電気は、つくる量と使う量が常にぴったり一致していないと、周波数が乱れて停電につながります。とはいえ、需要も再生可能エネルギーの出力も、刻一刻と変わります。このズレを瞬時に埋めているのが「調整力」であり、それを取引するのが需給調整市場です。
需給調整市場とは、周波数を保つために必要な調整力を、全国大で取引する市場を指します。2021年に始まったばかりの、比較的新しい市場です。
本記事では、需給調整市場の役割から、調整力の5つの商品区分、取引の仕組み、火力から蓄電池・VPPまで広がる担い手、そして卸電力市場や容量市場との違いまでを、わかりやすく解説します。電力・エネルギーを学ぶ特集の調整力編として、お役に立てれば幸いです。
調整力とは|需給のズレを瞬時に埋める
需要も供給も刻々と変わる。そのズレを埋めて周波数を保つ
需要
気温・時間帯で
刻々と変動
供給
再エネの出力で
刻々と変動
調整力
需要と供給のズレを、発電量や需要量を増減させて瞬時に埋める。
電気は大量に貯められないため、需要と供給は常に一致(同時同量)が必要です。調整力は、その一致を支える「余力」です。
≡目次
需給調整市場とは|調整力を取引する市場
まずは、需給調整市場という言葉の意味と、調整力を市場で調達する理由を押さえましょう。ここが分かると、電力の安定供給を支える裏側が見えてきます。
需給調整市場とは
需給調整市場は、電気の周波数を保つための調整力を、売り買いする場です。調整力を提供したい事業者が応札し、必要とする一般送配電事業者が調達します。
電気の周波数は、需要と供給が一致しているときに、東日本なら50Hz、西日本なら60Hzに保たれます。この一致が崩れると周波数がずれ、機器の不調や、最悪の場合は大規模停電を招きかねません。だからこそ、ズレを瞬時に補う調整力が欠かせないのです。電力システムの安定を、陰で支える存在といえます。
調整力とは何か
調整力とは、需要と供給のズレを埋めるために、発電量や需要量を増やしたり減らしたりする能力のことです。
たとえば、急に気温が上がって冷房需要が跳ね上がったとします。このとき、待機していた発電機の出力を上げて供給を増やせば、需給は再び一致するわけです。逆に、太陽光の出力が雲で急に落ちたときは、別の電源がその穴を埋めます。こうした「いざというときに動かせる余力」が、調整力の正体です。発電を増やす方向だけでなく、需要を減らす方向の調整も含まれます。
なぜ市場で調達するのか
かつて調整力は、各エリアの送配電事業者が、自社の管内で個別に確保していました。しかし、それでは地域ごとに余力が偏り、コストも割高になりがちでした。
そこで、電力システム改革による発送電分離を背景に、調整力を競争的に調達する仕組みへと舵が切られたのです。全国の事業者が応札し、安い調整力から順に約定する。この方式なら、社会全体のコストを抑えながら、必要な調整力を確保できます。発送電分離の経緯は、関連記事の電力システム改革とは|3つの柱・小売自由化と発送電分離もあわせてご覧ください。
5つの商品区分|応動時間で分かれる調整力
調整力と一口にいっても、求められる速さはさまざまです。需給調整市場では、5つの商品に区分されています。
一次・二次・三次の全体像
調整力は、応答の速い順に、一次調整力・二次調整力・三次調整力と呼ばれます。さらに二次と三次はそれぞれ2種類に分かれ、全部で5つの商品です。
イメージとしては、リレーのようなものです。需給がずれた瞬間、まず最も速い一次調整力が反応します。続いて二次調整力が引き継ぎ、最後に三次調整力が長めの時間を支える。こうして役割をバトンタッチしながら、周波数を保ち続けているのです。
調整力の5つの商品区分
応動時間(動き出す速さ)が速い順に並べる
速い調整力ほど技術的なハードルが高く、2021年4月の三次②から段階導入。全商品が出そろったのは2024年度です。
応動時間と継続時間で分類
