最終更新日:2026年8月4日
「環境保全にいくらかけ、その結果どんな効果が得られたのか」——サステナビリティやIRの現場では、環境への取り組みを数字で説明する難しさに直面する場面が少なくありません。その手がかりになるのが環境会計です。
環境会計とは、企業などが事業活動における環境保全のためのコストと、その活動によって得られた効果を認識し、可能な限り定量的(貨幣単位・物量単位)に測定して伝える仕組みです。環境省が「環境会計ガイドライン」を公表しており、企業の環境経営を支える基礎的な考え方とされています。
本記事では、環境会計の定義と2つの機能、3つの構成要素、環境省ガイドラインによるコストの分類、導入のメリットと課題、そして近年の情報開示や温室効果ガス(GHG)算定との関係を、実務の視点から整理します。
財務パフォーマンス
貨幣単位で測る
コスト・経済効果
環境パフォーマンス
物量単位で測る
CO2・廃棄物などの削減
貨幣単位
物量単位
貨幣単位
≡この記事の目次
環境会計とは|コストと効果を定量的に測る仕組み
環境会計は、環境保全の取り組みを「コスト」と「効果」の両面から数値でとらえ、社内の意思決定や社外への説明に役立てるための仕組みです。会計という言葉がつきますが、財務会計のように法律で義務づけられた制度ではなく、企業が任意で導入する管理の枠組みとされています。
環境会計の定義(環境省ガイドライン)
環境省の「環境会計ガイドライン」は、環境会計を「企業等が事業活動における環境保全のためのコストとその活動により得られた効果を認識し、可能な限り定量的(貨幣単位又は物量単位)に測定し伝達する仕組み」と定義しています。
このガイドラインは2000年に初版が公表され、2002年、2005年に改訂されました。上場・非上場を問わず、多くの企業や自治体が環境報告書などで活用してきた経緯があります。
環境会計が持つ2つの機能
環境会計の役割は、大きく「内部機能」と「外部機能」の2つに整理できます。
- 内部機能:環境保全のコストと効果を把握し、投資判断や改善活動に生かす、経営管理のツールとしての役割。
- 外部機能:環境報告書や統合報告書などを通じて、ステークホルダーへ説明責任を果たす、情報開示のための役割。
環境会計を構成する3つの要素
環境省ガイドラインでは、環境会計を次の3つの要素で体系的にとらえます。貨幣単位で測る部分(財務パフォーマンス)と、物量単位で測る部分(環境パフォーマンス)を組み合わせるのが特徴です。
環境保全コスト(貨幣単位)
環境保全のために支出した費用や投資額を、貨幣単位で把握するものです。公害防止設備の導入費用、省エネ設備への投資、リサイクルの費用などが含まれます。
環境保全効果(物量単位)
環境保全の取り組みによって得られた効果を、物量単位で把握するものです。CO2排出量の削減量、廃棄物排出量の削減、水使用量の削減などが該当します。金額ではなく物量で測る点がポイントで、Scope3やカーボンフットプリントで扱う排出量データとも接点があります。
環境保全対策に伴う経済効果(貨幣単位)
環境保全の取り組みがもたらした経済的なメリットを、貨幣単位で把握するものです。省エネによる電気代の削減や、リサイクルによる収入などが含まれます。確実な根拠にもとづく「実質的効果」と、仮定にもとづく「推定的(みなし)効果」に分けて扱われることがあります。
環境保全コストの分類|環境省ガイドラインの6区分
環境省ガイドラインは、環境保全コストを事業活動との対応関係にもとづいて次のように分類しています。自社のコストがどの区分に当たるかを整理すると、抜け漏れなく把握しやすくなります。
| 分類 | 主な内容の例 |
|---|---|
| ① 事業エリア内コスト | 公害防止・地球環境保全・資源循環のためのコスト(生産や事業活動で直接生じる) |
| ② 上・下流コスト | グリーン購入、製品の回収・リサイクルなど、事業の上流・下流で生じるコスト |
| ③ 管理活動コスト | 環境マネジメントシステムの運用、環境教育、環境情報開示などのコスト |
| ④ 研究開発コスト | 環境負荷を低減する製品・技術の研究開発コスト |
| ⑤ 社会活動コスト | 地域の環境保全活動への支援、緑化、寄付などのコスト |
| ⑥ 環境損傷対応コスト | 環境に損傷が生じた場合の修復・賠償などに対応するコスト |
実際の集計では、複数の区分にまたがる費用の按分など、実務上の工夫が必要になる場合があります。まずは把握しやすい区分から始め、範囲を段階的に広げるのが現実的とされます。
