男性育休とは|産後パパ育休の仕組み・取得率の公表義務(300人超に拡大)と実務を解説

2026.08.27
ESG開示

「男性の育休取得率」は、いまや有価証券報告書にも載る経営指標になりました。育児・介護休業法の改正により、産後パパ育休(出生時育児休業)の創設や取得率の公表義務の拡大が進み、男性育休は「取れたらいいね」から「会社が取らせる仕組みをつくる」段階へ変わっています。

この記事では、男性育休をめぐる制度の全体像——産後パパ育休の仕組み、企業に義務づけられた環境整備と個別周知、取得率の公表義務(対象拡大)、そして取得率を上げる実務——を、人事・ESG担当者向けにわかりやすく解説します。

※本記事は2026年時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。制度の詳細・施行時期は改正により変わります。最新・確定の内容は厚生労働省の公式情報をご確認ください。

この記事の目次

男性育休の制度全体像|育児・介護休業法

産後パパ育休(出生時育児休業)とは

男性育休を大きく変えたのが、2021年改正の育児・介護休業法で創設された産後パパ育休(出生時育児休業)です。子の出生後8週間以内に、最大4週間(28日)まで取得でき、2回に分割することも可能。労使協定などの条件のもとで、休業中に一部就業できる柔軟さも特徴です。

「妻の産後、いちばん大変な時期に短くても確実に休める」制度として設計されており、申出期限も原則2週間前までと、通常の育休(原則1か月前)より直前の申請が可能とされています。

通常の育休との組み合わせ

産後パパ育休とは別に、通常の育児休業も2回まで分割取得できるようになっています。つまり男性は「産後パパ育休(2分割)+通常育休(2分割)」を組み合わせ、妻の職場復帰のタイミングなどに合わせて最大4回に分けて休みを設計できます。「長期で1回」から「必要な時期に複数回」へ——取り方の自由度が大きく上がりました。

企業の義務|環境整備・個別周知・公表

雇用環境整備と個別の周知・意向確認

企業側には、取得を「待つ」のではなく「促す」義務があります。研修の実施や相談窓口の設置などの雇用環境の整備に加え、本人または配偶者の妊娠・出産を申し出た従業員に対して、制度を個別に周知し、取得の意向を確認することが義務づけられています。「言い出しにくいから取れない」を制度側から潰す設計です。

取得率の公表義務(300人超に拡大)

2023年4月から従業員1,000人超の企業に義務づけられた男性育休取得率の公表は、2025年4月から300人超の企業へ拡大されました。公表は自社サイトや厚労省の「両立支援のひろば」などで行われ、求職者・取引先・投資家が比較できる「見られる数字」になっています。あわせて2025年の改正では、柔軟な働き方(テレワーク等)の整備など、育児期の両立支援も強化されているとされます。

取得率の現在地|4割時代へ

厚労省の雇用均等基本調査によれば、男性の育休取得率は長らく1桁台でしたが、制度改正を境に急上昇し、2023年度に約30%、2024年度には約40%に達したとされます。政府は2025年に50%、2030年に85%という公務員並みの目標を掲げており、「取るかどうか」から「何日取るか・どう回すか」へ論点が移りつつあります。

一方で課題も明確です。取得日数は2週間未満の「取るだけ育休」が依然多いこと、中小企業と大企業の格差、そして「取得しづらい雰囲気」——つまり心理的安全性アンコンシャス・バイアス(「男が長く休むなんて」という無意識の目線)の問題です。

ESG・人的資本開示とのつながり

男性育休取得率は、女性管理職比率・男女間賃金差異と並ぶ、有価証券報告書の人的資本3指標の一つです(有報のサステナビリティ開示)。単なる福利厚生の数字ではなく、投資家が組織文化を推し量る代理指標として見られています。

理由はシンプルで、男性が育休を取れる職場は、属人化が低く(引き継げる)、休むことへの偏見が少なく、家庭責任が偏らない——つまり女性活躍DE&Iが進みやすい組織だからです。男性育休は「D&Iの試金石」として、人的資本経営の文脈で語られるようになっています。

