最終更新日:2026年8月4日
大河と広大な国土を活かした水力発電で、発電の約6割をまかなう——それがブラジルです。もともと世界でも指折りのクリーンな電力を持つ「緑の電力大国」。近年はそこに、北東部の強い風と日射を活かした風力・太陽光が加わり、電源はいっそう多彩になっています。
この記事は、世界の電力事情シリーズの国別深掘り編(ブラジル)です。南米の電力事情で見た南米の中心として、電源構成の推移、干ばつと水力依存のリスク、風力・太陽光の急拡大、エタノールとバイオ、外資、そして日本への示唆までを、数値とともに整理します。同じ南米のチリの電力事情や、水力大国のノルウェーの電力事情ともあわせてご覧ください。
※本記事は2026年時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。電源構成の数値や政策は年・統計・情勢によって変わるため、最新・確定の内容は各公式情報をご確認ください。特定の国・企業への投資を推奨するものではありません。
この記事の目次
ブラジルの電力事情とは|世界有数の水力大国
水力の国
ブラジルの電力を理解する出発点は、水力です。アマゾン川をはじめとする豊かな水資源と広大な国土を活かし、多くの大型水力発電所が建設されてきました。パラグアイと共同運営するイタイプ発電所は、世界最大級の水力発電所として知られます。発電の約6割を水力がまかない、再エネ全体では9割前後という、極めてクリーンな電力構成です。
3つの特徴
特徴は上図の3つです。世界有数の水力大国であること、北東部を中心に風力・太陽光が急拡大していること、そしてサトウキビのエタノールやバイオマス発電が根づいた「バイオ燃料の国」であること。もともとクリーンな電力を、さらに多様な再エネで厚くしている国です(IEA「Electricity 2026」)。
電源構成の今と昔|水力から多様な再エネへ
2010年と近年の比較
ブラジルの電源構成を、2010年ごろと近年で並べてみましょう(概数)。
概数(年により変動)。「バイオ」はサトウキビのバガス等のバイオマス。再エネ全体で9割前後。出典:ONS・EPE・Ember等の公開データをもとにgreenote作成
2010年ごろは、水力(青)が実に8割を占めていました。近年はその比率が6割程度まで下がり、代わりに風力(緑)・太陽光(黄)が二桁規模へと伸びています。バイオ(薄緑)や火力(グレー)も一定量あり、原子力(紫)はわずか。「水力一本」から「多様な再エネ」への移行が進んでいます。
電源別シェアの推移
時系列で見ると、その変化がよくわかります。まず、水力とその他の再エネの推移です。
概数(年により変動)。残りは火力・原子力。出典:ONS・EPE・Ember等をもとにgreenote作成
水力の比率が下がる一方で、風力・太陽光・バイオを合わせた「その他の再エネ」が着実に伸びています。これは水力が減ったというより、増える電力需要を新しい再エネでまかなってきた結果です。次に、電源別に推移を重ねてみます。
概数(年により変動/各年の合計はおおむね100%)。出典:ONS・EPE・Ember等の公開データをもとにgreenote作成
水力が緩やかに比率を下げ、風力・太陽光が急カーブで立ち上がっています。火力は年によって増減し(渇水の年に増える)、原子力は横ばい。ブラジルは水力への一本足打法から、バランスの取れた再エネ構成へと進化しています(いずれも概数)。
干ばつと水力依存|2021年の水危機
水力に大きく頼ることには、弱点もあります。それが干ばつです。雨が少ない年には貯水池の水位が下がり、水力の発電量が落ち込みます。すると不足分を天然ガスなどの火力で補うことになり、電気代が上がり、CO2排出も増えてしまいます。
実際、2021年にはブラジルは深刻な水不足(水危機)に見舞われ、電力需給が逼迫しました。この経験は、「クリーンだが天候に左右されやすい水力」に頼りすぎるリスクを、あらためて突きつけました。ブラジルが風力・太陽光・バイオの拡大を急ぐ背景には、この干ばつリスクを分散したいという狙いがあります。
課題
干ばつと水力依存。雨が少ない年は貯水池の水位が下がり水力が減少。火力に頼ると電気代とCO2が増える。
対応
風力・太陽光・バイオを増やし、水力への依存を分散する。
課題
送電網の制約。発電の好適地(北東部)と需要地(南東部)が遠く、送電が追いつかない。
対応
長距離の大型送電線を増強し、出力抑制を減らす。
課題
アマゾンと開発。大型ダムや送電線の建設が、森林や先住民の暮らしに影響しうる。
対応
分散型の風力・太陽光を重視し、環境・社会への配慮を強める。
風力・太陽光の急拡大|北東部の恵み
水力に次ぐ主役として急成長しているのが、風力と太陽光です。とくにブラジル北東部は、安定して強い風が吹き、日射も強い絶好の適地。ここに大型の風力・太陽光発電所が次々と建設され、発電コストは世界最安級を記録してきました。コーポレートPPAのような長期契約や、後述する競争オークションが、この急拡大を支えています。
一方で課題もあります。発電の好適地である北東部と、電力需要の大きい南東部(サンパウロなど)は、大きく離れています。せっかくつくった電気を送りきれず、出力を抑える「出力抑制」も生じています。これを解消するための地域間連系線・系統増強の増強や、将来の洋上風力の開発が進められています。
エタノールとバイオ|サトウキビの国
ブラジルを語るうえで欠かせないのが、サトウキビです。ブラジルは世界有数のサトウキビ生産国で、これを発酵させてつくるエタノール(バイオ燃料)が、ガソリンの代わりに広く使われています。多くの車が、ガソリンとエタノールをどんな割合でも使える「フレックス燃料車」です。
さらに、サトウキビの搾りかす(バガス)を燃やして発電するバイオマス発電も普及しています。砂糖やエタノールをつくる工場が、同時に電気も生み出すのです。農業とエネルギーが結びついたこの仕組みは、ブラジルならではの強み。交通の脱炭素(エタノール)と電力(バイオマス)の両面で、バイオ燃料が国を支えています。
