取引先から「製品ごとのCO2排出量を、ISO14067に沿って示してほしい」と求められる場面があります。まず押さえたいのは、ISO14067が製品のカーボンフットプリント(CFP)を算定し、報告するときの国際ルールだという点です。カーボンフットプリントの算定方法を決める土台にあたります。
本記事では、2018年に発行された現行版の要点、日本のガイドラインとの関係、2024年に決まった改訂の動きを順に整理します。LCAの知識がなくても読めるよう、用語は初出で補足しています。
※本記事は公表情報(2026年11月時点)に基づく解説です。規格の条文そのものは有償の公式文書にあたってください。
この記事の目次
- 1ISO14067とは|製品のCO2を数える国際ルール
- 規格の基本情報
- 対象になるものと、ならないもの
- 2規格が求める主な要求事項
- 機能単位と宣言単位
- データの質とカットオフ
- 生物起源炭素と土地利用変化
- 電力の扱いとカーボンオフセット
- 3報告書・批判的レビュー・比較の注意点
- 4関連規格と日本のガイドラインとの関係
- 52024年に決まった改訂の動き
- 6具体的な影響|算定すると何が変わるのか
- 取引・調達への影響
- 排出削減への影響
- 表示・マーケティングへの影響
- 7課題|解釈の幅、データ、比較の難しさ
- 規格に解釈の幅がある
- データの入手とサプライヤー連携
- 「準拠」と「参照」の違い
- 比較と表示の落とし穴
- 一度に完璧を目指さない
- 8実務の進め方|取引先から求められたとき
- 9まとめ
- 10よくある質問(FAQ)
ISO14067とは|製品のCO2を数える国際ルール
ISO14067は、製品のライフサイクル全体で出る温室効果ガスを、CO2換算で定量化して報告するための規格です。同じ製品を同じ手順で数えるための共通ルールで、算定する側と受け取る側の認識をそろえる役割を持ちます。
規格の基本情報
公式ページによると、現行版は2018年8月に発行された第1版で、全46ページです。担当はISO/TC 207/SC 7(温室効果ガスとその関連活動の専門委員会)で、2024年のレビューを経て現行版として確認されています。
対象となる影響は、気候変動の1つだけです。水や大気汚染など、ほかの環境影響は含みません。規格自身もこの点を明記しています。
対象になるものと、ならないもの
規格が扱うのは、製品全体のCFPと、一部の工程だけを数える部分CFPの2つです。部分CFPとは、選んだ工程や段階の排出・除去量を合計したもので、原材料の調達だけを数える場合などに使います。
いっぽう、CFP情報の伝達(ラベルなどでの表示)とカーボンオフセットの伝達は範囲外です。表示のルールは別の規格で定められており、たとえばISO14026が該当します。
規格が求める主な要求事項
規格の中心は、算定方法の「決め方」と「ばらつきを減らす約束事」です。ここでは、実務で問われやすい5点を取り上げます。
機能単位と宣言単位
CFPは「機能単位」あたりで表します。機能単位とは、製品が果たす働きを測れる形にした基準です。たとえば「洗濯1回分の洗剤」のように、何を1つと数えるかを先に決めます。
部分CFPでは、機能単位の代わりに「宣言単位」を使います。どちらも明確で、測定できることが求められます。
データの質とカットオフ
自社が運営や財務を管理する工程には、実測のサイトデータを使うことが求められます。寄与の大きい工程(累計でおよそ8割)も、サイトデータを使うべきとされています。
実測が難しいときに限って、二次データ(既存のデータベース値など)を使えます。重要度の低い工程を外す「カットオフ」も認められますが、基準は目的と範囲を決める段階で一貫して定め、除外の影響を報告書に書く必要があります。
生物起源炭素と土地利用変化
木材や農産物のように、植物由来の炭素を含む製品では扱いが分かれます。生物起源の排出と除去は、CFPに含めたうえで化石由来と分けて示すことが求められます。
製品の中に貯蔵された生物起源炭素は、計算した場合でも別枠で報告し、CFPの値には入れません。直接的な土地利用変化による排出・除去も、国際的に認められた方法で評価して含めます。間接的な土地利用変化は、国際的に合意された手順ができた時点で含めるべきとされています。
