空気中に薄く広がったCO2を、巨大な装置で直接すいこんで集める——。SFのようなこの技術が、脱炭素の最後の切り札の一つとして注目されています。それがDAC(直接空気回収)です。減らしきれないCO2や、すでに出してしまったCO2に向き合う技術として、期待が高まっている。
本記事では、DACとは何かを、できるだけかみ砕いて解説します。CCSとの違い、薄い大気からCO2を集める仕組み、回収したCO2の使い道、強みと難しさ、そして現在地までを順に見ていきましょう。DACが含まれる炭素除去(CDR)とはや、発生源から集めるCCS(CO2回収・貯留)とはとあわせて読むと、CO2をめぐる技術の全体像が見えてきます。
≡この記事の目次
DAC(直接空気回収)とは
まず、DACをひとことで整理します。「空気中に薄く広がったCO2を、直接つかまえて集める技術」という発想から入りましょう。
DACをひとことで言うと
DAC(Direct Air Capture)とは、その名のとおり、大気中から直接CO2を回収する技術です。私たちのまわりの空気には、CO2がごくわずかに含まれている。その空気を装置に通し、CO2だけを選んで集めるのがDACです。
ポイントは、特定の工場や発電所ではなく、「どこの空気からでも」集められる点。すでに大気に放出されてしまったCO2に、直接アプローチできる数少ない技術。減らす努力だけでは追いつかない部分を補う、いわば「あとから回収する」発想なのです。
CCSとの違い――発生源か、大気か
DACを理解する近道が、CCSとの比較です。CCS(CO2回収・貯留)とはは、火力発電所や工場の煙突など、CO2が濃く含まれる「発生源」から回収します。出てくる場所で、濃いうちにつかまえるイメージです。
これに対しDACは、CO2が約0.04%(およそ400ppm)と、ごく薄い「大気そのもの」から集めます。同じCO2回収でも、濃い発生源から集めるCCSと、薄い大気から集めるDACでは、難しさがまるで違う。薄いCO2をかき集めるDACは、技術的なハードルもコストも高くなる——。ここが、両者の決定的な分かれ目です。
仕組み――薄い大気からCO2をつかまえる
DACの肝は、ごく薄い大気からどうやってCO2だけを集めるか、にあります。基本の流れを見ていきます。
どこからCO2を集めるか
CCSとDACの回収する場所の違い
CCS
CO2が濃い(集めやすい)
工場や発電所の煙突など発生源から回収する。
DAC
約0.04%とごく薄い(集めにくい)
大気そのものから回収する。発生源を選ばない。
発生源を選ばないのがDACの強み。ただし薄いぶん難しく、コストも高い。
出典:資源エネルギー庁・NEDO・IEAの公開情報をもとにgreenote作成
ファンと吸収材で集める
DACの第一歩は、大量の空気を取り込むことです。大型のファンで外気を装置に送り込み、その空気を、CO2を捕まえる吸収材に通します。
吸収材には、大きく二つのタイプ。一つは、CO2を吸う化学吸収液を使う方式(液系)。もう一つは、表面にCO2がくっつく固体の吸着材(アミン系などのソルベント)を使う方式です。空気がこれらを通り抜けるあいだに、CO2だけが吸収材につかまり、残りの空気は外へ戻ります。薄い大気からCO2をこし取る、いわばフィルターのような役割です。
熱で取り出して濃縮する
CO2を捕まえただけでは、まだ使えません。次に、吸収材からCO2を取り出して、濃縮する工程に移ります。ここで活躍するのが「熱」です。
CO2を吸った吸収材に熱などを加えると、つかまえていたCO2が放出されます。これを集めれば、薄かったCO2が、濃い純粋なCO2として手に入る。CO2を手放した吸収材は、再び空気からCO2を集めるのに使えます。この「吸って・温めて・取り出す」サイクルをくり返すわけです。なお、吸収材を再生するこの熱エネルギーが、DACのコストとCO2排出を左右する重要なポイント。
回収したCO2をどうするのか
