最終更新日:2026年8月4日
気候変動をめぐって、国や企業を相手取った訴訟が世界で増えています。こうした気候変動訴訟(Climate Litigation)は、判決や和解を通じて、政策や企業の脱炭素対応に影響を与えることがあります。ESG・ESG投資の観点でも、無視できないテーマになりつつあります。
この記事では、気候変動訴訟とは何か、なぜ増えているのか、主なタイプ、世界と日本の動向、そして企業への影響と備えまでを、中立的に整理します。
※本記事は2026年時点の公表情報にもとづく一般的な解説であり、個別の法的助言ではありません。訴訟の状況や判決は変わりうるため、最新・確定の内容は公式情報や専門家にご確認ください。
この記事の目次
気候変動訴訟とは|脱炭素をめぐる法廷での争い
気候変動訴訟とは、気候変動の緩和(排出削減)や適応、あるいはその情報開示・責任をめぐって提起される訴訟の総称です。原告は市民・NGO・自治体・投資家など多様で、被告には政府と企業の双方がなり得ます。
求められるものも、より高い削減目標、事業戦略の見直し、気候被害への損害賠償、誤解を招く開示の是正などさまざまです。気候正義(気候変動の負担の不公平さ)を背景に、権利の問題として争われることもあります。
なぜ増えているのか|3つの背景
増加を後押しする3つの要因
気候変動訴訟が世界的に増えている背景には、上図の3つの要因があるとされます。第一に、パリ協定とCOPなどで削減目標が明確になり、「目標に対して取り組みが不十分だ」と問いやすくなったこと。
第二に、IPCC第6次評価報告書に代表される気候科学の進展です。排出と個別の損害を関連づける研究(アトリビューション)が進み、因果関係を主張しやすくなったとされます。第三に、サステナビリティ情報開示の広がりで、企業の主張と実態のギャップを開示情報から問えるようになったことです。
訴訟の主なタイプ|誰が・誰を・何を求めて
3つのタイプ(誰が・誰を・何を)
気候変動訴訟は、「誰が・誰を相手に・何を求めるか」で、大きく3つのタイプに整理できます。
政策・目標の不十分さを問う
削減目標や政策が不十分だとして、引き上げを求める。人権や憲法上の権利を根拠にすることもある。
事業の見直し・賠償を求める
排出削減や事業戦略の見直し、気候被害への損害賠償などを求める。
グリーンウォッシュを問う
広告や開示の誇張・誤認を、消費者保護や不当表示の観点から問う。
とくに近年は、広告や商品の環境訴求をめぐるグリーンウォッシュ型の訴訟・申し立てが増えているとされます。実態の伴わない「カーボンニュートラル」表示などが、消費者保護のルールのもとで問われるケースです。
世界の代表的な動き|Urgenda・Shell・ICJ勧告的意見
Urgenda・Shell・ICJ勧告的意見
世界では、いくつかの訴訟が大きな注目を集めてきました。以下は代表例で、いずれも状況は今後変わりうる点に留意が必要です。
- ウルヘンダ訴訟(オランダ):政府に対し、より高い排出削減を求めた訴訟。2019年に最高裁で政府の義務を認める判断が確定したと報じられ、各国の同種訴訟に影響を与えたとされます。
- シェル訴訟(オランダ):石油大手に排出削減を求めた訴訟。一審は削減を命じましたが、2024年の控訴審でその命令は覆されたと報じられました(企業の責任のあり方をめぐる議論は続いています)。
- ICJの勧告的意見(2025年):国際司法裁判所(ICJ)が、気候変動に関する国家の法的義務について見解を示したとされます。勧告的意見に法的拘束力はありませんが、各国の政策や訴訟への影響が注目されています。
件数の面でも、サビン・センターやロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の集計によれば、気候変動訴訟は世界全体で増加傾向にあるとされています。
日本の状況|火力発電をめぐる訴訟など
日本でも、気候変動に関わる訴訟が提起されています。代表的なのが、石炭火力発電所の建設・稼働をめぐる訴訟で、周辺住民らが環境影響やCO2排出を理由に差し止めなどを求めた例が知られます。
件数は欧米に比べれば限られるものの、気候リスクへの社会的関心の高まりとともに、企業や政策の対応を問う動きは注目度を増している、とされます。
企業への影響と備え|「訴訟リスク」をどう捉えるか
企業にとって、気候変動訴訟は「気候リスク」の一つとして捉えるべきテーマです。TCFDの枠組みでも、規制や訴訟は移行リスクの要素に位置づけられます。上表のように、リスクと備えはセットで考えるのが実務的です。
リスク
訴訟・レピュテーションリスク。削減目標や事業戦略の不十分さを問われる。
備え
