再生可能エネルギーを増やすほど、ぶつかる壁があります。「電気をどうためるか」という問題です。昼に余った太陽光を夜に使う、曇りが続く日をしのぐ、季節の偏りをならす——。こうした長い時間の調整を担うのが、LDES(長時間エネルギー貯蔵)です。
本記事では、LDESとは何かを、できるだけかみ砕いて解説します。いま主流のリチウム電池との違い、揚水や圧縮空気といった主な方式、持続時間とコストの関係、そして世界と日本の動きまでを順に見ていきましょう。短時間の蓄電を担う系統用蓄電池(BESS)市場の今や、余る電気の問題である出力制御(カーテイルメント)とはとあわせて読むと、全体像がつかみやすくなります。
≡この記事の目次
LDES(長時間エネルギー貯蔵)とは
まず、LDESをひとことで整理します。「電気を、長い時間ためておく」技術の総称だ、というところから入りましょう。
LDESをひとことで言うと
LDES(Long Duration Energy Storage)とは、その名のとおり、電気を長い時間ためて、長い時間かけて放出できるエネルギー貯蔵技術の総称です。日本語では「長時間(長期)エネルギー貯蔵」と訳されます。
ポイントは、特定のひとつの技術を指すのではない、という点です。電池はもちろん、水をくみ上げる仕組みや、空気を圧縮する仕組みまで、「長くためられる」ものをまとめてLDESと呼びます。再生可能エネルギーが主役になる電力システムで、欠かせない土台と期待されている分野です。
「長時間」とはどれくらいか
では、どれくらいの長さから「長時間」なのでしょうか。実は、はっきりした唯一の定義はありません。
おおむね6〜8時間以上ためられるものを指すことが多く、長いものでは数日や100時間級まで視野に入ります。たとえば英国の規制当局Ofgemは、制度の対象を「8時間以上放電できるもの」と定めました。4時間程度が中心のいまの蓄電池より、ぐっと長くためられる。そこがLDESの特徴だと考えてください。
なぜLDESが必要なのか
LDESが注目される背景には、再エネの拡大と、いま主流のリチウム電池の「持ち時間」の限界があります。
短時間の蓄電池とLDESの役割
ためたい時間の長さで出番が分かれる
リチウムイオン電池
LDES(長時間エネルギー貯蔵)
どちらが上ではなく、ためたい時間で役割が分かれる。再エネが増えるほど長いほうの出番が増えます。
出典:米国エネルギー省「Long Duration Storage Shot: An Overview」(2025年1月)および経済産業省「2024年度 定置用蓄電システム普及拡大検討会の結果とりまとめ」(2025年3月7日)をもとにgreenote作成
リチウム電池は4時間級が中心
いま、蓄電池の主役はリチウムイオン電池です。スマートフォンからEV、系統用蓄電池まで広く使われ、価格も下がってきました。
ただし、その得意分野は比較的短い時間の蓄電です。系統用でも、おおむね4時間程度ためて放出する使い方が中心です。昼に余った太陽光を、需要が伸びる夕方に回す。こうしたピークシフトは得意でも、何日にもわたる長い貯蔵には、容量を増やすほどコストがかさみ、向きません。ここに、別の技術が求められる余地が生まれます。
夜・連日・季節の変動を埋める
再エネ、とくに太陽光が増えると、電気の余り方・足りなさ方は、より長い周期で揺れ動きます。晴れた昼は大量に余り、夜はまったく発電しません。
さらに、曇りや無風が数日続くこともあれば、日照の弱い冬と強い夏という季節の偏りも生じます。こうした「数時間では収まらない変動」を埋めるには、長くためて、長く放出できる器が必要なのです。昼の余剰を夜へ、晴天続きの電気を曇りの日へ。LDESは、出力制御(カーテイルメント)とはで見た「余って捨てられる電気」の、有力な受け皿でもあります。
LDESの主な方式
LDESには、電池だけでなく、機械や熱を使うものまで、さまざまな方式があります。代表的なものを整理しましょう。
LDESの主な方式
電池だけでなく、機械や熱でもためる
機械でためる
揚水発電(水をくみ上げる)
圧縮空気(地下にためる)
重力貯蔵(重しを上げる)
電気化学でためる
レドックスフロー電池
同じバナジウムの電解液
タンクを大きくするほど長く・長寿命
熱でためる
蓄熱発電
電気を熱に変えてためる
