最終更新日:2026年8月4日
日本のすぐ隣で、よく似た電力事情を抱える国があります。韓国です。資源に乏しく輸入に頼り、石炭・原子力・LNG(天然ガス)を三本柱とする電源構成は、日本と驚くほど似ています。一方で、再生可能エネルギーの比率は主要先進国のなかでも低い部類にとどまり、揺れる原子力政策や、輸出企業のRE100調達という悩みを抱えています。
この記事は、世界の電力事情シリーズの国別深掘り編(韓国)です。東アジア・オセアニアの電力事情で見た東アジアの一員として、電源構成の推移、揺れる原子力政策、再エネの出遅れとRE100、独立した半島の系統、電力市場と外資、そして日本への示唆までを、数値とともに整理します。日本と最も似た構造を持つ国として、比較の視点で読むと発見が多いはずです。原子力大国のフランスの電力事情や再エネ先進国のドイツの電力事情とも対比してご覧ください。
※本記事は2026年時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。電源構成の数値や政策は年・統計・情勢によって変わるため、最新・確定の内容は各公式情報をご確認ください。特定の国・企業への投資を推奨するものではありません。
この記事の目次
韓国の電力事情とは|日本に似た三本柱
石炭・原子力・LNGの三本柱
韓国の電力を理解する出発点は、「三本柱」です。石炭、原子力、そしてLNG(液化天然ガスを燃やす火力)が、それぞれ発電の3〜4割ずつを担い、電力の大半を支えています。資源に乏しく、石炭もLNGも輸入に頼る点は、日本とそっくりです。手堅く大量の電気をつくれるこの三本柱で、韓国は産業と暮らしの電力をまかなってきました。
3つの特徴
特徴は上図の3つです。石炭・原子力・LNGの三本柱という日本に似た構造。太陽光・風力の比率がOECDでも低い部類にとどまる再エネの出遅れ。そして、脱原発から原発回帰へと揺れる原子力政策と、輸出企業を悩ませるRE100の圧力です。似た条件の隣国がどう歩むかは、日本にとっても他人事ではありません(IEA「Electricity 2026」)。
電源構成の今と昔|化石と原子力が中心
2010年と近年の比較
韓国の電源構成を、2010年ごろと近年で並べてみましょう(概数)。
概数(年により変動)。石炭・原子力・LNG(ガス)の三本柱。再エネは主要先進国で低い部類。出典:KPX・KEPCO・Ember等の公開データをもとにgreenote作成
大きな構図は、10数年を経ても大きくは変わっていません。石炭(濃いグレー)・原子力(紫)・LNG(薄いグレー)の三本柱が、いまも電力の中心です。変化としては、石炭の比率がやや下がり、LNGと太陽光(黄)がその分を埋めた程度。太陽光は増えてきたものの、まだ1割に届かず、風力(緑)はごくわずか。再エネの拡大ペースは、他の先進国に比べてゆるやかです。
電源別シェアの推移
時系列で見ると、その特徴がよくわかります。まず、原子力と再エネの推移です。
概数(年により変動)。残りは石炭・LNG。原子力は政策で増減。出典:KPX・KEPCO・Ember等をもとにgreenote作成
注目は原子力です。3割前後で推移していますが、途中でいったん下がり、また戻っています。これは後述する政策の転換を反映したもの。一方、再エネは緩やかに増えてはいるものの、原子力に遠く及びません。「脱炭素電源は原子力が中心で、再エネは伸び悩む」——これが韓国の特徴です。次に、電源別に推移を重ねてみます。
概数(年により変動/各年の合計はおおむね100%)。出典:KPX・KEPCO・Ember等の公開データをもとにgreenote作成
石炭が緩やかに下がり、LNGと太陽光がじわじわ増えているのが読み取れます。三本柱の構造を保ちながら、少しずつ石炭を減らし再エネを足している——変化はあるものの、そのスピードは控えめです(いずれも概数)。
揺れる原子力政策|脱原発から原発回帰へ
韓国の電力政策で最も注目されるのが、原子力をめぐる「揺れ」です。韓国は早くから原子力発電を導入し、技術輸出も行う原子力先進国です。ところが近年、政権交代のたびに方針が大きく変わってきました。
