GX-ETS(排出量取引制度)の実務ガイド|対象判定・割当・価格上下限・償却までを整理

国内規制 GX-ETS(排出量取引制度)の実務ガイド|対象判定・割当・価格上下限・償却までを整理

日本の排出量取引制度(GX-ETS)は、2026年度から法的な義務に変わりました。まず押さえたいのは、直近3か年度のCO2直接排出量が平均10万トン以上の事業者に、排出枠の保有と償却を義務づけ、2026年度の価格を1,700〜4,300円/トンの範囲に収める制度だという点です。

本記事は、サステナビリティ、経理、調達の実務担当者向けに、対象の判定、割当、年間の日程、価格の設計、クレジット、検証までを、資料と条文にもとづいて整理します。あわせて、具体的な影響と、まだ決まっていない課題も示します。根拠は、経済産業省の公開資料と、法律事務所の解説です。

※本記事は公表情報(2026年11月時点)に基づく解説です。実施指針やマニュアルは更新されるため、最新の内容は経済産業省の公式資料で確認してください。

制度の全体像と企業への影響は排出量取引制度(GX-ETS)とは、対応の進め方は実務対応ロードマップで解説しています。本記事は、条文と資料の数字を中心に整理したリファレンスです。

この記事の目次

GX-ETSとは|2026年度から義務になった国内の排出量取引制度

GX-ETSは、GX推進法にもとづく国内の排出量取引制度です。排出量の多い事業者に、排出した量と同じだけの排出枠を持つことを求めます。2023〜2025年度のGXリーグでの自主的な試行を経て、2026年度から第2フェーズ(〜2032年度)に入り、遵守が法的な義務になりました。

法的な位置づけ|2025年改正GX推進法

改正GX推進法は2025年6月4日に公布され、2026年4月1日に施行されました。排出枠の正式名称は「脱炭素成長型投資事業者排出枠」で、1枠が1トンのCO2に当たります(法32条1項)。排出枠は国が割り当て、事業者間で売買できます。

制度の骨格

項目 内容
対象 直近3か年度のCO2直接排出量の平均が年10万トン以上の事業者。約300〜400社、国全体の排出の約6割と見込まれる
排出枠の配分 第2フェーズは原則無償。業種別のベンチマークが基本で、困難な分野はグランドファザリング
義務 排出実績量と同量の排出枠を保有し、償却日(翌年度の1月31日)に国が消滅させる
価格 2026年度は上限4,300円/トン、下限1,700円/トン。2027年度以降は毎年引き上げ
クレジット J-クレジットとJCMクレジットを使える。上限は実排出量の10%
検証 登録確認機関が排出目標量と排出実績量を確認する
市場 GX推進機構が排出枠取引市場を運営する。開設は2027年秋ごろの予定
有償化 2033年度から発電部門で段階的にオークションを導入

EUの制度との違いは、EU-ETSの記事で整理しています。日本は第2フェーズの無償割当が基本で、有償化は発電部門から始まる点が特徴です。

対象事業者の判定|10万トンはどう数えるか

論点 内容
判定の指標 前年度までの直近3か年度のCO2直接排出量の平均が10万トン以上(法33条1項、施行令2条)。新設の事業者には特例がある(経産省令4条)
判定の単位 事業者(法人)単位。子会社や関連会社は、それぞれ別の事業者として扱う
数える範囲 工場等の直接排出と、一定の輸送能力以上の事業者の輸送に係る直接排出。Scope1のCO2のみ
数えない範囲 Scope2(間接排出)とCO2以外の温室効果ガスは判定にも義務にも入らない
共同届出 密接関係者とGX投資を一体で行う場合は、共同での届出が認められる
届出 毎年9月末までに、事業の区分、年度平均排出量、排出目標量などを届け出る(経産省令10条1項)

判定が法人単位である点は、グループ経営では見落としやすいところです。連結で見れば大きくても、法人ごとに見ると10万トンに届かない会社は、対象にならない可能性があります。一方で、密接関係者との共同届出を使うかどうかで、対象の範囲が変わります。Scope1の数え方は、Scope1の記事で確認できます。

排出枠の割当|ベンチマークとグランドファザリング

割当の根拠は、事業者が届け出る排出目標量です。基準になる活動量と排出量は、制度対象となる直前の3か年度(2023〜2025年度)の平均を使います。

ベンチマーク方式|業種別の原単位で割り当てる

基本になる方式です。割当量は「基準活動量×各年度の目指すべき排出原単位」で決まります。経産省の資料では、対象は20業種で、対象事業者の排出の約90%をカバーします。中間整理(案)が検討対象に挙げた業種は、石油精製、鉄鋼、化学(石油化学・ソーダ・カーボンブラック)、紙パルプ、セメント、石灰、アルミ、ゴム製品、板ガラス、ガラスびん、自動車、発電です。

