損失と損害(ロス&ダメージ)とは|適応の限界と損失と損害基金を解説

2026.07.15
気候変動

気候変動の被害は、備えれば必ず防げる、というものではありません。堤防を高くしても、島そのものが海に沈んでいく。避難を整えても、失われた命や文化は戻らない。こうした、適応の限界を超えて生じてしまう被害を指すのが損失と損害(ロス&ダメージ)です。緩和で原因を減らし、適応で備える。それでも残ってしまうものへの対応が、いま国際交渉の大きな焦点になっています。本記事では、損失と損害とは何か、緩和・適応との関係、背景にある不正義、そしてCOPで合意された損失と損害基金までを、外務省などの情報をもとにわかりやすく整理します。

この記事の目次

損失と損害(ロス&ダメージ)とは(おさらい)

まず、損失と損害がどのようなもので、なぜ注目されるのかを整理しましょう。

適応しきれずに、残ってしまう被害

損失と損害=緩和や適応の努力をしても防ぎきれない、気候変動による損失や被害

経済的損失

農作物の不作、インフラや建物の破壊、事業の停止。

非経済的損失

人命の喪失、健康被害、文化や生態系の消失、移住。

出典:外務省・環境省の情報をもとにgreenote作成

適応しきれない気候変動の被害

損失と損害(ロス&ダメージ)とは、緩和や適応の努力をしても防ぎきれない、気候変動による損失や被害のことです。干ばつや洪水、台風といった自然災害による被害。あるいは、海面上昇による土地そのものの消失。こうした、避けようのない被害が含まれる。

大切なのは、これが適応の限界を超えたところにある、という点です。備えには、どうしても限りがあります。どれだけ手を尽くしても防ぎきれない被害は、必ず残る。その残された被害にどう向き合うか。それが、損失と損害というテーマなのです。

経済的損失と非経済的損失

損失と損害は、大きく2つに分けて考えられます。ひとつが、経済的損失です。金額で表せる被害を指します。農作物の不作、インフラや建物の破壊、事業の停止などが、これにあたります。

もうひとつが、非経済的損失になります。こちらは、金額に換算しにくい被害です。人命の喪失、健康被害、文化や伝統の消失、生態系の破壊。さらには、住む土地を追われ、移住を余儀なくされることも含まれます。お金で測れないからこそ、その痛みは深い。損失と損害の議論では、この非経済的損失も、重要なテーマとして扱われます。

緩和・適応との関係――気候対策の3段階

損失と損害は、緩和・適応に続く「第3の対応」と位置づけられます。その関係を見ていきましょう。

防ぐ、備える、それでも残る

1

緩和

温室効果ガスの排出を減らし、原因に対処する

2

適応

避けられない影響に備える

3

損失と損害

それでも防ぎきれずに生じる被害への対応

パリ協定でも、適応(7条)とは独立して損失と損害(8条)が規定されている。

出典:パリ協定・外務省の情報をもとにgreenote作成

気候変動への対応は、大きく3つの段階で考えると、すっきり整理できます。第一が、緩和です。温室効果ガスの排出を減らし、気候変動の原因そのものに対処します。第二が、適応になります。それでも避けられない影響に対して、被害を減らすよう備える段階です。

そして第三が、損失と損害です。緩和で原因を抑え、適応で備えても、なお防ぎきれずに生じてしまう被害への対応を指します。つまり、緩和・適応という2つの対策の、さらにその先にある課題なのです。パリ協定でも、この位置づけは明確です。適応を定めた第7条とは独立して、損失と損害が第8条に規定されている。適応の詳しい考え方は、関連記事の気候変動適応とはもあわせてご覧ください。

背景にある「不正義」

損失と損害の議論の根っこには、ある不公平があります。それが交渉を動かしてきました。

原因をつくった国と、被害を受ける国が違う

先進国

温室効果ガスを多く排出してきた。

島しょ国・途上国

排出はわずかなのに、気候変動の被害を強く受ける。

この不公平さが気候の不正義と呼ばれ、損失と損害の議論を動かしてきた。

出典:国連広報センターの情報をもとにgreenote作成

損失と損害が、これほど強く主張されてきたのには、理由があります。その根っこにあるのが、気候をめぐる不正義です。気候変動の影響を最も強く受けているのは、島しょ国や途上国など、立場の弱い国々だ。海面上昇で国土が沈みかけている国さえある。

