ISO14065とはでは、温室効果ガスや環境情報を検証する「機関」に求められる要件の規格を扱いました。では、実際に企業のもとへやって来て、書類を確かめ、質問をする検証チームの一人ひとりには、何が求められているのでしょうか。それを定めるのがISO14066——環境情報の妥当性確認・検証を行うチームの力量(competence)に対する要求事項を定めた国際規格です。
この規格は2023年8月に全面改訂され、対象が温室効果ガス(GHG)専門から環境情報全般へと広がりました。日本でも、日本適合性認定協会(JAB)による認定の移行が2025年8月末を期限として実施済みで、いまJABの認定を受けている検証機関は、すでにこの新基準のもとで運用されています。本記事では、ISO14066が何を定める規格なのか、2023年改訂で何が変わったのか、そして検証を受ける企業側から見た意味を、ISO公式情報とJABの公開文書にもとづいて整理します。
※本記事の規格・制度情報は2026年9月時点でISO公式サイト・JABが公表している情報にもとづきます。最新の状況は各公式情報をご確認ください。
この記事の目次
ISO14066とは|検証チームの「力量」を定める規格
ISO14066は、環境情報の妥当性確認・検証を行うチームの力量に対する要求事項を定める国際規格です。現行版はISO14066:2023(第2版・2023年8月発行・24ページ・CHF135)で、日本規格協会が示す邦題は「環境情報-環境情報の妥当性確認及び検証を行うチームの力量に対する要求事項」。初版のISO14066:2011は廃止(Withdrawn)となっています。策定しているのは、ISO14064やISO14065と同じ、GHGの算定・検証を担当するISO/TC207/SC7です。
対象はチーム・技術専門家・独立レビュー担当者
ISO公式の要約によれば、この規格が力量要件を定める対象は、妥当性確認・検証のチーム(技術専門家を含む)と、独立レビューを行う担当者です。検証の現場では、チームが評価を行い、その結論をチームから独立した立場のレビュー担当者が確かめる、という二重のチェックが働きます。ISO14066は、その両方の「人」に求められる力量をカバーしています。適用対象は、外部・内部を問わず妥当性確認・検証・合意された手続(AUP)を計画・実施するすべての組織とされており、第三者の検証機関だけでなく、社内の内部検証チームにも適用できる建付けです。
ガイドラインではなく「要求事項」の規格
ISO14000ファミリーには、ISO14063(環境コミュニケーション)やISO14015(環境デューデリジェンス評価)のように、指針を示す「ガイドライン」型の規格が少なくありません。それに対してISO14066は、英文タイトルにrequirements(要求事項)とあるとおり、満たしているかどうかが審査される要求事項型の規格です。後述するとおり、日本では検証機関の認定審査の基準として実際に使われており、「参考にする文書」ではなく「適合が求められる文書」として機能しています。
2023年改訂|GHG専門から「環境情報」全般へ
初版のISO14066:2011は、タイトルも「温室効果ガス——温室効果ガスの妥当性確認チーム及び検証チームの力量に対する要求事項」という、GHG専門の規格でした。2023年の第2版で、対象は「環境情報」全般へと広がり、タイトルから温室効果ガスの文字が消えています。
この動きには前例があります。検証「機関」の要件を定めるISO14065が、2020年の改訂で同じようにGHG専門から環境情報全般へと対象を広げていました(ISO14065とはで詳述)。つまり2023年のISO14066改訂は、機関の規格が先に広げた守備範囲に、チームの力量規格が3年遅れで追いついたという関係にあります。水の使用量や廃棄物量など、GHG以外の環境データにも第三者検証のニーズが広がるなか、機関の要件と人の力量要件がそろって「環境情報」対応になったことで、検証インフラの土台が一貫した形に整いました。
また、第2版では適用対象に合意された手続(AUP: Agreed-Upon Procedures)——依頼者と合意した特定の手続を実施して結果を報告する業務——が明示されています。フルスケールの検証よりも軽い関与形態まで視野に入れた点も、実務の多様化を映した変化といえます。
機関・チーム・手順——検証3規格の役割分担
ここまでgreenoteで扱ってきた検証まわりの規格は、それぞれ担当がはっきり分かれています。3つ並べると全体像がつかめます。
| 規格 | 定めるもの | 一言でいうと |
|---|---|---|
| ISO14065 | 妥当性確認・検証を行う「機関」の要件 | 組織としての公平性・体制 |
