JR東海のESG経営を分析|新幹線の省エネと電力の脱炭素

2026.08.03
サステナビリティ開示

ESG Company Analysis

鉄道国内

東京から大阪へ、私たちを速く静かに運ぶ東海道新幹線。それを担うJR東海の脱炭素は、じつは少し変わった構造をしています。同社が出すCO2の約95%は、燃料を燃やしたからではなく、電車を動かす電力に伴うものだからです。つまり脱炭素の主戦場は、自社の設備の外、電気をつくる側にこそあるのです。では同社は何をしているのでしょうか。本記事では、JR東海のESG経営を、新幹線の省エネと電力の脱炭素を軸に、公式情報をもとに中立に分析していきます。

この記事の目次

01

JR東海のESG経営とは|東海道新幹線を担う鉄道会社

まず、JR東海がどんな会社で、その脱炭素の構造を整理しましょう。

日本の大動脈を、担う

JR東海(東海旅客鉄道)=東海道新幹線と東海地方の在来線を運営
事業東京・名古屋・大阪を結ぶ東海道新幹線が柱。リニア中央新幹線も建設中
目標2050年CO2排出実質ゼロ。2030年度に2013年度比46%削減

鉄道は一人あたりの排出が少ない低炭素な大量輸送。

出典:JR東海の公表情報をもとにgreenote作成

鉄道はもともと低炭素な輸送

JR東海(東海旅客鉄道)は、東海道新幹線と東海地方の在来線を運営する鉄道会社です。東京・名古屋・大阪という日本の大動脈を結ぶ東海道新幹線が、事業の柱です。あわせて、リニア中央新幹線の建設も進めています。

ここで押さえておきたいのが、鉄道という乗り物の性格です。鉄道は、一度に大量の人を運べるため、一人あたりのCO2排出が少ない低炭素な輸送手段です。自動車や航空機に比べ、同じ距離を運ぶのに必要なエネルギーがずっと小さくて済みます。つまりJR東海は、事業そのものが社会の脱炭素に貢献しうる立場だといえます。だからこそ、自社の排出をさらに減らす意味も大きいのです。

2050年CO2実質ゼロへ

JR東海グループが掲げるのは、2050年のCO2排出実質ゼロです。中間目標も明確で、公表情報によれば、2030年度のCO2排出量を2013年度比で46%削減する計画です。これは、日本政府が掲げる目標水準に沿った設定です。脱炭素の全体像は、関連記事のカーボンニュートラルとはもあわせてご覧ください。

ただし、この目標をどう達成するかは、鉄道会社ならではの事情に左右されます。鍵は、排出がどこから出ているかを知ることです。次に、その構造を見ていきましょう。

02

排出の95%は電力|だから電力の脱炭素が本丸

JR東海の排出構造には、はっきりした特徴があります。

95%は、電気から

JR東海のCO2排出 約130万トン(2024年度)
約95%電車を走らせる電力に伴う排出。電力の脱炭素と省エネが本丸
約5%燃料の使用に伴う直接排出。気動車などが中心

使う電力をいかに脱炭素にし、いかに減らすかが最大の課題。

出典:JR東海の公表情報をもとにgreenote作成

JR東海の脱炭素を理解する鍵は、排出の構造にあるといえます。公表情報によれば、同社が排出するCO2は約130万トン(2024年度)。そのうち、燃料の使用に伴う直接排出は約5%にとどまります。つまり残る約95%は、電車を走らせるために使う電力に伴う排出なのです。

この構造は、脱炭素の戦い方を決めます。工場から煙が出る産業とは違い、JR東海が減らすべき相手は電気です。そして電気のCO2は、電力会社がどう発電するかに大きく左右されます。自社の努力だけでは決まらない部分があるわけです。だからこそ、同社にできることは2つに絞られます。ひとつは、使う電力を脱炭素なものにしていくこと。もうひとつは、使う電力の量そのものを減らすことです。鉄道と電気の関係については、関連記事の電化とはもあわせてご覧ください。次に、後者の省エネを見ていきましょう。

03

新幹線の省エネ|車両と運行で減らす

使う電力そのものを減らす努力も続けています。

使う電気を、減らす

東海道新幹線の省エネ
車両の進化N700Sなど世代ごとに省エネ性能を向上。車体の軽量化や空気抵抗の低減
回生ブレーキブレーキ時に発生する電力を架線に戻して再利用
運行と設備効率的な運転や駅・施設の省エネ

同じ人数を運ぶのに必要な電力を減らせば、そのままCO2削減になる。

出典:JR東海の公表情報をもとにgreenote作成

電力の脱炭素が電力会社側の事情に左右されるなら、自社でできるのは使う量を減らすことです。JR東海は、ここに長く力を注いできました。中心となるのが、車両の進化です。東海道新幹線では、N700Sなど、世代を追うごとに省エネ性能の高い車両へと更新されてきました。車体の軽量化や空気抵抗の低減によって、走るのに必要な電力を減らしているのです。

