「CO2排出量を算定した。では、その数字をどう表示すればいいのか」。カーボンフットプリント(CFP)の実務では、この2つはまったく別の問題です。算定のルールを定めるISO14064やISO14067を読んでも、表示の仕方は分かりません。実は、ISO14067はそこを明確に「対象外」としています。
その空白を埋めるのがISO 14026です。しかも策定しているのは、ISO14067とは別の分科委員会。この記事では、ISO 14026が何を定めているのか、そして2025年3月に環境省・経済産業省が公表した「CFP表示ガイド」が示す、日本の実務での使われ方までを、一次情報にもとづいて整理します。
※本記事は2026年9月時点のISO公式サイトおよび環境省・経済産業省の公表資料にもとづく解説です。規格・ガイドは改訂されるため、最新の内容は各公式資料でご確認ください。
この記事の目次
ISO 14026とは|フットプリント情報の「伝達」を定める規格
何を定めている規格か
ISO 14026の正式名称は「Environmental labels and declarations — Principles, requirements and guidelines for communication of footprint information」。日本語にすれば「環境ラベルおよび宣言——フットプリント情報の伝達に関する原則、要求事項およびガイドライン」です。2017年12月に第1版が発行され、本体は17ページ。2023年の最終レビューで現行版であることが確認されています。
ISO公式の要旨には「環境に関する懸念事項に対応する製品のフットプリント伝達について、原則・要求事項・ガイドラインを提供する」と明記されています。あわせて「フットプリントの定量化(算定)は対象としない」し、「組織を対象とするフットプリントの伝達、および社会的・経済的側面のフットプリント伝達は対象外」だとも明記されています。
つまりISO 14026がカバーするのは、製品の環境フットプリントを、算定した後にどう伝えるかという一点です。カーボンフットプリントに限らず、水など他の環境フットプリントの伝達も対象に含まれます。
ISO14067とは別の分科委員会が策定
ここが実務上見落とされやすい点です。ISO 14026を策定しているのはISO/TC 207/SC 3。カーボンフットプリントの算定を定めるISO14067や、ISO14064を策定するISO/TC 207/SC 7とは別の分科委員会です。SC 3は環境ラベルと宣言の標準化を担当しています。なお、組織の環境コミュニケーション全般を扱うISO14063とはは、さらに別のSC4が策定しています。
「算定」と「表示」が、規格の策定組織そのもので分かれている——この構造を知っておくと、なぜISO14067を読んでも表示のルールが出てこないのかが腑に落ちます。
「算定」と「表示」の役割分担
3つの規格の関係を一覧で見る
環境省・経済産業省が2025年3月に公表した「CFP表示ガイド」は、この関係を一つの図で整理しています。同ガイドが参照する3つの国際規格は、それぞれ役割が異なります。
| 規格 | 対象 | 役割 |
|---|---|---|
| ISO 14067:2018 | カーボンフットプリント | 算定——温室効果ガス排出量の定量化のための要求事項および指針 |
| ISO 14026:2017 | フットプリント全般 (GHG以外も含む) |
表示——フットプリント情報のコミュニケーションの原則・要求事項・指針 |
| ISO 14021:2016 | 環境ラベルおよび宣言 | 環境主張——自己宣言による環境主張(タイプII環境ラベリング) |
出典:環境省・経済産業省「カーボンフットプリント表示ガイド」(2025年3月・図9)をもとに作成。
これらの表示・主張すべてに共通する土台として、親規格のISO14020とは(環境声明の原則と一般要求事項)があります。整理すると、算定(ISO14067)→表示(ISO14026)という順序の先に、環境主張全般のルール(ISO14021)が控えている、という構造です。CFP表示ガイドは、このうちISO14026:2017を主たる参照先として作成されたと明記しています。
ISO 14021|自己宣言による環境主張
ISO 14021は、環境ラベルの分類でいう「タイプII環境ラベリング」——第三者認証を介さず、事業者が自ら行う環境主張——を対象にしています。日本では、この規格をもとにJIS Q14021が作られ、さらに環境省の「環境表示ガイドライン」(2013年3月版)に引用される形で、国内実務に組み込まれています。第三者検証を伴う「タイプIII環境宣言」(EPD)の手順を定めるのがISO14025とはで、2026年6月の改訂ではこのタイプI・II・IIIという分類用語自体が廃止されています。
CFP表示ガイドは、ISO14026だけでなくISO14021・ISO14067、そして環境表示ガイドラインやCFPガイドラインとも整合させて作成したとしています。一つの規格だけを見ていても、日本の実務全体は見えてこないということです。
日本の動き|CFP表示ガイド(2025年3月)
なぜこのガイドが必要になったのか
環境省・経済産業省は、2025年3月に「カーボンフットプリント表示ガイド」を公表しました。策定の背景として、ガイド自身がこう説明しています。「CFPの算定については徐々に取組が広まっているものの、CFPの表示については、分かりやすい指針がなく、企業の取組や消費者の認知が進まないという課題がある」。
つまり、算定は進んだが、表示のルールが手薄だったというギャップを埋めるために作られたのがこのガイドです。作成にあたっては、経済団体・消費者団体・関係省庁のオブザーバー参加のもと、環境NGOや事業者へのヒアリングも実施されたとされています。