必要なときに発電へ戻す
化学でためる
鉄空気電池
さびる・さびを落とす反応
100時間級の超長時間を狙う
揚水のようにすでにあるものから、鉄空気電池のように開発途上のものまで多彩です。
出典:経済産業省「2024年度 定置用蓄電システム普及拡大検討会の結果とりまとめ」(2025年3月7日)の分類をもとにgreenote作成
機械でためる(揚水・圧縮空気・重力)
もっとも歴史があるのが、機械の力でためる方式です。代表格は揚水発電です。電気が余る時間に水を高い場所へくみ上げ、必要なときに水を落として発電します。日本でも古くから使われてきた、実績ある長時間貯蔵です。
このほか、余剰電力で空気を圧縮し、地下の空洞などにためておく圧縮空気貯蔵(CAES)や、重しを高く持ち上げておき、落とす力で発電する重力貯蔵といった方式も開発が進みます。いずれも「位置エネルギーや圧力としてためる」発想で、大きな容量を長時間ためやすいという強みを持ちます。
電気化学・熱・化学でためる(フロー電池・蓄熱・鉄空気)
電池の仲間にも、長時間向きの方式が存在します。注目されるのが、バナジウム・レドックスフロー電池(VRFB)です。正極と負極に同じバナジウムの電解液を使う仕組みで、電解液をためるタンクを大きくするほど、ためられる時間を延ばせます。寿命が長く、8〜12時間程度の運用に向くとされます。
さらに、電気を熱に変えてためる蓄熱発電や、鉄が「さびる・さびを落とす」反応を利用する鉄空気電池もあります。鉄空気電池は、100時間級という飛び抜けて長い持続時間を狙う点が特徴で、米国のフォーム・エナジー社などが開発を進めています。このように、LDESは電気・熱・化学と、ためる原理そのものが多彩です。
持続時間とコストの関係
LDESとリチウム電池は、どちらが優れているという話ではありません。「何時間ためたいか」で役割が分かれます。
持続時間とコストの関係(イメージ)
長くためるほどLDESがコストで有利に
時間を延ばすほど高価な電池セルを積み増す必要があり、長時間ほど割高に。
ためる量を増やす部分(タンク・貯水池)が安く、長時間ほど割安に。
8〜10時間を超えるとLDESが優位、24時間を超えると差は決定的とされます(1時間あたりコストのイメージ)。
出典:経済産業省「2024年度 定置用蓄電システム普及拡大検討会の結果とりまとめ」(2025年3月7日)の記述をもとにgreenote作成(傾向を示す概念図)
8〜10時間を超えるとLDESが優位に
カギを握るのは、「ためる時間」とコストの関係です。リチウム電池は、ためる時間を延ばそうとすると、その分だけ高価な電池セルを積み増す必要があり、長時間になるほど割高になってしまうのです。
一方、揚水やフロー電池のようなLDESは、「ためる量」を増やす部分(タンクや貯水池)が比較的安く済みます。そのため、ためる時間が長くなるほど、1時間あたりのコストを抑えやすいのです。一般に、8〜10時間を超えたあたりからLDESのほうがコストで優位になり、24時間を超えると差は決定的になるとされます。
リチウムとの役割分担
この性質から、両者はライバルというより、役割を分け合う関係です。数時間のピークシフトや、すばやい出力調整は、応答の速いリチウム電池が得意です。
これに対し、夜通しや連日、季節をまたぐ長い貯蔵は、LDESが引き受けます。短い調整はリチウム、長い貯蔵はLDES——。こう住み分けることで、電力システム全体を効率よく支えられます。再エネが増えるほど、この「長いほう」の出番が増えていく、というわけです。短時間側の動きは系統用蓄電池(BESS)市場の今もあわせてご覧ください。
世界と日本の動き
LDESは、各国が後押しを強めている分野です。世界の目標づくりと、日本の現在地を見ていきましょう。
米DOEの目標・英国の制度・LDES Council
世界では、LDESを政策で力強く後押しする動きが広がっています。米国エネルギー省(DOE)は「Long Duration Storage Shot」を掲げています。目標の書き方が正確で、そのまま引くと「10時間以上の持続時間を持つ貯蔵システムのコストを、2020年のリチウムイオンを基準に90%削減する。それを1つの10年のうちに」。何を基準に9割か——2020年のリチウムイオン電池です。ここを落とすと目標の意味が変わってしまいます。