さらに、鉄道ならではの技術もあります。回生ブレーキです。ブレーキをかけるとき、モーターを発電機として使い、生まれた電力を架線に戻して他の電車が使えるようにします。捨てていたエネルギーを、回して使うわけです。加えて、効率的な運転や、駅・施設の省エネも進めています。同じ人数を運ぶのに必要な電力が減れば、それはそのままCO2削減につながります。地道ですが、鉄道会社の本業に根ざした確実な一手だといえます。

04

水素動力車両|在来線の脱炭素

電化されていない路線に、新しい選択肢を用意します。

軽油から、水素へ

これまで電化されていない路線では軽油を燃料とする気動車(ディーゼル車)が走る。CO2が出る
これから水素を燃料とする水素動力車両。走行時のCO2をなくせる

同社の直接排出(約5%)の多くは燃料使用によるもの。その削減策にあたる。

出典:JR東海の公表情報をもとにgreenote作成

残る約5%の直接排出にも、手を打っています。それが水素動力車両の開発です。鉄道といっても、すべての路線が電化されているわけではありません。架線のない区間では、軽油を燃料とする気動車(ディーゼル車)が走ります。ここからは、燃料由来のCO2が直接出ます。

そこでJR東海は、この気動車に代わる水素を燃料とした車両の開発に取り組んでいます。水素は燃やしても、あるいは燃料電池で電気に変えても、CO2を出しません。電化が難しい区間を、水素で走らせる。これは、同社の直接排出をなくすための、正面からの取り組みです。水素そのものについては、関連記事のグリーン水素とはもあわせてご覧ください。なお、同じ鉄道の水素車両では、JR東日本も燃料電池車両「HYBARI」を進めており、鉄道業界で共通の関心事になっています。

05

リニアという論点|速さと電力

JR東海のESGには、避けて通れない論点があります。

速さと、電力のあいだで

指摘される点リニアは超高速で走るため従来の新幹線より多くの電力を使うとされ、電力消費の増加が指摘される
期待される点東京・名古屋・大阪を短時間で結び、航空機や自動車からの移動の転換(モーダルシフト)が進めば社会全体では排出が減る可能性

評価は前提の置き方で変わる。どちらか一方に断じず両面を見る

出典:JR東海の公表情報および公開報道をもとにgreenote作成

JR東海の脱炭素を語るとき、避けて通れないのがリニア中央新幹線です。ここは、期待と懸念の両面を、公平に見ておく必要があるでしょう。まず指摘される点です。リニアは磁力で浮上し超高速で走るため、従来の新幹線より多くの電力を使うとされます。排出の95%が電力由来である同社にとって、電力消費の増加は、そのままCO2の増加圧力になりかねません。

他方で、期待される点も見逃せません。東京・名古屋・大阪を短時間で結べば、航空機や自動車から鉄道への移動の転換(モーダルシフト)が進む可能性もあるのです。鉄道は一人あたりの排出が小さいため、社会全体で見れば排出が減るという見方です。とりわけ航空は、ANAの記事で見たように脱炭素が難しい分野です。そこからの転換には、大きな意味があるといえます。ただし、実際にどれだけ転換が起きるか、電力がどれだけ脱炭素になるかという前提しだいで、評価は変わります。どちらか一方に断じず、両面を見ることが大切です。なお本記事は、特定の企業や投資を推奨するものではありません。

安全と人材(S)|新幹線の安全神話を支える人的資本

JR東海のSの核心は安全です。東海道新幹線は1964年の開業以来、列車事故による乗客の死亡事故ゼロを続けているとされ、地震時の早期停止システムや脱線・逸脱防止対策への継続投資がこれを支えています。安全は同社にとってESGの一項目ではなく事業の存立基盤そのものです。

その安全を支えるのは運転士・保守技術者の育成という人的資本投資です。一方、リニア中央新幹線の建設では水資源や環境影響をめぐる地域との対話が長期化した経緯があり、インフラ企業のSは地域社会との合意形成まで含むことを示す事例となっています。

ガバナンス(G)|超長期プロジェクトを監督する

リニア中央新幹線は総投資が10兆円規模、完成まで数十年という民間企業として異例の超長期プロジェクトです。財政投融資3兆円の活用を含む資金計画と進捗を、取締役会がどう監督するかが同社のGの中心論点とされます。

