同年から関連する制度の整備が段階的に進む状況です。

この法律の背景には、世界的な脱炭素の潮流があります。各国がカーボンニュートラルへ向けて投資と規制を強めるなか、日本も移行を成長戦略の柱に据える必要に迫られました。GX推進法は、その政策の土台を担う存在と言えます。

GX(グリーントランスフォーメーション)とは

GXとは、グリーントランスフォーメーションの略で、化石燃料中心の経済・社会を、クリーンエネルギー中心へと転換する取り組みを指します。単なる環境対策にとどまらず、産業構造そのものを変える概念です。

GLOBIS学び放題の解説でも、GXは脱炭素を制約ではなく成長のチャンスとして捉える発想だと紹介されています。省エネや再生可能エネルギーの導入に加え、技術革新や新産業の創出までを含む、幅広い変革を意味する言葉です。

10年で150兆円超のGX投資という目標

GX推進法が掲げる目標の中心が、今後10年で官民あわせて150兆円超のGX投資を引き出すことです。脱炭素には巨額の資金が要るため、国が呼び水となる投資を行い、民間投資を促す構図です。

PIVOTの解説動画でも、この150兆円という規模が日本のGX戦略の要として紹介されています。国が先行して支援し、民間がそれに続く。この官民連携の投資こそ、移行を加速させる原動力です。

GX推進法の全体像|4つの柱で読み解く

GX推進法は、GX経済移行債・カーボンプライシング・GX推進機構・進捗評価という4つの柱で構成されます。投資の呼び水と負担の仕組みを組み合わせ、移行を後押しする設計です。それぞれの役割を解説します。

GX経済移行債による先行投資支援

GX経済移行債とは、国がGX投資を支援するために発行する国債です。20兆円規模が想定され、研究開発や設備投資への補助・支援の財源になります。先行投資のリスクを国が一部引き受け、民間の動きを促す狙いです。

この移行債の償還には、後述するカーボンプライシングの収入が充てられます。将来の負担を見据えつつ、今の投資を前倒しする。そうした時間軸の設計が、この仕組みの特徴と言えます。

成長志向型カーボンプライシングの導入

GX推進法は、CO2排出に価格をつける「カーボンプライシング」を段階的に導入します。排出に経済的なコストを与えることで、企業の削減行動を促す仕組みです。詳しい時期と対象は、次の章で取り上げます。

「成長志向型」と名づけられているのは、負担を急に重くせず、企業が対応する時間を確保する設計だからです。導入初期は負担を抑え、GX投資が進んだ段階で徐々に引き上げる方針が示されました。

GX推進機構の役割

GX推進機構は、GX投資の支援やカーボンプライシングの運営を担う執行機関です。脱炭素GXチャンネルの解説でも、賦課金の徴収や債務保証など、制度を実務面で支える組織として紹介されました。

国の方針を具体的な制度運営へと落とし込むのが、この機構の役割です。企業にとっては、支援制度の窓口や、排出量取引の運営主体として関わる相手になります。

進捗評価と定期的な見直し

GX推進法は、施策の進捗を評価し、定期的に見直す仕組みも備えます。脱炭素技術や国際情勢は変化が速く、固定的な制度では実態に合わなくなるためです。

実際、2025年には改正GX推進法が成立し、排出量取引の枠組みが強化されたばかりです。制度は一度作って終わりではなく、状況に応じて更新されていく前提に立つものと言えます。

GX推進法の4つの柱
1

GX経済移行債

国が先行投資を支援する国債(20兆円規模)。

2

カーボンプライシング

CO2排出に価格をつけ、削減を促す仕組み。

3

GX推進機構

投資支援や賦課金徴収を担う執行機関。

4

進捗評価・見直し

状況に応じて制度を定期的に更新する。

カーボンプライシングの仕組み|化石燃料賦課金と排出量取引

GX推進法の核となるのが、CO2排出に価格をつけるカーボンプライシングです。化石燃料賦課金と、排出量取引における有償オークションの2本立てで、段階的に導入される予定です。導入時期と対象を整理しましょう。

化石燃料賦課金(2028年度導入予定)