5つの商品を分けるものさしは、主に二つあります。指令を受けてから動き出すまでの速さを示す応動時間と、出力を維持できる継続時間です。
最も速い一次調整力は、10秒以内に応動します。次の二次調整力は5分以内、三次調整力①は15分以内、三次調整力②は45分以内と、段階的にゆるやかになります。瞬時のブレには速い調整力、数十分かけて変わる変動には遅い調整力を割り当てる。こうして、過不足なく効率的に需給を整える狙いです。
2024年度に全商品が出そろう
需給調整市場は、いきなり全商品が始まったわけではありません。まず2021年4月に、応動のゆるやかな三次調整力②から取引がスタートしました。
その後、商品は段階的に追加されていきました。応答の速さが求められ、技術的なハードルも高い一次調整力や二次調整力を含め、すべての商品の取引が始まったのは2024年度のことです。これにより、瞬時から数十分までの幅広い調整力が、全国大の市場で取引される体制が整いました。
どう取引されるのか|取引の仕組み
需給調整市場では、調整力がいつ、どのように売買されるのでしょうか。広域調達と価格の仕組みを見ていきます。
全国大での広域調達
需給調整市場の大きな特徴は、エリアの垣根を越えて、全国から調整力を調達する点にあります。「広域需給調整システム」と呼ばれる仕組みが、これを支えています。
あるエリアで調整力が足りなくても、連系線を通じて、余力のある別のエリアから融通できます。安い調整力から順に使うため、地域ごとに個別調達していた時代より、コストを抑えやすくなりました。電気そのものの流れと同じく、調整力もまた、全国でやりくりされる時代に入ったのです。
kW価格とkWh価格
需給調整市場の対価は、二段構えになっています。一つは、調整力をいつでも出せるよう待機しておくことへの対価であるkW価格(ΔkW価格)です。
もう一つが、実際に発電や需要調整を行った電力量に対して支払われるkWh価格です。たとえるなら、kW価格は「待機料」、kWh価格は「出来高払い」にあたります。事業者は、ただ余力を確保しておくだけでも、実際に動いたときにも、それぞれ報酬を受け取れる仕組みです。
ゲートクローズと前日・当日取引
調整力の取引は、前日から当日にかけて行われます。事業者が応札できる期限を、ゲートクローズと呼びます。
需給調整市場では、実際に電気を使う1時間前が、このゲートクローズにあたります。それまでに事業者は応札し、必要な調整力が確保されます。直前まで取引できることで、天候の変化などで揺れ動く需給の見通しに、きめ細かく対応できるわけです。卸電力市場の仕組みは、関連記事の電力市場とは|JEPXのスポット市場・価格の決まり方と高騰の理由もあわせてご覧ください。
調整力の担い手|火力からVPP・蓄電池まで
調整力を提供するのは、大きな発電所だけではありません。担い手は、いま大きく広がりつつあります。
火力・揚水という従来の担い手
調整力の主役を長く務めてきたのが、火力発電と揚水発電です。どちらも、出力を機動的に増減できる点が強みです。
とりわけ揚水発電は、電気が余るときに水をくみ上げ、足りないときに放水して発電する、いわば巨大な蓄電池のような存在です。需給のバランスを取るうえで、欠かせない役割を担ってきました。火力も、出力をこまめに調整できるため、いまも調整力の中心です。
調整力の担い手の広がり
従来の発電所に加え、蓄電池や需要側へ
出力をこまめに増減でき、調整力の中心。
水をくみ上げ・放水。巨大な蓄電池の役割。
一瞬で充放電を切替。最速の一次にも対応。
蓄電池やEV・需要を束ねて提供(アグリゲーター)。
再エネの変動が大きくなるほど、調整力の重要性は増します。担い手は多様化が進んでいます。
蓄電池の参入
近年、新たな担い手として急速に存在感を増しているのが、大型の蓄電池です。送電網につなぐこうした蓄電池は、系統用蓄電池と呼ばれます。
