GX-ETS本格化で企業は何をすべきか|2026年度の実務対応ロードマップ

2026.06.15
国内規制

「排出量取引が義務になる」と聞いて、自社は何をすればいいのか——そう戸惑う担当者は少なくないはずです。2026年4月、日本版排出量取引制度「GX-ETS」は、試行から義務化のフェーズへと進みました。これまで自主的だった取り組みが、法的な義務へと変わったのです。

本記事は、GX-ETSの本格化を受けて、対象企業が実務として何をすべきかを整理する実践ガイドです。制度そのものの仕組みは、別記事の排出量取引制度(GX-ETS)とは|2026年度の本格稼働と企業への影響で詳しく解説しています。本記事では、その先の「具体的な対応」に絞って見ていきます。

目次

GX-ETSが義務化フェーズに|2026年4月に本格化

GX-ETSは、試行から義務化へと段階を進めました。まずは何が変わったのか、全体像を押さえましょう。

試行(第1フェーズ)から義務化(第2フェーズ)へ

GX-ETSには、段階があります。2023〜2025年度の第1フェーズは、GXリーグの枠組みでの「試行」でした。企業が自主的に目標を掲げ、排出量取引を経験する期間だったのです。

これが2026年度から、第2フェーズへと移りました。2026年4月1日に施行された改正GX推進法により、一定規模以上の企業には参加が義務づけられます。市場の整備・運営は、GX推進機構が担います。試行から本番へ。GX-ETSは、新しい段階に入りました。

「報告するだけ」では済まなくなった

義務化の意味は、決して小さくありません。これまでは、排出量を算定し、自主目標と照らすだけでも、ひとまず取り組みとして成立していました。けれども本格化後は、確定した排出量に見合う排出枠を保有する義務が生じます。

つまり、排出量はそのまま「コスト」に直結します。報告して終わり、ではないのです。だからこそ、早めの実務準備が欠かせません。具体的に、誰が、何を、いつまでにやるべきか。順に見ていきましょう。

対象になるのはどんな企業か

まず確認すべきは、自社が対象かどうかです。線引きは、排出量の規模で決まります。

直近3年度平均でCO2直接排出量10万トン以上

義務化の対象となるのは、「特定事業者」と呼ばれる企業です。その基準は、前年度までの直近3年度平均で、CO2の直接排出量が年間10万トン以上であること。この水準を超える事業者が、参加を義務づけられます。

10万トンというのは、大規模な工場や発電設備を持つ企業が一つの目安です。鉄鋼・化学・電力・セメントといった、エネルギーを多く使う産業が中心。

自社が対象か確認する

最初の一歩は、自社の直接排出量の確認です。過去3年度の平均が、10万トンの基準に該当するか。これを早めに把握しておくことが、すべての出発点。

判断に迷う場合は、事業所ごとの排出量を積み上げ、企業単位で集計してみましょう。境界線上にある企業ほど、丁寧な確認が求められます。

対象外でも無関係ではない

では、基準に満たない企業は、何もしなくてよいのでしょうか。そうとは限りません。取引先である大企業が対象になれば、サプライチェーン全体での排出量データの提供を求められることがあります。

また、将来的に基準が見直される可能性もあります。いま対象でなくても、排出量を正確に把握する体制づくりは、早めに進めておいて損はありません。

2026年度に必ずやるべきこと

制度初年度の2026年度は、特例的なスケジュールです。期限のある手続きから押さえましょう。

GX-ETS 2026年度の対応スケジュール

制度初年度は特例。まずは算定と9月末の届出から

2026年4月1日

CO2直接排出量などの算定を開始

2026年9月30日まで

年度平均排出量の届出と移行計画の提出

2027年度〜

排出目標量の届出・排出枠の割当・償却へ

初年度はいきなり取引が始まるわけではなく、まず算定と9月末の届出がスタートです。

出典:経済産業省「排出量取引制度」をもとにgreenote作成

4月|CO2排出量の算定を開始

スタートは、2026年4月1日です。この日から、対象事業者はCO2の直接排出量などの算定を始める必要があります。日々の燃料使用量やエネルギー消費を、漏れなく記録する仕組みづくりが先決です。

算定は、後の報告や検証の土台です。ここでデータの精度が低いと、あとの工程すべてに響きます。最初の算定体制づくりが、実務の肝だといえます。

9月30日まで|年度平均排出量の届出と移行計画の提出

初年度の最初の関門が、9月30日です。この期限までに、対象事業者は「年度平均排出量の届出」と「移行計画の提出」を行う必要があります。移行計画とは、脱炭素に向けてどう排出を減らしていくかを示す計画です。

つまり初年度は、いきなり排出枠の取引が始まるわけではありません。まずは自社の排出量を届け出て、削減の道筋を示す。ここから本格運用への助走が始まります。

排出枠の割当・償却は2027年度以降

では、排出枠そのものはいつ動くのでしょうか。排出目標量などの合計量の届出や、排出枠の割当ては、2027年度に行われる予定です。排出枠は、政府が定める基準(ベンチマークなど)に従って割り当てられます。

2026年度は、いわば準備と届出の年です。この一年で算定・報告の体制を固めておくことが、2027年度以降の本格的な取引へのスムーズな移行につながるはずです。

実務対応のロードマップ(年間サイクル)

