CSRD、CSDDD、EUタクソノミー——ここ数年、EUは矢継ぎ早にサステナビリティ規制を整えてきました。ところが2025年、その流れが大きく転換します。「企業の負担が重すぎる」という声を受け、EUは規制を一括で「簡素化」する方針に舵を切ったのです。その中心にあるのが、オムニバスと呼ばれるパッケージです。
本記事では、EUオムニバスとは何かを整理したうえで、ストップ・ザ・クロックを含む2段構えの全体像、CSRDの対象縮小とESRSのデータ項目削減、CSDDDの大幅な見直し、タクソノミーの意外な結末、そして日本企業への影響までを解説します。関連する各制度はCSRDとは、CSDDDとはもあわせてご覧ください。
≡目次
- 1EUオムニバスとは|サステナビリティ規制の簡素化
- ►なぜ簡素化が始まったのか
- ►対象はCSRD・CSDDD・タクソノミー
- 2全体像|2段構えの簡素化
- ►「ストップ・ザ・クロック」で適用を延期
- ►本体のオムニバス指令(2026年2月発効)
- 3CSRDはこう変わる
- ►対象を従業員1000人超・売上4.5億ユーロ超に絞る
- ►ESRSのデータ項目を1073から320へ
- ►適用は2027年から
- 4CSDDDとタクソノミーの変更
- ►CSDDD|対象を約7割減、移行計画義務と民事責任を削除
- ►タクソノミー規則は据え置きに
- 5日本企業への影響
- ►対象から外れる企業も
- ►簡素化は「後退」ではない
- 6まとめ|オムニバスは「簡素化、しかし不変の骨格」
EUオムニバスとは|サステナビリティ規制の簡素化
ここ数年で一気に整備されたEUのサステナビリティ規制。その流れが、2025年から「簡素化」へと大きく舵を切りました。その核心が、オムニバスです。まずは概要を押さえましょう。
なぜ簡素化が始まったのか
オムニバス(omnibus)とは、もともと「複数の事項を一度に扱う」という意味の言葉です。EUオムニバスは、その名のとおり、複数のサステナビリティ規制をまとめて見直す一括パッケージを指します。
背景にあるのは、企業の報告負担への懸念です。CSRDなどの開示義務は、詳細なデータ収集を企業に求めます。これが過度な負担となり、EUの競争力を損なうのではないか——そうした問題意識から、欧州委員会は2025年2月、規制を簡素化する提案を打ち出しました。守るべき目的は維持しつつ、事務的な負担は軽くする。それが、オムニバスのねらいです。
対象はCSRD・CSDDD・タクソノミー
オムニバスが見直しの対象としたのは、主に3つの制度です。企業に開示を求めるCSRD(企業サステナビリティ報告指令)、人権・環境のデューデリジェンスを求めるCSDDD、そして「何がグリーンか」を定めるEUタクソノミー。
いずれも、EUサステナビリティ規制の中核をなす制度です。これらを個別にではなく、一括で簡素化する。それがオムニバスのアプローチでした。次章から、具体的に何がどう変わったのかを見ていきます。
全体像|2段構えの簡素化
オムニバスによる簡素化は、2つの段階で進みました。まず時間を止め、次に中身を変える。この流れを押さえると、全体像がつかめます。
EUオムニバスの全体像
2段構えの簡素化
ストップ・ザ・クロック
CSRD第2・3波の適用を2年延期、CSDDD第1段階を1年延期。まず時間を止める(2025年4月発効)
本体のオムニバス指令
対象企業や開示項目を実際に絞り込む、中身の簡素化(2026年3月発効)
■ 時系列
2025年2月 欧州委員会が提案
2025年4月 ストップ・ザ・クロック発効
2025年12月 合意
2026年2月 理事会採択・EU官報で公表
2026年3月18日 本体のオムニバス指令が発効
ねらいは報告負担の軽減とEUの競争力強化。
出典:欧州委員会・EU理事会をもとにgreenote作成
「ストップ・ザ・クロック」で適用を延期
簡素化の第一段階が、「ストップ・ザ・クロック」と呼ばれる指令です。文字どおり「時計を止める」もので、発効は2025年4月です。中身を変える前に、まず適用のタイミングを後ろにずらす措置です。