国鉄民営化で誕生した企業として、公共性と株主利益の両立という宿題を常に負っており、独立社外取締役の監督と長期の情報開示がその調整弁になっています。

06

まとめ|JR東海のESG経営から学べること

JR東海の姿は、排出構造を正しく知ることが脱炭素の出発点だと教えてくれます。最後に、要点を振り返りましょう。

JR東海に学ぶ、3つのこと

構造を知る排出の約95%は電力由来。だから電力の脱炭素と省エネが本丸
本業で減らす車両の進化や回生ブレーキで、使う電力そのものを削減
両面で見るリニアの電力増とモーダルシフトの削減、双方をふまえて評価する

出典:JR東海の公表情報・公開報道をもとにgreenote作成

JR東海のESG経営を振り返ると、いくつもの学びが見えてきます。

  • 東海道新幹線を担う鉄道会社。鉄道はもともと一人あたりの排出が少ない低炭素な大量輸送
  • 2050年CO2実質ゼロ、中間目標は2030年度に2013年度比46%削減
  • 排出約130万トンのうち約95%が電力由来(直接排出は約5%)=電力の脱炭素と省エネが本丸
  • 省エネ=N700Sなどの車両進化、回生ブレーキ、運行・設備の効率化
  • 水素動力車両で在来線(気動車)の直接排出をなくす。⚠️リニアの電力は両論併記の論点

JR東海から学べるのは、自社の排出がどこから出ているかを正しく知ることが、脱炭素の出発点になるということです。同社の場合、答えは電力でした。だから電力の脱炭素と省エネに集中し、残る直接排出には水素で手を打つ。理にかなった順序です。もっとも、電力のCO2は電力会社の事情に左右され、リニアの電力増という論点も残ります。自社の努力と、社会側の条件。その両方を見すえることが、企業のESGを深く理解する助けになるでしょう。なお、Scopeごとの排出の分け方は関連記事のScope3とはもご参照ください。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。

FAQ

よくある質問(FAQ)

Q. JR東海(東海旅客鉄道)とはどんな会社ですか?

JR東海は、東海道新幹線と東海地方の在来線を運営する鉄道会社です。東京・名古屋・大阪という日本の大動脈を結ぶ東海道新幹線が、事業の柱になります。また、リニア中央新幹線の建設も進めています。鉄道は、一人あたりのCO2排出が少ない低炭素な大量輸送のため、社会全体の脱炭素にも貢献する立場にあります。

Q. JR東海の脱炭素目標はどうなっていますか?

JR東海グループは、2050年のCO2排出実質ゼロをめざしています。中間目標として、公表情報によれば、2030年度のCO2排出量を2013年度比で46%削減する計画です。これは日本政府の目標水準に沿った設定です。鉄道会社の排出は電力の使用に伴うものが大半のため、電力の脱炭素と省エネの両面から進めることになります。

Q. JR東海の排出はどこから出ているのですか?

圧倒的に電力からです。公表情報によれば、同社が排出するCO2約130万トン(2024年度)のうち、燃料の使用に伴う直接排出は約5%にとどまります。つまり残りの約95%は、電車を走らせるために使う電力に伴う排出です。したがって、使う電力をいかに脱炭素にするか、そして使う量をいかに減らすかが、脱炭素の本丸になります。

Q. 新幹線の省エネはどう進んでいますか?

車両と運行の両面で進んでいます。東海道新幹線では、N700Sなど世代を追うごとに省エネ性能の高い車両へ更新されてきました。車体の軽量化や空気抵抗の低減、ブレーキ時に発生する電力を架線に戻す回生ブレーキなどが使われます。あわせて、効率的な運転や設備の省エネも進めています。同じ人数を運ぶのに必要な電力を減らすことが、そのままCO2削減につながります。

Q. 水素動力車両とは何ですか?

水素を燃料に走る鉄道車両です。JR東海は、軽油を燃料とする従来の気動車(ディーゼル車)に代わるものとして、水素動力車両の開発に取り組んでいます。電化されていない路線では、電車を走らせられないため、ディーゼル車が使われてきました。ここを水素に置き換えれば、走行時のCO2をなくせます。同社の直接排出の多くはこの燃料使用によるもので、その削減策にあたります。

Q. リニア中央新幹線は脱炭素の観点でどう見ればよいですか?

両面から見る必要があります。リニアは超高速で走るため、従来の新幹線より多くの電力を使うとされ、電力消費の増加が指摘されています。一方で、東京・名古屋・大阪を短時間で結ぶことで、航空機や自動車からの移動の転換(モーダルシフト)が進めば、社会全体では排出が減る可能性もあります。評価は前提の置き方によって変わるため、どちらか一方に断じず両面を見ることが大切です。なお本記事は特定の投資を推奨するものではありません。

Sources

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報および公開報道をもとにgreenote編集部が整理しています。企業評価や投資判断を目的とするものではありません。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年7月12日

関連記事

目次