責任ある調達とは|サプライチェーンのESG管理と人権・環境リスクへの対応を解説

2026.06.14
ESG開示

自社の工場をどれだけきれいにしても、原材料の調達先で人権侵害や環境破壊が起きていれば、企業の責任は問われます。いまや企業の評価は、自社の中だけでは完結しない時代です。その鍵を握るのが、責任ある調達です。

責任ある調達とは、価格や品質だけでなく、人権・環境・腐敗防止といったサプライチェーン全体のESGリスクに配慮して、モノやサービスを調達する取り組みです。サステナブル調達とも呼ばれます。

本記事では、責任ある調達の基本から、なぜ今これほど重要なのか、進め方の5つのステップ、拠りどころとなる原則やガイドライン、そして実務の課題までを、最新の考え方をふまえて整理します。

目次

責任ある調達とは

まずは責任ある調達の基本的な考え方を押さえましょう。「自社だけ」では完結しない理由が見えてきます。

責任ある調達とは|サプライチェーン全体への配慮

責任ある調達は、調達という行為に「責任」の視点を組み込む考え方です。従来の調達では、価格・品質・納期が重視されてきました。そこに、人権や環境への配慮という基準を加えるのが、責任ある調達の出発点です。

視野に入れるのは、自社の操業だけではありません。原材料の供給元、製造を委託する工場、輸送を担う事業者——こうしたサプライチェーン全体が対象です。どこか一カ所で問題が起きれば、最終的に製品やサービスを世に出す企業が、その責任を負うことになるからです。

サステナブル調達・グリーン調達との関係

責任ある調達は、「サステナブル調達」とほぼ同じ意味で使われます。持続可能性に配慮した調達、という考え方です。環境・社会・ガバナンスの幅広い側面を含むのが特徴といえます。

似た言葉に「グリーン調達」もあります。こちらは、環境負荷の小さい製品や材料を優先的に選ぶ取り組みを指し、環境の側面に焦点を当てたものです。責任ある調達は、このグリーン調達に人権や労働といった社会的な側面も加えた、より広い概念だと整理すると分かりやすいでしょう。

対象となるESGリスクの例

責任ある調達が向き合うリスクは、多岐にわたります。社会(S)の面では、強制労働や児童労働、劣悪な労働環境、ハラスメントといった人権・労働の問題が代表的です。鉱物の採掘をめぐる紛争への加担なども含まれます。

環境(E)の面では、森林破壊や水資源の枯渇、過剰な排出などが挙げられます。ガバナンス(G)では、調達をめぐる贈収賄や腐敗が問題になります。これらのリスクは、自社よりも調達先で生じやすい——そこが、責任ある調達の難しく、かつ重要な理由です。

なぜ今、責任ある調達が重要なのか

責任ある調達は、いまや一部の先進企業だけの話ではありません。重要性が高まる背景を整理します。

ESG影響の多くはサプライチェーンに集中する

自社の操業だけを見ていては、全体像をつかめない

自社の操業

影響は
一部

直接管理できる範囲

サプライチェーン

影響・リスクの大半が集中

  • 温室効果ガスの多く(Scope3)=調達・輸送・製品使用など
  • 人権・労働リスク=強制労働・児童労働・劣悪な労働環境
  • 環境負荷=森林破壊・水資源の枯渇・腐敗

だからこそ、自社単体ではなく調達先を含めた管理が欠かせません。

ESGリスクと排出の多くはサプライチェーンに集中する

責任ある調達が重要な最大の理由は、企業のESG影響の多くが、自社ではなくサプライチェーンに集中しているためです。たとえば温室効果ガスでは、自社の直接排出(Scope1)や購入電力由来(Scope2)よりも、調達や輸送を含むScope3が排出の大半を占める企業が少なくありません。

人権や環境のリスクも、同じ構図にあります。労働環境の問題や環境破壊は、最終製品を売る企業よりも、その上流の調達先で起きやすいのです。だからこそ、自社単体の取り組みだけでは不十分で、調達先を含めた管理が欠かせません。Scope3の考え方は、関連記事のスコープ3排出量の算定方法とは|15カテゴリと算定の進め方もあわせてご覧ください。

国内外で強まる法規制とガイドライン

近年、サプライチェーンの人権や環境への配慮を、企業に求める動きが世界的に強まっています。欧州では、一定規模の企業に対し、サプライチェーン上の人権・環境リスクへの対応を義務づける法制化が進んできました。

