建材や鉄鋼製品のカタログに「EPD(環境製品宣言)」という表示を見かけたことはないでしょうか。取引先から「製品のEPDを出してほしい」と求められ、対応に迷った担当者もいるはずです。その根拠となる国際規格がISO14025です。
実はこの規格、2026年6月に約20年ぶりの大改訂を迎えました。従来の「タイプI・II・III」という分類そのものが廃止され、EPDの定義や運用ルールが刷新されています。本記事では、ISO14025が何を定める規格なのか、2026年改訂で何が変わったのか、そして日本企業がどう向き合うべきかを、ISO公式情報と国内のEPD運営団体の一次情報にもとづいて整理します。
※本記事の規格情報は2026年9月時点でISO公式サイト等で確認したものです。規格の解釈・改訂状況は今後変わる可能性があるため、実務適用にあたっては最新の公式情報をご確認ください。
この記事の目次
ISO14025とは|EPDの原則と手順を定める規格
ISO14025は、EPD(Environmental Product Declaration・環境製品宣言)プログラムとEPDそのものの原則・要求事項・手引きを定める国際規格です。策定するのはISO/TC207/SC3(環境ラベル・宣言を扱う分科委員会)で、環境フットプリントの「表示」を定めるISO14026とはと同じ系列にあります。GHGの「算定」を扱うISO/TC207/SC7(ISO14064とはなど)とは、担当する委員会自体が異なります。
LCA(ISO14040/44)を基盤に、第三者検証つきで開示
EPDは、製品のライフサイクル全体(原材料調達から製造・使用・廃棄まで)における環境影響を、LCA(ライフサイクルアセスメント)の手法で定量化し、独立した第三者の検証を経て開示する仕組みです。カーボンフットプリントがCO2排出量に絞った指標であるのに対し、EPDはエネルギー消費や水消費、資源利用なども含めた、より広い環境情報を扱います。
製品カテゴリールール(PCR)で比較可能性を確保
EPDの信頼性を支えるのがPCR(Product Category Rules・製品カテゴリールール)です。同じ製品群(例えば鉄骨部材や集成材)を対象に、算定範囲や単位、開示項目をあらかじめ揃えておくルールで、これに沿って作成されたEPD同士は比較が可能になります。PCRを共通の土台にすることで、異なるメーカーの製品でも、同じ条件で環境情報を見比べられるようにしている点が、EPDの実務上の価値です。
2026年6月、約20年ぶりの大改訂
ISO14025の初版は2006年に発行されましたが、2026年6月30日、Edition2として20年ぶりに全面改訂されました。ISO公式サイトでは初版(ISO14025:2006)が「廃止(Withdrawn)」と表示され、新版のタイトルも「Environmental labels and declarations — Type III environmental declarations」から「Environmental statements and programmes for products — Environmental product declarations (EPDs)」に変わっています。改訂の作業に参加した認証団体EPD International(スウェーデン)は、自社サイトで「2006年の発行以来、最も包括的な改訂」と説明しています。
「タイプI・II・III」という分類用語を廃止
今回の改訂で最も大きな変更が、「タイプI・II・III」という環境ラベルの分類用語そのものを廃止したことです。EPD Internationalの説明によれば、新版ではEPDを「独立検証されたLCAベースの環境声明」として再定義し、あわせてISO14021に基づく自己宣言の環境主張や、ISO14024に基づくエコラベルは、EPDに該当しない、またはEPDの一種ではないことを明記しました。これまで「タイプI=第三者認証エコラベル、タイプII=自己宣言、タイプIII=EPD」という3分類で説明されてきましたが、この呼び方自体が規格本文から外れたことになります。この流れの起点となった親規格の2022年改訂は、ISO14020とはで扱っています。
参照規格の追加とEPDツールの独立検証
新版では、EPDプログラム間の整合を強めるため、ISO/TS14027・ISO/TS14029という新しい技術仕様書が参照規格に加わりました。また、EPD作成に使う計算ツール(EPD Tools)についても、独立した検証プロセスを新たに要求しています。EPD Internationalは、プログラム運営者の独立性・公平性・利益相反の管理についても、要求がより厳格になったと説明しています。
ISO14067・ISO14026・ISO14021・ISO14024との関係
環境情報の「算定」と「表示・伝達」は、ISOでは役割が分かれています。ISO14025:2026自身がISO14021・ISO14024との違いを明記したことで、5つの規格の位置づけが整理できます。
| 規格 | 役割 | 委員会 |