DACで集めたCO2は、その後の使い道で意味が変わります。大きく「ためる」と「使う」の2つに分かれます。
集めたCO2は、ためるか・使うか
DACで回収したCO2の2つの道
DACで回収したCO2
▼
地中に貯留する=DACCS
地中に閉じ込めて大気から取り除く。永続的な炭素除去(ネガティブエミッション)になりうる。
資源として使う=カーボンリサイクル
合成燃料や化学品、コンクリートなどの原料に使う。
貯留すれば大気のCO2を正味で減らせる。利用は使い方しだいです。
出典:資源エネルギー庁・NEDOの公開情報をもとにgreenote作成
地中に貯留する――DACCS(永続的な除去)
一つめの道が、回収したCO2を地中に閉じ込める貯留です。DACと貯留を組み合わせたものは、DACCSと呼ばれます。大気から集めたCO2を地中に固定するため、大気中のCO2を正味で減らす「炭素除去(ネガティブエミッション)」になりえます。
これは、炭素除去(CDR)とはの有力な方法の一つです。植林などと違い、土地をあまり使わず、除去した量を計測しやすいのが特徴。減らしきれない排出を打ち消したり、過去に出したCO2を取り除いたりする手段として期待されています。
資源として使う――カーボンリサイクル
もう一つの道が、回収したCO2を資源として使うことです。集めたCO2を、合成燃料や化学品、コンクリートなどの原料に活用します。これは、カーボンリサイクル(CO2の利用)とはの発想そのものです。
ただし注意したいのは、使い方によって脱炭素効果が変わる点です。CO2を燃料にして燃やせば再び大気に戻るため、長期の除去にはなりません。大気からCO2を「減らす」ことを目的とするなら、地中に貯留するDACCSのほうが効果は確かです。集めたCO2をどうするかで、DACの意味は大きく変わる。
強みと、なぜ難しいのか
DACには、ほかの方法にない強みがある一方で、「薄い大気から集める」ことに伴う根本的な難しさも。
DACの強みと、難しさ
場所を選ばない一方、薄さゆえの壁
強み
発生源に縛られず、設置場所を選ばない
必要な土地が比較的小さい
回収した量を計測しやすい
貯留すれば永続性が高い
課題
ごく薄い大気から集めるため、大量の空気処理が必要
エネルギー消費とコストが大きい
CO2を1トン集めるコストが依然高い
動かすエネルギーが化石燃料由来では本末転倒
再エネなどクリーンなエネルギーで動かすことが大前提です。
出典:IEA・NEDOの公開情報をもとにgreenote作成
場所を選ばず、計測しやすい
DACの最大の強みは、設置場所を選ばないことです。発生源のそばに置く必要がないため、CO2を貯留できる場所や、再エネが豊富な場所など、都合のよい立地に建てられます。植林のように広大な土地も要りません。
加えて、回収した量を計測しやすい点も重要です。装置が集めたCO2の量は、はっきり数えられます。「どれだけ大気からCO2を取り除いたか」を証明しやすいため、炭素除去の信頼性という観点で評価されています。森林のように、吸収量の評価が難しい方法とは対照的です。
薄いがゆえのエネルギーとコスト
一方、根本的な課題が、「薄さ」から来るエネルギーとコストです。CO2が約0.04%しかない大気から集めるには、膨大な量の空気を処理しなければなりません。さらに、吸収材を温めてCO2を取り出すのにも、多くのエネルギーが要ります。
このため、CO2を1トン回収するコストは、依然として高いのが現状です。これを大きく下げることが、世界共通の目標です。そして決定的に重要なのが、動かすエネルギーの中身です。もし化石燃料由来のエネルギーでDACを動かせば、回収する以上にCO2を出してしまい、本末転倒になります。再生可能エネルギーなど、クリーンな熱・電力で動かすことが、DACの大前提なのです。
現在地と展望
DACは、まだ普及の入り口にある技術です。世界の先行事例と、これからの展望を見ていきます。
世界の先行と日本の動き