ところが、これらの国々は、気候変動の原因となる温室効果ガスを、ほとんど排出してきませんでした。大量に排出してきたのは、先進国です。「原因をつくった国」と「被害を受ける国」が異なる。この深い不公平さこそが、途上国を突き動かしてきました。だからこそ彼らは、被害への支援を、強く、粘り強く求め続けてきたのです。

国際交渉の歩み――WIMからパリ協定8条へ

損失と損害は、長い交渉を経て国際的な枠組みに位置づけられてきました。その歩みをたどります。

30年越しの、粘り強い訴え

1990年代
島しょ国が早くから損失と損害を主張。
2013年 COP19
ワルシャワ国際メカニズム(WIM)を設立。
2015年 パリ協定
第8条に損失と損害を位置づけ。
2022年 COP27
損失と損害基金の設立に合意。
2023年 COP28
基金の運用化を決定。

出典:外務省・資源エネルギー庁の情報をもとにgreenote作成

損失と損害が、国際的な議題として認められるまでには、長い年月がかかりました。すでに1990年代から、島しょ国は、この問題を早くから訴えてきました。しかし当初は、なかなか正面から取り上げられなかったのです。

大きな節目が、2013年のCOP19でした。ここで、ワルシャワ国際メカニズム(WIM)が設立される。損失と損害に取り組むための、初の本格的な国際的枠組みでした。そして2015年、パリ協定が採択されると、損失と損害は第8条に、はっきりと位置づけられる。適応とは独立した課題として認められた、大きな一歩でした。国際枠組みの全体像は、関連記事のパリ協定とCOPとはもあわせてご覧ください。

損失と損害基金――COP27・COP28

近年の最大の前進が、損失と損害基金の設立です。COP27とCOP28での合意を整理します。

歴史的な、基金の実現

2022年 COP27(エジプト)

途上国の強い要求により、損失と損害基金の設立に合意。

2023年 COP28(ドバイ)

基金の運用化を決定。当面は世界銀行のもとに設置。

脆弱な国々を支援する国際的な資金の仕組み。国連事務総長は「正義に向けた一歩」と評した。

出典:外務省・国連広報センターの情報をもとにgreenote作成

長年の訴えが実を結んだのが、損失と損害基金の設立です。これは、気候変動による損失や被害を受けた、脆弱な国々を支援するための、国際的な資金の仕組みになります。2022年、エジプトで開かれたCOP27で、途上国の強い要求により、その設立が合意されました。

そして翌2023年、ドバイでのCOP28では、基金の運用化が決定されます。当面は、世界銀行のもとに基金が設置されることになりました。会議の初日に合意が成立したことも、その重要性を物語る。長年、途上国が求め続けてきた仕組みが、ついに動き出したのです。国連事務総長が「正義に向けた一歩」と述べたように、これは歴史的な合意だと受け止められている。

課題と日本の対応

基金の設立は一歩ですが、課題も残ります。日本の対応とあわせて見ていきます。

動き出した、その先の課題

残る課題

  • 資金の規模=必要額は非常に大きい
  • 拠出の合意=誰がどれだけ出すか難しい
  • 賠償ではないとの整理=責任のあり方の議論が続く

日本の対応

資金拠出や、被害を減らす早期警戒システムの整備など、支援を表明。

出典:外務省・環境省の情報をもとにgreenote作成

基金が動き出したとはいえ、課題は山積みです。最大の壁が、資金の規模と拠出だ。気候変動による被害額は、年々ふくらんでいる。必要とされる資金の規模は、非常に大きい。一方で、誰が、どれだけ拠出するのか。その合意は、決して容易ではありません。

もうひとつ、微妙な論点があります。それが、責任のあり方です。先進国は、この資金を、歴史的責任にもとづく「賠償」とは位置づけない、という整理をしている。この点をめぐる議論は、いまも続いている。日本も、こうした国際的な取り組みに加わっています。資金の拠出に加え、被害を減らすための早期警戒システムの整備など、支援を表明しています。