具体的には、CSRDの第2波・第3波の企業について、報告の適用を2年延期しました。あわせて、CSDDDの第1段階の適用も1年延期しています。簡素化の議論が固まる前に義務が始まってしまわないよう、いったん時間を稼ぐ。そのための応急措置だったといえます。
本体のオムニバス指令(2026年2月発効)
第二段階が、中身を実際に変える本体のオムニバス指令です。欧州委員会の2025年2月の提案は、同年12月の合意を経て、2026年2月24日に理事会が採択。2月26日にEU官報で公表され、3月18日に発効。
この本体指令で、CSRDやCSDDDの対象企業や要件が、具体的に絞り込まれます。「時間を止める」段階から、「中身を軽くする」段階へ。2段構えで、EUの簡素化は進んだのです。
CSRDはこう変わる
簡素化の影響が最も大きいのが、開示指令のCSRDです。対象企業と、開示する項目の両面で、大幅な絞り込みが行われました。
CSRDはこう変わる
対象も開示項目も大幅に絞り込み
対象企業の絞り込み
従業員1000人超
&売上4.5億ユーロ超
EU域内企業の基準。第三国企業はEU親会社の売上4.5億ユーロ超+子会社・支店2億ユーロ超
開示項目(ESRS)の削減
1,073 → 320
データ項目を約7割削減。ダブルマテリアリティのガイダンスも明確化
初回適用は2027年1月1日以降に始まる会計年度から。第1波企業は2025・2026年の報告を免除する加盟国オプションあり。
出典:欧州委員会をもとにgreenote作成
対象を従業員1000人超・売上4.5億ユーロ超に絞る
最大の変更は、対象企業の絞り込みです。オムニバス指令により、CSRDの対象は、EU域内では従業員1000人超かつ純売上高4.5億ユーロ超の企業に限定されました。これにより、報告義務を負う企業の数は大幅に減ります。
第三国、つまり非EUの企業についても基準が見直されました。EU域内の親会社の純売上高4.5億ユーロ超、かつ子会社・支店の売上高2億ユーロ超、といった条件です。中堅・中小まで広く対象としていた当初案に比べ、大企業に絞る方向へと大きく転換したのです。
ESRSのデータ項目を1073から320へ
もう一つの柱が、開示項目の削減です。CSRDの具体的な開示基準であるESRSは、もともと膨大なデータ項目を求めていました。その数、1073。これが、約7割削減され、320項目にまで絞られます。
あわせて、ダブルマテリアリティ(二重重要性)のガイダンスも明確化。判断に迷いやすかった点を整理し、過度なコストや労力がかかる場合の柔軟性も持たせています。二重重要性の考え方はダブルマテリアリティとはもあわせてご覧ください。
適用は2027年から
これらの新しいルールは、いつから効くのでしょうか。加盟国は、本体指令を12か月以内に国内法へ反映します。そのうえで、初回の適用は2027年1月1日以降に始まる会計年度から、とされています。
加えて、経過措置も用意。すでに報告を始めていた「第1波」の企業について、2025年と2026年の報告義務を免除する選択肢を、各加盟国に認めています。混乱を避けつつ、段階的に新ルールへ移行する配慮だといえます。
CSDDDとタクソノミーの変更
簡素化は、人権・環境のデューデリジェンス指令CSDDDにも及びました。一方、タクソノミーは意外な結末を迎えます。
CSDDDとタクソノミーの変更
CSDDDは大幅緩和、タクソノミーは据え置き
■ CSDDD|大幅に緩和
対象 約7割減
従業員5000人超かつ売上15億ユーロ超に限定(非EUはEU売上15億ユーロ超)
移行計画 義務削除
パリ協定と整合した気候移行計画の作成義務をなくす
民事責任 削除
EU全域の民事責任制度を削除。国内法化2028年7月・適用2029年7月へ延期
■ EUタクソノミー|規則は据え置き
規則そのものは変更されず
欧州委員会は変更を提案したが、欧州議会と理事会が従わず据え置き。ただし「報告」は別途2025年の委任法で簡素化済み。
出典:欧州委員会・EU理事会をもとにgreenote作成
CSDDD|対象を約7割減、移行計画義務と民事責任を削除
