川崎重工のESG経営を分析|液化水素の輸送と国内カーボンニュートラル

2026.08.04
サステナビリティ開示

最終更新日:2026年8月4日

ESG Company Analysis

重工業国内

水素は、燃やしてもCO2を出しません。ただ、ひとつ難点があります。運びにくいのです。気体のままでは体積が大きすぎて、船で大量に運べない。ここに正面から挑んだのが川崎重工業でした。マイナス253度まで冷やして液体にし、世界で初めて船で海を渡らせた。本記事では、川崎重工のESG経営を、液化水素の輸送と2030年の国内カーボンニュートラルを軸に、公式情報をもとに中立に分析していきます。

この記事の目次

01

川崎重工のESG経営とは|水素社会をつくる重工メーカー

まず、川崎重工がどんな会社で、その脱炭素がどこをめざすのかを整理しましょう。

水素を、つなぐ会社

川崎重工業=船舶・鉄道車両・航空機・産業機械・ガスタービンなどを手がける重工大手
立ち位置脱炭素のインフラを社会に供給する側。納めた設備が社会でどう使われるかが問われる
特徴水素をつくる装置から運ぶ船、使う発電設備までを自ら手がける

2050年にグループ全体のCO2排出ゼロをめざすCO2 FREEを掲げる。

出典:川崎重工業の公表情報をもとにgreenote作成

Kawasaki地球環境ビジョン2050とCO2 FREE

川崎重工業は、船舶や鉄道車両、航空機、産業機械、ガスタービンなどを手がける重工大手です。この会社の脱炭素を読むうえで、まず押さえたいのが立ち位置だ。同社は脱炭素の設備を社会に供給する側であり、自社工場の排出よりも、納めた設備が社会でどう使われるかのほうが影響が大きい。この構図は、三菱重工と共通しています。

その方向性を示すのが、Kawasaki地球環境ビジョン2050で掲げるCO2 FREEです。2050年にグループ全体でCO2排出をゼロにするという長期目標だ。排出を実質ゼロにするという考え方そのものは、関連記事のネットゼロとはもあわせてご覧ください。

グループビジョン2030とエネルギー・環境ソリューション

長期のビジョンだけでは、事業は動きません。そこで同社はグループビジョン2030を掲げ、注力する領域を明確にしました。その柱のひとつがエネルギー・環境ソリューション、すなわち脱炭素そのものを事業にするという方針だ。公表情報によれば、2030年度のカーボンニュートラル関連の売上高を6,000億円規模と想定し、2020年度から2030年度までの関連投資として3,500億円規模を見込むとされています。

ここで注目したいのは、脱炭素を費用ではなく事業機会として置いている点でしょう。もちろん、目標を掲げれば実現するというものでもない。ただ、金額と期限のある計画に落としてあるため、外部から進み具合を追えます。では、その中核にある技術を見ていきましょう。

02

液化水素を運ぶ|世界初の運搬船すいそ ふろんてぃあ

川崎重工のESGを象徴する、世界初の挑戦です。

マイナス253度で、海を渡る

課題水素は気体のままでは体積が大きく、船で大量に運べない
解決マイナス253度まで冷やして液体にすると体積が大きく縮み、船で運べる

世界初の液化水素運搬船すいそ ふろんてぃあ。2021年に船級を取得し、2021年12月から2022年2月にかけて神戸と豪州を往復する国際航海で海上輸送に成功。

出典:川崎重工業の公表情報・公開報道をもとにgreenote作成

川崎重工のESGを語るうえで外せないのが、世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」です。水素はマイナス253度まで冷やすと液体になり、体積が大きく縮みます。だからこそ船で大量に運べる。理屈は単純ですが、極低温を保ったまま何千キロも航海するのは、並大抵のことではないでしょう。

公表情報によれば、同船は2021年に船級を取得し、2021年12月から2022年2月にかけて神戸と豪州を往復する国際航海で、液化水素の海上輸送に成功しました。この実証には、電源開発や岩谷産業、丸紅などの企業も参画しています。