水準の案は、基準年度の業種内で上位50%の原単位から始め、2030年度に上位32.5%まで直線的に引き下げるものです。ただし開始当初の5年間は、「上位50%×0.915」との大きいほうを使う案が示されています。いずれも中間整理(案)の段階の数字のため、実施指針の最新版で確認してください。

グランドファザリング方式|実績に削減率をかける

ベンチマークを設定しにくい排出源に使います。基準排出量に「1−目指すべき削減率×基準からの経過年数」をかけて求め、削減率は年率1.7%です。

割当を調整する仕組み

項目 内容
早期削減 制度開始前に基準を超えて削減した分を、基準年度の排出量に加算する
カーボンリーケージ 対象の業種で、排出枠の調達コストが収益に占める割合が一定水準を超える場合、不足分の一定割合を追加する
研究開発投資 前年度のGX関連の研究開発投資額に応じて、不足分の範囲内で追加する
活動量の変動 過去2年度の平均が基準から±7.5%を超えた場合は基準を更新し、過年度分も遡って調整する。エネルギー使用量1,500kL未満の小規模事業所は、群としてまとめて判定する
新設・廃止 新設年度の活動量は1年分に換算して翌年度に反映する。廃止の翌年度以降は割り当てず、過大だった分は控除する
特例 災害、保安検査、法定点検の年度は、基準の更新から除外する場合がある

排出枠の総量(全体のキャップ)は、今回確認した資料には示されていません。個社の算定方法だけが示されている点は、後述の課題に挙げています。

年間の義務サイクルと日程|届出から償却まで

2026年度は制度開始の初年度で、特例の日程があります。表は、経産省の説明資料と法律事務所の解説をもとに、2026年度を例に整理したものです。

時期 手続き
2026年4月〜 2026年度の排出量の算定が始まる。登録確認機関との契約は2026年度中の着手が推奨されている
2026年9月30日 年度平均排出量の届出と移行計画の提出(初年度の特例。登録確認機関の確認は不要)
2027年度中 排出目標量等合計量の届出と、排出枠の割当(初年度は2027年度に実施)
2027年秋ごろ GX推進機構の排出枠取引市場が開設される予定
2027年9月30日 2026年度の排出実績量を報告する。登録確認機関の確認結果を添付する
2027年11月30日 経産大臣が、保有義務量(排出実績量に相当する排出枠の量)を通知する
2028年1月31日 償却日。通知された量の排出枠を保有していなければならない
2028年2月1日〜 償却できなかった分に、未償却相当負担金が課される

2027年度以降は、毎年9月30日までに排出目標量等合計量の届出と移行計画の提出を行います。移行計画には、2030年度までの直接・間接排出の削減目標、設備投資、研究開発投資などを書きます。2030年度目標を含む一部は、経産大臣と事業所管大臣が個社ごとに公表します(法73条2項)。

日程の細部は、経産省が公表する割当てや算定方法のマニュアルと、排出量取引の運用システム(ERMS)の案内で確認してください。

価格の設計|上限・下限と未償却相当負担金

上限4,300円・下限1,700円

項目 内容
上限(参考上限取引価格) 2026年度は4,300円/トン。燃料転換のコストを参照して定めた
下限(調整基準取引価格) 2026年度は1,700円/トン。省エネのJ-クレジットの価格水準を参照して定めた
2027〜2030年度 前年度の価格を基礎に、物価の見通しを加味して引き上げる。経産省の説明資料では「前年度価格に3%+物価上昇率」をかける考え方が示されている
上限の働き 平均売買価格が参考上限を一定期間上回ると、みなし排出枠保有の措置が告示されることがある(法40条1項)。不足分は上限価格の支払いで履行したものとみなす
下限の働き 価格が下限を一定期間下回ると、GX推進機構がリバースオークションで排出枠を買い支える。割当基準の強化も検討する

履行しなかった場合|未償却相当負担金

償却日までに償却できなかった場合は、翌日の2月1日以降、未償却相当負担金が課されます。額は「未償却量×参考上限取引価格×1.1」です(法41条1項)。2026年度の上限価格で単純に計算すると、1トンあたり4,730円です。上限価格より1割高くなるため、市場で調達するか、上限価格の枠内で履行するほうが有利になる設計だと読めます。みなし排出枠保有との関係は、条文で確認してください。