化石燃料賦課金とは、化石燃料の輸入事業者などに対し、CO2排出量に応じた負担を求める仕組みです。2028年度からの導入が予定されています。輸入される化石燃料に広く課されるため、エネルギーコストを通じて経済全体へ波及する性質を持ちます。

『CO2排出に価格がつく』と題する解説動画でも、この賦課金が脱炭素を促す価格シグナルとして説明されています。排出に応じてコストが生じれば、省エネや燃料転換への動機づけが働く。そうした行動変化を狙った制度です。

排出量取引の有償オークション(2033年度から段階導入予定)

もう一つの柱が、排出量取引における有償オークションです。発電事業者を対象に、排出量に応じた負担を求める仕組みで、2033年度から段階的に導入される予定になっています。

有償オークションでは、排出する権利(排出枠)を発電事業者が買い取る形になります。最初から全量を有償にするのではなく、無償分を徐々に減らしていく段階的な設計です。発電部門の脱炭素を、市場メカニズムで後押しする狙いがあります。

段階的に負担を引き上げる設計の狙い

カーボンプライシングは、導入当初の負担を抑え、時間をかけて引き上げる設計です。急激な負担は企業の競争力を損ないかねないため、対応の猶予を確保する配慮と言えます。

この段階設計には、GX投資が進んで脱炭素のコストが下がってから負担を本格化させる、という意図も込められています。企業にとっては、本格的な負担が来る前の数年間こそ、準備のための貴重な時間です。

カーボンプライシング等の導入スケジュール(目安)
GX-ETS・化石燃料賦課金・有償オークションの導入時期と主な対象
制度導入時期の目安主な対象
GX-ETS(排出量取引)本格稼働2026年度から多排出企業
化石燃料賦課金2028年度から(予定)化石燃料の輸入事業者など
排出量取引の有償オークション2033年度から段階導入(予定)発電事業者
段階的に負担を引き上げる設計。最終的な制度設計は今後の整備によります。

GX-ETS(排出量取引制度)とGXリーグ|本格稼働へ

排出量取引制度(GX-ETS)は、GXリーグでの試行を経て、2026年度から本格稼働へ移行する方向です。2025年の改正GX推進法で、制度の法的な枠組みが整えられました。仕組みと企業の関わりを解説します。

GXリーグとGX-ETSの位置づけ

GXリーグとは、企業が自主的に参加し、排出削減や排出量取引に取り組む枠組みで、2023年度に始まりました。GX-ETSは、このGXリーグのなかで運用されてきた排出量取引の仕組みを指します。

当初は自主的な参加にもとづく試行という位置づけでした。参加企業が排出削減目標を掲げ、取引を通じて達成をめざす。その試行で得た知見が、本格的な制度設計へと活かされた形です。

2026年度本格稼働と多排出企業の参加

GX-ETSは、2026年度から本格稼働へ移行する方向で整備が進む段階です。これまでの自主的な枠組みから、多排出企業の参加を前提とする制度へと段階的に発展していく見通しです。

私たちgreenote編集部の取材実感としても、多排出企業のあいだでは排出枠の管理を経営課題として捉える動きが広がっています。排出量に応じて取引が生じれば、削減は単なる環境対応ではなく、コスト管理の論点へと変わるのです。

他の関連法(温対法・省エネ法)との違い

GX推進法は、既存の温対法(地球温暖化対策推進法)や省エネ法とは役割が異なります。リノモの解説動画でも、これらの法律の違いが整理されています。

温対法は排出量の算定・報告・公表を求める法律、省エネ法はエネルギーの効率的な使用を促す法律です。これに対しGX推進法は、投資の支援とカーボンプライシングの導入という、移行そのものを後押しする役割を担います。複数の法律が組み合わさって、日本の脱炭素政策を形づくる関係です。

GX推進法が企業に与える影響|コスト・開示・競争力

GX推進法は、企業にコスト負担と成長機会の両面をもたらします。カーボンプライシングによるコスト増、排出量の開示、そして脱炭素を競争力に変える視点が問われます。主な影響を整理しましょう。

カーボンプライシングによるコスト負担

最も分かりやすい影響が、カーボンプライシングによるコスト負担です。化石燃料賦課金はエネルギーコストへ転嫁され、多排出企業は排出量取引の負担も生じます。排出が多いほどコストが増す構造です。

