丸紅のESG経営を分析|脱石炭火力宣言と電源ポートフォリオ

2026.08.04
サステナビリティ開示

最終更新日:2026年8月4日

ESG Company Analysis

商社国内

商社の脱炭素は、これまで3社見てきました。三菱商事、伊藤忠商事、三井物産。いずれも投資先の排出と向き合っていました。ところが丸紅は、少し立場が違います。海外で発電所を自ら持ち、運営しているからです。つまり、電気をつくる当事者そのもの。だからこそ同社は2018年、商社に先駆けて「脱石炭火力宣言」を打ち出しました。本記事では、丸紅のESG経営を、脱石炭火力宣言と電源ポートフォリオを軸に、公式情報をもとに中立に分析していきます。

この記事の目次

01

丸紅のESG経営とは|発電事業を持つ商社

まず、丸紅がどんな会社で、その脱炭素がなぜ重いのかを整理しましょう。

電気をつくる、商社

丸紅=日本を代表する総合商社
特徴海外で発電所を持ち運営するIPP=独立系発電事業者として、商社で最大級
意味電気をつくる当事者ゆえ、脱炭素の責任と難しさが直接問われる

食料・農業資材・生活産業なども幅広く手がける

出典:丸紅の公表情報をもとにgreenote作成

海外電力(IPP)で国内最大級

丸紅は、日本を代表する総合商社のひとつです。食料や農業資材、生活産業などに幅広く関わりますが、ESGの観点でとくに重要なのが電力事業です。同社は海外で発電所を持ち、運営するIPP(独立系発電事業者)として、日本の商社の中でも最大級の規模を持ちます。

この立ち位置が、脱炭素の意味を変えます。ほかの商社が「投資先の排出」と向き合うのに対し、丸紅は電気をつくる当事者そのものです。石炭火力発電所を持てば、そこから出るCO2は、自らの事業の排出そのものです。責任も、難しさも、より直接的です。逆にいえば、資産の入れ替えという明確な行動で示せる立場でもあります。それが、次に見る宣言につながりました。

気候変動長期ビジョンと2050年カーボンニュートラル

丸紅は、気候変動長期ビジョンのもとで、2050年カーボンニュートラルを掲げています。グループ全体でCO2排出を実質ゼロにするという目標です。脱炭素の全体像は、関連記事のネットゼロとはもあわせてご覧ください。

この目標には、後で詳しく見るとおり、対象範囲の広さという特徴が備わっています。また同社は、気候関連のリスクと機会について、TCFDの提言に基づく情報開示も行っています。宣言と目標、そして開示。この3つをそろえることで、脱炭素の取り組みを外部から検証できるようにしているわけです。では、その中核となった決断を見ていきましょう。

02

脱石炭火力宣言|商社に先駆けて

丸紅のESGを象徴する、2018年の決断です。

石炭から、退く

2018年9月 脱石炭火力宣言=商社として先駆的な決断
容量石炭火力発電の発電容量を半減。当初の2030年から2025年へ前倒し
新規新規の石炭火力発電事業には、原則として取り組まない

宣言後は国内外の石炭火力事業からの撤退を実際に進めた。

出典:丸紅の公表情報・公開報道をもとにgreenote作成

丸紅のESGを語るうえで、外せないのが2018年9月の「脱石炭火力宣言」です。内容は明快でした。公表情報によれば、石炭火力発電の発電容量を半減させ、新規の石炭火力発電事業には原則として取り組まないというものです。

当時、これは商社としてきわめて先駆的な決断でした。石炭火力は安定した収益源であり、それを自ら半分に減らすと宣言したのです。しかも、この容量半減の時期は、当初の2030年から2025年へと前倒しされました。宣言は、言葉だけでは終わっていません。その後、アジアなどの石炭火力事業から実際に撤退し、国内で計画していた石炭火力発電所の建設を断念する判断もありました。目標を、資産の削減という具体的な行動と期限で示す。ここに、丸紅のESGの特徴が表れています。

03

電源ポートフォリオの組み替え|再エネを増やす

石炭を減らすだけでなく、中身を入れ替えていきます。

減らして、入れ替える

これまで発電容量に占める再生可能エネルギーの比率は約10%
これから再エネ比率を約20%へ高める方針

石炭火力から手を引く一方、太陽光や風力の開発に人材と資金を振り向ける。中東の大規模太陽光など海外案件にも参画。

出典:丸紅の公表情報をもとにgreenote作成

石炭を減らすだけでは、電気は足りません。そこで丸紅が進めるのが、電源ポートフォリオ(持っている発電設備の構成)の組み替えです。公表情報によれば、発電容量に占める再生可能エネルギーの比率を、約10%から約20%へ高める方針を掲げました。

