水リスクとは|ウォーターセキュリティの3タイプと企業の対応・評価ツールを解説

2026.06.14
気候変動

蛇口をひねれば水が出る。日本にいると、水を「リスク」として意識する場面は多くありません。しかし、世界に目を向ければ、水の不足は事業を止めかねない深刻な経営課題です。そして、水を大量に輸入に頼る日本企業も、決して例外ではありません。水リスクとは、何を指すのでしょうか。

水リスクとは、水の不足や過剰、汚染、規制の変化などが、企業の事業活動に与える悪影響を指します。気候変動による水循環の乱れを背景に、その重要性が世界的に高まっています。

本記事では、水リスクの意味と重要性から、物理・規制・評判という3つのタイプ、WRI Aqueductなどの評価ツールとCDPでの開示、企業に求められる水資源管理、そしてバーチャルウォーターに依存する日本企業の論点までを、最新情報をふまえてわかりやすく解説します。

目次

水リスク(ウォーターセキュリティ)とは

まずは、水リスクという言葉の意味と、なぜそれがいま企業に重要なのかを押さえましょう。背景を理解すると、対応の必要性が見えてきます。

水リスクとは

水リスクは、水に関わるさまざまな要因が、事業に悪影響を及ぼす可能性を指します。工場が操業に必要な水を確保できない、洪水で施設が浸水する、取水規制で使える水が制限される。こうした事態は、いずれも水リスクの表れです。

ここで関連する考え方が、ウォーターセキュリティ(水の安全保障)です。必要な量と質の水を、安定的に確保できる状態を指します。水リスクへの対応とは、このウォーターセキュリティを確かなものにする取り組みにほかなりません。

なぜ企業に重要か|事業継続とサプライチェーン

水は、あらゆる事業活動を支える資源です。製造、農業、エネルギーなど、水なしに成り立つ産業は、ごくわずかです。その水が不足すれば、操業が止まり、事業継続そのものが脅かされます。

影響は、自社の拠点だけにとどまらないのです。原材料の生産地や調達先が水ストレスの高い地域にあれば、サプライチェーンを通じて影響が及びます。水リスクは、バリューチェーン全体で捉えるべき経営課題なのです。

気候変動・自然とのつながり

水リスクは、気候変動や自然と深く結びついています。気候変動は、干ばつや豪雨を増やし、水循環を不安定にします。気候変動の物理的リスクの多くは、水を介して現れるといっても過言ではありません。気候変動リスクの全体像は、関連記事の気候変動リスクとは|物理的リスクと移行リスクもあわせてご覧ください。

また、水は自然資本の中核要素でもあります。自然関連の情報開示の枠組みであるTNFDでも、水は重要なテーマと位置づけられています。気候・自然・水は切り離せない関係にあり、統合的に捉える視点が求められています。自然関連の開示は、関連記事のTNFDとは|自然・生物多様性の情報開示もあわせてご覧ください。

水リスクの3つのタイプ

水リスクは、性質によって3つに整理できます。それぞれの中身を押さえると、対応の勘所が見えてきます。

水リスクの3つのタイプ

自社拠点とサプライチェーンの両方を点検する

1

物理リスク

渇水・洪水・水質

水そのものの量や質に関わるリスク。操業停止や施設被害に直結する。

2

規制リスク

取水規制・水価格

取水量の上限や水価格の上昇など、制度の変化によるリスク。

3

評判リスク

地域社会との関係

水の奪い合いや過剰取水への批判など、社会的評価に関わるリスク。

気候変動が水循環を乱し、これらのリスクを高めています。気候・自然・水は一体で捉えます。

出典:水リスクに関する一般的な分類をもとに作成

物理リスク|渇水・洪水・水質

第一が、物理リスクです。水そのものの量や質に関わる、最も直接的なリスクを指します。具体的には、渇水による水不足、洪水による浸水被害、そして水質の悪化などが含まれます。

渇水で工場の操業が止まれば、生産に直結します。洪水は施設に物理的な損害を与えます。水質が悪化すれば、利用できる水が減り、処理コストも増します。物理リスクは、事業に最も分かりやすく打撃を与えるタイプです。

規制リスク|取水規制・水価格

第二が、規制リスクです。水に関わる制度やルールの変化が、事業に影響を及ぼします。水不足が深刻な地域では、取水量に上限が設けられたり、水の使用に高い料金が課されたりすることがあります。