ムン・ジェイン政権(2017〜2022年)は、段階的な「脱原発」を掲げ、新規建設の見直しや古い原発の閉鎖を進めました。ところが続くユン・ソンニョル政権は一転して「原発回帰」を打ち出し、原子力の活用拡大と輸出推進へと舵を切りました。脱炭素の主力を原子力に置くのか、再エネに置くのか——この綱引きが、政権ごとに繰り返されています。原子力を低炭素の柱とする点ではフランスの電力事情に近く、脱原発したドイツの電力事情とは対照的です。
再エネの出遅れとRE100|輸出企業の悩み
韓国のもう一つの大きな課題が、再生可能エネルギーの出遅れです。太陽光・風力の比率は、主要先進国のなかでも最も低い部類にとどまります。国土が狭く平地が少ないため適地が限られること、系統접続や許認可の壁があることなどが背景です。
これが深刻な問題になっているのが、輸出企業です。サムスンやSKハイニックス、現代自動車といった韓国の主要企業は、世界の取引先からRE100(事業電力を100%再エネに)への対応を強く求められています。ところが国内で再エネ電気を確保しづらいため、脱炭素対応が競争力に直結する悩みとなっています。企業が再エネを直接買えるコーポレートPPAの制度整備や、再エネ供給そのものの拡大が急務です。
課題
再エネの出遅れ。国土が狭く適地が限られ、系統や許認可の壁もあり、太陽光・風力の比率が低い。
対応
大型の洋上風力の開発、系統の増強、許認可の迅速化を進める。
課題
RE100と輸出競争力。半導体など輸出企業が再エネ電気を確保しづらく、取引先の要請に応えにくい。
対応
企業が再エネを直接買えるPPAの制度整備や、再エネ供給の拡大を進める。
課題
独立した半島の系統。他国と電力網がつながらず、変動を融通できない実質的な「島」。
対応
蓄電池や需要側の調整、国内系統の増強で変動に備える。
独立した半島の系統|エネルギーの島
韓国の電力システムには、地理ならではの制約があります。朝鮮半島に位置しながら、北側は軍事境界線で遮られ、電力網が他国とまったくつながっていないのです。ヨーロッパのように隣国と電気を融通し合うことができず、実質的には「島」と同じ独立した系統になっています。
これは、変動する再エネを増やすうえで大きなハンディです。太陽光や風力が余ったり足りなかったりしても、国外へ逃がしたり借りたりできません。すべてを国内で調整する必要があり、蓄電池や需要側の工夫がいっそう重要になります。この「エネルギーの島」という条件は、同じく独立系統の日本と共通する悩みです。
電力市場と外資|KEPCOと洋上風力
KEPCOと市場
韓国の電力は、国営のKEPCO(韓国電力公社)を中心に運営されています。発電子会社を持ち、送配電と小売もほぼ独占的に担う巨大企業です。ただ近年は、燃料価格の高騰に対して電気料金の引き上げが抑えられた結果、KEPCOが巨額の赤字を抱える問題も生じました。料金や市場のあり方の見直しが、重要な論点になっています。
参入機会
- 大型の洋上風力プロジェクトの開発余地
- RE100を掲げる輸出企業向けのPPA需要
- 脱炭素技術・水素・系統関連の機会
留意点
- KEPCO中心の市場と料金規制
- 立地・系統・許認可の制約
- 政策変更(原子力・再エネ目標)のリスク
制度や開放度は年により変わります。最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
外資と日本企業
再エネ、とくに大型の洋上風力には、外資の参入余地があります。RE100向けのPPA需要も、事業機会として注目されています。日本の企業も、韓国の洋上風力や、脱炭素技術・グリーン水素などの分野で関わりが模索されています。似た課題を抱える隣国同士として、協力と競争の両面があります。各社の個別戦略は変化するため、最新は各社の開示をご確認ください。
日本との比較|違いと示唆
韓国と日本を、電力の面で並べてみましょう。これほど条件が似た国は、このシリーズでも韓国だけです。
| 観点 | 韓国 | 日本 |
|---|---|---|
| 電源構成 | 石炭・原子力・LNGの三本柱(似た構成) | 火力中心+原子力の再稼働 |
| 再エネ比率 | 1割弱(OECDでも低い部類) | 2割強 |
