CSDDDとは|EUのサステナビリティDD指令とオムニバス見直し・日本企業への影響

2026.06.15
海外規制

サステナビリティをめぐるEUの規制には、2つの顔があります。一つは「開示せよ」と求めるもの。もう一つは「行動せよ」と求めるものです。後者の代表が、CSDDD(企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令)です。情報を出すだけでなく、企業の振る舞いそのものを問う。そこに、この指令の重みがあります。

本記事では、CSDDDとは何かを整理したうえで、よく混同されるCSRDとの違い、デューデリジェンスの進め方、2025年のオムニバスによる見直し、そして日本企業への影響までを解説します。開示を求めるCSRDはCSRDとは|EUの開示指令とオムニバス簡素化もあわせてご覧ください。

目次

CSDDDとは|EUの人権・環境デューデリジェンス指令

サステナビリティ規制は、開示だけではありません。企業の行動そのものを問う規制も生まれました。それがCSDDDです。

バリューチェーンの負の影響に向き合う義務

CSDDDは、Corporate Sustainability Due Diligence Directive(企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令)の略称です。大企業に対し、自社や子会社、そしてバリューチェーン上の取引先における、人権や環境への負の影響に向き合う義務を課します。

ここでいうデューデリジェンス(DD)とは、負の影響を特定し、防止・軽減し、起きてしまったものを是正する、一連の取り組みを指します。たとえば、調達先で強制労働がないか、環境破壊が起きていないか。そうした問題に、企業が責任をもって対処することを求めるのです。

2024年採択、CSRDと並ぶEUの柱

CSDDDは、2024年にEUで正式に採択されました。サステナビリティ情報の開示を求めるCSRDと並んで、EUのサステナビリティ規制を支える、もう一本の柱です。

その土台にあるのは、国際的な規範です。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」や、OECDの多国籍企業行動指針。これらが示してきた人権・環境デューデリジェンスの考え方を、EUが法的な義務へと引き上げた。それがCSDDDだといえます。

CSRDとの違い|開示か、行為か

CSDDDは、よくCSRDと並べて語られます。けれども、その性格は大きく異なります。違いを押さえましょう。

CSRDとCSDDDの違い

EUサステナビリティ規制の二本柱

CSRD

開示せよ

サステナビリティ情報をESRSに沿って報告する義務

CSDDD

行動せよ

人権・環境への負の影響を特定・防止・是正するDDを実施する義務

CSRD=開示の義務/CSDDD=行為(DDの実施)の義務。両者は補完関係にあります。

出典:欧州委員会等の公開情報をもとにgreenote作成

CSRDは「開示」、CSDDDは「DDの実施」

両者の最も大きな違いは、求めることの種類です。CSRDは、サステナビリティ情報を「開示せよ」と求める制度です。何をどう開示するかが問われます。一方、CSDDDは、人権・環境のデューデリジェンスを「実施せよ」と求めます。つまり、報告ではなく、行動そのものが義務になるのです。

この違いは小さくありません。開示は、取り組みの結果を伝えることです。これに対しDDの実施は、問題に実際に手を打つことを意味します。CSDDDは、企業の行動に一歩踏み込んだ規制だといえます。

両者は補完関係にある

とはいえ、両者は対立するものではありません。むしろ補完し合う関係です。CSDDDで実施したデューデリジェンスの内容は、CSRDのもとで開示することにもなります。行動し、その内容を伝える。2つの指令は、セットで企業のサステナビリティを底上げする設計です。

だからこそ、企業は両方を視野に入れる必要があります。開示の準備だけでも、DDの実施だけでも、片手落ちになりかねません。

人権DDの国際規範との関係

CSDDDの考え方は、突然生まれたものではありません。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」やOECDの行動指針が、長年その土台を築いてきました。これらは、企業が人権を尊重し、デューデリジェンスを行う責任を示してきた国際規範です。人権DDの基本は人権デューデリジェンスとはもあわせてご覧ください。