| ISO14066 | 検証を行う「チーム」の力量要件 | 現場に来る人の能力 |
| ISO14064-3 | 妥当性確認・検証の「手順」 | 仕事の進め方 |
この3つは入れ子の関係にあります。信頼できる機関(ISO14065)が、力量のあるチーム(ISO14066)を組み、定められた手順(ISO14064-3)で検証する——どれか1つが欠けても、検証結果の信頼は成り立ちません。ISO公式の要約も、要員の力量を管理するプロセスの要求はISO14065:2020の7.3に定められていると注記しており、機関がプロセスとして力量を管理し(14065)、その中身の基準をISO14066が与える、という分担が規格自身の中で明示されています。
「力量」とは何か|チームとして満たせばよい
規格のキーワードである力量(competence)は、資格や経歴そのものではなく、知識と技能を実際の業務で発揮できる能力を指す言葉です。そしてISO14066のタイトルが「チームの力量」となっている点に、実務上の重要な含意があります。求められているのはチームとしての充足であって、メンバー全員が全分野に精通している必要はない、ということです。
検証の対象は、排出量の算定方法から、業種特有のプロセス、データシステムまで多岐にわたります。1人ですべてを深くカバーできる人材は現実には稀で、だからこそ規格は、チームに技術専門家を加えて不足を補い、さらに独立レビューで結論の品質を担保する、という構成を前提にしています。「スーパーマンを1人育てる」のではなく「適材を組み合わせてチームで満たす」——この発想は、検証を受ける企業側から検証の座組みを眺めるときにも役立ちます。
日本の実務|JABの認定移行は2025年8月末で完了
日本でこの規格を実務に接続しているのが、認定機関である日本適合性認定協会(JAB)です。JABは2024年4月24日、国際認定フォーラム(IAF)の決議事項2023-15(ISO14066:2023に対する移行措置)に準じて、温室効果ガス妥当性確認・検証機関の認定を新基準へ移行するための移行要領(24-認シス第0012号)を発行しました。
移行要領によれば、旧基準はJIS Q 14066:2012(ISO14066:2011)、新基準はISO14066:2023で、移行期限は2025年8月31日。期限までに新基準に基づく認定の決定が完了していることが求められ、移行審査の事務所審査は2025年4月30日までに終えるスケジュールが組まれていました。また、移行要領の発行後は、新規の認定申請は新基準に基づくもののみ受け付けるとされています。つまり2026年現在、JABの認定を受けている検証機関は、すでにISO14066:2023ベースで運用されていることになります。なお、国際航空分野のICAO CORSIA検証だけは旧基準を適用する、という例外も明記されています。
JIS Q 14066は2012年版=旧基準のまま
一方、国内規格のJIS Q 14066は2012年版のままです。これはISO14066:2011(GHG限定の初版)をもとに制定されたもので、2023年のISO改訂に追随した改正は2026年9月時点で確認できません。JABの移行要領がJIS Q 14066:2012を「旧基準」と呼んでいるとおり、認定の実務はISO原文の新基準へ先に進み、JISが後から追う——ISO14025やISO14063でも見られた、JISがISOの改訂に遅れる構図がここでも繰り返されています。日本語の規格文書だけを頼りにすると1世代前の内容を読んでしまう領域なので、注意が必要です。
検証を受ける企業側から見た意味
ISO14066は検証する側の規格ですが、排出量取引(GX-ETS)やJ-クレジット、サステナビリティ開示の第三者保証など、検証を受ける場面が増えている企業側にも、知っておくと役に立つ点が3つあります。
「誰が来るのか」には根拠がある
検証チームの構成は、機関の都合で適当に決まるものではなく、力量要件を満たすように組まれている——これがISO14066が保証していることです。裏を返せば、受け入れる企業側は、チームの構成や力量の考え方について検証機関に説明を求めてよい立場にあります。特に初めて検証を受ける場合、キックオフの段階で「どんな構成のチームが、どの範囲を見るのか」を確認しておくと、社内の対応部署の割り当てもスムーズになります。なお、マネジメントシステム監査の世界でも、監査チームの力量や監査の進め方は共通指針のISO19011とはが扱っています。
業種特有の論点は技術専門家が補う建付け