日本でも、2022年に経済産業省が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を公表しました。法的な拘束力はないものの、企業に具体的な取り組みを促す内容です。こうした流れを受け、責任ある調達は「やったほうがよいこと」から「やるべきこと」へと位置づけが変わりつつあります。

レピュテーションと取引継続のリスク

法規制だけでなく、評判(レピュテーション)の観点も見逃せません。調達先での人権侵害や環境破壊が明るみに出れば、企業のブランドは大きく傷つきます。SNSの普及で、こうした問題はまたたく間に広がる時代です。

さらに、取引そのものを失うリスクもあります。大手企業が取引先にESGの基準を求めるようになり、それを満たせない企業は、取引から外されかねません。責任ある調達への対応は、自社が「選ばれ続ける」ための条件にもなってきています。

責任ある調達の進め方|5つのステップ

責任ある調達は、思いつきではなく仕組みで進めます。基本となる流れを5つのステップで見ていきましょう。

責任ある調達の進め方|5つのステップ

思いつきではなく、仕組みで回す

1

調達方針を策定する

何を大切にするか、経営の意思を明文化する。

2

サプライヤー行動規範を定める

取引先に守ってほしい基準を具体的に示す。

3

サプライヤーのリスクを評価する

国・業種・原材料からリスクの高い取引先を特定する。

4

監査・モニタリングを行う

書面調査や現地監査で、実態を確かめる。

5

是正を求め、情報を開示する

問題は是正を促し、取り組み状況を対外的に開示する。

↑ 一度で終わらせず、継続的に改善(PDCA) ↑

取引先を一方的に管理せず、協働して改善する姿勢が成果を左右します。

調達方針とサプライヤー行動規範を定める

最初のステップは、自社の考え方を明文化することです。何を大切にし、取引先に何を期待するのか。これを「調達方針」として定めます。経営の意思を、社内外に明確に示す土台です。

続いて、取引先に守ってほしい基準を「サプライヤー行動規範」としてまとめます。人権の尊重、環境への配慮、腐敗の防止——こうした項目を具体的に示し、取引先に共有します。期待する基準が明確であってはじめて、サプライヤーも何をすべきかが分かるのです。

サプライヤーのリスクを評価する

すべての取引先を、同じ深さで管理するのは現実的ではありません。そこで、リスクの高い取引先を見極める作業が必要です。国・地域、業種、扱う原材料などの観点から、人権や環境のリスクが高い領域を特定します。

リスク評価には、アンケート(自己評価質問票)の活用が一般的です。取引先に労働環境や環境対策の状況を尋ね、回答をもとにリスクを把握します。限られたリソースを、本当に注意すべき取引先に集中させる。そのための重要なステップです。

監査・モニタリングと是正・情報開示

リスクの高い取引先には、より踏み込んだ確認を行います。書面の調査だけでなく、現地を訪れる監査(オンサイト監査)が有効な場合もあります。実態を自分の目で確かめることで、見えていなかった問題に気づけます。

問題が見つかったら、取引を一方的に打ち切るのではなく、まずは是正を求め、改善を後押しするのが望ましい対応です。そして、こうした一連の取り組みの状況を、対外的に開示します。透明性を保つことが、信頼につながります。人権への配慮を体系的に進める手法は、関連記事の人権デューデリジェンスとは|企業に求められる対応と進め方もあわせてご覧ください。

関連する原則・ガイドライン

責任ある調達には、拠りどころとなる国際的な原則や国内のガイドラインがあります。主要なものを押さえましょう。

ISO20400(持続可能な調達)

責任ある調達の国際的な手引きとして知られるのが、ISO20400です。これは「持続可能な調達」に関する国際規格で、組織が調達活動に持続可能性を組み込むための指針を示しています。認証を取得する種類の規格ではなく、考え方や手法を提供するガイダンスです。

責任ある調達の主要な原則・ガイドライン

国際的な枠組みと、日本国内の手引き

国際規格

ISO20400

「持続可能な調達」の国際規格。調達に持続可能性を組み込む手法の指針。

OECD

デューデリジェンス・ガイダンス

責任ある企業行動のため、負の影響を特定し防止・軽減する手順を示す。

国連

ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)

