毎年秋、世界のエネルギー関係者が固唾をのんで待つレポートがあります。IEA(国際エネルギー機関)が公表する「World Energy Outlook(WEO)」です。その2025年版が描いたのは、エネルギー安全保障が前面に出る不安定な世界と、静かに、しかし確実に進む「電化」の波でした。
World Energy Outlook 2025とは、IEAが世界のエネルギーの将来を、複数のシナリオで分析した旗艦レポートを指します。各国の政策や企業の戦略に大きな影響を与える、最も権威ある見通しの一つです。
本記事では、WEO 2025の位置づけから、3つのシナリオ、最大のメッセージである「電化の時代」、化石燃料と再エネ・原子力の見通し、そしてエネルギー安全保障と日本企業への示唆までを、公表数値を引用しながらわかりやすく解説します。なお本記事は、IEAのレポートをもとにgreenote編集部が独自に要約・解説したものです。
WEO 2025の3つのシナリオ
いずれも「予測」ではなく、選択の結果を探るシナリオ
現行政策シナリオ
すでに実施済みの政策のみを前提。慎重な見通し。化石燃料の需要が長く残る。
公表政策シナリオ
表明された政策・戦略文書も織り込む、中心的な見通し。本記事の数値の多くはこれ。
2050年ネットゼロ
2050年にエネルギー起源CO2を実質ゼロにする道筋を逆算で描く。
今回は表明目標の完全達成を描くAPSは見送られ、電力アクセス等の新シナリオACCESSが追加されました。
出典:IEA World Energy Outlook 2025
≡目次
- 1World Energy Outlook(WEO)2025とは|IEAの世界エネルギー見通し
- ►World Energy Outlookとは
- ►WEO 2025の背景|エネルギー安全保障が前面に
- ►「予測」ではなく「シナリオ」
- 23つのシナリオ|CPS・STEPS・NZE
- ►現行政策シナリオ(CPS)
- ►公表政策シナリオ(STEPS)
- ►2050年ネットゼロシナリオ(NZE)
- 3最大のメッセージ|「電化の時代(Age of Electricity)」
- ►電力需要は2035年までに約4割増
- ►AI・データセンターと冷房・EVが牽引
- ►送電網と蓄電池が追いつくか
- 4化石燃料と再エネ・原子力の行方
- ►石油・ガス・石炭|ピークの時期
- ►再生可能エネルギーは最速で成長
- ►原子力の復活とSMR
- 5エネルギー安全保障と日本・企業への示唆
- ►重要鉱物という新たな脆弱性
- ►需要の重心がインドなど新興国へ
- ►日本企業が押さえるべきポイント
- 6まとめ|WEO 2025は「電化」と「安全保障」の時代を映す
World Energy Outlook(WEO)2025とは|IEAの世界エネルギー見通し
まずは、WEOという言葉の意味と、2025年版が公表された背景を押さえましょう。ここを理解すると、報告書の数字の意味も見えてきます。
World Energy Outlookとは
World Energy Outlookは、IEA(国際エネルギー機関)が毎年公表する、世界のエネルギーに関する分析レポートです。石油・ガス・石炭から、再生可能エネルギー、電力、エネルギー投資まで、エネルギーの全領域をカバーする分析です。
最新かつ包括的なデータと、緻密なモデル分析にもとづく点が特徴です。各国政府の政策立案から、企業の投資判断まで、幅広く参照されています。エネルギーの「いま」と「これから」を読み解くうえで、避けて通れない基本文献といえます。
WEO 2025の背景|エネルギー安全保障が前面に
2025年版を貫くのが、エネルギー安全保障というテーマです。エネルギーは、経済と国家安全保障の中核へと位置づけが高まっています。従来の燃料供給リスクに加え、重要鉱物の供給制約や、電力インフラへのサイバー・気象リスクが重なってきました。
需要面では、世界はなおエネルギーを渇望しています。2024年には、石油・天然ガス・石炭の消費と原子力の発電量が、いずれも過去最高を記録しました。再生可能エネルギーも23年連続で導入記録を更新しています。同時に、2024年は観測史上最も暑い年で、世界の平均気温が産業革命前比で初めて1.5℃を超えた年でもありました。
