最終更新日:2026年8月4日
いま世界で最も電力需要が伸びているのが、インドを筆頭とする南アジアと、ASEAN(東南アジア)の新興国です。経済成長とともに電力の使用が急増し、世界のエネルギー需要の伸びを牽引しています。石炭への依存が続く一方、ベトナムのように太陽光が一気に広がった国もあります。
この記事は、世界の電力事情を地域別にみるシリーズの一編(南アジア・東南アジア編)です。前回の東アジア・オーストラリアの電力事情に続き、インド・タイ・インドネシア・シンガポール・ベトナムの電源構成、各国の数値、電力の自由取引、日本との制度の違い、課題までを、詳しく整理します。
※本記事は2026年時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。電源構成の数値や市場制度・政策は年・統計・情勢によって変わるため、最新・確定の内容は各公式情報をご確認ください。特定の国・企業への投資を推奨するものではありません。
この記事の目次
- 南アジア・東南アジアの電力事情とは|急成長する新興国
- 世界の需要増を牽引する
- 石炭と太陽光ブームの併存
- 電源構成|石炭・水力・太陽光の多様性
- 国ごとの3つのタイプ
- 各国の電源構成を数値でみる|火力・水力・太陽光ほか
- 主要国の電源構成
- インドの推移
- 国別の推移
- 各国の特徴|インドとASEAN主要国
- インド|世界有数の電力大国
- 東南アジア|タイ・インドネシア・シンガポール・ベトナム
- 電力の自由取引|市場と国営の併存
- 各国の市場のかたち
- ASEAN電力網と域内連系
- 外資の参入状況|市場の開放度と日本企業
- 発電(IPP)は開放、送配電は国営中心
- 日本企業(商社・電力)の動き
- 日本との制度比較|市場・自由化・国際連系の違い
- この地域が抱える課題|石炭・需要急増・系統
- 日本企業への示唆|インド・ASEANでの電力調達
- まとめ|世界の需要を牽引する新興アジア
- よくある質問(FAQ)
南アジア・東南アジアの電力事情とは|急成長する新興国
世界の需要増を牽引する
南アジア(インド)と東南アジア(ASEAN)は、いま世界で最も電力需要が伸びている地域です。人口の増加と経済成長、生活の電化が重なり、需要は右肩上がり。近年の世界の電力需要の増加分の相当部分を、インドとASEANが占めるとされます。
石炭と太陽光ブームの併存
この地域も、石炭と再エネが「併存」しています。インドやインドネシアは石炭火力に大きく依存する一方、ベトナムでは数年で太陽光が急拡大しました。成長を止めずに脱炭素をどう進めるかが、共通の大きなテーマです(IEA「Electricity 2026」)。
電源構成|石炭・水力・太陽光の多様性
国ごとの3つのタイプ
この地域の電源構成は、国によって大きく異なります。大きく3つのタイプに整理できます。
インド・インドネシア
石炭火力が電源の柱で、需要急増を支える。脱石炭と成長の両立が最大の課題。
タイ・シンガポール
天然ガスに大きく依存。シンガポールは電力輸入、タイは近隣の水力活用も。
ベトナム
水力に加え、短期間で太陽光が急拡大。系統が追いつかず出力制御も課題に。
インド・インドネシアは石炭が柱、タイ・シンガポールはガス中心、ベトナムは水力に太陽光が加わって急拡大——といった違いがあります。同じ新興アジアでも、資源の有無や政策で電源構成が分かれています。
各国の電源構成を数値でみる|火力・水力・太陽光ほか
主要国の電源構成
各国の電源構成を、数値で見てみましょう。下のグラフは、発電量に占める電源別のおおよその割合です。数値は年や統計により変わるため、あくまで概数としてご覧ください。
概数(年により変動)。「その他」はバイオマス・地熱等を含む。出典:Ember・IEA等の公開データをもとにgreenote作成