これまで自由に使えていた水が、規制で制限される。あるいは、水のコストが大きく上昇する。こうした変化は、事業計画の前提を揺るがします。規制リスクは、水ストレスの高い地域ほど高まりやすいといえます。

評判リスク|地域社会との関係

第三が、評判リスクです。水は、地域で共有される資源です。企業が地域の水を過剰に使えば、住民や農業との間で、水の奪い合いが生じかねません。

そうした対立や、水の浪費への批判は、企業の評判を傷つけます。操業への反対運動につながることもあります。水は地域社会との関係に直結する資源であり、その使い方は社会的な評価の対象になります。評判リスクは、見落とされがちですが軽視は禁物です。

水リスクの評価ツールと開示

水リスクは、まず測ることから始まります。代表的な評価ツールと、開示の枠組みを整理しましょう。

水リスクの評価ツールと開示

ツールで「測り」、CDPで「開示する」

Aqueduct水ストレスの世界地図

発行元:WRI (世界資源研究所)

水ストレス・洪水・渇水リスクを世界地図上で可視化する無料ツール。拠点ごとのリスクを把握できる。

Water Risk Filter多面的なリスク評価

発行元:WWF (世界自然保護基金)

物理・規制・評判のリスクを地域別に評価できる無料ツール。リスクの全体像把握に役立つ。

CDP水セキュリティ開示プラットフォーム

発行元:CDP

気候・フォレストと並ぶ環境開示領域。質問書で水リスク管理を評価。2024年から質問書が統合され包括的に。

無料ツールで自社・サプライチェーンの水リスクを特定し、CDPなどで開示する流れが定着しつつあります。

出典:WRI・WWF・CDPの公表資料をもとに作成

WRI Aqueduct|水ストレスの世界地図

水リスク評価の定番が、WRI(世界資源研究所)が提供するAqueductです。Water Risk Atlasとも呼ばれます。水ストレスや洪水リスク、渇水リスクなどを、世界地図上で視覚的に確認できる無料のツールです。

自社の工場や調達先がある地域を指定すれば、その場所の水リスクの度合いがわかります。世界中の拠点を一覧で評価することも可能です。まずどこにリスクがあるのかを把握する、出発点として広く使われています。

WWF Water Risk Filter

もう一つの有力なツールが、WWF(世界自然保護基金)のWater Risk Filterです。こちらも無料で利用でき、地域ごとの水リスクを評価できます。

特徴は、物理・規制・評判という、先に述べた3つのタイプのリスクを評価できる点です。リスクの全体像を多面的に捉えたいときに役立ちます。Aqueductとあわせて使うことで、より精度の高いリスク評価が可能になります。

CDP水セキュリティでの開示

把握した水リスクは、開示することで評価につながります。その中心が、CDP水セキュリティです。CDPは、気候変動・フォレストと並ぶ環境開示の領域として、水セキュリティの質問書を通じて、企業の水リスク管理を評価します。

近年、CDPの質問書は統合が進みました。2024年からは、気候・水・森林などの質問書が一本化され、環境課題の相互関係をふまえた、より包括的な開示が求められています。水を、他の環境課題と切り離さずに捉える流れが強まっています。ESG評価の仕組みは、関連記事のESG評価・格付けとは|主要機関と企業の対応もあわせてご覧ください。

企業に求められる対応|水資源管理

リスクを把握したら、次は対応です。水資源管理の基本的な進め方を整理しましょう。

企業の水資源管理の進め方

自社の節水から、流域全体への連携へ

1

把握

自社拠点とサプライチェーン全体の水リスクを、評価ツールで特定する。

2

対策

節水・水の再利用(水循環)・排水の適切な管理を進める。

3

流域連携(ウォーター・スチュワードシップ)

自社だけでなく、流域全体の水資源を守るため地域・利害関係者と連携する。

取り組みと成果を開示し、対話と改善につなげることが大切です。

出典:ウォーター・スチュワードシップ(AWS)等の考え方をもとに作成

拠点・サプライチェーンの水リスク把握

対応の出発点は、リスクの把握です。AqueductやWater Risk Filterといったツールを使い、自社の拠点が、どの程度の水リスクにさらされているかを特定します。