世界では、DACの実用化に挑む企業が現れました。代表格が、スイスのClimeworks(クライムワークス)です。同社は、再エネや地熱が豊富なアイスランドなどで施設を稼働させ、集めたCO2を地中に固定する取り組みを進めてきました。
こうした動きは、まだ実証から初期の商用へと移る段階。日本でも、大学や企業、国のプロジェクトを通じて、DACの研究開発が進められています。世界全体で見れば、DACで回収できる量は、排出量に比べればごくわずか。だからこそ、これからのスケール拡大とコスト低減が、大きなテーマ。
コスト低減と、削減を土台にした位置づけ
DACへの期待が高まる一方で、忘れてはならない大前提。それは、まず排出を減らすことが最優先だということです。DACは、再エネへの転換や省エネで減らしきれずに残るCO2や、過去に出してしまったCO2を補うための手段です。
「DACがあるから、減らさなくてよい」という発想は、本末転倒になりかねません。削減という土台があってこそ、DACは生きてきます。コストを下げ、クリーンなエネルギーで動かし、削減を補完する——。この位置づけを踏まえてはじめて、DACは脱炭素の頼れる切り札になりうるのです。
DACをどう捉えるか
DACは、大気に放出されてしまったCO2に直接アプローチできる、数少ない技術です。場所を選ばず、回収量を計測しやすいという強みを持ち、貯留と組み合わせれば(DACCS)、大気のCO2を正味で減らす炭素除去になります。一方で、薄い大気から集めるがゆえのエネルギーとコストという、重い課題も抱えています。
大切なのは、DACを「これさえあれば大丈夫」という魔法の技術と捉えるのではなく、「削減を土台に、減らしきれない分を補う、発展途上の切り札」として位置づけることでしょう。排出を減らし、減らせない分はCCSやDACで回収し、集めたCO2は貯留するか賢く使う。こうした技術を組み合わせて、ネットゼロへ近づいていきます。CO2をめぐる技術や脱炭素の全体像は炭素除去(CDR)とはもあわせてご覧ください。
空気からCO2を集めるという発想が、現実の技術になりつつある。コストという高い壁を越えられるか。DACの行方は、人類がCO2とどう向き合うかを映す、これからの重要なテーマなのです。なお本記事は、特定の技術・企業・金融商品への投資を推奨するものではなく、技術の現在地と展望を中立に整理したものです。
よくある質問(FAQ)
Q. DACとCCSは、何が違うのですか?
A. CO2を「どこから」集めるかが違います。CCSは、火力発電所や工場の煙突など、CO2が比較的高い濃度で含まれる発生源から回収します。これに対しDACは、CO2が約0.04%とごく薄い『大気そのもの』から集めます。発生源を選ばないのがDACの強みですが、薄いCO2を大量の空気から集めるため、技術的に難しく、コストやエネルギーが多くかかります。CCSの仕組みはCCSの解説もあわせてご覧ください。
Q. DACは、本当に脱炭素になるのですか?
A. 使い方とエネルギー源しだいです。DACで集めたCO2を地中に貯留すれば(DACCS)、大気からCO2を取り除く『炭素除去』になり、正味でCO2を減らせます。ただし、DACを動かすための熱や電気が化石燃料由来だと、回収する以上にCO2を出してしまい本末転倒です。再生可能エネルギーなどクリーンなエネルギーで動かすことが大前提になります。
Q. DACのコストは高いのですか? いつ普及しますか?
A. 現時点では、CO2を1トン回収するコストは高く、これを大きく下げることが世界共通の課題です。スイスのClimeworksがアイスランドなどで施設を稼働させるなど、世界では実証から初期の商用へと動き始めていますが、本格普及はこれからです。重要なのは、まず排出を減らすことが最優先で、DACは減らしきれない排出や過去の排出を補う手段だという位置づけです。本記事は特定の企業や時期を断定するものではありません。
最終更新日:2026年6月27日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。