最終更新日:2026年8月4日
「サプライチェーンのCO2(Scope3)を減らしたいが、外部のクレジットを買うだけでよいのか」——脱炭素に取り組む企業、とくに食品や消費財の企業が向き合う問いです。その答えの一つがカーボンインセッティング(インセット)です。
カーボンインセッティングとは、自社のバリューチェーン(サプライチェーン)の中で排出削減や炭素の吸収を行い、その効果を自社の削減に活かす取り組みです。外部のクレジットを購入するカーボンオフセットと対比される考え方です。
本記事では、インセッティングの意味、カーボンオフセットとの違い、Scope3削減とのつながり、メリットと課題、標準化の動きを、中立的に整理します。
※インセッティングの定義や基準は国際的に整備途上で、内容は時点により変わります。本記事は公表情報(2026年時点)に基づく解説です。最新は各公式情報をご確認ください。
植林・再エネ・環境再生型農業など
自然に基づく解決策が中心
供給網の中で実際に削減
≡この記事の目次
カーボンインセッティング(インセット)とは|バリューチェーンの中で減らす
カーボンインセッティングは、「オフセット(offset)」に対して「インセット(inset)」=内側でという語感の言葉です。外部から埋め合わせるのではなく、自社の事業とつながりのある場所で実際に排出を減らす点に特徴があります。
インセッティングの基本的な考え方
自社の原材料の産地や物流など、事業とつながりのある場所で、植林やアグロフォレストリー、再生可能エネルギー、環境再生型(リジェネラティブ)農業といった取り組みを行い、排出を減らしたり炭素を吸収したりします。自然に基づく解決策が中心で、ネイチャーポジティブにもつながる副次効果が期待されます。
なぜ農業・食品分野で注目されるのか
食品や消費財の企業は、排出の多くが原材料の生産(農業)など上流で生じます。産地と直接つながって取り組むインセッティングは、こうした企業がサプライチェーン排出を減らす有力な手段とされ、コーヒーやカカオの産地でのアグロフォレストリーなどが例に挙げられます。
カーボンオフセットとの違い
インセッティングは、しばしばカーボンオフセットと対比されます。最大の違いは「どこで」削減するかです。
| 観点 | カーボンオフセット | カーボンインセッティング |
|---|---|---|
| 削減する場所 | バリューチェーンの外部 | バリューチェーンの内部(調達先・産地) |
| 方法 | 外部プロジェクトのクレジットを購入して相殺 | 自社の供給網で直接、削減・吸収を実施 |
| 排出量への反映 | 原則、自社のScope削減にはカウントしない(相殺) | Scope3の削減に資する可能性がある |
| 副次的な効果 | 取引関係は生じにくい | 産地との関係強化・供給網の強靱化 |
つまりオフセットが「外で埋め合わせる」のに対し、インセッティングは「自分の供給網の中で減らす」取り組みです。J-クレジットなどのクレジットを外部から購入するオフセットとは、位置づけが異なります。
Scope3削減とのつながり
インセッティングが注目される大きな理由は、Scope3の削減に直接つながりうる点です。オフセット用のクレジットは、原則としてネットゼロに向けたScope削減にはカウントされません。一方、バリューチェーン内で実際に排出を減らすインセッティングは、Scope3排出量そのものを減らす取り組みとして扱える可能性があります。
ただし、どこまでをScope3削減として認めるか、追加性や測定をどう担保するかは、基準がなお整備途上です。削減貢献量(Scope4)と同様、効果の扱いには慎重さが求められます。
インセッティングのメリットと課題
期待されるメリット
- バリューチェーン内で実際に排出を減らすため、Scope3削減に資する可能性がある。
- 産地やサプライヤーとの関係が深まり、供給網の強靱化につながる。
- 自然に基づく解決策を通じて、生物多様性や地域社会への副次的な便益が期待できる。
留意点|測定・追加性・グリーンウォッシュ
- 削減量の測定や、その取り組みがなければ起きなかったといえる「追加性」の確保が難しい。
- サプライヤー側と自社の双方で数える「二重計上」を避ける必要がある。
- オフセットとの線引きが曖昧になりやすく、効果を誇張するとカーボンニュートラルを装うグリーンウォッシュと受け取られるおそれがある。