CSDDDは、こうした「ソフトロー(任意の規範)」を、EUの「ハードロー(法的義務)」へと格上げした制度です。世界の潮流が、自主的な尊重から法的な義務へと進んでいることを、象徴しています。

デューデリジェンスのプロセス

CSDDDが求めるデューデリジェンスは、決まった手順で進めます。その流れと、対象の範囲を見ていきます。

人権・環境デューデリジェンスのプロセス

継続的に回す5つのステップ

1

方針へ統合

DDを方針・体制に組み込む

2

負の影響を特定

人権・環境リスクを洗い出す

3

防止・軽減

影響を止める・減らす

4

是正・救済

生じた被害を直す

5

情報提供

取り組みを説明する

国連・OECDの規範に沿った継続サイクル。対象は自社・子会社・取引先(活動の連鎖)に及びます。

出典:国連「ビジネスと人権に関する指導原則」・OECD・欧州委員会等をもとにgreenote作成

方針統合から是正・情報提供まで

デューデリジェンスは、一連のサイクルとして回していくものです。出発点は、DDを企業の方針や体制に統合すること。次に、人権・環境への負の影響を特定・評価します。そして、その影響を防止・軽減し、起きてしまった被害は是正・救済へとつなげます。最後に、これらの取り組みを情報として提供する。この流れを繰り返します。

重要なのは、これが一度きりではなく、継続的に繰り返される点です。状況は変わり、新たなリスクも生まれます。だからこそ、回し続けることに意味があります。

「活動の連鎖」とビジネスパートナー

CSDDDが対象とする範囲は、自社だけではありません。子会社、さらには「活動の連鎖(chain of activities)」に含まれるビジネスパートナーにも及びます。つまり、調達先や業務委託先といった取引先での問題も、視野に入ってきます。

サプライチェーンの奥で起きていることに、目を向ける。これは簡単ではありません。けれども、負の影響の多くが取引先で生じる以上、避けては通れない論点です。責任ある調達の観点は責任ある調達(サプライチェーン)とはもあわせてご覧ください。

違反した場合の責任

CSDDDには、実効性を担保する仕組みもあります。義務を果たさず、実際に負の影響が生じた場合、企業は責任を問われる可能性があります。各国の監督当局による行政上の措置や、被害者による民事上の請求が想定されます。

ただし、この責任のあり方については、後述するオムニバスで見直しが議論されています。制度の細部は、なお動いているのが現状です。

オムニバスによる見直し(2025年〜)

CSDDDもまた、2025年のオムニバスで大きく見直されました。CSRDと同じ簡素化の流れのなかにあります。

ストップ・ザ・クロックで適用を延期

2025年2月、欧州委員会はオムニバス(簡素化)パッケージを発表しました。CSRDだけでなく、CSDDDもその対象です。まず「ストップ・ザ・クロック」指令により、適用が延期されました。国内法化の期限は、2027年7月26日まで延ばされています。

背景には、規制の負担が重すぎるという産業界の声と、EUの競争力を重視する政策の転換があります。企業に準備の時間を与えつつ、内容も簡素化する。その方向で調整が進みました。

対象範囲とDDの縮小

内容面でも、緩和が図られました。デューデリジェンスの対象は、主に直接の取引先(直接のビジネスパートナー)を中心とする方向へと縮小されます。当初は連鎖の奥深くまで求められていたものが、まずは一次取引先に重点を置く形です。

あわせて、負の影響をモニタリングする頻度も削減されます。毎年から、おおむね5年ごとへ。企業の実務負担を、現実的な水準に抑えるねらいです。

移行計画義務の削除と民事責任の緩和

さらに踏み込んだ見直しもあります。CSDDDには当初、気候変動緩和の移行計画を策定する義務が含まれていました。これが、オムニバスで削除される方向です。また、EU共通の民事責任に関する規定も緩和され、各国の法律に委ねられる方向で議論されています。

