海外で温室効果ガスを減らした分を、日本の削減としても数えられる制度があります。まず押さえたいのは、二国間クレジット制度(JCM)が、途上国などへ脱炭素技術を広げ、その削減への貢献を日本と相手国の双方の目標に生かす仕組みだという点です。
本記事では、仕組みと国際ルールとの関係、パートナー国と実績、2026年4月に始まった排出量取引での扱いを整理します。根拠は、環境省・経済産業省などの公開資料です。国内のクレジットとの違いは、J-クレジットの記事もあわせてご覧ください。
※本記事は公表情報(2026年11月時点)に基づく解説です。国の数や件数は更新されるため、最新は各省庁の資料をご確認ください。特定の取引を推奨するものではありません。
この記事の目次
- 1二国間クレジット制度(JCM)とは|途上国の削減を日本の目標にも生かす仕組み
- 仕組み|削減分を両国の目標に使う
- パリ協定6条2項との関係
- 2パートナー国と実績|32か国・300件近いプロジェクト
- 制度の規模
- クレジット発行の動き
- 3排出量取引(GX-ETS)での位置づけ
- 4企業がJCMにかかわる方法
- 5具体的な影響|企業にとって何が変わるのか
- 排出量取引の義務対応に使える
- 事業者としてかかわる場合
- クレジットを調達する場合
- 6課題|発行量の小ささ、相手国の事情、ルールの不確実性
- 発行量はまだ小さい
- パートナー国の事情
- MRVと質の確保
- 国際ルールの不確実性
- 7実務で押さえたい点
- 8まとめ
- 9よくある質問(FAQ)
二国間クレジット制度(JCM)とは|途上国の削減を日本の目標にも生かす仕組み
JCMは、日本の企業などが途上国で行う脱炭素の取り組みを通じて、現地の排出削減や吸収に貢献する制度です。環境省などの資料は、その貢献を定量的に評価し、日本の削減目標の達成に活用する制度と説明しています。
仕組み|削減分を両国の目標に使う
流れはシンプルです。日本の技術や製品を相手国に導入し、実現した削減量を測ります。その削減への日本の貢献を評価してクレジットを得ます。クレジットは、日本と相手国の双方の削減目標(NDC)の達成に使われます。
同じ削減を両方の国が数えると、二重計上になります。これを避けるため、日本側に配分されるクレジットには相当調整がかかります。相手国は、その分を自国の削減に数えません。
パリ協定6条2項との関係
JCMは、パリ協定第6条2項の「協力的アプローチ」の一つに位置づけられています。環境省・経済産業省などの2026年5月の資料でも、この位置づけが示されています。国際的に移転される削減成果はITMOsと呼ばれ、JCMのクレジット発行でもこの言葉が使われます。6条の全体像は、パリ協定第6条の記事で解説しています。
パートナー国と実績|32か国・300件近いプロジェクト
制度は、二国間の協力文書をもとに、国ごとに構築されます。資料は、この文書に基づいて制度を構築した国を「パートナー国」と呼んでいます。
制度の規模
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| パートナー国 | 32か国(経済産業省の2026年6月時点の資料) |
| プロジェクト | 300件近く。多くは日本政府の資金支援や実現可能性調査によるもの(環境省等の2026年5月資料) |
| 累積削減の目標 | 2030年度までに官民連携で約1億t-CO2。2040年度までの累積で約2億t-CO2 |
| 最近の協力文書 | チリと6条対応の協力覚書に署名(2026年1月16日)。オマーンと協力覚書に署名(2026年4月9日) |
| 交渉中の候補国 | マレーシア、ブラジル(パートナー候補国) |
累積削減の目標は、地球温暖化対策計画にもとづくものです。目標の背景にある国全体の計画は、地球温暖化対策計画の記事で確認できます。
クレジット発行の動き
JCMクレジットの発行は、合同委員会での決定を経て進みます。経済産業省の資料には、最近の決定として次の3件が記載されています。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2025年10月30日 | 第7回合同委員会で、1事業からのクレジット発行を決定(初のITMOs発行) |