取得率を上げる実務|5つの打ち手

  1. トップと管理職から取る・讃える:役員・管理職の取得事例が「取ってもキャリアに響かない」という最強のメッセージになる。
  2. 個別周知を「面談」で行う:義務の個別周知を書面配布で済ませず、上司や人事との面談で取得プランまで一緒に設計する。
  3. 業務の属人化を解く:引き継ぎテンプレート・複数担当制など、「休める仕事の作り方」に投資する(これは介護・病気にも効く)。
  4. 収入不安に答える:育児休業給付や社会保険料免除で手取りがどの程度になるかを試算して示す(出生後の一定期間は給付率の引き上げも進められているとされる)。
  5. 「日数」を追う:取得率だけでなく平均取得日数をKPIにし、「取るだけ育休」を卒業する。

お金の実務|給付金と社会保険料免除

育休中の収入はどうなるか

「収入が減るから取れない」が男性育休の最大の壁でしたが、給付の拡充でこの前提は変わりつつあります。

  • 育児休業給付金:雇用保険から、休業開始から180日までは賃金の67%、その後は50%が支給されます。
  • 出生後休業支援給付金(2025年4月創設):夫婦ともに(または一定の場合に単独で)子の出生直後の一定期間に休業した場合、最大28日間、給付率が13%上乗せされ80%になるとされます。
  • 社会保険料の免除:月末時点で育休を取得している月、または同一月内に14日以上取得した月は、社会保険料(本人・会社負担とも)が免除されます。賞与月の保険料は1か月超の取得で免除対象です。

給付金は非課税で、社会保険料の免除と合わせると、80%給付の期間は手取りベースでおおむね10割に近い水準になるとされています。「28日間なら収入はほぼ変わらない」という事実は、社内周知で最初に伝えるべき情報です。

実務の注意点

給付金の手続きは会社経由でハローワークに申請します。人事側の注意点は、①申出期限(産後パパ育休は原則2週間前まで)を就業規則に明記しておく、②社会保険料免除の「月末またぎ/14日以上」の要件を取得計画の相談時に説明する、③賞与査定や昇給・昇格で育休取得を不利に扱わない(不利益取扱いの禁止)——の3点です。

くるみん認定と開示の実務

くるみん認定という「見える化」

次世代育成支援対策推進法にもとづくくるみん認定は、子育て支援に取り組む企業の厚労省認定マークです。男性育休の取得率などの基準を満たすと取得でき、段階に応じてトライくるみん・くるみん・プラチナくるみんの3種類があります。認定基準には男性の育休取得率の水準が組み込まれており、取得率向上の社内目標として使いやすい制度です。認定企業は公共調達で加点評価の対象になる場合もあります。

開示での「取得率」の計算方法

育児・介護休業法にもとづく公表(従業員300人超)で用いる男性の育休取得率は、原則として「その年度に育休等を取得した男性の数 ÷ その年度に配偶者が出産した男性の数」で計算します。分母が「出産した配偶者を持つ男性」であるため、対象者が少ない年度は1人の取得で率が大きく動きます。有価証券報告書の人的資本開示でも同じ指標が使われるため、算定対象の期間・範囲(単体か連結か)を注記で明確にするのが実務の作法です。

開示で差がつくのは率の高さだけではありません。取得日数の平均を併記する企業が増えています。取得率100%でも平均3日なら「取るだけ育休」の疑いを持たれ、平均30日なら実質を伴う取り組みとして評価されます。

中小企業の実務|「人がいない」への現実解

「大企業は取れても、うちは人がいない」——中小企業の現場で最も多い声です。現実的な工夫を挙げます。

  • ①分割取得を前提に設計する:産後パパ育休は2分割、通常の育休も2分割できます。「1か月連続」ではなく「繁忙期を外して2週間×2回」のような取り方なら、業務への影響を抑えられます。
  • ②業務の棚卸しを出産予定の判明時点で始める:属人化した業務の引き継ぎ書づくりは、育休対応であると同時に、事業継続(BCP)対策そのものです。
  • ③助成金を使う:中小企業向けには、男性労働者の育休取得を支援する両立支援等助成金(出生時両立支援コースなど)が用意されているとされます。要件・金額は年度で変わるため、最新は労働局・ハローワークで確認してください。
  • ④「代替要員」より「業務の一時縮小」:数週間の休業なら、代替採用よりも業務の優先順位づけ・一時的な外注で乗り切る設計が現実的です。

中小企業には公表義務(300人超)はありませんが、採用市場では企業規模を問わず「男性育休の実績」が見られる時代です。義務ではなく採用競争力の問題として捉えるのが実利的でしょう。