南アジア・東南アジア全体(インド・ASEAN諸国の合計イメージ)で、電源構成の推移を概観します。石炭・ガスを中心とする火力が依然大きい一方、太陽光の伸びが目立ちます。
地域全体の概数(年・国により変動/各年の合計はおおむね100%)。出典:Ember等の公開データをもとにgreenote作成
インドネシア・シンガポール・タイは火力が大半を占めます。インドも石炭中心ですが太陽光が伸び、ベトナムは水力に加え太陽光の比率が高いのが目を引きます。国ごとの資源事情が、そのまま構成に表れています。
インドの推移
次に、時間の経過とともに構成がどう変わってきたかを見てみます。まず、地域最大のインドについて、石炭と風力・太陽光の推移を示します。
概数(年により変動)。出典:Ember等の公開データをもとにgreenote作成
インドは石炭が圧倒的な柱で、その割合は高止まりしています。一方で、風力・太陽光は着実に伸びてきました。需要が急増するなかで再エネを増やしても、石炭を置き換えるには時間がかかることが読み取れます(いずれも概数)。
国別の推移
国ごとに推移を見ると、伸び方は大きく異なります。下のグラフは、主要国の発電に占める「風力+太陽光」の割合の推移です。
概数(年により変動)。出典:Ember等の公開データをもとにgreenote作成
目を引くのがベトナムです。2019〜2020年ごろに太陽光が一気に広がり、短期間で比率を高めました。インド・タイも緩やかに伸び、インドネシアはなお低水準です(いずれも概数)。
各国の特徴|インドとASEAN主要国
インド|世界有数の電力大国
インドは、中国に次ぐ世界有数の電力大国です。石炭火力が電源の柱で、増え続ける需要を支えています。同時に、太陽光を中心とした再エネの導入を国家目標として強力に進めており、世界最大級の太陽光市場の一つになりつつあります。電力取引所(IEX等)での取引も拡大しています。一方、州ごとの配電会社(DISCOM)の財務難が、長年の課題として指摘されています。
東南アジア|タイ・インドネシア・シンガポール・ベトナム
東南アジアは、国ごとに事情が大きく異なります。タイは天然ガスが電源の柱で、国営のタイ発電公社(EGAT)の役割が大きく、ラオスの水力輸入も活用します。インドネシアは国内産の石炭が大半を占める石炭大国で、国営PLNが中心。火山国ならではの地熱も活用しています。シンガポールは発電のほぼすべてを輸入天然ガスに頼り、国土が狭く再エネ適地が限られるため、電力輸入に活路を求めています。ベトナムは水力に加え、数年で太陽光が急拡大した一方、系統が追いつかず出力制御も生じました。
電力の自由取引|市場と国営の併存
各国の市場のかたち
この地域の電力取引は、市場が育つ国と国営が支える国が併存しています。
- シンガポール:卸電力市場が発達し、東南アジアのなかでは自由化が進んでいる。
- インド:電力取引所(IEXなど)での取引が拡大。ただし州の配電会社の財務が課題。
- タイ・インドネシア:国営電力会社(EGAT/PLN)の比重が大きく、自由化は限定的。
- ベトナム:国営EVNが中心だが、段階的に競争的な卸市場の導入を進めている。
- 日本:JEPX(日本卸電力取引所)が卸取引を担い、広域機関(OCCTO)が全国の需給を調整する。
ASEAN電力網と域内連系
東南アジアで注目されるのが、ASEAN各国の送電網をつなぐ「ASEAN電力網(APG)」構想です。国境を越えて電気を融通できれば、再エネの活用や安定供給に役立ちます。ラオスの水力をタイ・マレーシア経由でシンガポールへ送る取り組みなどが始まっており、島国の日本とは異なる「域内連系」の可能性が模索されています。
外資の参入状況|市場の開放度と日本企業
発電(IPP)は開放、送配電は国営中心
この地域は、発電事業――とくにIPP(独立系発電事業者)――への外資参入が広く認められ、活発です。インドは電力分野で高い比率の外資出資が可能とされ、再エネに海外の資本やデベロッパーが参入しています。ベトナムの太陽光ブームにも、外資の関与がありました。
