ESG Company Analysis
鉄道、電力網、産業機器、そしてIT。日立製作所が手がける事業は、いずれも社会の土台を支えるインフラです。だからこそ日立の脱炭素は、自社の工場をきれいにするだけでは終わりません。世界の電力や交通そのものを、脱炭素へと導く。しかも、デジタルの力で顧客のCO2まで減らす。本記事では、環境長期目標「日立環境イノベーション2050」を軸に、脱炭素目標・社会イノベーション事業・電力網と鉄道という観点から、日立のESG経営を公式情報をもとに分析します。
この記事の目次
01
日立のESG経営とは|「環境イノベーション2050」が軸
まず、日立のESG経営の全体像と、その土台にある長期目標を整理しましょう。
3つの社会を、めざす
日立環境ビジョンのもと、バリューチェーン全体で取り組む長期目標。
出典:日立製作所の公表情報をもとにgreenote作成
3つの社会をめざす
日立のESG経営、その環境面の軸にあるのが、環境長期目標「日立環境イノベーション2050」です。この目標は、3つの社会の実現を掲げている。「脱炭素社会」「高度循環社会」「自然共生社会」の3つです。
注目したいのは、気候変動だけを見ているのではない、という点になります。温室効果ガスの削減(脱炭素)に加えて、資源を効率よく循環させること(高度循環)、そして自然と共生すること(自然共生)まで、環境の課題を幅広くとらえている。しかも、それを自社だけでなく、バリューチェーン全体を通じて実現しようとしている。この幅の広さと射程の長さが、日立の環境目標の特徴です。
社会インフラ企業としての責任
日立を語るうえで欠かせないのが、その事業の性格です。日立は、鉄道や電力網、産業機器、ITなど、社会のインフラを担う企業になります。私たちの暮らしや経済の土台を、支える立場にあるわけです。
この立場は、脱炭素において特別な意味を持ちます。インフラは、社会全体のエネルギーの使い方を、根っこから左右します。だからこそ、日立が担うインフラが脱炭素化すれば、その効果は自社の枠を超えて、社会全体に広がる。影響が大きい分、責任も大きい。その自覚が、日立のESG経営の出発点にあります。
02
脱炭素目標|事業所とバリューチェーンの2段階
日立の脱炭素目標は、時間軸の異なる2つの段階で設計されています。
足元から、全体へ
2030年度
自社の事業所(ファクトリー・オフィス、Scope1・2)でカーボンニュートラル
2050年度
バリューチェーン全体(Scope3を含む)でカーボンニュートラル
まず自社の足元から、最終的にはサプライチェーン全体へと範囲を広げる設計。
出典:日立製作所の公表情報をもとにgreenote作成
日立の脱炭素目標は、2つの段階に分けて設計されています。第一段階が、自社の事業所です。ファクトリー(工場)とオフィス、いわゆるScope1・2の排出について、2030年度までにカーボンニュートラルを達成することをめざしている。まずは自らの足元から、というわけです。
第二段階が、バリューチェーン全体になります。原材料の調達から、製品の使用、廃棄まで含めた排出(Scope3を含む)について、2050年度までにカーボンニュートラルを達成する計画です。自社で完結する部分から着手し、時間をかけて、取引先や顧客まで含めた全体へと範囲を広げていく。堅実な二段構えの設計だ。カーボンニュートラルの考え方は、関連記事のネットゼロとはもあわせてご覧ください。
03
社会イノベーション事業とLumada|デジタルで顧客のCO2を減らす
日立のESGを特徴づけるのが、デジタルの力で社会全体の脱炭素に貢献するという発想です。
デジタルで、顧客の排出まで減らす
Lumada(ルマダ)
ITとOT(制御・運用技術)と製品を組み合わせるデジタル基盤。
顧客のCO2削減
データ分析でエネルギーの使い方を最適化し、設備の効率を高める。
自社の排出削減だけでなく、デジタルで顧客や社会の脱炭素(GX)に貢献する。
出典:日立製作所の公表情報をもとにgreenote作成
日立のESGで、ひときわ個性的なのが、この視点です。それは、デジタルの力で、顧客や社会全体の脱炭素に貢献するという発想になります。日立は、社会課題を事業で解決する「社会イノベーション事業」を掲げ、その中核にデジタル基盤「Lumada(ルマダ)」を据えている。
Lumadaは、IT(情報技術)とOT(制御・運用技術)、そして製品を組み合わせる基盤です。工場やインフラから集めたデータを分析し、エネルギーの使い方を最適化したり、設備の効率を高めたりできます。これによって、顧客のCO2排出の削減を後押しするのです。自社の排出を減らすだけが、脱炭素ではありません。デジタルを通じて、顧客の、そして社会全体の排出を減らす。ものづくりとデジタルの両方を持つ日立ならではの強みが、ここにあります。