| 2025年12月16日 | 第5回合同委員会で、1事業からクレジットを発行(ITMOs発行) |
| 2026年5月16日 | パラオで、4事業からのクレジット発行を決定(ITMOs発行) |
資料には、全体の累計発行量は記載されていません。発行は始まったばかりで、数量の実績はこれから積み上がる段階と読めます。
排出量取引(GX-ETS)での位置づけ
2026年4月から、排出量取引が法定化されました。経済産業省の資料によると、対象企業は、J-クレジットとJCMクレジットを使えます。使用の上限は実排出量の10%で、必要に応じて見直すとされています。
つまりJCMクレジットは、国内の排出量取引で義務の達成に使える手段の一つになりました。制度の全体像と対応の流れは、GX-ETSの対応ロードマップと排出量取引制度の記事で解説しています。
企業がJCMにかかわる方法
企業がかかわる形は、主に2つです。1つは、相手国で脱炭素設備を導入する事業者として、JCMの枠組みで支援を受けること。もう1つは、発行されたクレジットを取得して使うことです。
資料には、支援の枠組みとして「グローバルサウス未来志向型共創等事業」が示されています。令和7年度補正予算の総額は約1,546億円です。また、民間事業者向けのJCMガイダンスの改定版が、2026年5月に公開されました。2025年11月に公表された「JCM適用基準」が反映されています。
具体的な影響|企業にとって何が変わるのか
JCMは、国の制度であると同時に、民間企業が使う手段にもなりつつあります。環境省の資料と大和総研のレポートにもとづき、企業への影響を整理します。
排出量取引の義務対応に使える
2026年度に本格稼働したGX-ETSでは、JCMクレジットが適格クレジットとして使えます。使えるクレジットは、現時点でJ-クレジットとJCMクレジットの2種類で、補完できる範囲は実排出量の10%が上限です。
大和総研は、当面はJ-クレジットのほうが実務上使いやすく、JCMクレジットは補完的な位置づけになる可能性がある、と見ています。また、2020年以前(京都議定書期)の取り組みに由来するクレジットは、原則としてGX-ETSで使えません。クレジットの発生時期や検証の状況を、調達時に確認する必要があります。
事業者としてかかわる場合
相手国で事業を行う企業にとっては、クレジットの配分が収益の鍵です。環境省の資料によると、配分は両国で構成される合同委員会が、各主体の貢献を考慮して決めます。貢献には、資金だけでなく、技術の提供や運営面の貢献も含まれます。
民間資金を中心にした「民間JCM」を支える体制として、JCMA(日本政府指定JCM実施機構)が、改正温対法にもとづき2025年4月に発足しました。民間JCMの相談案件は、約190件とされています(案件の分類は仮置きの数字です)。大和総研は、先行事例として、クボタ、クレアトゥラ、東京ガスの取り組みが、2026年3月に本格事業化へ移行したと紹介しています。
クレジットを調達する場合
現状のJCMクレジットは、政府支援事業を通じた発行が中心で、市場での流通は限られています。大和総研は、将来の炭素価格の上昇や、国内クレジットの供給がタイトになることを懸念しています。ただし、価格や需給の具体的な数値は、確認した資料に示されていません。
課題|発行量の小ささ、相手国の事情、ルールの不確実性
制度は広がっていますが、実務では課題も指摘されています。
発行量はまだ小さい
環境省の資料に示された発行決定の例は、次のとおりです。
| 事業 | 発行決定 | うちITMOs | 決定日 |
|---|---|---|---|
| タイ | 2,017 tCO2eq | 1,009 tCO2eq | 2025年11月11日 |
| モルディブ | 750 tCO2eq | 433 tCO2eq | 2025年12月16日 |
2030年度までの累積で約1億t-CO2という目標は、官民で目指す削減・吸収量の目標で、クレジットの発行量とは異なると、資料は注記しています。発行はまだ数千トンの規模で、案件の形成からクレジットの発行までのプロセスが長期化している、という指摘もあります。
パートナー国の事情
環境省は、クレジット発行の拡大を妨げる要因を、パートナー国の6条関連の法制度や、排出・吸収量を算定するインベントリの整備だとしています。さらに、対象事業を限定するポジティブリストや、移転手数料を設ける国が増えており、民間の採算性と予見可能性が下がるおそれがあります。