ただし負担は段階的なので、対応の時間は残されます。早めに排出を減らせば、将来の負担を軽くできる。コスト増を、削減投資の動機として前向きに捉える視点が重要です。

排出量データの把握と開示の必要性

カーボンプライシングへの対応には、自社の排出量を正確に把握する必要があります。あわせて、SSBJ基準などの開示制度でも排出量の開示が求められる流れにあります。詳しくは関連記事のSSBJ基準とは|適用スケジュール・開示項目・ISSBとの違いをご覧ください。

排出量の把握には、Scope1〜3の算定が出発点です。サプライチェーン全体の排出を捉えるScope3の算定方法は、関連記事のスコープ3排出量の算定方法で詳しく取り上げました。

脱炭素を競争力に変える機会

GX推進法は、負担だけをもたらすものではありません。脱炭素に先行して取り組む企業には、新たな市場や資金調達の機会が開けます。GX投資への支援制度も、その後押しになります。

脱炭素製品への需要は世界的に高まっています。早く動いた企業ほど、選ばれる立場を確保しやすい。気候変動を経営リスクと機会の両面で捉える視点は、関連記事の気候変動リスクが企業経営に与える影響と対応策でも整理した通りです。

企業が今から取るべきGX対応のステップ

GX対応は、排出量の把握・削減計画・投資判断という順序で進めるのが現実的です。負担が本格化する前に着手するほど、選択肢を広く確保できます。3つのステップで示しましょう。

①GHG排出量の把握(Scope1〜3)

最初の一歩は、自社のGHG排出量を把握することです。カーボンプライシングも開示も、排出量の数値が起点になります。Scope1(直接排出)とScope2(電力等の間接排出)から着手し、Scope3へ広げる流れが現実的です。

排出量が見えなければ、削減のしようがありません。まず現状を測り、どこに排出が集中しているかを掴む。これが、その後のすべての打ち手の土台です。

②削減計画と目標の設定

排出量を把握したら、削減の計画と目標を立てます。どの領域を・いつまでに・どれだけ削減するのかを描く作業です。省エネ、再生可能エネルギーへの転換、燃料転換などが、具体的な選択肢になります。

目標は、対外的な開示や投資家との対話でも問われます。実現可能性と挑戦性のバランスをとった目標を掲げれば、社内外の納得を得やすくなります。

③GX投資・支援制度の活用検討

削減には投資が伴います。設備更新や新技術の導入には費用がかかるため、GX経済移行債を財源とする支援制度の活用も検討に値します。

筆者がGX関連の相談を受けるなかでも、支援制度を知らずに投資判断を遅らせている企業は少なくありません。利用できる補助や支援を早めに調べ、投資計画に織り込む。その一手間が、移行コストの抑制につながるのです。

企業が取るべきGX対応の3ステップ
1

GHG排出量の把握

Scope1〜3で現状を測り、排出が集中する領域を掴む。

2

削減計画と目標の設定

どの領域を・いつまでに・どれだけ削減するかを描く。

3

GX投資・支援制度の活用検討

移行債を財源とする支援を調べ、投資計画に織り込む。

GX推進法でつまずきやすい誤解と注意点

GX推進法をめぐっては、負担の時期・対象範囲・制度の確定度について誤解が生じやすい傾向があります。先回りして正しく理解しておくと、過不足のない準備が整います。よくある誤解を整理しましょう。

「すぐに大きな負担が来る」という誤解

よくある誤解が、「カーボンプライシングですぐに重い負担が来る」というものです。実際には、化石燃料賦課金は2028年度、発電部門の有償オークションは2033年度からと、段階的な導入が予定されています。

過度に身構えて投資判断を止めてしまうのは得策ではありません。負担の本格化までの期間を、準備と削減投資に充てる。冷静に時間軸を捉えることが、適切な対応の出発点になります。

対象企業の範囲についての誤解

「自社は対象外だから関係ない」という受け止めにも注意が要ります。カーボンプライシングの直接の負担対象は化石燃料の輸入事業者や発電事業者が中心ですが、コストはエネルギー価格を通じて広く波及します。

加えて、取引先からの脱炭素要請という形でも影響が及びます。直接の対象でなくても、サプライチェーンの一員として無関係ではいられません。間接的な影響まで視野に入れる姿勢が求められます。