ここで大切なのは、人材と資金の振り向け先を変えるという点です。石炭火力の開発から手を引き、そこに割いていた力を、太陽光や風力の開発へ移していく。実際、中東の大規模太陽光といった海外案件にも参画しています。近年は洋上風力への関心も高まっており、その仕組みは関連記事の洋上風力・浮体式風力とはもあわせてご覧ください。減らす(石炭)と増やす(再エネ)を同時に進める。発電事業者としての脱炭素は、この入れ替えの速さで測られるといえます。

04

投融資の排出まで|カテゴリ15を含む目標

丸紅の目標は、対象範囲でも踏み込んでいます。

投融資先まで、対象に

2050年カーボンニュートラルの対象範囲
Scope1・2自社の直接排出と、使う電力の排出
Scope3 カテゴリ15投資=投融資先の排出も対象
持分法適用会社出資先も対象に含める

削減貢献量=製品で社会の排出を減らした分は差し引かない設計とされる。

出典:丸紅の公表情報をもとにgreenote作成

丸紅の目標が踏み込んでいるのは、年限だけではありません。対象とする排出の範囲にも独自性が見られます。同社の2050年カーボンニュートラルは、Scope1・2にとどまらず、Scope3のカテゴリ15(投資)まで含みます。これは、投融資先の事業から出る排出を指します。商社は多くの事業に出資するため、ここが実質的に大きな比重を占めます。この考え方は、関連記事のScope3カテゴリ15(投資)の算定方法もあわせてご覧ください。

さらに、持分法適用会社も対象とし、削減貢献量を差し引かない設計とされています。削減貢献量とは、自社の製品やサービスが社会の排出を減らした分のことです。これを差し引けば数字は良く見えますが、丸紅はそれをしない。つまり、見かけを整えるのではなく、実際の排出で勝負する構えです。厳しい設計ですが、そのぶん目標の信頼性は高まります。こうした移行を支える資金の流れは、関連記事のトランジション・ファイナンスとはもご参照ください。

05

商社4社の対比|それぞれの当事者性

総合商社4社を並べると、立ち位置の違いが見えてきます。

商社4社、それぞれの当事者性

共通=2050年に排出を実質ゼロへ。投資先の排出と向き合う
丸紅海外発電IPPが主力。脱石炭火力宣言で容量半減と、再エネ比率20%へ
三菱商事資源にも強く、EX=エネルギートランスフォーメーション戦略で大規模転換
伊藤忠商事非資源・川下に強く、三方よしと一般炭からの撤退
三井物産資源の知見を活かすエネルギー移行と、GHGインパクトの独自指標

事業構造の違いが表れる。優劣ではない。

出典:各社の公表情報をもとにgreenote作成

総合商社4社を並べてみましょう。共通するのは、2050年に排出を実質ゼロにするゴール、そして投資先の排出と向き合う点です。しかし、その当事者性の置き方は異なります。

丸紅は、海外発電(IPP)が主力ゆえ、石炭火力という具体的な資産への方針が脱炭素の中心を占めます。これに対し三菱商事は資源にも強く、EX(エネルギー・トランスフォーメーション)戦略で大規模な転換を進めます。伊藤忠商事は非資源・川下に強みを持ち、三方よしの理念と一般炭からの撤退を掲げます。三井物産は資源の知見を活かしたエネルギー移行と、GHGインパクトという独自指標を打ち出します。どれが優れているという話ではありません。事業構造の違いが、脱炭素の進め方に表れているのです。4社を並べて見ることで、商社という業態の脱炭素が立体的に見えてきます。

もっとも、論点も残ります。電力は社会に欠かせないインフラです。石炭火力を急に縮小すれば、地域の電力供給に影響が出る可能性もあります。撤退した資産が他社に引き継がれ、排出そのものは減らないという指摘もあります。丁寧な移行の進め方が問われる点は、冷静に見ておく必要があるでしょう。なお本記事は、特定の企業や投資を推奨するものではありません。

人的資本と多様性(S)|新卒総合職の4〜5割を女性に

丸紅は「Women’s Empowerment 2.0」などの方針の下、新卒総合職採用に占める女性比率を4〜5割とする思い切った入口改革を打ち出したとされます。管理職の女性比率が1桁台という商社共通の課題に対し、パイプラインの根元から変える戦略です。

採用構成の変更は効果が出るまで10年単位の時間がかかりますが、その分、後戻りしにくい構造変化になります。DE&Iの「入口・登用・定着」のうち入口に最も大胆に踏み込んだ例といえます。

ガバナンス(G)|意思決定層の多様化への道筋

採用改革と並行して、管理職・役員層への女性登用の引き上げ、両立支援の拡充を進めており、意思決定への女性の関与を深めることが明確な狙いとされています。

資源からアグリまで事業の入れ替えが激しい総合商社では、意思決定層の視点の多様性が投資判断の質に直結します。入口改革がGに波及するまでの時間軸で見守りたい取り組みです。