この目標は技術を選びません。DOEの資料は電気化学・機械・熱・化学キャリア、またはその組み合わせをすべて対象にすると明記しています。2025年度の大統領予算要求では、蓄エネルギー関連の活動に総額6億9,530万ドルが計上されました。
英国は制度の設計を細かいところまで決めました。規制当局Ofgemとエネルギー省(DESNZ)が2025年3月に出した技術決定文書は、「定格出力で連続8時間以上放電できること」をキャップ・アンド・フロア制度の適格要件として確定しています。しかもその容量を制度期間の25年にわたって維持することまで求めます。最低容量はストリーム1が100MW、ストリーム2が50MW、技術成熟度(TRL)はそれぞれ9と8です。
この「8時間」の決め方が興味深いところです。2024年1月の協議では6時間を維持する案が示されましたが、回答者のやや過半数が反対しました。長時間のほうが系統便益が大きいという分析と、国際的な定義が8時間以上だったことが理由です。そこで系統運用者NESOが影響を評価し、「8時間への引き上げは系統にも2030年のクリーン電力目標にも重大な問題を生じない。ただし8時間を超えると2030年の達成を遅らせうる」と結論しました。長ければ良いのではなく、案件が集まる速さとの兼ね合いで8時間に着地した、という経緯です。
キャップ・アンド・フロアの中身も具体的です。収入が下限(フロア)を下回ると消費者が電気料金への賦課で差額を補填し、上限(キャップ)を超えた分はネットワーク料金の引き下げで消費者に還元されます。第1ウィンドウで想定する容量は2035年までに2.7〜7.7GWです。
ただし「もう動いている制度」と受け取るのは早い点に注意が必要です。2026年9月時点で、第1ウィンドウの案件に関するOfgemの「minded-to(こう決めるつもりだ)」協議は2026年6月に締め切られて決定待ち、事業者に必要な特別ライセンス条件もまだ整備中です。枠組みは決まり、案件の審査が進んでいる段階、というのが正確な現在地です。
制度が使う「長時間」の線引きは国ごとに違う
ここで実務的に効く事実を一つ。「LDES」と名のつく支援制度でも、対象にする持続時間の線引きは国ごとに違います。経済産業省の検討会がまとめた各国制度の一覧を見ると、それがはっきりします。
- 4時間以上——英国の実証支援(2021年開始のLODESコンペ)。ただしリチウムイオンや揚水といった既存技術は除くという条件つきで、合計6,900万ポンド超。
- 8時間以上——米国カリフォルニア州の長期貯蔵プログラム(2022年)。最大3億3,000万ドルで、2022〜23年に3件(計1億4,000万ドル)が採択済み。英国のキャップ・アンド・フロアもこの8時間です。
- 10時間以上——米国全体のパイロット事業(2024年)。超党派インフラ法で最大1億ドル。DOEのLong Duration Storage Shotもこの10時間です。
支援の形も一様ではありません。スペインは2026年までに稼働するLDESにプロジェクト費用の40〜65%を補助(合計2億8,000万ユーロ)、カナダは資本コストの最大30%を税額控除、オーストラリアは廃坑を使った圧縮空気貯蔵に4,500万豪ドルを条件付きで出しています。
だから「LDESとは何時間からか」に世界共通の答えはありません。制度の名前ではなく、その制度が定めた時間と除外条件を見る。海外事例を自社の検討に持ち込むときは、ここを取り違えないことが出発点になります。
日本=揚水という実績と検討の本格化
日本に目を向けると、実は心強い実績があります。古くからある揚水発電が、まさに代表的なLDESとして長く使われてきたのです。再エネ時代に向け、その価値が改めて見直されています。
新しい技術についても、検討が本格化してきました。経済産業省の定置用蓄電システム普及拡大検討会は、2024年度に5回開催され、論点の一つに「LDESに関する課題の整理」を掲げました。2025年3月のとりまとめには、独立した章として「長期エネルギー貯蔵システムの動向調査」が置かれています。