ただし、ここは冷静に見ておきたいところです。実証で運ばれた水素は、豪州の褐炭からつくられたものでした。つまり、製造の段階でCO2が出ます。CO2を回収して貯留しなければ、水素そのものは脱炭素になりません。「運ぶ技術が成立した」ことと「その水素がクリーンである」ことは別の話なのです。水素の色分けの考え方は、関連記事のグリーン水素とはもご参照ください。同社の実証は、社会に水素を届ける経路を先に用意したもの、と受け止めるのが公平でしょう。

03

つくる・運ぶ・使うをつなぐ|水素サプライチェーン

運ぶだけでは、水素は社会で使えません。

一つ欠けたら、使えない

つくる水を電気で分解する水電解などの製造設備
運ぶ液化水素運搬船で海を越えて輸送
貯める極低温を保つ液化水素タンク
使う水素を燃やして電気と熱をつくる水素ガスタービン

神戸ポートアイランドでは市街地で水素を燃料に電気と熱を供給する実証も行われた。

出典:川崎重工業の公表情報をもとにgreenote作成

船だけあっても、水素は社会に届きません。つくる・運ぶ・貯める・使うのどこかが欠ければ、そこで流れは止まってしまう。川崎重工の特徴は、この全体をつなぐところにある。水素の全体像は、関連記事の水素サプライチェーンとはもあわせてご覧ください。

つくる側では、水を電気で分解する装置を手がけます。この仕組みは関連記事の水電解装置とはもご参照ください。運ぶ・貯める側は、前章の運搬船と極低温のタンクが担う。そして使う側にあるのが、水素ガスタービンです。公表情報によれば、神戸ポートアイランドでは市街地で水素を燃料に電気と熱を供給する実証が行われ、その後、水素だけを燃やす小型のコージェネレーションシステムの販売も始まりました。

技術を点で持つのではなく、線でつなぐ。ここが同社の勝負どころだといえます。もっとも、水素は依然として高価で、需要も限られます。関連分野ではアンモニア燃料を運搬手段として使う道も検討されており、どの経路が主流になるかはまだ決着していません。

04

自社の排出をどう消すか|2030年に国内カーボンニュートラル

社会に売る技術で、自社の排出も消しにいきます。

売る技術で、自社を消す

2030年に国内でカーボンニュートラルをめざす
約65%自社製の水素発電設備の導入
約20%CCUSなど
約10%廃棄物発電
約5%省エネと太陽光など再生可能エネルギー

グループのScope1とScope2の排出は年間約40万トンで、うち国内が約30万トンとされる。2050年はグループ全体でCO2排出ゼロ。

出典:川崎重工業の公表情報をもとにgreenote作成

社会に技術を供給する企業にとって、自社の排出をどう扱うかは避けられない問いだ。川崎重工の答えは明快でした。公表情報によれば、同社は2030年に国内でカーボンニュートラルをめざすとされ、グループのScope1・Scope2の排出は年間約40万トン、うち国内が約30万トンとされています。

注目したいのは、その内訳です。公表情報では、自社製の水素発電設備の導入で約65%、CCUSなどで約20%、廃棄物発電で約10%、省エネと太陽光などの再生可能エネルギーで約5%という想定が示されました。つまり、削減の大部分を自社が社会に売っている技術で実現する構図だ。売り物が自社の削減にも効くのなら、実績が説明材料にもなる。事業と目標が同じ方向を向く設計だといえるでしょう。

もうひとつ、資金の面にも特徴があります。同社は水素関連の事業に充てる資金を、トランジション・ボンドとして調達しました。移行のための資金調達という考え方は、関連記事のトランジション・ファイナンスとはもご参照ください。目標・技術・資金がつながっている点は、開示の読み手にとって追いやすい構造です。

05

三菱重工との対比|重工2社の脱炭素の違い

同じ重工大手でも、力点の置き方が違います。

同じ重工、違う力点

共通=脱炭素インフラを供給する側。納めた設備の使用時排出が大きい
川崎重工液化水素の海上輸送やタンクまで含め、つくる・運ぶ・貯める・使うの水素サプライチェーン全体を組む。2030年に国内カーボンニュートラル
三菱重工MISSION NET ZEROで2040年ネットゼロ。ガスタービンの水素混焼やCO2回収で既存の発電インフラを活かす転換