- 国際的な基準がなお発展途上で、扱いが今後変わる可能性がある。
期待されるメリット
- バリューチェーン内で実際に減らすため、Scope3削減に資する可能性
- 産地・サプライヤーとの関係が深まり、供給網の強靱化につながる
- 自然に基づく解決策で、生物多様性や地域社会への副次的便益も
留意点
- 削減量の測定や追加性の確保が難しい
- サプライヤーと自社の二重計上を避ける必要がある
- オフセットとの線引きが曖昧で、誇張はグリーンウォッシュの恐れ
- 国際基準が発展途上で、扱いが今後変わる可能性
実削減に資する一方、測定・追加性・二重計上の管理と、オフセットとの線引きが信頼の鍵になります。
ルールと標準化の動き(IPIなど)
インセッティングの国際的な枠組みとしては、International Platform for Insetting(IPI)が2017年に一般的な基準を示しています。GHGプロトコルやSBTiなどのScope3・ネットゼロの基準との整合も議論されていますが、標準化はなお進行中です。
日本でも、環境省がカーボン・オフセットのガイドラインを整備するなど、クレジットや削減の扱いに関する制度づくりが進んでいます。インセッティングを取り入れる際は、こうした最新の基準を確認しながら、透明性の高い開示を心がけることが大切です。
まとめ|「外で埋め合わせる」から「供給網の中で減らす」へ
カーボンインセッティングとは、自社のバリューチェーンの中で排出削減や炭素吸収を行い、その効果を自社の削減に活かす取り組みです。外部でクレジットを買って相殺するオフセットと対比され、Scope3の削減に資する可能性がある点で注目されています。
とくに排出が上流に多い食品・消費財の企業にとって、産地と直接つながるインセッティングは有力な選択肢です。一方で、測定や追加性、二重計上、オフセットとの線引きといった課題も残ります。基準の整備を見据えつつ、透明性をもって取り組むことが、信頼される脱炭素経営につながります。
よくある質問(FAQ)
Q. カーボンインセッティングとオフセットの違いは?
どこで削減するかが違います。オフセットはバリューチェーンの外部でクレジットを購入して相殺する取り組み、インセッティングは自社のバリューチェーンの内部(調達先や産地)で直接削減・吸収する取り組みです。
Q. インセッティングはScope3削減にカウントできますか?
バリューチェーン内で実際に排出を減らすため、Scope3の削減に資する可能性があります。ただし、どこまでを削減として認めるか、追加性や測定をどう担保するかは基準が整備途上で、慎重な運用が求められます。
Q. どんな企業がインセッティングに向いていますか?
排出の多くが原材料の生産など上流で生じる、食品・消費財・アパレルなどの企業が中心です。コーヒーやカカオの産地でのアグロフォレストリーなどが代表例です。
Q. インセッティングの課題は何ですか?
削減量の測定や追加性の確保、二重計上の回避が難しい点です。オフセットとの線引きが曖昧になりやすく、効果を誇張するとグリーンウォッシュと受け取られるおそれがあります。
Q. インセッティングに公式なルールはありますか?
International Platform for Insetting(IPI)が基準を示しているほか、GHGプロトコルやSBTiのScope3・ネットゼロ基準との整合が議論されています。ただし国際的な標準化は現在も進行中です。
出典・参考(一次情報)
- International Platform for Insetting(IPI)|Insetting Explained
- GHG Protocol(温室効果ガスプロトコル)
- SBTi(Science Based Targets initiative)
- 環境省「カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0」(PDF)
※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
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greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
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最終更新日:2026年8月6日