この検討会の対象の切り方が、本記事でここまで見てきた分類とよく重なります。対象としたのは機械式(揚水・重力蓄電・圧縮空気・液化空気・CO2バッテリー)、蓄熱式(岩石蓄熱・ヒートポンプ式蓄熱蓄電)、化学式(電気→ガス→電気)の3つ。そして電気化学式——リチウムイオンやレドックスフロー、ナトリウム硫黄電池——は分類表には載せつつ、検討の対象範囲から外しています。国の検討でも、LIBとLDESは別のものとして扱われているということです。
なぜLDESが必要かについても、3つの背景が整理されています。変動性再生可能エネルギーの導入拡大(系統安定化のため、安価な長時間の蓄電能力と慣性力の提供が重要になる)、レジリエンス向上のニーズ(長時間の停電への対応)、そして資源調達リスクの低減(リチウムイオンは希少資源に依存する)。とりまとめは「LDESは資源調達リスクが低く、長時間率においてLIBと比較してコストが低い傾向にある」と書いています。容量市場の長期脱炭素電源オークションでも、揚水や蓄電池が支援の対象になってきました(容量市場とは)。
LDESをどう捉えるか
LDESは、再エネを「たまにの電気」から「いつでも頼れる電気」へと変えるための、最後のピースのひとつです。発電する技術が出そろっても、長くためる器がなければ、再エネは主力になりきれません。
大切なのは、LDESを「特別な一技術」ではなく、「役割の違う複数の選択肢の集まり」として捉えることでしょう。揚水のようにすでにあるものから、鉄空気電池のように開発途上のものまで、それぞれが得意な時間帯を受け持ちます。短時間はリチウム、長時間はLDES、そして余りは出力制御で調整する。こうした組み合わせが、再エネ社会の屋台骨になっていきます。
太陽や風がつくる電気を、必要なときまで余さずとっておく。その当たり前を実現する技術として、LDESはこれからの10年で存在感を増していくでしょう。なお本記事は、特定の技術・企業・金融商品への投資を推奨するものではなく、仕組みと動向を中立に整理したものです。
出典・参考(一次情報)
- 米国エネルギー省「Long Duration Storage Shot: An Overview」(DOE/EE-2384・2025年1月)
- 英国 Ofgem・DESNZ「Long Duration Electricity Storage: Technical Decision Document」(2025年3月・PDF65ページ)
- 経済産業省「2024年度 定置用蓄電システム普及拡大検討会の結果とりまとめ」(2025年3月7日・PDF96ページ)
- 英国 Ofgem「Long duration electricity storage」(cap and floor の仕組みと第1ウィンドウの進行状況)
※上記は本記事の海外制度・国内検討に関する記述および図の根拠です。英国の制度は第1ウィンドウの審査が進行中で、各国の支援制度も更新されるため、最新の状況は各公式資料でご確認ください。本記事は2026年9月時点の公表情報に基づく解説です。
最終更新日:2026年6月22日
よくある質問(FAQ)
Q. LDESとリチウムイオン電池はどう違うのですか?
A. 想定する持続時間が違います。リチウムイオン電池は数時間の充放電に向きますが、LDES(長時間エネルギー貯蔵)は10時間以上、場合によっては季節をまたぐ貯蔵を担う技術群です。出力あたりのコストより、容量あたりのコストが安いことが求められます。
Q. どんな方式がありますか?
A. 揚水発電のような機械式、圧縮空気やフライホイール、レドックスフロー電池のような電気化学式、溶融塩などの熱貯蔵、そして水素を介した貯蔵などがあります。それぞれ立地の制約、効率、コスト構造が大きく異なります。
Q. なぜ必要になるのですか?
A. 再エネの比率が上がると、数時間の調整では足りない場面が出るためです。曇天や無風が数日続く「風がない週」のような状況では、短時間の蓄電池では埋められません。再エネ比率が高まるほど、長時間側の価値が上がるという関係にあります。
Q. 日本でも導入は進むのですか?
A. 揚水発電という形では既に大規模に存在します。新しい方式については実証が中心で、普及の条件は「長時間の貯蔵に対価が支払われる市場設計になるか」です。容量市場や需給調整市場の設計動向が鍵になります。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。