06

まとめ|丸紅のESG経営から学べること

丸紅の姿は、宣言を具体的な行動と期限で裏づけることの意味を教えてくれます。最後に、要点を振り返りましょう。

丸紅に学ぶ、3つのこと

行動と期限で示す脱石炭火力宣言で容量半減を掲げ、2025年へ前倒し
減らして入れ替える石炭から退き、再エネ比率を約20%へ。人材と資金を移す
範囲で逃げない投融資=カテゴリ15や持分法適用会社まで対象。削減貢献量は差し引かない

出典:丸紅の公表情報・公開報道をもとにgreenote作成

丸紅のESG経営を振り返ると、いくつもの学びが見えてきます。

  • 海外発電(IPP)で商社最大級。電気をつくる当事者ゆえ脱炭素の責任が直接的
  • 2018年9月の脱石炭火力宣言=石炭火力の発電容量を半減、新規開発は原則行わない
  • 容量半減の時期を2030年→2025年に前倒し。国内外の石炭火力事業から実際に撤退
  • 電源ポートフォリオの組み替え=再エネ比率を約10%→約20%へ。人材と資金を再エネへ
  • 2050年カーボンニュートラルはScope3カテゴリ15(投資)や持分法適用会社まで対象(削減貢献量は差し引かない)

丸紅から学べるのは、宣言は、具体的な行動と期限で裏づけたときに意味を持つということです。石炭火力の容量を半減させ、その時期を前倒しし、実際に事業から撤退する。数字と行動があるから、外部から検証できます。投融資先の排出まで対象に含め、都合のよい差し引きをしない姿勢も、目標の信頼性を高めています。もっとも、電力インフラを担う企業として、移行の丁寧さも問われます。理想と現実の両面を見すえることが、企業のESGを深く理解する助けになるでしょう。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。

FAQ

よくある質問(FAQ)

Q. 丸紅とはどんな会社ですか?

丸紅は、日本を代表する総合商社のひとつです。食料や農業資材、生活産業などに幅広く関わりますが、ESGの観点でとくに重要なのが電力事業です。海外で発電所を持ち運営する「IPP(独立系発電事業者)」として、日本の商社の中でも最大級の規模を持ちます。つまり、電気をつくる当事者でもあるため、脱炭素の責任と難しさが直接的に問われる立場にあります。

Q. 丸紅の脱石炭火力宣言とは何ですか?

2018年9月に丸紅が発表した方針です。公表情報によれば、石炭火力発電の発電容量を半減させ、新規の石炭火力発電事業には原則として取り組まない、という内容でした。当時、商社としては先駆的な決断で、大きな注目を集めました。さらにこの容量半減の時期は、当初の2030年から2025年へと前倒しされています。宣言後は実際に、国内外の石炭火力事業からの撤退が進められました。

Q. 丸紅は再生可能エネルギーをどう増やしていますか?

電源ポートフォリオ(持っている発電設備の構成)の組み替えを進めています。公表情報によれば、発電容量に占める再生可能エネルギーの比率を、約10%から約20%へ高める方針を掲げました。石炭火力から手を引く一方で、太陽光や風力といった再エネの開発に人材と資金を振り向ける、という考え方です。中東の大規模太陽光など、海外案件にも参画しています。

Q. 丸紅の2050年カーボンニュートラル目標の特徴は何ですか?

対象範囲の広さです。丸紅は気候変動長期ビジョンで2050年カーボンニュートラルを掲げていますが、その対象はScope1・2にとどまらず、Scope3のカテゴリ15(投資)まで含みます。さらに持分法適用会社も対象とし、削減貢献量(製品で社会の排出を減らした分)を差し引かない設計とされています。投融資先の排出まで自らの目標に組み込む、踏み込んだ枠組みです。

Q. 丸紅と他の商社は何が違いますか?

当事者性の置き方が違います。丸紅は海外発電事業(IPP)を主力とするため、石炭火力という具体的な資産に対する方針が脱炭素の中心になります。三菱商事はEX戦略で大規模な事業転換、伊藤忠は非資源・川下の強みと一般炭からの撤退、三井物産は資源の知見を活かしたエネルギー移行とGHGインパクトという独自指標を打ち出します。どれが優れているというより、事業構造の違いが表れていると見るのが適切です。

Q. 丸紅のESG経営から学べることは何ですか?

大きく2つあります。1つ目は、宣言を出すだけでなく、資産の削減という具体的な行動と期限で示す姿勢です。2つ目は、投融資先の排出(カテゴリ15)まで対象に含める、範囲の広い目標設計です。もっとも、電力は社会に欠かせないため、急な縮小が供給に与える影響や、移行の進め方には議論もあります。理想と現実の両面を見ることが大切です。なお本記事は特定の投資を推奨するものではありません。

Sources

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報および公開報道をもとにgreenote編集部が整理しています。企業評価や投資判断を目的とするものではありません。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

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