最終更新日:2026年8月4日
フライパンのコーティングから防水衣料、半導体の製造まで——私たちの暮らしと産業を支えてきたPFAS(有機フッ素化合物)。その便利さの一方で、自然界でほとんど分解されない性質から「永遠の化学物質(forever chemicals)」とも呼ばれ、世界で規制が強まっています。
この記事では、PFASとは何か、なぜ問題視されるのか、EU・米国・日本の規制動向、そして企業やサプライチェーンへの影響と備えまでを、中立的に整理します。
※本記事は2026年時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。PFASの規制は各国で策定・見直しが進む途上であり、対象物質・基準値・時期は変わりうるため、最新・確定の内容は各公式情報をご確認ください。
この記事の目次
PFAS(有機フッ素化合物)とは|「永遠の化学物質」と呼ばれる理由
PFAS(Per- and Polyfluoroalkyl Substances=有機フッ素化合物)は、炭素とフッ素が結びついた人工の化学物質の総称です。その種類は数千〜1万以上ともいわれ、代表的なものにPFOS・PFOAがあります。
炭素とフッ素の結合は非常に強く、熱や薬品に強く、水も油もはじきます。この優れた性質ゆえに、調理器具のコーティング、防水・撥水加工、泡消火剤、半導体製造など、幅広い用途で使われてきました。一方で、その結合の強さは「分解されにくさ」の裏返しでもあります。
なぜ問題視されるのか|健康・環境への懸念
分解されにくく蓄積しやすい
PFASが問題視される最大の理由は、上図のとおり分解されにくく、環境や体内に蓄積しやすいことです。使われたPFASは、水や土壌を通じて長く環境中に残り、水リスク(水資源のリスク)の観点でも懸念されています。
健康影響と国際的な規制
一部のPFAS(PFOSやPFOAなど)については、健康への影響が懸念されると指摘され、国際的な条約(ストックホルム条約)でも製造・使用が段階的に制限されてきました。各地で水道水や地下水からの検出が報じられ、社会的な関心が高まっています。なお、物質ごとに性質やリスクの評価は異なり、研究が続いている点には留意が必要です。
世界の規制動向|EUと米国の違い
規制の考え方は、地域によって特徴があります。とくにEUと米国で、アプローチの違いが見られます。
EU
グループ単位で広く制限
- 5カ国がPFAS全体を対象とする広範な制限を提案(2023年)
- 個別物質でなくグループ規制の方向
- ECHA(欧州化学品庁)で審議が進行中
米国
水と汚染責任から規制
- EPAが2024年、飲料水中のPFASに法的拘束力のある基準値を設定したとされる
- 一部PFASを有害物質(CERCLA)に指定と報じられた
- 州ごとの規制や訴訟の動きも活発
規制はいずれも策定・移行の途上で、対象物質・基準値・時期は変わりうる点に留意が必要です。
EUは、個別物質を一つずつ規制するのでは追いつかないとして、PFAS全体をまとめて制限する方向を探っています。米国は、飲料水の安全と汚染の責任という切り口が中心です。いずれもCSDDDのような企業の義務や、サプライチェーン管理と関わってきます。
日本の状況|水質の暫定目標値と対応
水質の暫定目標値(50ng/L)
日本でも対応が進んでいます。水道水や公共用水域・地下水について、PFOSとPFOAの合計で1リットルあたり50ナノグラムという暫定的な目標値が示され、全国で水質の調査やモニタリングが行われてきました。
環境省などは、PFASに関する情報整理や対応の手引きづくりを進めており、目標値や評価のあり方は最新の科学的知見をふまえて見直しが検討されています。各地で検出事例が報じられ、自治体や企業の関心も高まっています。
企業・サプライチェーンへの影響と備え
企業にとってPFASは、規制・調達・訴訟・開示にまたがるリスクです。上表のように、リスクと備えをセットで考えるのが実務的です。
リスク
規制対応。使用・含有が規制対象になり、製品や製造工程の見直しが必要になる。
備え
自社・製品での使用実態を把握し、代替材料への切替を計画的に進める。
リスク
サプライチェーン。調達品にPFASが含まれ、把握が難しい。
備え
責任ある調達の枠組みで、取引先の使用状況・含有情報を確認する。
リスク
訴訟・レピュテーション。水質汚染などをめぐる責任が問われる(海外では巨額和解の例も)。