04
電力網と鉄道|世界の脱炭素インフラを支える
日立は、世界のエネルギーと交通のインフラそのものを、脱炭素へと導く立場にあります。
エネルギーと交通の、土台から
電力網
日立エナジーが送配電(グリッド)の技術で、再生可能エネルギーの導入拡大やクリーンエネルギー転換を支える。
鉄道
鉄道車両やシステムを手がけ、環境負荷の小さい鉄道へのモーダルシフトに貢献。
社会の土台となるインフラそのものを、脱炭素へと導く。
出典:日立製作所の公表情報をもとにgreenote作成
日立の脱炭素貢献は、製品の省エネにとどまりません。エネルギーと交通という、社会の根幹インフラそのものを担っている点が、決定的です。エネルギー分野では、傘下の「日立エナジー」が、大きな役割を果たしている。送配電(グリッド)の技術を通じて、再生可能エネルギーの導入拡大や、クリーンエネルギーへの転換を支えているのです。再エネを大量に電力網へつなぐには、高度な送配電技術が欠かせません。送配電網の重要性は、関連記事のHVDC(高圧直流送電)とはもあわせてご覧ください。
交通分野でも、日立は存在感を示しています。鉄道車両やシステムを世界で手がけ、環境負荷の小さい鉄道へのモーダルシフト(自動車や航空機から鉄道への転換)に貢献している。電力網も鉄道も、社会全体のCO2を大きく左右するインフラです。その土台を脱炭素へと導けるのが、日立という企業の大きな強みになっています。運輸の電化については、関連記事の電化(電化率)とはもあわせてご覧ください。
05
高度循環・自然共生と社会・ガバナンス
脱炭素以外の環境の柱と、社会(S)・ガバナンス(G)の取り組みも見ておきましょう。
循環・自然・人
高度循環社会
製品の省資源や長寿命化、資源の循環的な利用。
自然共生社会
水の利用の効率化や、生態系への配慮。
社会・ガバナンス
グローバルな人材と多様性、サプライチェーンの管理、公正な企業統治。
出典:日立製作所の公表情報をもとにgreenote作成
環境イノベーション2050が掲げる残る2つの社会も、着実に進められています。高度循環社会に向けては、製品の省資源化や長寿命化、資源を循環的に使う取り組みが進む。自然共生社会に向けては、水の効率的な利用や、生態系への配慮に取り組んでいる。脱炭素・循環・自然を、三位一体でとらえているのです。
社会(S)とガバナンス(G)の面でも、グローバル企業らしい取り組みが続く。世界中に広がる従業員の多様性の尊重、膨大な取引先を含むサプライチェーンの管理、そして公正な企業統治です。事業のグローバル化とともに、こうした足場をしっかり固めることが、社会インフラを担う企業の信頼を支える。企業統治の基本は、関連記事のコーポレートガバナンスとはもあわせてご覧ください。
06
まとめ|日立のESG経営から学べること
日立のESG経営は、社会インフラとデジタルという強みを、脱炭素に結びつけている点に特徴があります。最後に、要点を振り返りましょう。
日立に学ぶ、3つのポイント
幅広い環境目標
脱炭素だけでなく、循環・自然共生まで含める。
デジタルで貢献
Lumadaで、自社だけでなく顧客・社会の脱炭素に貢献。
インフラの土台を担う
電力網や鉄道で、社会全体の脱炭素の土台を支える。
出典:日立製作所の公表情報をもとにgreenote作成
日立のESG経営を振り返ると、いくつかの学びが見えてきます。
- 環境の軸は「日立環境イノベーション2050」。脱炭素・高度循環・自然共生の3つの社会をバリューチェーン全体でめざす
- 脱炭素目標は2段階。2030年度に事業所(Scope1・2)、2050年度にバリューチェーン全体(Scope3含む)でカーボンニュートラル
- デジタル基盤Lumadaで、自社だけでなく顧客・社会のCO2削減に貢献する
- 日立エナジー(送配電)と鉄道で、世界のエネルギー・交通インフラそのものを脱炭素へ導く
- 高度循環・自然共生や、グローバルな社会・ガバナンスにも取り組む
日立のESG経営から学べるのは、自社の事業の強みを、社会課題の解決へと結びつける力です。ものづくりとデジタル、そして社会インフラ。これらを組み合わせ、自社の枠を超えて社会全体の脱炭素に貢献しようとする姿は、規模や業種を問わず、多くの企業にとって参考になります。なお本記事は、特定の投資を推奨するものではありません。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。
FAQ
よくある質問(FAQ)