気候リスクを取締役会が監督し、科学的根拠のある移行計画を開示・実行する。
リスク
グリーンウォッシュ指摘。広告や開示の誇張・誤認を問われる。
備え
実態の伴う目標を掲げ、誇張しない誠実な開示・主張を徹底する。
リスク
事業・財務への影響。判決や規制強化が事業戦略を左右する。
備え
気候リスクを財務の観点で評価し(シナリオ分析)、着実に移行を進める。
鍵になるのは、気候リスクを取締役会が監督するガバナンス体制(コーポレートガバナンス・コードとも整合)と、科学的根拠のあるネットゼロへの移行計画を、誇張なく開示・実行することです。マテリアリティの特定でも、訴訟・規制リスクを重要課題として見落とさない視点が求められます。
まとめ|訴訟は脱炭素の「本気度」を問う
気候変動訴訟は、脱炭素をめぐる社会の期待が、法廷という場に持ち込まれた動きだといえます。政府には政策の実効性を、企業には事業戦略と開示の誠実さを問うものです。
企業にとって最大の備えは、特別なことではありません。実態の伴う目標を掲げ、科学的根拠のある移行計画を着実に実行し、グリーンウォッシュを避けて誠実に開示すること。それが、カーボンニュートラルに向けた取り組みへの信頼を支え、結果として訴訟リスクへの最善の備えにもなります。
よくある質問(FAQ)
Q. 気候変動訴訟とは何ですか?
気候変動の緩和・適応や、その情報開示・責任をめぐって提起される訴訟の総称です。原告は市民・NGO・自治体・投資家など、被告は政府と企業の双方があり得ます。より高い削減目標や事業の見直し、損害賠償、開示の是正などが求められます。
Q. なぜ気候変動訴訟が増えているのですか?
パリ協定などで削減目標が明確になり達成不足を問いやすくなったこと、排出と損害を関連づける気候科学が進展したこと、情報開示の広がりで企業の主張と実態のギャップを問えるようになったこと、の3つが主な背景とされます。
Q. どんなタイプの訴訟がありますか?
大きく、政府の政策・目標の不十分さを問うもの、企業に事業の見直しや賠償を求めるもの、広告や開示の誇張・誤認(グリーンウォッシュ)を問うもの、の3タイプに整理できます。
Q. 有名な事例には何がありますか?
政府に削減引き上げを求めたオランダのウルヘンダ訴訟、石油大手を相手取ったシェル訴訟(2024年の控訴審で一審の削減命令が覆されたと報じられた)、2025年に国家の気候義務について見解を示したとされる国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見などが知られます。状況は変わりうる点に留意が必要です。
Q. 日本でも気候変動訴訟は起きていますか?
はい。石炭火力発電所の建設・稼働をめぐる訴訟などが知られています。件数は欧米より限られるものの、気候リスクへの関心の高まりとともに注目度が増しているとされます。
Q. 企業にとってのリスクは何ですか?
訴訟そのものに加え、レピュテーション(評判)の低下、グリーンウォッシュの指摘、判決や規制強化による事業・財務への影響などが挙げられます。TCFDでも規制・訴訟は移行リスクに位置づけられます。
Q. グリーンウォッシュ訴訟とは何ですか?
広告や商品、開示における環境訴求が、実態を伴わない誇張や誤認だとして、消費者保護や不当表示のルールのもとで問われるものです。根拠の乏しい「カーボンニュートラル」表示などが対象になり得ます。
Q. 企業はどう備えるべきですか?
実態の伴う目標を掲げ、科学的根拠のある移行計画を着実に実行し、誇張しない誠実な開示・主張を徹底することが基本です。気候リスクを取締役会が監督するガバナンス体制と、シナリオ分析によるリスク評価も有効です。
出典・参考資料(一次情報)
- LSE Grantham Research Institute|Global trends in climate change litigation
- Sabin Center for Climate Change Law|Climate Change Litigation Databases
- International Court of Justice(ICJ)|Obligations of States in respect of Climate Change
- UNEP|Global Climate Litigation Report
※ 本記事は上記の公表情報をもとにgreenote編集部が整理した一般的な解説です。個別の訴訟の状況・判決は変わりうるため、最新・確定の内容は各公式情報や専門家にご確認ください。
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最終更新日:2026年8月14日