一方で、送配電や小売は国営会社が担う国が多く、外資の関与は限定的です。インドネシアのPLN、タイのEGAT、ベトナムのEVNなどが代表例です。そのなかでシンガポールは市場が開かれ、電力の小売にも競争があります。開放されている領域とそうでない領域を見極めることが、参入の出発点になります。
参入機会
- 需要が急拡大し、発電投資の余地が大きい
- 再エネIPPやPPAの案件が増加
- 人口・経済成長を背景に長期の伸びが見込める
留意点
- 送配電・小売は国営中心で参入領域が限られる
- 許認可・為替・政策変更のリスク
- 配電会社の財務・支払いリスク(インド等)
開放度や規制は国・年により変わります。最新・確定の内容は各国の公式情報でご確認ください。
日本企業(商社・電力)の動き
日本の総合商社(三菱商事・丸紅・住友商事・三井物産など)やJERA・電力会社は、長年アジア各国のIPP(ガス火力など)に広く出資してきました。近年は脱炭素の流れを受け、再エネIPPや洋上風力、アンモニア(燃料・水素キャリア)の混焼などへ軸足を移す動きも見られます。
成長市場での事業機会と、脱炭素・座礁資産(政策変更で価値が下がる資産)のリスク。日本企業には、この両にらみでポートフォリオを組み替える姿勢が求められています。なお、各社の個別戦略や出資状況は変化するため、最新は各社の開示をご確認ください。
日本との制度比較|市場・自由化・国際連系の違い
この地域の主要国と日本を、制度面で並べてみましょう。
| 観点 | インド | インドネシア | シンガポール | 日本 |
|---|---|---|---|---|
| 市場の形態 | 電力取引所(IEX等)+州の配電会社 | 国営PLNが中心 | 発達した卸電力市場 | 卸市場(JEPX)+広域機関(OCCTO) |
| 小売の自由化 | 部分的(州により差) | 限定的 | 進んでいる | 2016年に全面自由化 |
| 主力電源 | 石炭中心(太陽光が急拡大) | 石炭大国(地熱も) | ほぼ天然ガス | 火力(再エネ拡大途上) |
| 国際連系 | 一部の隣国と連系 | 島嶼国で限定的 | 電力輸入を模索 | なし(系統は独立) |
| 再エネの勢い | 太陽光が急拡大 | これから | 適地少なく制約 | 拡大途上 |
市場の形態も主力電源も、国ごとに大きく異なります。シンガポールのように市場が発達し電力輸入を模索する国もあれば、インドネシアのように国営中心の国もあります。東アジア・オーストラリアの電力事情で見た東アジアと同様、広域の国際連系は限定的ですが、ASEANでは域内連系の取り組みが進む点が特徴です。
この地域が抱える課題|石炭・需要急増・系統
急成長するこの地域の電力には、いくつかの大きな課題があります。
課題
石炭依存と成長の両立。インド・インドネシアは石炭に依存しつつ需要が急増。
論点
経済成長・雇用と脱炭素をどう両立するか。先進国の資金・技術支援も鍵。
課題
系統の追いつき。ベトナムの太陽光急増では、送電網が不足し出力制御が発生。
論点
再エネの導入速度に、系統増強と運用の高度化を追いつかせる。
課題
制度と財務。国営中心の国や、配電会社の財務難を抱える国もある。
論点
市場の整備や料金制度の改革で、投資を呼び込めるかが問われる。
最大の課題は、石炭依存と成長の両立です。経済成長と雇用を支えながら、いかに脱炭素を進めるか。先進国からの資金・技術支援(公正なエネルギー移行)も鍵になります。また、ベトナムの例が示すように、再エネの急拡大にはネットゼロに向けた系統の増強と運用の高度化が欠かせません。
日本企業への示唆|インド・ASEANでの電力調達
インドやASEANは、多くの日本企業にとって、成長市場であり生産・調達の拠点でもあります。電力事情の理解は、事業拡大と脱炭素の両面で重要です。