ここで欠かせないのが、サプライチェーンへの目配りです。自社拠点の水リスクが低くても、原材料の生産地が水ストレスの高い地域にあれば、リスクは存在します。バリューチェーン全体で、水リスクの所在を見極めることが重要です。

節水・水循環・排水管理

リスクが見えたら、具体的な対策を講じます。基本となるのは、3つの取り組みです。第一に、使う水の量を減らす節水。第二に、使った水を処理して再び使う、水の再利用(水循環)。

そして第三が、排水の適切な管理です。汚れた水をそのまま流せば、地域の水質を悪化させ、評判リスクにもつながります。水の入口から出口まで、一貫して管理する。これが、水資源管理の基本姿勢です。

ウォーター・スチュワードシップと流域連携

水リスク対応は、自社の節水だけでは完結しません。水は、地域で共有される資源だからです。そこで重要になるのが、ウォーター・スチュワードシップという考え方です。

これは、流域全体の水資源を持続可能に保つため、企業が責任ある行動をとる考え方を指します。AWS(Alliance for Water Stewardship)の国際水管理基準などを参考に、地域や他の利害関係者と連携して取り組みます。自社の塀の内側を超えて、流域に目を向ける。そこに、水リスク対応の本質があるといえるでしょう。

日本企業と水リスク

水が豊かに見える日本企業も、水リスクと決して無縁ではないでしょう。その理由を整理します。

バーチャルウォーター|輸入に依存する日本

日本は、水資源に恵まれた国に見えます。しかし、視野を広げると、別の姿が見えてきます。鍵となるのが、バーチャルウォーター(仮想水)という考え方です。

これは、輸入する食料や製品を、もし自国で生産したらどれだけの水が必要か、を表したものです。日本は大量の食料や原材料を輸入しており、その生産には海外の膨大な水が使われています。つまり日本は、海外の水に大きく依存しているのです。国内の水が豊かでも、安心はできません。

海外拠点・調達先の水ストレス

グローバルに事業を展開する日本企業は、海外に多くの拠点や調達先を持ちます。その中には、水ストレスの高い地域に立地するものも目立ちます。

現地で水が不足すれば、操業や調達に支障が出ます。日本国内の感覚で水リスクを軽視すれば、海外で思わぬ打撃を受けかねません。だからこそ、グローバルなサプライチェーン全体で、水リスクを評価する必要があります。

気候・自然と統合した戦略へ

水リスクは、単独で存在するわけではありません。気候変動が水循環を乱し、水の問題が生態系に影響する。気候・自然・水は、相互に絡み合っています。

だからこそ、これらを別々に扱うのではなく、統合的に捉える戦略が求められます。気候対策、自然関連の開示、そして水資源管理を、ひとつのサステナビリティ戦略の中で連携させる。水リスクへの対応は、より広い環境戦略の一部として位置づけることが大切です。サステナビリティ経営の全体像は、関連記事のサステナビリティ経営とは|ESGを統合する考え方と進め方もあわせてご覧ください。

まとめ|水リスクを経営に組み込む

水リスクは、事業継続を左右する重要な環境リスクです。最後に、要点を振り返りましょう。

  • 水リスクとは、水の不足・過剰・汚染・規制の変化などが事業に与える悪影響であり、気候変動を背景に重要性が高まっている
  • リスクは物理・規制・評判の3タイプに整理でき、自社拠点とサプライチェーンの両方を点検する必要がある
  • WRI AqueductWWF Water Risk Filterで把握し、CDP水セキュリティなどで開示する流れが定着しつつある
  • 対応は、把握→節水・水循環・排水管理→流域連携(ウォーター・スチュワードシップ)の順で進める
  • バーチャルウォーターを通じて海外の水に依存する日本企業も、グローバルなサプライチェーンで水リスクと向き合う必要がある

水リスクは、もはや一部の地域や産業だけの問題ではありません。気候・自然と一体で捉え、サプライチェーン全体で管理する。水を経営課題として組み込むことが、事業の持続性と社会からの信頼の双方につながります。ESG・サステナビリティの全体像はESGとは|意味・E/S/G・情報開示・投資まで完全ガイドもあわせてご覧ください。greenoteでは、ESG・サステナビリティ開示の実務情報を、これからもお届けしていきます。

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

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サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年6月20日

この記事の著者

greenote編集部

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