「うちの業界の特殊なプロセスを、外部の検証人が理解できるのか」という不安は、検証を受ける側の定番の懸念です。規格の答えが、前述の技術専門家(technical expert)をチームに加えるという仕組みです。業種固有の技術的な論点は、その分野の専門家がチームの一員として補完します。企業側も、自社の設備やプロセスの説明資料をあらかじめ整えておくことで、チーム側の理解を早め、検証の往復回数を減らすことができます。
制度側の要件は「上乗せ」される
ISO公式の要約は、この規格が特定の環境情報プログラムには紐づかないことを明記しています。J-クレジットやGX-ETSのような個別の制度が適用される場合、その制度が定める力量要件はISO14066の要求に追加されるという関係です。つまりISO14066は「共通の土台」であり、制度ごとの検証人登録要件や研修要件はその上に載ります。自社が使う制度の検証を依頼する際は、土台(ISO14066ベースの認定)と上乗せ(制度側の要件)の両方を満たした機関・チームかどうか、という2段階で見ると整理しやすくなります。
まとめ
ISO14066は、環境情報の妥当性確認・検証を行うチーム(技術専門家を含む)と独立レビュー担当者の力量要件を定める国際規格です。2023年の第2版で対象がGHG専門から環境情報全般へ広がり、機関の要件(ISO14065)・チームの力量(ISO14066)・検証の手順(ISO14064-3)という3層の分担が「環境情報」対応でそろいました。日本ではJABがIAF決議に準じた認定移行を2025年8月31日期限で実施済みで、現在の認定検証機関は新基準ベースで運用されています。一方、JIS Q 14066は2012年版(旧基準)のまま——ISOの実務が先行し、JISが遅れて追う構図には注意が必要です。
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出典・参考資料(一次情報)
リンク先は2026年9月時点で確認した各機関の公開情報です。最新は各公式情報をご確認ください。
ISO公式:
ISO14066:2023規格ページ
日本適合性認定協会(JAB):
ISO 14066:2023に対する温室効果ガス妥当性確認・検証機関に関する認定の移行について(2024年4月24日)/
認定の移行要領(24-認シス第0012号)
よくある質問(FAQ)
Q. ISO14066とISO14065はどう違いますか?
A. ISO14065は妥当性確認・検証を行う「機関」(組織)の要件を定める規格で、公平性や組織体制をカバーします。ISO14066は、実際に検証を行う「チーム」の力量に対する要求事項を定める規格です。ISO公式の要約も、要員の力量を管理するプロセスの要求はISO14065:2020の7.3にあると注記しており、機関がプロセスとして力量を管理し、その中身の基準をISO14066が与える、という分担になっています。
Q. 2023年の改訂で何が変わりましたか?
A. 対象が温室効果ガス(GHG)専門から「環境情報」全般に広がり、タイトルから温室効果ガスの文字が消えました。検証機関の要件規格ISO14065が2020年改訂で先行して同じ拡大をしており、チームの力量規格が3年遅れで追いついた形です。また、適用対象に合意された手続(AUP)が明示されました。初版のISO14066:2011は廃止されています。
Q. JIS Q 14066とISO14066は同じ内容ですか?
A. 現時点では異なります。JIS Q 14066は2012年版で、GHG限定だった初版ISO14066:2011をもとにしています。JABの移行要領もJIS Q 14066:2012を「旧基準」、ISO14066:2023を「新基準」と呼んでおり、認定の実務はすでに新基準へ移行済みです。2023年改訂に対応したJIS改正は2026年9月時点で確認できません。
Q. 検証機関ではない一般企業にISO14066は関係ありますか?
A. あります。まず、この規格は外部・内部を問わず妥当性確認・検証を行う組織に適用できるとされており、社内の内部検証チームの力量整備にも使えます。また、検証を受ける立場でも、検証チームの構成には力量要件という根拠があること、業種特有の論点は技術専門家が補う建付けであること、制度側の要件はISO14066の上に追加されることを知っておくと、検証機関とのやり取りがスムーズになります。
Q. 日本の検証機関はもう新しいISO14066に対応していますか?
A. はい。JABはIAF決議事項2023-15に準じ、認定の移行期限を2025年8月31日として移行審査を実施しました。期限までに新基準に基づく認定の決定が求められ、移行要領の発行後は新規の認定申請も新基準のみ受け付けるとされています。なお、ICAO CORSIA検証のみ旧基準を適用する例外があります。