|---|---|---|
| ISO14067 | 製品CFPの算定 | SC7 |
| ISO14026 | フットプリント情報の表示条件 | SC3 |
| ISO14025 | EPDプログラム・EPDの原則と手順 | SC3 |
| ISO14021 | 自己宣言による環境主張 | SC3 |
| ISO14024 | 第三者認証エコラベル | SC3 |
算定した数値を比較表示する条件を定めるのがISO14026、その数値を第三者検証つきの宣言として体系的に運用する仕組みを定めるのがISO14025、という関係です。グリーンウォッシュとはで扱ったように、根拠の薄い環境主張が問題視される中、ISO14025:2026がISO14021・ISO14024との違いをあえて明記した背景には、「EPD」という言葉が独立検証つきの厳格な仕組みであることを、自己宣言の主張と混同されないよう線引きする狙いがあると考えられます。
日本の状況|SuMPO EPDとJIS Q14025
日本では、一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)が運営するSuMPO環境ラベルプログラム(SuMPO EPD)が、ISO14025・ISO/TS14027・ISO14040/44に準拠する形でEPDを発行しています。建築分野のEPDについては、これらに加えて建設分野専用のISO21930(記事内で解説)にも準拠する運用です。国内のJIS規格ではJIS Q14025がISO14025:2006をもとに制定されていますが、2026年9月時点では、2026年6月のISO改訂を反映した改正版は確認できていません。
日本製鉄・JFEスチール・銘建工業などの活用例
SuMPO EPDは、鉄鋼・建材分野を中心に活用が広がっています。エンボディドカーボンの記事で扱ったように、建材ごとのCO2データを比較する場面でEPDが土台になります。海外大手のサプライヤー要求に対応する文脈でも、製品単位のCFPやEPDの整備を求められる日本企業が増えています。
EPD InternationalとSuMPOの相互承認協定
EPD Internationalの公表情報によれば、2026年6月25日、EPD International(スウェーデン)とSuMPOは、EPDの国際的な調和を進めるための相互承認協定(MRA)を締結しました。異なる国のEPDプログラム同士が互いのEPDを認め合う枠組みが広がることで、日本企業が海外の取引先向けに個別にEPDを取り直す負担が、将来的に軽減される可能性があります。
まとめ
ISO14025は、EPD(環境製品宣言)の原則と手順を定める国際規格で、2026年6月に約20年ぶりの大改訂を経て、「タイプI・II・III」という分類用語を廃止し、ISO14021・ISO14024との違いを明確にしました。日本ではSuMPO EPDがこの規格に準拠して運用されており、鉄鋼・建材分野を中心に活用が進んでいます。算定(ISO14067)・表示条件(ISO14026)・EPD運用(ISO14025)という役割分担を押さえておくと、取引先からの開示要求にも整理して対応しやすくなります。
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出典・参考資料(一次情報)
リンク先は2026年9月時点で確認した各機関の公開情報です。最新は各公式情報をご確認ください。
ISO公式:
ISO14025:2026規格ページ/
ISO14025:2006(廃止)規格ページ
EPDプログラム運営団体:
EPD International「ISO14025:2026 is published!」/
SuMPO環境ラベルプログラム
よくある質問(FAQ)
Q. ISO14025とEPD(環境製品宣言)は同じものですか?
A. 厳密には異なります。ISO14025は、EPDプログラムとEPDを作成・運用するための原則・手順を定める国際規格です。EPDは、その規格に沿って作られる個々の宣言書そのものを指します。
Q. ISO14025:2006とISO14025:2026は何が違いますか?
A. 2026年6月の改訂で、「タイプI・II・III」という分類用語が廃止され、EPDは「独立検証されたLCAベースの環境声明」として再定義されました。あわせて、自己宣言の環境主張(ISO14021)やエコラベル(ISO14024)はEPDに該当しないことが明記され、参照規格にISO/TS14027・ISO/TS14029が加わり、EPD作成ツールの独立検証も新たに要求されるようになりました。
Q. 日本企業がEPDを取得するにはどうすればよいですか?
A. 国内では、一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)が運営するSuMPO環境ラベルプログラムを通じて、ISO14025等に準拠したEPDを取得できます。製品カテゴリールール(PCR)が整備されている製品群であれば、そのルールに沿ってLCAを算定し、第三者検証を経て発行する流れです。