電力の扱いとカーボンオフセット
再エネ電力などの契約証書を使えるかどうかは、条件つきです。供給者固有のデータを使うには、請求権が一意であること、追跡と償却ができること、時期が近いこと、同じ市場の範囲内で生産されたことなどが挙げられています。条件を満たさなければ、関係する系統の平均排出係数を使います。
証書が物理的な電力と切り離して売られている場合は、系統の消費ミックスで感度分析を行い、結果を報告します。証書の基本はグリーン電力証書とはで確認できます。
もう1つ、押さえておきたい点があります。カーボンオフセットは、CFPにも部分CFPにも含めてはならないと定められています。「実質ゼロ」の製品でも、算定上のCFPはオフセット前の値で示します。
報告書・批判的レビュー・比較の注意点
規格は、算定そのものに加えて、結果の見せ方にもルールを置いています。章立てでは、第7章がCFP調査報告書、第8章が批判的レビューにあたります。
報告書には、使用段階と廃棄段階の前提、除外したデータとその理由、二次データを使った理由と出典、感度分析などを記録します。10年を超えて生じる排出は、時期を明示して別に報告します。批判的レビューは、算定が規格に沿っているかを第三者の目で確かめる手続きです。
異なる製品のCFPを比べる場合は、同じ機能単位に基づくことが前提です。機能の違いは説明して記録し、比較の可能性を高める工夫を求めています。比較に関する詳細な条件は附属書Bに置かれています。
関連規格と日本のガイドラインとの関係
CFPの周りには、似た名前の規格がいくつもあります。どこまでがISO14067の担当かを、次の表で整理します。
| 規格・文書 | 主な役割 |
|---|---|
| ISO14067 | 製品のCFPを算定・報告するルール |
| ISO14026 | CFPなどの情報を表示・伝達する枠組み |
| ISO14025 | 環境情報を製品ごとに開示するタイプIII環境宣言(EPD) |
| ISO14064 | 組織のGHG排出量の算定・検証 |
| ISO14068 | カーボンニュートラルの宣言を裏づける規格 |
| CFPガイドライン(日本) | 経済産業省と環境省による、日本の実務向けの取り扱い指針 |
日本では、2023年3月に経済産業省と環境省が「カーボンフットプリント ガイドライン」を公表しました。ガイドラインの第2部は、ISO14067:2018とGHGプロトコルの製品基準に整合する形で、算定の要求事項と進め方を示しています。
ISO14067に解釈の余地がある部分や、明記されていない部分については、ガイドラインが解説と取組方針を補っています。他社製品との比較を想定しない場合は、基礎要件を使ってISO14067に整合した算定ができると説明されています。比較を想定する場合は、製品別の算定ルールに盛り込む事項も示されています。
ガイドラインも、ISO14067:2018に沿ったCFPの算定ではオフセットを認めないと明記しています。GHGプロトコルとの関係は、GHGプロトコルとはで確認できます。
2024年に決まった改訂の動き
ISO14067は、いま改訂の途上にあります。公式ページの状況欄にも、国際規格として「改訂予定」と記載されています。
WTOの会合資料によると、ISOは5年ごとの見直しで、2024年にISO14067:2018の改訂を決めました。2024年10月のTC 207/SC 7ロンドン会合で作業部会(WG8)が設けられ、作業が始まっています。組織の算定規格ISO14064-1:2018も並行して改訂され、製品と組織で整合を図る方針です。
資料に挙がる論点は4つです。組織の算定に製品のバリューチェーンの考え方をどう取り入れるか、証書などマーケットベース手法の扱い、生物起源炭素の会計の整合、除去量の概念の一貫性です。電力や生物起源炭素の扱いは、実務への影響が大きい領域と言えます。改訂版の発行時期は、公式ページでは確認できませんでした。
具体的な影響|算定すると何が変わるのか