環境会計のメリットと課題
導入のメリット
- 環境への取り組みを数値で「見える化」でき、経営判断や投資の優先順位づけに役立つ。
- 環境報告書や統合報告書での開示に活用でき、ESG情報開示の基礎データとしてステークホルダーへの説明責任を果たしやすい。
- コストと効果を継続的に把握することで、環境経営のPDCAを回しやすくなる。
運用上の課題
- 環境保全効果を貨幣価値へ換算することが難しく、経済効果の推定には幅が出やすい。
- 集計方法が企業によって異なり、他社との単純な比較が難しいとされる。
- 任意の枠組みであるため、近年は環境会計そのものの開示を取りやめる企業もあり、位置づけが変化している。
導入のメリット
- 取り組みを数値で「見える化」でき、経営判断や投資の優先順位づけに役立つ
- 環境・統合報告書での開示に活用でき、ESG情報開示の基礎データになる
- コストと効果を継続把握し、環境経営のPDCAを回しやすい
運用上の課題
- 環境保全効果の貨幣換算が難しく、経済効果の推定に幅が出やすい
- 集計方法が企業ごとに異なり、他社との単純比較が難しい
- 任意の枠組みで、近年は開示を取りやめる企業もあり位置づけが変化
「見える化」の価値は大きい一方、貨幣換算の難しさと比較可能性が課題として残ります。
情報開示・GHG算定との関係|近年の位置づけ
近年は、TCFDやISSBに沿った気候関連の財務情報開示が広がり、環境の影響を「財務インパクト」として示す流れが強まっています。こうしたなかで、環境会計を独立した章として開示する企業は以前より減っているとされます。
一方で、環境保全のコストと効果を社内で把握する考え方そのものは、温対法・SHK制度にもとづく排出量の把握や、Scope3・LCA(ライフサイクルアセスメント)と組み合わせることで、脱炭素投資の判断材料として再評価されています。環境会計は「環境管理会計(EMA)」として、社内の意思決定に生かす方向へ発展してきたと言えます。
あわせて読みたい:環境対応を「仕組み」にする国際規格 → ISO14001とは|取得の流れ・費用とエコアクション21との違い
まとめ|環境会計は環境と経営をつなぐ物差し
環境会計とは、環境保全のコストと効果を、可能な限り定量的に測定して伝える仕組みです。環境省ガイドラインでは、環境保全コスト(貨幣)・環境保全効果(物量)・経済効果(貨幣)の3要素でとらえ、コストは6区分に整理されています。
制度としては任意で、開示の主役はTCFDやISSBに沿った財務情報へと移りつつあります。それでも、環境への支出と効果を数字で結びつける環境会計の考え方は、脱炭素投資やGHG算定と組み合わせることで、環境と経営をつなぐ物差しとして今も有効です。まずは把握しやすい項目から、コストと効果の記録を始めてみることをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q. 環境会計は義務ですか?
いいえ。環境会計は法律で義務づけられた制度ではなく、企業が任意で導入する管理の枠組みです。環境省がガイドラインを示していますが、採用するかどうかは各社の判断に委ねられています。
Q. 環境会計とGHG(Scope)排出量の算定はどう違いますか?
GHG排出量の算定は温室効果ガスの「排出量」を物量で測るものです。環境会計はより広く、環境保全の「コスト(貨幣)」と「効果(物量)」、さらに「経済効果(貨幣)」を合わせてとらえます。排出量データは環境保全効果の一部として環境会計に取り込むことができます。
Q. 環境保全コストにはどんなものが含まれますか?
公害防止や省エネのための設備投資・費用、グリーン購入やリサイクルの費用、環境マネジメントや教育の費用、研究開発費、地域の環境活動への支援などです。環境省ガイドラインでは6つの区分に整理されています。
Q. 中小企業でも導入できますか?
可能です。まずは電気・燃料・廃棄物など把握しやすい項目から、コストと削減効果を記録するところから始められます。全項目を一度に整えようとせず、範囲を絞って継続することが現実的とされます。
Q. 環境会計と統合報告書はどう関係しますか?
環境会計で把握したコストと効果は、統合報告書やサステナビリティ報告書で開示する際の基礎データになります。財務と非財務を結びつけて説明するうえで、環境会計の数値が役立つ場面があります。
出典・参考(一次情報)
※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年8月6日