Q. 日立環境イノベーション2050とは何ですか?
日立環境イノベーション2050とは、日立製作所が掲げる環境の長期目標です。「脱炭素社会」「高度循環社会」「自然共生社会」という3つの社会の実現を、バリューチェーン全体を通じてめざすものです。気候変動(脱炭素)だけでなく、資源の循環や、自然との共生まで、環境課題を幅広くとらえている点が特徴です。日立の環境ビジョンのもとに置かれた、中核的な目標です。
Q. 日立のカーボンニュートラル目標は何ですか?
日立の脱炭素目標は、2段階で設計されています。まず、自社の事業所(ファクトリー・オフィス、Scope1・2)で、2030年度までにカーボンニュートラルを達成することをめざしています。そのうえで、原材料の調達から製品の使用まで含めたバリューチェーン全体(Scope3を含む)で、2050年度までにカーボンニュートラルを達成する計画です。足元から着実に、そして最終的にはサプライチェーン全体へと、範囲を広げていく設計です。
Q. 日立の社会イノベーション事業とは何ですか?
社会イノベーション事業とは、日立が掲げる事業の方向性で、社会が抱える課題を、事業を通じて解決しようとするものです。エネルギー、鉄道などのモビリティ、産業、ITといった幅広い分野で展開されています。とくに、デジタル技術の基盤「Lumada(ルマダ)」を活用し、IT(情報技術)とOT(制御・運用技術)、そして製品を組み合わせることで、顧客や社会の脱炭素(GX)に貢献することをめざしています。
Q. Lumada(ルマダ)はどう脱炭素に役立つのですか?
Lumadaは、日立のデジタル技術やソリューションを束ねる事業基盤です。工場やインフラから集めたデータを分析し、エネルギーの使い方を最適化したり、設備の効率を高めたりできます。これにより、顧客のCO2排出削減を後押しします。自社の排出を減らすだけでなく、デジタルの力で顧客や社会全体の排出削減に「貢献」する。ここに、IT・インフラ企業である日立ならではの強みがあります。
Q. 日立は電力網や鉄道でどう脱炭素に貢献していますか?
日立は、世界のエネルギーと交通のインフラを担っています。電力分野では、傘下の「日立エナジー」が、送配電(グリッド)の技術を通じて、再生可能エネルギーの導入拡大やクリーンエネルギーへの転換を支えています。交通分野では、鉄道車両やシステムを手がけ、環境負荷の小さい鉄道へのモーダルシフトに貢献します。社会の土台となるインフラそのものを、脱炭素へと導く立場にあるのが日立の特徴です。
Q. 日立のESG経営から学べることは何ですか?
大きく3つあります。1つ目は、気候変動だけでなく、循環や自然共生まで含めて環境をとらえる、幅の広い長期目標です。2つ目は、デジタル(Lumada)を活かし、自社だけでなく顧客・社会の脱炭素に貢献するという発想です。3つ目は、電力網や鉄道といった社会インフラを担う企業として、社会全体の脱炭素の土台を支える役割です。事業の強みを、社会課題の解決に結びつける姿勢が学べます。
Sources
出典・参考(一次情報)
- 日立製作所「環境ビジョン(サステナビリティ)」
- 日立製作所「脱炭素社会をめざす取り組み」
- 日立製作所「脱炭素社会の実現(サステナビリティレポート)」
※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。企業評価や投資判断を目的とするものではありません。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年7月17日