コストの規模感|不足量ごとの試算

次の表は、排出枠が不足した場合の調達コストを、2026年度の下限と上限で単純に計算した例です。仮定の数字であり、実際の価格を予測するものではありません。

不足量 下限(1,700円) 上限(4,300円)
1万トン 1,700万円 4,300万円
10万トン 1.7億円 4.3億円
100万トン 17億円 43億円

無償割当が基本のため、実際に必要になるのは、割当を超えて排出した分と、削減が遅れた分です。レンジが約2.5倍あるため、予算を組む際には、下限と上限の両方で試算しておくと説明しやすくなります。社内価格の置き方は、インターナルカーボンプライシング(ICP)の記事で整理しています。

クレジットとバンキング|使える範囲

  • 使えるクレジット:J-クレジットとJCMクレジット。JCMは温対法のSHK制度に準拠し、2020年以前の取組に由来する一部は使えません。
  • 上限:各年度の実排出量(無効化控除前)の10%。諸外国の5〜10%程度を参考にしており、見直しも検討対象です。
  • 排出実績量の計算:CO2直接排出量にJ-クレジットの移転量を加え、J-クレジットとJCMクレジットの無効化量を差し引きます。登録確認機関の確認が必要です。
  • バンキング:余った排出枠の翌年度への持ち越しは可能とされています。借り入れ(ボローイング)については、確認した資料に記載がありません。

J-クレジットの種類や取得の流れは環境価値の記事、JCMの仕組みはJCMの記事で整理しています。クレジットの上限が10%に限られるため、削減の主体はあくまで自社の排出削減です。

検証|登録確認機関と保証の水準

  • 登録:登録確認機関は経産大臣への登録制で、登録の有効期間は5年です(法60条、61条)。経産省は、2026年1月から登録申請の受付を始めています。
  • 確認の対象:排出目標量(届出の前)と排出実績量(報告の前)の両方に、確認が必要です。
  • 保証の水準:最初の3年間は、事業者全体の排出量を対象にした限定的保証です。2029年度から、大規模な事業所(年100万トン以上が目安)に合理的保証を段階的に入れる方針です。

確認機関の数や契約の時期は、初年度の実務を左右します。GHGの検証に求められる力量はISO14066の記事、算定と検証の規格はISO14064の記事が参考になります。

具体的な影響|誰に何が起きるか

対象事業者|排出枠が資産と費用になる

  • 排出量の管理が決算並みになる:排出目標量と排出実績量の両方に第三者の確認が入り、期限も法定です。算定の体制、データの根拠、内部統制が必要になります。
  • 排出枠の収支が費用に直結する:割当を超える排出は調達コストになり、レンジは1,700〜4,300円/トンです。設備投資の判断に、この価格帯を内部炭素価格として使う企業が出てきます。
  • 移行計画が公表される:2030年度目標を含む一部が個社ごとに公表されるため、投資家や取引先の目に触れます。
  • 会計・税務の整理が必要になる:排出枠の会計処理や税務上の扱いは、今回確認した資料では整理されていませんでした。経理部門は、公表される指針を確認する必要があります。

発電事業者|有償化が見えている

発電は、ベンチマーク対象の業種に入っています。2033年度から、発電部門で有償オークションが段階的に入る計画です。投資回収の長い電源では、この時期がコストの見通しに入ってきます。電源の投資を後押しする制度は、長期脱炭素電源オークションの記事で整理しています。

対象外の企業|取引先を通じて影響が届く

10万トン未満の事業者に、直接の義務はありません。ただし、取引先が対象になると、排出量データの提供、削減の協力、調達条件の見直しを求められる可能性があります。サプライヤーとしての対応は、取引先の移行計画の内容しだいです。価格転嫁の程度を定量した公的な資料は、確認できていません。

クレジット市場|需要に天井がある

J-クレジットとJCMクレジットの使用上限は10%のため、制度からの需要には天井があります。JCMは、使える範囲に条件があります。上限や条件が見直されれば、需要の見通しも変わります。

残る課題|まだ決まっていないこと

制度設計の課題

  • 排出枠の総量が示されていない:個社の算定方法は示されていますが、全体のキャップは今回確認した資料に見当たりません。総量が見えないと、需給の見通しが立てにくくなります。
  • ベンチマークの水準が案の段階:上位50%から32.5%へ下げる案の確定版と、業種ごとの数値は、実施指針で確認する必要があります。
  • 対象がScope1のCO2に限られる:Scope2と非CO2のGHGは対象外です。電力を多く使う事業者は、直接排出が少なければ対象になりません。
  • 有償化の範囲:明示されているのは、2033年度からの発電部門です。それ以外の産業の扱いは、確認できていません。