| 原子力 | 拡大方針(政策が転換) | 再稼働を進める |
| 系統 | 独立(半島=実質的な島) | 独立系統(島国) |
| RE100 | 輸出企業の調達難が課題 | 拡大途上 |
見てのとおり、両国は驚くほど似ています。資源に乏しく輸入に頼り、石炭・原子力・LNGを柱とし、他国とつながらない独立系統で、再エネの拡大とRE100対応に苦しむ——課題までそっくりです。だからこそ、韓国の動きは日本にとって最も参考になる「鏡」です。原子力をどう位置づけるか、洋上風力をどう伸ばすか、輸出企業の再エネ調達をどう支えるか。隣国の試行錯誤は、ネットゼロをめざす日本の実務に直接のヒントを与えてくれます。
まとめ|似た者同士が抱える課題
韓国は、石炭・原子力・LNGの三本柱で電力を支える、日本によく似た国です。再エネの出遅れ、揺れる原子力政策、独立した半島の系統、輸出企業のRE100対応——その課題の多くを、日本も共有しています。
似た条件の隣国が、原子力と再エネのバランスをどう取り、洋上風力や系統をどう整えていくのか。韓国の選択は、日本の脱炭素を考えるうえで格好の比較対象です。東アジア全体の文脈は東アジア・オセアニアの電力事情、対照的な選択をしたフランスの電力事情・ドイツの電力事情ともあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 韓国の電力の特徴は何ですか?
石炭・原子力・LNG(天然ガス)を三本柱とする、日本によく似た電源構成です。資源に乏しく輸入に頼る一方、再生可能エネルギーの比率は主要先進国で低い部類にとどまり、揺れる原子力政策や輸出企業のRE100対応という課題を抱えています。
Q. 韓国の電源構成はどうなっていますか?
石炭が約3割、原子力が約3割、LNGが約3割弱と、この三本柱で大半を占めます。太陽光は近年増えて1割弱、風力はごくわずかです。石炭の比率が緩やかに下がり、LNGと太陽光が増えてきました(いずれも概数・年により変動)。
Q. 韓国の原子力政策はなぜ揺れているのですか?
政権交代のたびに方針が変わるためです。ムン・ジェイン政権は段階的な脱原発を進めましたが、続くユン・ソンニョル政権は原発回帰に転じ、原子力の活用拡大と輸出推進へ舵を切りました。脱炭素の主力を原子力に置くか再エネに置くかの綱引きが続いています。
Q. 韓国はなぜ再エネが少ないのですか?
国土が狭く平地が限られ適地が少ないこと、系統接続や許認可の壁があることなどが背景です。太陽光・風力の比率はOECDでも低い部類にとどまり、拡大ペースは他の先進国に比べてゆるやかです。
Q. 韓国企業のRE100対応が問題なのはなぜですか?
サムスンやSKハイニックスなどの輸出企業が、世界の取引先からRE100(事業電力を100%再エネに)を求められる一方、国内で再エネ電気を確保しづらいためです。脱炭素対応が競争力に直結するため、PPA制度の整備や再エネ拡大が急務となっています。
Q. 韓国の電力網は他国とつながっていますか?
いいえ。朝鮮半島に位置しますが北側は軍事境界線で遮られ、電力網は他国とつながっていません。実質的に「島」と同じ独立系統で、変動する再エネを国外と融通できないため、蓄電や需要側の調整が重要になります。
Q. 韓国と日本の電力はどこが似ていますか?
資源に乏しく輸入に頼る点、石炭・原子力・LNGを柱とする点、他国とつながらない独立系統である点、そして再エネ拡大とRE100対応に苦しむ点まで、驚くほど似ています。このシリーズで日本に最も近い国です。
Q. 韓国から日本が学べることは何ですか?
条件が非常に似ているため、韓国は日本にとって格好の「鏡」です。原子力の位置づけ、洋上風力の伸ばし方、輸出企業の再エネ調達の支え方など、隣国の試行錯誤が日本の実務に直接のヒントを与えてくれます。
出典・参考資料(一次情報)
※ 本記事は上記の公表情報をもとにgreenote編集部が整理した一般的な解説です。電源構成・政策は年・統計・情勢で変わるため、最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年8月15日