「予測」ではなく「シナリオ」
ここで誤解してはいけないのが、WEOは唯一の未来を「予測」するものではない、という点です。エネルギーの将来に、単一の筋書きは存在しません。
だからこそWEOは、前提の異なる複数のシナリオを提示します。政策や技術、市場の最新データにもとづき、「こういう選択をすれば、こういう結果になりうる」を描く。読み手が、異なる道筋の意味を比べられるようにする。これがWEOの基本姿勢です。
3つのシナリオ|CPS・STEPS・NZE
WEO 2025は、3つの主要なシナリオを示します。それぞれの前提と位置づけを整理しましょう。
現行政策シナリオ(CPS)
CPS(Current Policies Scenario)は、すでに実施されている政策と規制のみを前提とするシナリオです。新しい技術の導入や普及について、慎重な見方をとる立場です。
いわば、「いまの延長線上」を描いたものです。脱炭素に向けた新たな上乗せがあまり進まない場合に、世界がどこへ向かうかを示します。後で見るように、このシナリオでは化石燃料の需要が長く残る見通しです。
公表政策シナリオ(STEPS)
STEPS(Stated Policies Scenario)は、すでに実施済みの政策に加え、正式に表明された政策や戦略文書も織り込むシナリオです。WEOの中心的な見通しと位置づけられます。
ただし、達成が宣言されただけの野心的な目標までは、織り込みません。あくまで「実現が見込まれる範囲」を描く、現実的なシナリオです。本記事で示す数値の多くも、このSTEPSにもとづきます。
2050年ネットゼロシナリオ(NZE)
NZE(Net Zero Emissions by 2050)は、2050年に世界のエネルギー起源CO2を実質ゼロにする道筋を描くシナリオです。前の2つと違い、目標から逆算する、規範的なアプローチです。
なお、WEO 2025では、各国の表明目標が完全に達成される前提のシナリオ(APS)は今回見送られました。代わりに、電力アクセスとクリーン調理の普及を描く新シナリオ(ACCESS)が加えられています。カーボンニュートラルの全体像は、関連記事のカーボンニュートラルとは|意味・脱炭素の取り組みと企業の進め方もあわせてご覧ください。
最大のメッセージ|「電化の時代(Age of Electricity)」
WEO 2025を貫く中心テーマが、「電化の時代」の到来です。電力需要の急増と、その担い手を見ていきましょう。
電力需要は2035年までに約4割増
電力は、現代経済の心臓部です。WEO 2025は、電力需要がエネルギー全体の伸びを大きく上回って増えると見ています。2035年までに、CPSとSTEPSのいずれでも約40%増、NZEでは50%超の増加が見込まれます。
この流れに、投資家はすでに反応しています。電力供給と電化への支出は、いまや世界のエネルギー投資の半分を占めるまでになりました。電力は最終エネルギー消費では21%にすぎませんが、経済の4割超を占める分野の主要なエネルギー源です。電力の安定・安価な供給が、これまで以上に重要になっているのです。
電力需要を押し上げる4つの要因
WEO 2025の中心テーマ「電化の時代」
電力需要 2035年までに約40%増
エネルギー全体の伸びを大きく上回る(NZEでは50%超)
AI・データセンター
2025年の投資5,800億ドルは、世界の石油供給投資5,400億ドルを上回る。
電気自動車(EV)
2025年に新車販売の25%超。普及が電力需要を押し上げる。
冷暖房(特に冷房)
所得向上と気温上昇で、エアコン需要が増加。
先端製造業など
電化された産業・家電が需要を底上げ。
電力供給と電化への投資は、すでに世界のエネルギー投資の半分を占めています。
出典:IEA World Energy Outlook 2025
AI・データセンターと冷房・EVが牽引
需要を押し上げる主役は、いくつかあります。象徴的なのが、AIとデータセンターです。データセンターへの投資は2025年に5,800億ドルに達する見込みで、これは世界の石油供給への投資(5,400億ドル)を上回ります。「データは新たな石油」という言葉を裏づける数字です。