得意な領域の違いであり、優劣ではない。

出典:各社の公表情報をもとにgreenote作成

重工大手を2社並べると、違いが立体的に見えてきます。共通するのは立ち位置です。どちらも脱炭素インフラを供給する側であり、自社工場よりも納めた設備の使用時排出が大きい。だからこそ、社会の削減に効く技術が事業の中心を占めます。

一方で、力点は分かれます。川崎重工は、液化水素の海上輸送やタンクまで含め、水素サプライチェーン全体を組み上げにいく。自社の目標も2030年の国内カーボンニュートラルという形で置きました。これに対し三菱重工は、MISSION NET ZEROで2040年のネットゼロを掲げ、ガスタービンの水素混焼やCO2回収など、既存の発電インフラを活かす転換に力点を置きました。どちらが優れているという話ではありません。得意な領域の違いが、脱炭素の進め方に表れているのです。

論点も残ります。水素は製造方法によってCO2の出方が変わり、価格も高い。液化水素は極低温を保つためのエネルギーや設備の負担も無視できない。需要が本当に広がるのかという問いは、社会側の政策や価格の条件に左右されるでしょう。技術が成立することと、社会に普及することは別だという冷静な見方も欠かせません。なお本記事は、特定の企業や投資を推奨するものではありません。

人的資本と多様性(S)|えるぼし・なでしこ銘柄と女性登用の目標

環境(E)の印象が強い川崎重工ですが、S(社会)領域の整備も進んでいます。同社は「えるぼし」「くるみん」の認定を取得し、女性活躍に優れた上場企業を選ぶ「なでしこ銘柄」にも選定されたとされます。重厚長大な製造業は男性比率が高くなりがちな中で、外部認定で取り組みを見える化している形です。

数値目標も明確です。女性管理職比率を2030年度までに10%へ引き上げる目標を掲げ、2025年度からは課長級を対象にした育成プログラム「Kawasaki Women’s Advanced Program」を導入、以降は部長級・係長級へ対象を広げる計画とされます。男女間賃金差異についても、主要因が上位職層の女性比率の低さにあると自ら分析・開示しており、女性活躍推進法が求める「数字+説明」の開示姿勢がうかがえます。こうした取り組みは人的資本経営の開示強化の流れとも一致します。

ガバナンス(G)|社外取締役が過半数の取締役会

ガバナンス面では、監査等委員会設置会社として、取締役会13名のうち社外取締役が7名と過半数を占める構成(2025年度時点・女性取締役4名、外国籍取締役1名を含む)とされます。社外過半数・多様な取締役会は、コーポレートガバナンス・コードが求める監督機能の強化を体現した形といえます。

水素という長期・大型投資を進める同社にとって、経営の監督と説明責任はE戦略の実行力を支える土台です。エネルギー転換の「攻め」と、取締役会の「守り」をセットで見ることで、同社のESG経営の全体像がつかめます。

06

まとめ|川崎重工のESG経営から学べること

川崎重工の姿は、抜けやすい工程を自ら埋めることの意味を教えてくれます。最後に、要点を振り返りましょう。

川崎重工に学ぶ、3つのこと

抜けた工程を埋める運びにくい水素をマイナス253度で液体にし、世界初の運搬船で海を渡らせた
点でなく線で持つつくる・運ぶ・貯める・使うをつなぎ、サプライチェーン全体で成り立たせる
売る技術で自社も減らす2030年の国内カーボンニュートラルの約65%を自社製の水素発電設備で見込む

出典:川崎重工業の公表情報・公開報道をもとにgreenote作成

川崎重工のESG経営を振り返ると、いくつもの学びが見えてきます。

  • 脱炭素インフラを供給する側の企業。納めた設備が社会でどう使われるかが問われる
  • Kawasaki地球環境ビジョン2050CO2 FREE=2050年にグループ全体でCO2排出ゼロ
  • 世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」=マイナス253度で液化し、2021年12月から2022年2月に神戸と豪州を往復して海上輸送に成功
  • つくる・運ぶ・貯める・使うをつなぐ水素サプライチェーン。水素ガスタービンは市街地での実証も
  • 公表情報によれば2030年に国内カーボンニュートラルをめざし、その約65%を自社製の水素発電設備で見込む(CCUS等約20%・廃棄物発電約10%・省エネ再エネ約5%)