ガイドの中身も実務的です。CFPを表示する際の基本原則、CFPとともに示すべき情報、表示媒体、そしてCFPを他社と比較して表示する場合の条件まで踏み込んで示されています。比較表示の条件として、同じライフサイクルステージ・同じ機能単位・同じ市場・同じ算定ルールで算定されたCFPであることを分かりやすく示す必要があるとされ、「総合的に環境面で優れている」といったCFP以外の環境影響まで優れているかのような表現はしないよう注意も添えられています。
「参照」と「準拠」という重要な区別
CFP表示ガイドは、実務でつまずきやすい区別も整理しています。「準拠(comply with)」は、規格が定める義務的事項・推奨事項に完全に対応している場合。一方「参照(refer to)」は、規格の主要な義務的事項には対応しているが、すべての義務的事項・推奨事項には対応していない場合です。
CFP表示ガイド自身もISO14026:2017を「参照」して作成されたと明記されています。そして「準拠していないからといって、算定結果の確からしさが不十分であるわけではない」とも書かれています。ただし「準拠」を名乗るには、自社ルールを製品別算定ルールと同等レベルにすることや外部レビューの実施などが求められるとされ、義務的事項・推奨事項への完全な対応が必要になります。
実務への含意はシンプルです。算定報告書には、どのルールにもとづいて算定・表示したかを明記し、「参照」なのか「準拠」なのかを言葉として区別して書く必要があります。この一手間が、後から説明を求められたときの拠りどころになります。
企業はどこから手をつけるか
ISO14026やCFP表示ガイドにまったく触れたことがない企業が、次に何をすればよいか。3つの段階で考えると進めやすいでしょう。
第一に、「算定」と「表示」を別の作業として認識すること。CFPの算定ができていても、それをどう見せるかは別のルールに従う必要があります。ここを混同すると、算定は正確でも表示で誤解を招く、という事態が起きます。
第二に、比較表示をする場合は条件をそろえること。他社製品や自社の旧製品と比較する場合、ライフサイクルステージ・機能単位・市場・算定ルールがそろっているかを確認する必要があります。そろっていないのに比較を示せば、グリーンウォッシュやグリーンクレーム規制の観点で問題になりえます。
第三に、「参照」と「準拠」を意識して書くこと。どの規格・ガイドラインを、どの程度反映して算定・表示したのかを、算定報告書に明記する習慣をつけておくと、後の説明責任に強くなります。
まとめ
- ISO 14026は製品の環境フットプリント情報の「伝達(コミュニケーション)」に関する原則・要求事項・ガイドラインを定める国際規格。2017年12月発行・17ページ。フットプリントの定量化(算定)は対象としない。
- 策定はISO/TC 207/SC 3。カーボンフットプリントの算定を定めるISO14067・ISO14064のSC 7とは別の分科委員会で、「算定」と「表示」が組織そのもので分かれている。
- 環境省・経済産業省の「CFP表示ガイド」(2025年3月)は、ISO14067(算定)・ISO14026(表示)・ISO14021(環境主張)の3規格の関係を図で整理し、主にISO14026を「参照」して作成された。
- ★「参照」と「準拠」は明確に異なる。準拠には義務的事項・推奨事項への完全な対応と外部レビュー等が必要。算定報告書にはどちらの立場かを明記する。
- CFP表示ガイドは比較表示の4条件(ライフサイクルステージ・機能単位・市場・算定ルール)を示し、CFP以外の環境影響まで優れているかのような表現をしないよう注意している。
greenoteでは、ESG・サステナビリティをわかりやすく発信しています。ご相談はお気軽にどうぞ。
出典・参考資料(一次情報)
リンク先は2026年9月時点で確認した各公式サイトの情報です。規格・ガイドは改訂されるため、最新は各公式資料でご確認ください。
ISO公式:
ISO 14026:2017(フットプリント情報の伝達・第1版・17ページ・2023年に最終レビュー確認)
環境省・経済産業省:
「カーボンフットプリント表示ガイド」(2025年3月・29ページ・「カーボンフットプリントの表示等の在り方検討会」の議論を踏まえて作成)
よくある質問(FAQ)
Q. ISO 14026とは何ですか?
A. 製品の環境フットプリント情報を、どのように伝達(コミュニケーション)するかについて、原則・要求事項・ガイドラインを定める国際規格です。2017年12月に第1版が発行され、本体は17ページ。策定はISO/TC 207/SC 3(環境ラベルと宣言を担当)で、カーボンフットプリントの算定を定めるISO14067を策定するISO/TC 207/SC 7とは別の分科委員会です。フットプリントの定量化(算定)そのものは対象としません。
Q. ISO14067とISO14026は、どう違いますか?
A. 対象が異なります。ISO14067はカーボンフットプリントの算定(定量化)に関する要求事項と指針を定める規格で、算定結果の伝達(表示や宣言)は明確に対象外としています。その「表示」を対象にするのがISO14026です。環境省・経済産業省の「CFP表示ガイド」(2025年3月)は、この2つの規格に加えてISO14021(自己宣言による環境主張)を整理し、算定はISO14067、表示は主にISO14026を参照する構造を示しています。
Q. 「準拠」と「参照」は何が違いますか?
A. CFP表示ガイドによれば、規格が定める義務的事項・推奨事項に完全に対応している場合は「準拠(comply with)」、主要な義務的事項には対応しているが全てには対応していない場合は「参照(refer to)」となります。準拠を名乗るには、自社ルールを製品別算定ルールと同等レベルにすることや外部レビューの実施などが必要です。算定報告書には、どちらの立場で作成したかを明記することが求められます。