本格化後の実務は、毎年ほぼ同じサイクルの繰り返しです。その流れと、つまずきやすい点を整理します。

GX-ETSの年間サイクル(本格運用)

毎年、この4ステップを回していく

1

算定・
モニタリング

排出量を測定・記録

2

報告

政府へ排出量を報告

3

第三者検証

登録確認機関が確認

4

保有・償却

排出枠を保有(過不足は売買)

報告には登録確認機関の検証が必要。排出枠の過不足はGX推進機構の市場で売買します。

出典:経済産業省「排出量取引制度」をもとにgreenote作成

算定→報告→第三者検証→償却の流れ

本格運用の実務は、四つのステップで回ります。まず、排出量を算定・モニタリングします。次に、その結果を政府へ報告します。報告にあたっては、登録確認機関による第三者検証(確認)が必要です。そして最後に、確定した排出量に見合う排出枠を保有し、償却します。

確定した年度排出量に相当する排出枠は、翌年度の1月31日までに保有しておくことが必要です。不足すれば市場で購入し、余れば売却できます。この売買の場を、GX推進機構が整えます。

登録確認機関による検証への備え

見落とされがちなのが、第三者検証です。自社で算定した排出量は、そのまま報告できるわけではありません。登録確認機関の確認を経て、はじめて正式な報告となります。

検証をスムーズに通すには、算定の根拠となるデータを、いつでも示せる形で残しておくことが大切です。計測の方法、使った係数、集計の過程。これらを整理しておけば、検証の負担は大きく軽くなります。

排出枠の調達とインターナルカーボンプライシング

排出枠が不足しそうなら、調達の戦略が要ります。市場で買うのか、自社の削減を前倒しするのか。価格の変動も見据えた判断が求められます。

ここで有効なのが、インターナルカーボンプライシングです。社内でCO2に価格をつけ、投資判断に織り込む手法を指します。排出にコストがかかる前提で経営を回せば、削減投資の優先順位も見えやすくなります。

社内体制と中長期の備え

実務を回すには、社内の体制づくりが欠かせません。あわせて、数年先の負担増も見据えておきましょう。

日本のカーボンプライシング 中長期ロードマップ

負担は段階的に強まっていく

2026年度

GX-ETS義務化

排出量取引の第2フェーズが開始

2028年度

化石燃料賦課金

化石燃料の輸入・採取事業者が対象

2033年度

有償オークション

発電事業者向けに開始(第3フェーズ)

目先の義務だけでなく、2028年・2033年の負担増も見据えた投資計画が重要です。

出典:経済産業省「排出量取引制度」「改正GX推進法」をもとにgreenote作成

責任部署とデータ管理体制を整える

まず必要なのが、責任部署の明確化です。GX-ETSの実務は、環境部門だけでは完結しません。排出データは生産現場に、コストは財務に、戦略は経営企画にまたがります。部門横断で担当を決め、連携の流れをつくることが第一歩です。

そのうえで、排出量データを一元的に管理する仕組みを整えます。算定から報告、検証までを通して扱えるデータ基盤があれば、毎年のサイクルは格段に回しやすくなるはずです。

経営層の関与とコスト管理

GX-ETSは、もはや一担当部署の話ではありません。排出量がコストに直結する以上、これは経営マターです。経営層が排出枠の調達方針や削減投資を判断する、その体制が問われます。

排出枠の価格は、市場で変動します。将来のコストを見積もり、予算に織り込む。こうしたコスト管理の視点を、早い段階から持っておくことが大切です。

2028年の賦課金・2033年の有償オークションも視野に

忘れてはならないのが、この先の負担増です。日本のGX政策では、2028年度から化石燃料の輸入・採取事業者を対象とする「化石燃料賦課金」が導入されます。さらに2033年度からは、発電事業者を対象とした排出枠の有償オークションが始まる予定です。

カーボンプライシングの負担は、段階的に強まっていきます。いまの対応を、目先の義務をこなすだけで終わらせない。数年先を見据えた脱炭素の投資計画とあわせて考えることが、長い目で効いてきます。脱炭素の全体像は脱炭素・カーボンニュートラルとは?完全ガイドもあわせてご覧ください。

まとめ|本格化は「報告」から「経営判断」へ

GX-ETSの本格化は、企業に具体的な対応を迫ります。最後に、要点を振り返りましょう。

  • GX-ETSは2026年4月の改正GX推進法施行で義務化フェーズに。対象は直近3年度平均でCO2直接排出量10万トン以上の事業者
  • 制度初年度の2026年度は特例で、9月30日までに年度平均排出量の届出と移行計画の提出が必要。排出枠の割当・償却は2027年度以降
  • 本格運用の実務は算定→報告→第三者検証→償却の年間サイクル。登録確認機関の検証が必須
  • 2028年の化石燃料賦課金、2033年の有償オークションも見据え、部門横断の体制と中長期のコスト管理が要る

GX-ETSの本格化は、排出量を「報告するもの」から「経営判断の対象」へと変えました。義務をこなすだけでなく、削減投資やコスト管理を経営戦略に組み込む。その視点を持つ企業ほど、この変化を機会に変えていけるはずです。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。

参考(出典):経済産業省「排出量取引制度」、「改正GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律等の一部改正)

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

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サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年6月20日

この記事の著者

greenote編集部

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