制度はまだ段階整備の途上である点

GX推進法に関連する制度は、いまも整備が続く途上です。2025年の改正で排出量取引の枠組みが強化されたように、詳細は今後も更新されていく見通しになります。

確定した情報として早合点せず、経済産業省などの公表を継続して確認することが大切です。制度の動きを追いながら、自社への影響を都度見直す運用が欠かせません。

GX推進法でつまずきやすい誤解と正しい理解
GX推進法でよくある誤解と正しい理解・注意点の対照表
よくある誤解正しい理解・注意点
すぐに大きな負担が来る賦課金は2028年度、有償オークションは2033年度からと段階的に導入される。
自社は対象外で関係ないエネルギー価格や取引先からの要請を通じて、間接的に影響が及ぶ。
制度はすでに確定済み2025年改正など整備の途上で、詳細は今後も更新される。

まとめ|GX推進法は脱炭素を「経営課題」に変える

GX推進法とは、2023年5月に成立した、脱炭素と経済成長の両立をめざす法律です。GX経済移行債・カーボンプライシング・GX推進機構・進捗評価の4つの柱で、10年150兆円超のGX投資を引き出す枠組みを定めています。

カーボンプライシングは、化石燃料賦課金が2028年度、有償オークションが2033年度からと段階的に導入される予定です。GX-ETSも2026年度から本格稼働へ移行する方向で、脱炭素はいよいよ経営の数字に直結するテーマになりました。

企業に求められるのは、排出量の把握から始め、削減計画を立て、GX投資を検討するという着実な歩みです。負担が本格化する前の今こそ、準備を進める好機と言えます。脱炭素を制約ではなく成長の機会と捉える視点が、これからの競争力を左右します。

よくある質問(FAQ)

Q. GX推進法はいつ成立した、どんな法律ですか?

GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)は、2023年5月に成立した日本の法律です。脱炭素への移行と経済成長の両立をめざし、今後10年で官民あわせて150兆円超のGX投資を引き出すための枠組みを定めています。

Q. カーボンプライシングで企業の負担はいつから始まりますか?

化石燃料賦課金は2028年度からの導入が予定されています。また、発電事業者を対象とする排出量取引の有償オークションは2033年度から段階的に導入される予定です。負担は急に大きくなるのではなく、段階的に引き上げられる設計になっています。

Q. GX-ETS(排出量取引制度)はいつから本格稼働しますか?

GX-ETSは、GXリーグでの試行を経て、2026年度から本格稼働へ移行する方向で整備が進んでいます。多排出企業の参加が想定されており、2025年の改正GX推進法で制度の法的な枠組みが整えられました。

Q. GX推進法はすべての企業が対象ですか?

カーボンプライシングの直接の負担対象は、化石燃料の輸入事業者や発電事業者などが中心です。ただし、賦課金はエネルギーコストを通じて広く波及するため、多くの企業が間接的に影響を受けます。排出量取引は多排出企業が主な対象になります。

Q. GXリーグとGX推進法はどう違いますか?

GXリーグは、企業が自主的に参加して排出量取引などに取り組む枠組みで、2023年度に始まりました。一方GX推進法は、GX投資の支援やカーボンプライシングの導入を定める法律です。GXリーグでの取り組みが、GX-ETSの本格稼働へとつながっていく関係にあります。

Q. 中小企業もGX推進法に対応する必要がありますか?

中小企業が直接カーボンプライシングの対象になるわけではありませんが、エネルギーコストの上昇や、取引先からの脱炭素要請という形で影響が及びます。まずは自社のエネルギー使用とGHG排出量を把握し、省エネや再エネ導入の検討から始めると、将来の影響に備えやすくなるはずです。

Q. GX推進法に対応するメリットはありますか?

脱炭素に先行して取り組むことで、GX投資への支援制度の活用や、脱炭素製品としての競争力強化、投資家からの評価向上といったメリットが期待できます。負担への対応にとどまらず、成長の機会として捉える企業ほど、移行を有利に進めやすくなります。

この記事の著者

greenote編集部

運営

ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRに関する信頼性の高い情報を発信しています。

関連記事