電力市場と外資|オークションと開かれた再エネ
開かれた再エネオークション
ブラジルの電力は、競争入札(エネルギーオークション)を通じて調達され、外資に開かれています。発電事業者が価格を競い、安い電源から選ばれる仕組みで、これが世界最安級の風力・太陽光を引き出してきました。欧州・中国・北米などの大手開発事業者や投資家が、ブラジルの再エネに大規模に参入しています。
参入機会
- 世界最安級の風力・太陽光の大型案件
- エネルギーオークションで参入しやすい
- グリーン水素・アンモニアの輸出候補
留意点
- 通貨(レアル)・政策・金利の変動
- 送電網の制約による出力抑制
- 許認可・環境社会配慮(アマゾン等)
制度や開放度は年により変わります。最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
日本企業の動き
日本の商社・電力会社も、ブラジルの水力・風力・太陽光や送電事業に出資してきました。南米最大の電力市場であり、将来のグリーン水素・アンモニアの供給地としても、ブラジルは注目されています。RE100を進めるグローバル企業にとっても、安く豊富な再エネは魅力です。各社の個別戦略は変化するため、最新は各社の開示をご確認ください。
日本との比較|違いと示唆
ブラジルと日本を、電力の面で並べてみましょう。資源の背景は大きく異なります。
| 観点 | ブラジル | 日本 |
|---|---|---|
| 再エネ比率 | 約9割(水力が主体) | 2割強 |
| 主力電源 | 水力 | 火力中心 |
| 多様化 | 風力・太陽光・バイオが急拡大 | 拡大途上 |
| 輸送燃料 | サトウキビのエタノール(フレックス車) | ガソリン中心 |
| 主なリスク | 干ばつによる水力の変動 | 燃料輸入・価格変動 |
最大の違いは、再エネ比率(ブ=約9割/日=2割強)と、その中身です。ブラジルは水力という強力な土台の上に風力・太陽光・バイオを重ね、輸送用にはエタノールも使います。日本は大規模水力に恵まれませんが、「一つの電源に頼りすぎず多様化する」「農業や地域資源をエネルギーに活かす」という発想は参考になります。干ばつで水力が揺らいだブラジルの経験は、変動する再エネとどう付き合うかという点でも示唆に富み、ネットゼロへの道筋を考えるヒントになります。
まとめ|緑の電力大国の次の一手
ブラジルは、豊かな水力を土台に、もともと極めてクリーンな電力を持つ「緑の電力大国」です。そこへ北東部の風力・太陽光と、サトウキビのバイオを加え、水力一本足からバランスの取れた再エネ構成へと進化してきました。
干ばつリスクの分散、送電網の増強、アマゾンへの配慮——次の一手をどう打つかが、これからのブラジルの課題です。南米全体の文脈は南米の電力事情、同じ地域のチリの電力事情、水力大国のノルウェーの電力事情ともあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. ブラジルの電力の特徴は何ですか?
発電の約6割を水力がまかない、再エネ全体では9割前後という、極めてクリーンな電力であることです。近年は北東部を中心に風力・太陽光が急拡大し、サトウキビのエタノールやバイオマスも根づいています。
Q. ブラジルの水力比率はどのくらいですか?
近年は発電量の約60%前後を水力が占めます。2010年ごろの約80%からは低下していますが、これは増える需要を風力・太陽光などの新しい再エネでまかなってきたためです(いずれも概数・年により変動)。
Q. ブラジルで2021年に何が起きたのですか?
深刻な干ばつ(水危機)に見舞われ、貯水池の水位が下がって水力の発電量が落ち込みました。不足分を火力で補ったため電気代とCO2が増え、水力への依存リスクが改めて意識されました。
Q. なぜブラジルは風力・太陽光が急拡大しているのですか?
北東部が安定した強い風と強い日射に恵まれ、発電コストが世界最安級だからです。競争オークションや長期契約(PPA)が投資を後押しし、水力への依存を分散する狙いもあって急拡大しています。
Q. ブラジルのエタノールとは何ですか?
世界有数の生産量を誇るサトウキビからつくるバイオ燃料です。多くの車がガソリンとエタノールを自由な割合で使える「フレックス燃料車」で、交通部門の脱炭素に貢献しています。搾りかす(バガス)はバイオマス発電にも使われます。
Q. ブラジルの電力の課題は何ですか?
干ばつによる水力の変動、発電の好適地(北東部)と需要地(南東部)が離れていることによる送電網の制約、そして大型ダム・送電線のアマゾンなどへの環境・社会影響です。再エネの多様化と送電増強で対応が進んでいます。
Q. ブラジルと日本の電力の違いは何ですか?
再エネ比率(ブラジルは約9割、日本は2割強)とその中身が対照的です。ブラジルは水力を土台に風力・太陽光・バイオを重ね、輸送用にはエタノールも使います。日本は火力中心で、大規模水力には恵まれません。
Q. ブラジルから日本が学べることは何ですか?
一つの電源に頼りすぎず多様化する姿勢や、農業・地域資源(サトウキビ)をエネルギーに活かす発想が参考になります。干ばつで水力が揺らいだ経験は、変動する再エネとどう付き合うかを考えるうえでも示唆に富みます。
出典・参考資料(一次情報)
※ 本記事は上記の公表情報をもとにgreenote編集部が整理した一般的な解説です。電源構成・政策は年・統計・情勢で変わるため、最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
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greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年8月15日