備え
情報を開示し、誠実に対応する。化学物質管理をESG開示・重要課題に位置づける。
まず取り組むべきは、自社の製品・製造工程でのPFASの使用実態を「見える化」することです。そのうえで、責任ある調達の枠組みで取引先の状況を確認し、代替材料への切替やサーキュラーエコノミーの視点も取り入れながら、段階的に低減を進めます。化学物質の管理は、マテリアリティの特定やESG情報開示のなかで扱うべき重要テーマになりつつあります。
まとめ|「使う前提」から「減らす前提」へ
PFASは、その便利さゆえに「使う前提」で社会に広がってきました。しかし、分解されにくいという性質が明らかになるにつれ、世界の規制は「使用を減らす前提」へと軸足を移しつつあります。
企業に求められるのは、規制強化を待つのではなく、使用実態の把握・代替の検討・サプライチェーンの確認・誠実な開示を先んじて進めることです。それは、水リスクやネイチャーポジティブといった環境課題への責任を果たすことにもつながります。
よくある質問(FAQ)
Q. PFAS(有機フッ素化合物)とは何ですか?
炭素とフッ素が結びついた人工の化学物質の総称で、種類は数千〜1万以上ともいわれます。代表例はPFOS・PFOAです。水も油もはじき、熱や薬品に強い性質から、調理器具・防水加工・泡消火剤・半導体製造など幅広く使われてきました。
Q. なぜ「永遠の化学物質」と呼ばれるのですか?
炭素とフッ素の結合が非常に強く、自然界でほとんど分解されないためです。環境中や生物・人の体内に長く残り、蓄積しやすいことから「forever chemicals(永遠の化学物質)」と呼ばれます。
Q. PFASは何に使われてきたのですか?
フライパンなどのコーティング、防水・撥水衣料、泡消火剤、半導体や電子部品の製造など、日用品から産業まで幅広い用途で使われてきました。撥水・撥油・耐熱性といった性質が重宝されたためです。
Q. なぜ問題視されているのですか?
分解されにくく環境や体内に蓄積しやすいこと、一部のPFAS(PFOS・PFOA等)で健康影響の懸念が指摘されていることが理由です。水道水や地下水からの検出も各地で報じられています。物質ごとに評価は異なり、研究が続いています。
Q. EUと米国の規制はどう違いますか?
EUは5カ国がPFAS全体を対象とする広範な制限を提案(2023年)し、グループ単位での規制を探っています。米国は2024年に飲料水中のPFASへ法的拘束力のある基準値を設定したとされ、汚染の責任(有害物質指定)や訴訟の動きも活発です。いずれも移行途上で変わりうります。
Q. 日本ではどのような対応がとられていますか?
水道水や水環境について、PFOSとPFOAの合計で1リットルあたり50ナノグラムという暫定的な目標値が示され、全国で調査・モニタリングが行われてきました。環境省などが対応の手引きづくりを進め、目標値や評価は最新の知見をふまえて見直しが検討されています。
Q. 企業にとってのリスクは何ですか?
使用・含有が規制対象になることによる製品・工程の見直し、調達品にPFASが含まれるサプライチェーンリスク、水質汚染などをめぐる訴訟・レピュテーションリスク、開示要求への対応などが挙げられます。
Q. 企業はどう備えるべきですか?
まず自社の製品・製造工程でのPFASの使用実態を把握し、代替材料への切替を計画的に進めることです。責任ある調達で取引先の状況を確認し、化学物質の管理をESG開示やマテリアリティのなかに位置づけて、誠実に情報開示することが重要です。
出典・参考資料(一次情報)
- 環境省|PFAS(有機フッ素化合物)に関する情報
- US EPA|Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS)
- ECHA(欧州化学品庁)|Perfluoroalkyl chemicals (PFAS)
※ 本記事は上記の公表情報をもとにgreenote編集部が整理した一般的な解説です。PFASの規制・目標値は見直しが進む途上のため、最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
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サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年8月14日