男性育休 用語ミニ辞典

  • 産後パパ育休(出生時育児休業):子の出生後8週間以内に最大4週間(28日)取得できる休業。2回に分割可能で、労使協定と本人同意があれば一部就業も可能。
  • パパ・ママ育休プラス:夫婦ともに育休を取る場合、取得可能期間が子が1歳2か月になるまで延長される仕組み。
  • 個別周知・意向確認:本人または配偶者の妊娠・出産の申出があった労働者に対し、制度を個別に知らせ、取得意向を確認する企業の義務。
  • 出生後休業支援給付金:2025年4月創設。出生直後の休業について最大28日間、育児休業給付に13%上乗せして80%とする給付とされます。
  • くるみん認定:子育て支援企業の厚労省認定。トライくるみん・くるみん・プラチナくるみんの3段階。
  • 取るだけ育休:取得日数が極端に短く、実質的な育児参加を伴わない取得を指す言葉。開示では平均取得日数の併記が対策になります。
  • 不利益取扱いの禁止:育休の申出・取得を理由とする解雇・降格・減給・査定上の不利益は法律で禁止されています。

まとめ

  • 産後パパ育休(出生後8週間以内に最大4週間・2分割可)と育休の分割で、男性は最大4回に分けて取得設計できる。
  • 企業には環境整備・個別周知/意向確認が義務。取得率の公表義務は300人超企業に拡大(2025年4月〜)。
  • 取得率は約4割まで上昇。次の課題は取得日数と中小企業への広がり。
  • 男性育休取得率は有報の人的資本3指標の一つで、組織文化を映す「D&Iの試金石」。
  • 実務は上からの実践・面談での周知・属人化の解消・収入試算・日数KPIの5点セット。

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出典・参考資料(一次情報)

リンク先は2026年時点で確認した公的機関の公開情報です。制度は改正されるため、最新は公式情報をご確認ください。

厚生労働省|育児・介護休業法について厚生労働省|両立支援のひろば(取得率の公表先)

よくある質問(FAQ)

Q. 産後パパ育休とは何ですか?通常の育休と何が違いますか?

A. 子の出生後8週間以内に最大4週間(28日)まで取れる男性向けの育児休業です(2回に分割可・条件付きで休業中の一部就業も可)。これとは別に通常の育児休業も2回まで分割できるため、あわせて最大4回に分けた取得設計が可能です。

Q. 男性育休の取得率公表はどの企業が対象ですか?

A. 2023年4月に従業員1,000人超の企業で義務化され、2025年4月からは300人超の企業に拡大されました。自社サイトや厚労省「両立支援のひろば」等での年1回の公表が求められます。

Q. なぜ男性育休がESGや投資家の関心事なのですか?

A. 有価証券報告書で開示が求められる人的資本3指標(女性管理職比率・男性育休取得率・男女間賃金差異)の一つだからです。男性が休める職場は属人化が低く多様性が機能しやすいため、組織文化を映す代理指標として投資家に見られています。

Q. 取得率を上げるには何が効きますか?

A. 管理職・役員が自ら取得して見せること、個別周知を面談形式でプラン設計まで行うこと、業務の属人化を解くこと、給付や保険料免除を含めた手取り試算を示すこと、取得日数もKPIにすることの5点が実務の定番です。

Q. 育休中の収入はどのくらい減りますか?

A. 雇用保険の育児休業給付金が休業開始から180日まで賃金の67%(以後50%)支給され、2025年4月創設の出生後休業支援給付金により、出生直後の最大28日間は80%になるとされます。給付金は非課税で、月末をまたぐ月や14日以上取得した月は社会保険料も免除されるため、80%給付の期間は手取りベースでおおむね10割に近い水準とされています。

Q. 取得率はどう計算しますか?100%を超えることはありますか?

A. 原則として「年度内に育休等を取得した男性の数÷年度内に配偶者が出産した男性の数」で計算します。前年度に出産があり当年度に取得した場合など、分母と分子の年度がずれると100%を超えることがあります。開示では算定期間・対象範囲の注記を付け、取得日数の平均を併記すると実態が伝わります。

Q. 中小企業にも公表義務はありますか?

A. 取得率の公表義務は従業員300人超の企業が対象で、中小企業にはありません。ただし個別周知・意向確認や雇用環境整備の義務は企業規模を問わず適用されます。また採用市場では規模にかかわらず男性育休の実績が見られるため、分割取得の設計や助成金の活用で無理のない範囲から実績を作るのが現実的です。

最終更新日:2026年8月27日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

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greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

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