製品のCFPを算定すると、取引、削減、表示の3つの場面で変化が生じます。経済産業省・環境省のガイドラインと実践ガイドにもとづいて整理します。
取引・調達への影響
ガイドライン(2023年3月)によると、欧米の公共調達では、LCAの実施やEPD認証の有無が、加点や要件になる例があります。先進企業は調達先の選定にCFPを活用し、顧客がサプライヤーにCFPの開示や排出削減を求める動きも増えているとされています。
実践ガイド(2026年3月)は、CFPを調達のコミュニケーションの道具として使い、サプライヤーと一緒に削減に取り組む考え方を示しています。製品ごとのCFPがあれば、Scope3の把握にも役立ちます。算定の基本は、カーボンフットプリントとはで解説しています。
排出削減への影響
算定の最大の効果は、製品ごとの大きな排出源がわかることです。実践ガイドは、削減の効果と実現可能性で対策を評価し、ロードマップをつくる流れを示しています。算定によって検討の優先順位が明確になり、取り組みが加速した事例も紹介されています。
表示・マーケティングへの影響
表示ガイド(2025年3月)によると、環境負荷の少ない商品を買いたい消費者は6割を超える一方、実際に選んでいる人は約3割です。理由で最も多いのは、どの商品が環境負荷が少ないかわからないことでした。CFPという言葉を理解している層は、2割未満とされています。
表示は、広く公開するものです。顧客企業へ1対1で渡す「開示」とは区別されます。顧客から個別に求められた場合は、算定報告書から必要な項目を選んで提供でき、秘匿性にも配慮できます。表示のルールは、ISO14026の記事で解説しています。
課題|解釈の幅、データ、比較の難しさ
算定には、規格だけでは決まらない部分があり、実務では次のような課題が指摘されています。
規格に解釈の幅がある
ガイドラインによると、ISO14067:2018やGHGプロトコルには、解釈の余地があり、明記されていない事項もあります。そのため、算定する企業が、具体的な方法を自分で決めざるをえません。結果として、取引先ごとに異なる算定方法を求められることがあり、グリーン製品を公平に選ぶのが難しくなります。
データの入手とサプライヤー連携
活動量は、実測値の1次データを取るのが基本ですが、難しい場合はシナリオを使います。排出係数が一致しない場合は、類似の項目で代用し、複数当てはまるときは排出係数の大きいほうを採ります(実践ガイド)。使えるデータベースは、AIST-IDEAが約4,700種類、ecoinventが18,000種類以上などです。
一方、サプライヤーの実績値の共有は進んでいません。活動量のデータが営業機密にあたる場合もあり、共有の合意を得にくいことがあります。このため、サプライヤーの削減努力が、CFPに反映されにくくなっています。確からしさを高めるほど、取り組みの難しさとコストも上がります。
「準拠」と「参照」の違い
実践ガイドは、ISO14067:2018を「参照」して作られています。「準拠」とは、規格のすべての義務事項と推奨事項に対応することです。準拠をうたう場合は、自社ルールを製品別算定ルールと同等のレベルにし、外部レビューなどを受ける必要があります。算定方法が「準拠」にならない主な理由は、結果の確からしさではないとも説明されています。自社ルールによる算定結果の表示は、ISO14021のタイプII(自己宣言)にあたると整理されています。ISO14021の記事もあわせてご覧ください。
比較と表示の落とし穴
| 場面 | 留意点 |
|---|---|
| 比較表示 | 同等の機能を持つ自社製品や、同一カテゴリーのベースラインとの比較に限る。同じ算定ルールで求めていることが条件 |
| 他社製品との比較 | 算定ルールについて、3名以上の独立した外部専門家のレビューが必要 |
| 総合評価の表現 | CFPの結果だけで「環境面で総合的に優れている」とは表現できない |
| 最小・最大の表現 | 「業界で最小のCFP」は、業界全体のCFPを把握できないためNG |
| 更新 | 原材料や製造技術が変わったら、再算定して表示を更新する |