ただし、データセンターの電力消費は2035年までに3倍になるものの、世界の電力需要の伸び全体では10%未満にとどまります。むしろ影響は地理的な集中にあり、今後10年の新規容量の85%超が、米国・中国・EUに集まると見られます。あわせて、所得の向上と気温上昇による冷房(エアコン)の需要増、そしてEVの普及も、電力需要を押し上げます。EVについては、関連記事のV2Gとは|EVを動く蓄電池に変える仕組みもあわせてご覧ください。
送電網と蓄電池が追いつくか
電化の時代の最大の課題が、送電網(グリッド)の整備の遅れです。発電への投資は2015年以降ほぼ70%増えて年1兆ドルに達した一方、送電網への投資は年4,000億ドルと、その半分未満のペースにとどまります。
この遅れが、送電混雑や、新たな電源・需要の接続の遅れ、電力価格の上昇を招いています。太陽光や風力の出力抑制も増えています。蓄電池の導入は2024年に75GW超まで伸び、リスクを一部和らげていますが、季節をまたぐ需給調整まではカバーしきれません。電力系統の仕組みは、関連記事の電力系統とは|発電から送配電・小売の仕組みと同時同量、特集の全体像は電力システムまるわかりガイドもあわせてご覧ください。
化石燃料と再エネ・原子力の行方
エネルギーミックスの見通しは、シナリオによって分かれます。石油・ガス・石炭と、再エネ・原子力の動向を整理しましょう。
石油・ガス・石炭|ピークの時期
化石燃料の見通しは、シナリオで大きく異なります。STEPSでは、石炭がピークを迎え、石油も2030年頃に約1億200万バレル/日で頭打ちになると見られます。EVの普及がその背景です。EVは2025年に世界の新車販売の25%超を占め、STEPSでは2035年に50%超へ高まる見込みです。
一方、天然ガスは、昨年の見通しと異なり、2030年代も増加が続くと修正されました。米国の政策変更と、ガス価格の低下が理由です。2030年までに、世界のLNG輸出能力は年3億立方メートル(約50%増)の新規稼働が予定されています。その半分は米国、2割はカタールが担います。石炭の行方は、中国・インド・東南アジアといったアジアの新興国の電力需要次第です。
エネルギー源の見通し(STEPS)
化石燃料はピークへ、再エネは最速で成長
2030年までにLNG輸出能力は約50%増(年3億立方メートルの新規稼働予定)。
出典:IEA World Energy Outlook 2025(STEPS)
再生可能エネルギーは最速で成長
明るい見通しもあります。再生可能エネルギーは、すべてのシナリオで最も速く成長するエネルギー源とされ、太陽光発電(PV)が主導します。慎重なCPSでさえ、再エネはエネルギー需要の伸びの最大シェアを満たすのです。
背景には、需要の地理の変化もあります。2035年までに、世界のエネルギー消費の伸びの80%が、日射条件の良い地域で生じると見られます。太陽光と相性のよい地域で需要が伸びることが、再エネの普及をさらに後押しします。再エネ電力の調達手法は、関連記事の再生可能エネルギー調達とPPAとは|調達手法の種類と企業の選び方もあわせてご覧ください。
原子力の復活とSMR
もう一つの共通要素が、原子力の復活です。20年以上の停滞を経て、原子力への投資が再び増えています。40を超える国が原子力を戦略に位置づけ、新たなプロジェクトを進める段階です。
世界では70GWを超える原子力が建設中で、これは過去30年で最も高い水準です。日本での再稼働も、その一例です。注目されるのが、小型モジュール炉(SMR)です。データセンターの電源として、約30GW分のSMRに関する合意や関心が示されています。2035年までに、世界の原子力容量は3分の1以上増える見込みです。
エネルギー安全保障と日本・企業への示唆
WEO 2025は、エネルギー安全保障の新しい姿を描きます。重要鉱物のリスクや、日本企業への示唆を整理します。
重要鉱物という新たな脆弱性
エネルギー安全保障といえば、かつては石油・ガスの供給が中心でした。WEO 2025が強調するのは、そこに重要鉱物(クリティカルミネラル)という新たな脆弱性が加わった点です。