再エネ調達の難易度は、国によって大きく異なります。太陽光が拡大しコーポレートPPAの環境が整いつつあるインドやベトナムがある一方、シンガポールのように適地が限られる国もあります。RE100達成に向けては、拠点国ごとに調達手段を見極めることが重要です。ペロブスカイト太陽電池のような次世代技術も、適地の少ない都市国家などで注目されるでしょう。
まとめ|世界の需要を牽引する新興アジア
南アジアと東南アジアは、世界の電力需要の伸びを牽引する、これからの主役です。石炭への依存が続く一方、インドの太陽光拡大やベトナムのブームが示すように、再エネの潜在力も大きい地域です。
成長を止めずに脱炭素を進められるか——この地域の選択は、世界全体の脱炭素の成否を大きく左右します。日本企業にとっても、成長機会とサプライチェーンの脱炭素が交わる重要な舞台です。世界の電力事情シリーズは、北米の電力事情・欧州の電力事情・東アジア・オーストラリアの電力事情とあわせてご覧ください(World Energy Outlook 2025)。
よくある質問(FAQ)
Q. 南アジア・東南アジアの電力の特徴は?
世界で最も電力需要が伸びている地域である点が最大の特徴です。インドやASEAN諸国で需要が急増し、石炭への依存が続く一方、ベトナムのように太陽光が急拡大した国もあります。市場が育つ国と国営中心の国が併存します。
Q. インドの電源構成はどうなっていますか?
石炭火力が圧倒的な柱で、増え続ける需要を支えています。一方で、太陽光を中心とする再エネの導入を国家目標として強力に進めており、世界最大級の太陽光市場の一つになりつつあります(いずれも概数)。
Q. ベトナムで太陽光が急拡大したのはなぜですか?
政府が固定価格買取(FIT)などの優遇策を導入したことで、2019〜2020年ごろに太陽光への投資が一気に集中したためとされます。ただし導入が急だったため、送電網が追いつかず出力制御が生じるなどの課題も現れました。
Q. タイ・インドネシア・シンガポールの電力の違いは?
タイは天然ガス中心(EGATが中心・ラオスの水力も活用)、インドネシアは国内産の石炭が大半の石炭大国(地熱も活用)、シンガポールは発電のほぼすべてを輸入天然ガスに頼り電力輸入を模索、という違いがあります。
Q. この地域の電力取引は日本とどう違いますか?
シンガポールは卸市場が発達し自由化が進む一方、タイ・インドネシアは国営電力会社の比重が大きく、インドは電力取引所が拡大しつつも配電会社の財務が課題です。日本はJEPXと広域機関が担います。ASEANでは域内連系(ASEAN電力網)の取り組みも特徴です。
Q. ASEAN電力網(APG)とは何ですか?
ASEAN各国の送電網をつないで国境を越えて電力を融通しようとする構想です。ラオスの水力をタイ・マレーシア経由でシンガポールへ送る取り組みなどが始まっており、再エネの活用や安定供給への貢献が期待されています。
Q. この地域の電力が抱える課題は何ですか?
石炭依存と経済成長の両立、再エネ急拡大に系統整備を追いつかせること、国営中心の制度や配電会社の財務難などが主な課題です。先進国からの資金・技術支援(公正なエネルギー移行)も鍵になります。
Q. 日本企業はこの地域でどう電力を調達すればよいですか?
再エネの調達しやすさは国によって大きく異なります。太陽光が拡大しPPAの環境が整いつつあるインドやベトナムがある一方、シンガポールのように適地が限られる国もあります。拠点のある国ごとに調達手段や制度を見極めることが重要です。
出典・参考資料(一次情報)
※ 本記事は上記の公表情報をもとにgreenote編集部が整理した一般的な解説です。電源構成・市場制度・政策は年・統計・情勢で変わるため、最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年8月14日