相当調整を行うと、移転した分は相手国の削減にカウントされません。そのため、相手国はNDCの達成を懸念し、先進技術など質の高いプロジェクトを求める傾向が強まっています。大和総研は、相手国が削減実績を囲い込み、ITMOsの承認を見送ったり、配分を縮めたりする可能性を指摘しています。クレジットの配分比率を事前に合意できるかが、投資判断の前提になります。
MRVと質の確保
対象分野が広がるにつれて、方法論の策定、MRV(測定・報告・検証)、相手国との調整が複雑になっています。大規模化に伴い、デジタルMRVなどで対応する動きも出ています。
国際ルールの不確実性
6条の運用は、今後も国連の場で議論が続く見通しです。大和総研は、国際的な利用の範囲や手続きが将来変わる可能性があり、見通しにくいと述べています。例えば、国際航空のCORSIAでは、6条にもとづく緩和成果は、現時点で適格な排出ユニットとされていません。国際ルールの動きは、COP31(アンタルヤ)の見どころの記事も参考になります。
実務で押さえたい点
押さえたい点は3つあります。1つ目は、JCMクレジットは、J-クレジットやボランタリークレジットとは制度が別という点です。使える場面や上限は、制度ごとに決まっています。ボランタリーの全体像は、カーボンクレジットの記事で整理しています。
2つ目は、使用上限が見直される可能性があることです。排出量取引での10%という上限は、資料でも「必要に応じて見直しを検討する」とされています。
3つ目は、相手国ごとに制度の細部が違うことです。パートナー国は32か国あり、ルールは協力文書で定まります。具体の案件では、環境省・経済産業省の最新資料と、JCMの実施機関の案内で確かめてください。
まとめ
要点は次のとおりです。
- JCMは、途上国での削減への貢献を日本と相手国の目標に生かす制度で、パリ協定6条2項の枠組みにあります。
- パートナー国は32か国、プロジェクトは300件近くです(2026年時点の資料)。
- クレジットの発行(ITMOs)は2025年10月に始まり、2026年5月にはパラオで4事業の発行が決まりました。
- 2026年4月からの排出量取引では、J-クレジットとともに使え、上限は実排出量の10%です。
制度は動いています。数値は、最新の公式資料で確かめてください。
greenoteでは、ESG・サステナビリティをわかりやすく発信しています。ご相談はお気軽にどうぞ。
出典・参考資料(一次情報)
リンク先は2026年11月時点で確認した各機関の公開情報です。最新は各公式情報をご確認ください。
環境省ほか:JCM(二国間クレジット制度)の概要(2026年5月改定版)
経済産業省:JCMに関する最新動向について(2026年6月29日)
環境省・大和総研:JCMに関する施策の方向性(環境省、2026年6月29日)/国内外の最近の動向(環境省、2026年6月)/動き始めた民間主体の二国間クレジット制度(JCM)(大和総研、2026年5月19日)
よくある質問(FAQ)
Q. JCMクレジットとJ-クレジットは何が違いますか。
A. JCMは海外(パートナー国)での削減を対象とする二国間の制度で、J-クレジットは国内の削減・吸収が対象です。どちらも2026年4月からの排出量取引で使えますが、制度は別です。J-クレジットはJ-クレジットとはで解説しています。
Q. 排出量取引でJCMクレジットはどれだけ使えますか。
A. 経済産業省の資料では、実排出量の10%が上限とされています。必要に応じて見直しを検討するとされているため、最新の情報を確認してください。
Q. パートナー国は何か国ですか。
A. 経済産業省の2026年6月時点の資料では、32か国です。マレーシアとブラジルは、パートナー候補国として交渉中とされています。
Q. JCMクレジットの価格はいくらですか。
A. 確認した資料には、取引価格が示されていません。現状は政府支援事業を通じた発行が中心で、市場での流通は限られています。調達を検討する場合は、案件ごとの条件を確認してください。
JCMクレジットは、国内の排出量取引制度で、実排出量の10%まで使えます。詳しくはGX-ETS(排出量取引制度)の実務ガイドをご覧ください。