これらにより、CSDDDへの対応コストは、年間約3億2000万ユーロ削減される見込みとされます。ただし、簡素化をめぐっては「実効性が損なわれる」という懸念の声もあり、制度はなお最終化の途上にあります。

日本企業への影響

CSDDDは、日本企業にも二重の意味で関係します。直接の対象になる場合と、取引先として求められる場合です。

CSDDDの適用範囲と日本企業への影響

直接対象になる場合と、取引先として関わる場合

■ 適用範囲(目安)

EU企業

全世界の年間純売上高4.5億ユーロ超かつ従業員1000人超

非EU企業(日本など)

EU域内の純売上高4.5億ユーロ超

■ 日本企業が影響を受ける2つの経路

A. 直接の対象

上記基準を満たす日本企業

B. 取引先として

適用企業のビジネスパートナーとしてDD協力・情報提供・是正

オムニバスで適用は延期。国内法化は2027年7月までに(その後、大企業から段階適用)。

出典:欧州委員会・ジェトロ等をもとにgreenote作成

直接対象になる企業(EU売上4.5億ユーロ超)

まず、直接の対象になるケースです。CSDDDは、非EU(第三国)企業にも適用されます。日本企業であっても、EU域内の純売上高が4億5000万ユーロを超えれば、対象になり得ます。EU企業の場合は、全世界の年間純売上高4億5000万ユーロ超かつ平均従業員1000人超が目安です。

EUで大きな事業を展開する日本企業にとって、これは正面から向き合うべき規制です。自社が基準に該当するか、早めの確認が欠かせません。

取引先として求められる対応

見落とせないのが、もう一つの経路です。たとえ自社が直接の対象でなくても、CSDDDの適用を受ける企業の取引先(ビジネスパートナー)であれば、影響が及びます。適用企業のデューデリジェンスの一環として、人権・環境データの提供や、是正への協力を求められる可能性があるのです。

つまり、EUの大企業と取引する多くの日本企業が、間接的に関わります。サプライチェーンを通じて、CSDDDの影響は広く波及します。

「待ち」ではなく備える

オムニバスで適用が延びたことで、「まだ先のこと」と感じるかもしれません。けれども、人権・環境デューデリジェンスの体制づくりには、時間がかかります。取引先の把握、リスクの特定、是正の仕組み。これらを一朝一夕には整えられません。

しかも、DDの考え方は、CSDDDの適用いかんにかかわらず、国際規範として企業に求められ続けています。規制を待つのではなく、いまから備える。それが、結果的に強い企業をつくります。公正な移行の観点は公正な移行(Just Transition)とはもあわせてご覧ください。

まとめ|CSDDDは「行動」を問うEU規制

CSDDDは、企業の行動そのものに踏み込む、EUの重要な規制です。最後に、要点を振り返りましょう。

  • CSDDDとは、EUが2024年に採択した指令。大企業にバリューチェーンの人権・環境への負の影響を特定・防止・是正するDDの実施を義務づける
  • 情報を開示するCSRDに対し、CSDDDはDD(行為)を実施する義務。両者は補完関係にある
  • 2025年のオムニバスで見直し。適用は延期(国内法化2027年7月まで)、DD対象は直接取引先中心に縮小、移行計画義務の削除や民事責任の緩和も
  • 日本企業も、EU売上4.5億ユーロ超なら直接対象に。取引先としてDD対応を求められることも

CSDDDは、簡素化で揺れながらも、「企業は人権・環境に責任をもって行動すべき」という原則を体現しています。この原則自体は、規制の有無を超えて世界の潮流です。制度の動きを追いつつ、デューデリジェンスの土台を固めておく。それが、これからの企業に求められる構えだといえます。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。

参考(出典):欧州委員会(CSDDD・オムニバス簡素化パッケージ)、日本貿易振興機構(ジェトロ)、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」ほか

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

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サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年6月21日

この記事の著者

greenote編集部

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