背景には、環境主張への不信があります。2020年の欧州委員会の調査では、EU域内の環境主張の53.3%が曖昧で誤解を招くか根拠がなく、40%が虚偽または欺瞞的な可能性があるとされました。根拠の透明性を保つ姿勢が、欠かせません。
一度に完璧を目指さない
実践ガイドは、一度に完璧を目指すと検討が進まないため、粗い精度で算定したうえで、必要な部分を詳細にしていく方法を示しています。カットオフ(算定から除く範囲)は最小限にとどめ、モデル事業では排出量の5%未満に設定しました。なお、中小企業向けの個別の留意点は、このガイドには記載されていません。
実務の進め方|取引先から求められたとき
取引先からCFPの提出を求められたら、いきなり計算を始めずに、先に決めることがあります。順番は次の4段階が基本です。
比較か、把握か
機能単位と境界
一次か二次か
記録とレビュー
最初の「目的」で、他社製品との比較に使うのかを確かめます。ガイドラインの考え方では、比較を想定するかどうかで、必要になる算定ルールが変わります。次に機能単位と算定の境界を決め、データは自社の実測値を優先して集めます。
サプライヤーの一次データは、共有が進んでいないことがガイドラインでも課題とされています。取得できない部分は二次データで補い、使った理由を記録に残してください。検証の水準は、提出先の要求に合わせて決めます。組織の排出量との関係は、スコープ3排出量の算定方法が参考になります。
まとめ
要点は次のとおりです。
- ISO14067は、製品のCFPと部分CFPを算定・報告する国際規格で、現行版は2018年8月発行です。
- 機能単位、データの質、生物起源炭素、電力の扱いなどを定め、オフセットはCFPに含めません。
- 日本では2023年3月の経済産業省・環境省ガイドラインが、ISO14067に整合する形で実務の指針を補っています。
- 2024年に改訂が決まり、作業部会が動いています。時期の見通しは、公式の発表で確認が必要です。
製品のCO2を示すときは、目的の確認から始める進め方が手戻りを減らします。
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出典・参考資料(一次情報)
リンク先は2026年11月時点で確認した各機関の公開情報です。最新は各公式情報をご確認ください。
国際規格:ISO 14067:2018 Greenhouse gases — Carbon footprint of products(ISO公式)
日本の指針:カーボンフットプリント ガイドライン(経済産業省・環境省、2023年3月)
改訂の動き:Product level measurements of carbon emissions(WTO会合資料)
経済産業省・環境省:カーボンフットプリント ガイドライン(2023年3月)/CFP実践ガイド(2026年3月)/カーボンフットプリント 表示ガイド(2025年3月)
よくある質問(FAQ)
Q. ISO14067に準拠した算定には、認証が必要ですか。
A. ISO14067は算定と報告のルールで、規格そのものが認証制度を定めているわけではありません。第三者検証や批判的レビューを受けるかどうかは、提出先の要求や用途に合わせて決まります。
Q. 部分CFPだけを出しても問題ありませんか。
A. 規格は部分CFPも対象としています。ただし、部分CFPは工程を絞った値なので、製品全体のCFPとは区別して示す必要があります。同じ方法と期間で、欠落や重複がなければ合算してCFPにできます。
Q. 再エネ証書を使えば、CFPを下げられますか。
A. 条件を満たした契約証書であれば、供給者固有のデータとして使えます。条件を満たさない場合や、証書が電力と切り離して売られている場合は、系統平均の係数を使い、感度分析の結果も報告します。
Q. 取引先からCFPを求められたら、すべて開示する必要がありますか。
A. 実践ガイドによると、顧客への開示では、算定報告書から必要な項目を選んで提供でき、秘匿性にも配慮できます。結論への影響が小さい事項は、理由を説明すれば詳細な報告を省略できます。受け手が温室効果ガスごとの重量を求める場合もあるため、利用目的を確認することが勧められています。