運用上の課題

  • 取引開始まで時間がある:市場の開設は2027年秋ごろの予定で、償却日(2028年1月31日)まで余裕が短くなります。初年度の価格形成は読みにくくなります。
  • 価格のレンジが広い:上限は下限の約2.5倍です。2027年度以降の水準も、前年度価格を基に決まるため、年ごとに見直されます。
  • 検証の体制:確認機関の数、費用、人材は、初年度の実務に直結します。
  • 対象企業の確定数が見えない:2026年9月末の届出期限は過ぎましたが、確定した対象事業者数の公表は、確認できていません。

国際的な動きとの関係では、グリーン保護主義とCBAMの記事が参考になります。国内の炭素価格がどこまで考慮されるかは、貿易面でも論点です。

実務で今確認すること

論点 見るところ
自社(法人単位)が10万トンに届くか 直近3か年度の直接排出量(Scope1のCO2)の平均。子会社は別に判定する
業種がベンチマーク対象か 実施指針の別表。対象外ならグランドファザリング
基準期間の活動量と排出量 2023〜2025年度の平均。データの根拠を残す
登録確認機関の確保 2026年度中の契約が推奨されている。排出目標量と実績量の両方が対象
移行計画の内容 2030年度までの削減目標、設備投資、研究開発。一部は公表される
調達・予算の想定 1,700〜4,300円/トンの両端で試算し、クレジットの上限10%を織り込む
会計・税務の扱い 公表される指針を確認する
取引の準備 法人等保有口座と、市場開設(2027年秋ごろ)に向けた社内ルール

よくある質問(FAQ)

Q. 自社が対象かどうかは、どう判定しますか。

A. 直近3か年度のCO2直接排出量(Scope1)の平均が、法人単位で10万トン以上かどうかで判定します。Scope2やCO2以外のガスは入りません。子会社は別の法人として判定します。

Q. 排出枠は有償ですか。

A. 第2フェーズ(〜2032年度)は原則無償です。2033年度から、発電部門で有償オークションが段階的に入る計画です。

Q. 義務を果たせなかったら、どうなりますか。

A. 償却日の翌日以降、未償却の量について、未償却相当負担金が課されます。額は「未償却量×参考上限取引価格×1.1」です。勧告や公表といった措置は、確認した資料には見当たりませんでした。

Q. クレジットで、どこまで賄えますか。

A. J-クレジットとJCMクレジットで、各年度の実排出量の10%までです。見直しが検討対象になっています。

Q. 排出枠はいつから売買できますか。

A. GX推進機構が運営する市場が、2027年秋ごろに開く予定です。参加者の範囲などの細部は、業務方法書で定められます。

まとめ

  • GX-ETSは、直近3か年度のCO2直接排出量が平均10万トン以上の事業者に、排出枠の保有と償却を義務づける制度です。2026年度から法的な義務になりました。
  • 割当は、ベンチマークとグランドファザリングが中心で、第2フェーズは原則無償です。
  • 価格は1,700〜4,300円/トン(2026年度)で、義務を果たさないと、上限価格の1.1倍の負担金が課されます。
  • クレジットは実排出量の10%まで。検証は登録確認機関が担い、限定的保証から始まります。
  • 総量、ベンチマークの確定水準、会計・税務の扱いなど、未確定の点が残っています。

実施指針やマニュアルが更新された段階で、本記事を見直します。最新の内容は、経済産業省の公式資料で確かめてください。

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出典・参考資料(一次情報・解説)

リンク先は2026年11月時点で確認した公開情報です。最新は各公式情報をご確認ください。

経済産業省:2026年度より開始する排出量取引制度について(令和8年1月14日)

経済産業省:排出量取引制度小委員会 中間整理(案)~排出枠の割当ての実施指針等に関する事項~(令和7年12月9日)

経済産業省:排出量取引制度(GX-ETS)リーフレット

TMI総合法律事務所:排出量取引制度(GX-ETS)①概要、対象事業者、登録確認機関、排出枠の割当て(総論)

TMI総合法律事務所:排出量取引制度(GX-ETS)④償却義務・未償却相当負担金・取引

RIM Intelligence:経産省=排出量取引の上下限、4300~1700円/t-CO2―26年度の水準

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