企業には人権を尊重する責任があるとする、世界共通の土台。

日本・2022年

経済産業省ガイドライン

人権方針・人権デューデリジェンス・救済を、サプライチェーン全体で求める。

国内の指針も、国連・OECDの国際枠組みを土台に組み立てられています。

国際規格として共通の物差しがあることで、企業は世界に通用する形で取り組みを設計できます。自社の調達の仕組みを点検する際の、チェックリストのような役割も果たします。

OECDガイダンスと国連指導原則

責任ある調達の土台には、人権に関する国際的な合意があります。その代表が、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」です。企業には人権を尊重する責任があるという考え方を、世界に広めました。

これを実務に落とし込むのが、OECDの「責任ある企業行動のためのデューデリジェンス・ガイダンス」です。企業が負の影響を特定し、防止・軽減していく具体的な手順を示しています。多くの国内ガイドラインも、これらの国際的な枠組みを土台に組み立てられています。

経済産業省の人権尊重ガイドライン

日本国内の重要な指針が、経済産業省が2022年に公表した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」です。企業に対し、人権方針の策定、人権デューデリジェンス、そして救済という取り組みを、サプライチェーン全体で進めるよう求めています。

このガイドラインは、国連指導原則やOECDの枠組みと整合する内容です。法的な拘束力こそないものの、国が企業に期待する水準を明確に示した点で、大きな意味を持ちます。日本企業が責任ある調達を進めるうえで、まず参照すべき文書といえるでしょう。

課題と実務のポイント

責任ある調達には、現場ならではの難しさもあります。つまずきやすい点と工夫を整理します。

多層化したサプライチェーンの可視化

最大の課題が、サプライチェーンの「可視化」です。直接取引のある一次サプライヤーは把握できても、その先の二次・三次の取引先まで、実態をつかむのは至難です。問題はしばしば、見えにくい末端で起きます。

すべてを一度に可視化するのは困難です。そこで、まずはリスクの高い品目や地域から優先的に把握を進める、現実的なアプローチが取られます。一次サプライヤーと協力し、その先の情報を少しずつたどっていく。地道な取り組みの積み重ねが問われます。

中小サプライヤーとの協働

責任ある調達は、取引先への「要求」に偏りがちです。しかし、リソースの限られる中小のサプライヤーに、大企業と同じ水準を一方的に求めれば、かえって取引関係を損ないかねません。過度な負担への配慮が不可欠です。

大切なのは、管理ではなく協働の姿勢です。基準を示すだけでなく、達成のための教育や支援を提供する。取引先とともに改善を進める関係を築くことが、結果として強く持続可能なサプライチェーンにつながります。

コストと持続可能性の両立

責任ある調達には、監査やモニタリングのコストがかかります。短期的には、調達コストの上昇につながる場面もあるでしょう。この負担をどう捉えるかが、取り組みの本気度を分けます。

ただし、これは将来のリスクを避けるための投資とも考えられます。人権侵害や環境破壊が表面化したときの損失は、はるかに大きいものです。目先のコストと、長期的な企業価値。その両立を図る視点が、責任ある調達には求められます。サステナビリティを経営に組み込む全体像は、関連記事のサステナビリティ経営とは|ESGを統合する考え方と進め方もあわせてご覧ください。

まとめ|調達は「企業の意思」を映す

責任ある調達は、企業のサステナビリティへの姿勢が、最も具体的に表れる場面の一つです。最後に、要点を振り返りましょう。

  • 責任ある調達とは、価格や品質に加え、人権・環境・腐敗防止などサプライチェーン全体のESGリスクに配慮して調達する取り組み
  • 企業のESG影響や排出(Scope3)、人権リスクの多くはサプライチェーンに集中するため、自社単体の対応では足りない
  • 進め方は、調達方針・行動規範→リスク評価→監査・是正・開示を継続的に回す5ステップが基本
  • ISO20400やOECDガイダンス、国連指導原則、経済産業省のガイドライン(2022年)が拠りどころになる
  • 課題は、サプライチェーンの可視化、中小サプライヤーとの協働、コストとの両立

どこから調達するかは、企業が「何を大切にするか」という意思表示にほかなりません。責任ある調達は、コストや義務であると同時に、信頼を築き、選ばれ続けるための力でもあります。ESG・サステナビリティの全体像はESGとは|意味・E/S/G・情報開示・投資まで完全ガイドもあわせてご覧ください。greenoteでは、ESG・サステナビリティ開示の実務情報を、これからもお届けしていきます。

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

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サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年6月20日

この記事の著者

greenote編集部

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