CSDDD(企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令)も、大きく見直されました。まず対象が、EU域内では従業員5000人超かつ売上15億ユーロ超の企業に絞られます。非EU企業はEU域内売上15億ユーロ超が基準で、対象企業は約7割減るとされます。
実体的な要件も緩和。とりわけ大きいのが、パリ協定と整合した気候移行計画を策定する義務の削除です。さらに、EU全域で統一的に企業の責任を問う民事責任制度も削除。国内法化の期限は2028年7月26日、適用は2029年7月26日へと延期されています。当初の野心的な内容から、かなり実務寄りに後退した形です。
タクソノミー規則は据え置きに
一方、EUタクソノミーは意外な展開をたどります。欧州委員会は当初、タクソノミー規則の見直しも提案していました。ところが、欧州議会と理事会はこれに従わず、結果としてタクソノミー規則そのものは変更されずに据え置かれたのです。
ただし、これは「何も変わらない」という意味ではありません。タクソノミーの「報告」については、2025年に欧州委員会が採択した別の委任法によって、すでに大幅な簡素化が進められています。規則の枠組みは維持しつつ、報告の負担は別ルートで軽くする。そんな整理になっています。EUタクソノミーの基礎はEUタクソノミーとはもあわせてご覧ください。
日本企業への影響
EUの簡素化は、日本企業にも影響します。負担が軽くなる一方、押さえておくべき点もあります。
対象から外れる企業も
まず、朗報といえる面です。対象企業の絞り込みにより、これまでCSRDの対象になると見られていた日本企業の一部は、基準を下回って対象から外れる可能性があります。詳細なサステナビリティ報告の準備に追われていた企業にとっては、負担の軽減につながります。
ただし、安心しきるのは禁物です。EU域内に大きな売上を持つ企業は、第三国ルール(EU域内の親会社の売上4.5億ユーロ超など)により、引き続き対象となります。自社がどの基準に当てはまるのか。まずはそこを冷静に見極める必要があります。
簡素化は「後退」ではない
もう一つ、重要な視点があります。オムニバスは「簡素化」であって、「廃止」ではない、ということです。報告項目は減り、対象も絞られました。しかし、CSRDやダブルマテリアリティといった開示の骨格そのものは維持されています。
むしろ、項目が絞られたことで、本当に重要な情報に集中しやすくなったとも言えます。負担が減ったからやらなくてよい、ではありません。簡素化された枠組みの中で、自社にとって本質的なサステナビリティ情報をいかに開示するか。問われているのは、その姿勢です。EUの動きは、日本のSSBJなど世界の開示制度とも連動しており、引き続き目が離せません。
まとめ|オムニバスは「簡素化、しかし不変の骨格」
EUオムニバスは、急拡大したサステナビリティ規制を、現実的な水準へと調整する試みです。最後に、要点を振り返りましょう。
- EUオムニバスとは、CSRD・CSDDD・EUタクソノミーなどを一括で簡素化するパッケージ。2026年2月発効。ねらいは報告負担の軽減とEUの競争力強化
- 簡素化は2段構え。「ストップ・ザ・クロック」で適用を延期し、本体指令で中身を簡素化
- CSRDは対象を従業員1000人超・売上4.5億ユーロ超に絞り、ESRSのデータ項目を1073→320へ約7割削減(適用2027年〜)
- CSDDDは対象約7割減、気候移行計画の作成義務と民事責任を削除。タクソノミー規則は据え置き(報告は別途簡素化済)
規制を緩めすぎれば実効性が失われ、厳しすぎれば企業が疲弊する。オムニバスは、そのバランスを探る現実解だといえます。簡素化されても、サステナビリティ開示の骨格は残りました。だからこそ、企業に問われるのは「やるか否か」ではなく「いかに本質的に取り組むか」です。EU・開示規制の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。
参考(出典):欧州委員会・EU理事会(オムニバス簡素化パッケージ/ストップ・ザ・クロック指令・CSRD・CSDDD・EUタクソノミー)ほか
出典・参考(一次情報)
※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年6月20日