川崎重工から学べるのは、サプライチェーンで一番抜けやすい工程を、自ら埋めにいくという発想です。水素は「つくる」と「使う」が語られがちですが、運べなければ社会には届きません。そこに世界初で挑み、船という形にした。さらに、その技術を自社の削減にも使うことで、目標と事業が同じ方向を向いています。もっとも、水素の製造方法やコスト、需要の広がりといった社会側の条件が整うかどうかは、これからの課題です。理想と現実の両面を見すえることが、企業のESGを深く理解する助けになるでしょう。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。

FAQ

よくある質問(FAQ)

Q. 川崎重工とはどんな会社ですか?

川崎重工業は、船舶や鉄道車両、航空機、産業機械、ガスタービンなどを手がける重工大手です。ESGの観点でとくに注目されるのが水素への取り組みで、水素をつくる装置から運ぶ船、使う発電設備までを自ら手がけています。つまり、脱炭素のインフラを社会に供給する側の企業であり、自社の工場の排出よりも、納めた設備が社会でどう使われるかが大きな意味を持ちます。

Q. すいそ ふろんてぃあとは何ですか?

川崎重工が建造した世界初の液化水素運搬船です。水素はマイナス253度まで冷やすと液体になり、体積が大幅に小さくなるため、船で大量に運べるようになります。公表情報によれば、2021年に船級を取得し、2021年12月から2022年2月にかけて神戸と豪州を往復する国際航海で液化水素の海上輸送に成功しました。海を越えて水素を運ぶ技術が、実際に動くことを示した実証です。

Q. 水素サプライチェーンとは何ですか?

水素を「つくる・運ぶ・貯める・使う」という一連の流れのことです。どこか一つが欠けても社会では使えません。川崎重工は、水電解などの製造設備、液化水素運搬船とタンク、そして水素を燃やして発電する水素ガスタービンまでを手がけます。公表情報によれば、神戸ポートアイランドでは市街地で水素を燃料に電気と熱を供給する実証も行われました。全体をつなぐ点が同社の特徴です。

Q. 川崎重工のカーボンニュートラル目標は何ですか?

2050年にグループ全体でCO2排出をゼロにする「Kawasaki地球環境ビジョン2050」のCO2 FREEを掲げています。さらに公表情報によれば、2030年には国内でカーボンニュートラルをめざすとされ、その手段として省エネと再生可能エネルギー、廃棄物発電、CCUS、そして自社製の水素発電設備の導入が想定されています。自社が売る技術で自社の排出も減らす、という構図です。

Q. 川崎重工と三菱重工は何が違いますか?

力点の置き方が違います。三菱重工はMISSION NET ZEROで2040年のネットゼロを掲げ、ガスタービンの水素混焼やCO2回収など、既存の発電インフラを活かす転換を軸にしています。川崎重工は、液化水素の海上輸送やタンクといった「運ぶ・貯める」までを含めて水素サプライチェーン全体を組み上げる点が特徴です。どちらが優れているというより、得意な領域の違いと見るのが適切でしょう。

Q. 川崎重工のESG経営から学べることは何ですか?

大きく2つあります。1つ目は、水素を「運ぶ」という抜けやすい工程を自ら埋め、サプライチェーン全体で考える視点です。2つ目は、社会に売る技術を自社の排出削減にも使い、目標と事業をつなげる姿勢です。もっとも、実証で運んだ水素の製造方法やコスト、需要の広がりなど、社会側の条件に左右される部分も残ります。理想と現実の両面を見ることが大切です。なお本記事は特定の投資を推奨するものではありません。

Sources

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報および公開報道をもとにgreenote編集部が整理しています。企業評価や投資判断を目的とするものではありません。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

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greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

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