その核心は、供給の集中です。エネルギー関連の戦略鉱物20種のうち、19種で単一の国が支配的な精錬国であり、平均シェアは約70%に達します。これらは送電網・蓄電池・EVに不可欠であると同時に、AIチップや防衛にも使われます。2025年11月時点で、戦略鉱物の半数超が何らかの輸出規制下に置かれています。供給網の多様化が、いまや急務です。
エネルギー安全保障の新しい姿
重要鉱物の集中と、需要の重心シフト
重要鉱物という新たな脆弱性
戦略鉱物20種のうち19種で単一国が支配的(平均シェア約70%)送電網・蓄電池・EVに不可欠。2025年11月時点で半数超が輸出規制下。調達の多様化が急務。
需要の重心がシフト
エネルギー需要の伸びの中心が、中国 → インド・東南アジア・中東など新興国へ。2035年までにエネルギー消費の伸びの80%が、日射条件の良い地域で生じる。
気象災害やサイバー攻撃で、近年は年に2億世帯超の電力供給が影響を受けた(送配電網が約85%の事象で被害)。
出典:IEA World Energy Outlook 2025
需要の重心がインドなど新興国へ
エネルギー市場の主役も、移り変わっています。これまで需要の伸びを牽引してきた中国に代わり、いまその役割を引き継ぐのが、インドや東南アジア、中東、中南米、アフリカといった新興国です。
たとえば、今後2035年までの世界の自動車保有台数の伸びの半分は、中国を除く新興国から生じます。エネルギーシステムの重心が、確実に移動しているのです。成長市場がどこにあるかは、企業が事業戦略を描くうえで見逃せない論点です。
日本企業が押さえるべきポイント
WEO 2025から、日本企業が読み取るべき示唆は3つあります。第一に、電化の加速です。電力の安定・安価な供給と、再エネ・系統・蓄電池への投資の重要性が、いっそう高まるはずです。
第二に、重要鉱物のリスクです。蓄電池やEVに欠かせない鉱物の調達は、特定国への集中という脆弱性を抱えます。調達先の多様化やリサイクルが、経営課題となります。第三に、需要の重心シフトです。成長の中心が新興国へ移るなか、その動向を見据えた事業ポートフォリオが問われます。エネルギーをめぐるリスクと機会は、ESG経営の中核に直結しています。
まとめ|WEO 2025は「電化」と「安全保障」の時代を映す
World Energy Outlook 2025は、不安定な世界で進む電化と、高まるエネルギー安全保障の重要性を描きました。最後に、要点を振り返ります。
- WEOは、IEAが毎年公表する世界エネルギー見通しの旗艦レポートで、CPS・STEPS・NZEの3シナリオで将来を描く(予測ではない)
- 最大のメッセージは「電化の時代」で、電力需要は2035年までに約40%増。AI・データセンター・冷房・EVが牽引する
- 課題は送電網投資の遅れ(発電1兆ドルに対し系統4,000億ドル)。蓄電池の拡大が一部を補う
- STEPSでは石炭ピーク・石油は2030年頃頭打ち・ガスは2030年代も増加。再エネが最速で成長し、原子力も復活する
- 重要鉱物の供給集中(戦略鉱物20種の19種で単一国が約70%)が新たな脆弱性。需要の重心はインドなど新興国へ移る
エネルギーの未来は、一本道ではありません。しかし「電化」と「安全保障」という2つの大きな潮流は、どのシナリオにも共通します。自社のエネルギー戦略を、この大きな流れのなかで捉え直すこと。それが、これからの企業価値を左右します。電力・エネルギーの全体像は電力システムまるわかりガイド、ESG・サステナビリティの全体像はESGとは|意味・E/S/G・情報開示・投資まで完全ガイドもあわせてご覧ください。
なお、本記事はIEA「World Energy Outlook 2025」の公表内容をもとに、greenote編集部が独自に要約・解説したものです。数値や見通しの詳細は、IEAの原典をご確認ください。
出典・参考(一次情報)
※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
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greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年6月20日