まとめ|損失と損害は「緩和・適応の先」の課題

損失と損害は、緩和・適応でも防ぎきれない被害に向き合う、気候対策の第3の柱です。最後に、要点を振り返りましょう。

  • 損失と損害(ロス&ダメージ)とは、緩和や適応をしても防ぎきれない、気候変動による損失や被害。適応の限界を超えたもの
  • 経済的損失(インフラ・農業など)と、非経済的損失(人命・文化・生態系など)に分かれる
  • 気候対策の3段階(緩和→適応→損失と損害)の第3段階。パリ協定8条に位置づけ
  • 背景に気候の不正義(排出責任の小さい途上国が大きな被害を受ける)がある
  • 損失と損害基金はCOP27で設立合意、COP28で運用化。課題は資金規模・拠出・責任のあり方

損失と損害は、気候変動が「これから防ぐ問題」であると同時に、「すでに被害が出ている問題」でもあることを、私たちに突きつけます。原因を減らし、影響に備え、それでも残る被害に手を差し伸べる。この3つがそろってはじめて、気候変動への対応は完結します。国際社会がこの課題にどう向き合うかは、これからも問われ続けます。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。

よくある質問(FAQ)

Q. 損失と損害(ロス&ダメージ)とは何ですか?

A. 損失と損害(ロス&ダメージ)とは、緩和や適応の努力をしても防ぎきれない、気候変動による損失や被害のことです。たとえば、干ばつや洪水、台風といった自然災害による被害や、海面上昇による土地の消失などが含まれます。適応には限界があり、その限界を超えて生じてしまう被害への対応が、損失と損害という考え方です。近年の国際交渉で、大きな焦点となっています。

Q. 経済的損失と非経済的損失の違いは何ですか?

A. 経済的損失とは、金額で表せる被害のことです。農作物の不作、インフラや建物の破壊、事業の停止などが該当します。一方の非経済的損失は、金額に換算しにくい被害を指します。人命の喪失、健康被害、文化や伝統の消失、生態系の破壊、移住を余儀なくされることなどです。損失と損害の議論では、この非経済的損失も重要なテーマとして扱われます。

Q. 損失と損害は緩和・適応とどう違うのですか?

A. 気候変動への対応は、大きく3段階で考えられます。まず「緩和」で温室効果ガスの排出を減らし、原因に対処します。次に「適応」で、避けられない影響に備えます。それでも防ぎきれずに生じてしまう被害が「損失と損害」です。つまり、緩和・適応という2つの対策の先にある、第3の対応として位置づけられます。パリ協定でも、適応(7条)とは独立して、損失と損害(8条)が規定されています。

Q. なぜ損失と損害が「不正義」と結びつくのですか?

A. 気候変動の影響を最も強く受けているのは、島しょ国や途上国など、立場の弱い国々です。ところが、これらの国々は、気候変動の原因となる温室効果ガスをほとんど排出してきませんでした。多く排出してきたのは先進国です。「原因をつくった国」と「被害を受ける国」が異なる、この不公平さが「気候の不正義」と呼ばれ、損失と損害の議論を突き動かしてきました。

Q. 損失と損害基金とは何ですか?

A. 損失と損害基金とは、気候変動による損失や被害を受けた、脆弱な国々を支援するための国際的な資金の仕組みです。2022年のCOP27で設立が合意され、2023年のCOP28で運用化が決定されました。当面は世界銀行のもとに基金が設置されることになっています。長年、途上国が求めてきた仕組みであり、国連事務総長が「正義に向けた一歩」と述べるなど、歴史的な合意とされています。

Q. 損失と損害の課題は何ですか?

A. 主な課題は、資金の規模と拠出です。必要とされる資金の規模は非常に大きい一方、誰がどれだけ拠出するかの合意は容易ではありません。また、先進国は、この資金を歴史的責任にもとづく「賠償」とは位置づけない、という整理をしています。責任のあり方をめぐる議論も続いています。日本も、資金拠出や早期警戒システムの整備など、支援を表明しています。

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

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greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年7月15日

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