蓄電池の強みは、その反応の速さにあります。指令を受けてから一瞬で充放電を切り替えられるため、最も速い一次調整力にも対応できます。再生可能エネルギーが余る時間帯にためておき、足りない時間帯に放出する。そんな柔軟な使い方ができる点でも、調整力として大きな期待を集める存在です。
VPP・DRとアグリゲーター
担い手の広がりは、供給側だけにとどまりません。需要側の機器も、調整力になり得ます。ここで登場するのが、VPP(仮想発電所)とDR(デマンドレスポンス)です。
VPPは、各地に点在する蓄電池やEV、自家発電などを、通信で束ねて一つの発電所のように制御する仕組みを指します。DRは、工場や家庭の電気の使い方を増減させて、需給を調整します。これらを取りまとめ、市場へつなぐ事業者が、アグリゲーターです。小さな調整力を集めて大きな力に変えるこの仕組みは、再エネ時代の鍵を握っています。VPPやDRについては、特集の別記事でくわしく取り上げます。
卸市場・容量市場との違い
電力にはいくつもの市場があり、混同しがちです。需給調整市場が、卸電力市場や容量市場と何が違うのかを整理します。
3つの電力市場の違い
取引する「対象」と「時間軸」で役割を分担
電気そのもの(電力量)
前日・当日に売買
将来の発電できる能力
約4年先を前もって確保
需給のズレを埋める調整力
リアルタイムに近い直前
3つは競合せず、役割を分担して電力システムを支えます。本記事のテーマは、リアルタイムを担う需給調整市場です。
卸電力市場との違い
卸電力市場、たとえばJEPXのスポット市場で取引されるのは、実際に使う電気そのもの、つまり電力量(kWh)です。「明日の昼に使う電気を、いくらで買うか」を決める市場といえます。
一方、需給調整市場で取引されるのは、電気そのものではなく、需給のズレを埋める調整力です。いわば、卸電力市場が「電気の売買」なら、需給調整市場は「バランスを保つ力の売買」にあたります。両者は補い合う関係といえます。
容量市場との違い
容量市場は、将来にわたって必要な発電設備を確保しておくための市場です。取引されるのは、「いざというときに発電できる能力(kW)」であり、4年先の供給力を前もって押さえておきます。
これに対し需給調整市場は、もっと直前、リアルタイムに近い時間軸で、需給のズレを埋める調整力を取引します。容量市場が「将来の備え」なら、需給調整市場は「今この瞬間の調整」を担うわけです。時間軸の違いこそ、両者を分ける大きなポイントです。
3つの市場の役割分担
整理すると、3つの市場はそれぞれ別のものを取引しています。卸電力市場は電気そのもの(kWh)、容量市場は将来の発電能力(kW)、需給調整市場はリアルタイムの調整力(ΔkW)です。
これらは競合するものではなく、役割を分担しながら、電力システム全体を支えています。複数の市場が組み合わさることで、安定供給と効率的なコストの両立がはかられているのです。
まとめ|需給調整市場は再エネ時代の安定供給を支える
需給調整市場は、周波数を保つ調整力を全国大で取引する、新しい市場です。最後に、要点を振り返りましょう。
- 需給調整市場とは、同時同量を保つための調整力を全国大で取引する市場である
- 調整力は応動時間に応じて5つの商品に分かれ、一次は10秒以内、三次②は45分以内に応動する
- 2021年4月に三次②から始まり、全商品が出そろったのは2024年度である
- 対価は待機へのkW価格と出来高のkWh価格の二段構えで、実需給1時間前のゲートクローズまで取引される
- 担い手は火力・揚水から蓄電池・VPP・DRへ広がり、卸市場・容量市場とは取引対象と時間軸で役割を分ける
再生可能エネルギーが増えるほど、出力の変動は大きくなり、それを吸収する調整力の価値は高まります。需給調整市場は、再エネ時代の安定供給を市場の力で支える、重要な土台といえるでしょう。再エネ電力の調達は再生可能エネルギー調達とPPAとは|調達手法の種類と企業の選び方、ESG・脱炭素の全体像はESGとは|意味・E/S/G・情報開示・投資まで完全ガイドもあわせてご覧ください。