ESGの取り組みを始めようとして、最初につまずく言葉の一つが「マテリアリティ」です。日本語に訳せば「重要課題」。しかし、ただの重要事項とは少し違う、奥行きのある概念です。
マテリアリティとは、数あるESG・サステナビリティの課題の中から、自社が優先して取り組むべき重要なテーマを特定したものを指します。限られた経営資源を、どこに集中するか。その判断の出発点になる考え方です。
本記事では、マテリアリティの意味から、シングルとダブルの違い、特定のプロセス、マトリックスの作り方、そして経営・開示への展開までを、わかりやすく整理します。お役に立てれば幸いです。
マテリアリティ=重要課題を絞り込む
数ある課題から、優先すべきものを見極める
数多くのESG・サステナビリティ課題
資源は有限です。だから企業価値の向上につながる重要課題に集中します。
≡この記事の目次
- 1マテリアリティとは|ESGの重要課題を絞り込む
- ►マテリアリティの意味(重要課題)
- ►なぜマテリアリティの特定が必要なのか
- ►開示と経営の出発点
- 2シングルマテリアリティとダブルマテリアリティ
- ►シングルマテリアリティ(財務への影響)
- ►ダブルマテリアリティ(社会・環境への影響も)
- ►定義が分かれる背景(ISSBとCSRD)
- 3マテリアリティの特定プロセス
- ►課題の洗い出し(国際基準・業界・ステークホルダー)
- ►重要度の評価(2つの視点)
- ►決定・検証と定期的な更新
- 4マテリアリティ・マトリックスの読み方と作り方
- ►2つの軸(自社の重要度×ステークホルダーの重要度)
- ►マトリックス作成のポイント
- ►形だけにしない注意点
- 5マテリアリティを経営・開示につなげる
- ►目標・KPIへ展開する
- ►統合報告書やISSB・SSBJ開示で示す
- ►言葉だけにしない(グリーンウォッシュ回避)
- 6まとめ|マテリアリティは「何に集中するか」を定める羅針盤
- 7よくある質問(FAQ)
マテリアリティとは|ESGの重要課題を絞り込む
まずは、マテリアリティという言葉の意味と、なぜ企業がこれを特定するのかを押さえましょう。ここを理解すると、後の話が腑に落ちます。
マテリアリティの意味(重要課題)
マテリアリティは、日本語で「重要課題」と訳されることが多い言葉です。解説動画『マテリアリティとは?特定する上での重要ポイントを解説』でも、事業活動による社会課題への影響度合いを評価し、優先順位をつけ、自社が各課題をどの程度重要視しているかを示したものだと説明されています。
単なる「大事なこと」のリストではありません。自社の事業と社会のつながりの中で、何が本当に重要かを見極めて絞り込んだもの。それがマテリアリティです。ESG情報開示の考え方は、関連記事のESG情報開示とは|基礎・開示の枠組みと企業が押さえるポイントもあわせてご覧ください。
なぜマテリアリティの特定が必要なのか
理由はシンプルです。企業の資源は、限られているからです。同動画でも、企業にはヒト・モノ・カネといったリソースに限りがあり、すべての社会課題に立ち向かうことはできない、と指摘されていました。
だからこそ、限られた資源を有効に使うために、企業価値の向上につながる重要課題を見極めて、そこに注力する必要があります。あれもこれもと手を広げれば、どれも中途半端に終わりかねません。マテリアリティは、大企業だけでなく中小企業の経営戦略としても注目されています。
開示と経営の出発点
マテリアリティは、ESGの取り組み全体の「出発点」と言えます。何を重要と定めるかが決まらなければ、目標も立てられず、開示する内容も定まらないからです。
投資家やステークホルダーに対して、「自社はこの課題を重視している」と説明する基盤にもなります。経営の優先順位を、内外に示す宣言でもあるのです。だからこそ、丁寧に特定する価値があります。
シングルマテリアリティとダブルマテリアリティ
マテリアリティには、立場によって2つの捉え方があります。シングルとダブル。この違いは、近年の開示基準を理解するうえで欠かせないポイントです。
シングルマテリアリティ(財務への影響)
シングルマテリアリティは、ESG課題が「企業の財務」に与える影響を重視する考え方です。たとえば気候変動が、自社の事業やコスト、収益にどう響くか。その一方向の影響に注目します。
主に投資家の視点に立った捉え方で、財務マテリアリティとも呼ばれます。国際的な開示基準であるISSBは、この考え方を採用しています。投資家が知りたいのは、まず「その課題が会社の財務にどう効くか」だからです。
ダブルマテリアリティ(社会・環境への影響も)
ダブルマテリアリティは、その一歩先を行きます。財務への影響に加えて、「企業が環境や社会に与える影響(インパクト)」も重視する、双方向の考え方です。
つまり、「気候変動が会社に与える影響」だけでなく、「会社が気候変動に与える影響」も見る、ということです。EUのCSRDは、このダブルマテリアリティを採用しています。CSRDの詳細は、関連記事のCSRDとは|EUサステナビリティ報告指令の適用対象と日本企業の対応で解説しました。
定義が分かれる背景(ISSBとCSRD)
マテリアリティの定義が一つに定まらないのは、こうした立場の違いがあるためです。投資家保護を重視するISSBはシングル寄り、社会への影響も問うEUのCSRDはダブル。同じ言葉でも、力点が異なります。
日本のSSBJ基準はISSBを土台にしています。詳細はSSBJ基準とは|適用スケジュール・開示項目・ISSBとの違いをご覧ください。自社がどの基準で開示するかによって、求められるマテリアリティの捉え方も変わってくるわけです。
シングルとダブル、2つのマテリアリティ
どちらの「影響」を見るかが違う
財務への影響を見る
環境・社会の課題 → 企業の財務
ESG課題が会社の業績・コストに与える影響に注目。投資家視点。ISSBが採用。
社会へのインパクトも見る
環境・社会 ↔ 企業(双方向)
財務への影響に加え、企業が環境・社会に与える影響も評価。EUのCSRDが採用。
どの開示基準で報告するかによって、求められるマテリアリティの捉え方も変わります。
マテリアリティの特定プロセス
マテリアリティは、思いつきで決めるものではありません。基準やステークホルダーの声をもとに、手順を踏んで特定します。基本の流れを見ていきましょう。
課題の洗い出し(国際基準・業界・ステークホルダー)
最初のステップは、自社に関わるESG課題を幅広く洗い出すことです。解説動画『ESGマテリアリティとは』でも、国際的なガイドラインや基準、業界団体、ステークホルダーの意見を参考に課題を洗い出すと説明されていました。
ここでは、漏れなく広く挙げることが大切です。気候変動や人権、サプライチェーン、ガバナンスなど、想定される課題をまずテーブルに並べます。自社の思い込みだけで絞らず、外部の視点を取り入れるのがコツです。
重要度の評価(2つの視点)
次に、洗い出した課題を評価して、重要度を測ります。ポイントは、2つの視点で見ることです。一つは、自社の事業戦略やビジネスモデルにとっての重要度。もう一つが、ステークホルダーの視点からの重要度です。
同じ課題でも、自社にとっての重みと、社会から見た重みは異なります。両方の物差しで測ることで、独りよがりにならない評価ができます。この2軸が、次のマトリックスの土台になります。
決定・検証と定期的な更新
評価をもとに、最も重要な課題をマテリアリティとして決定します。この際、経営層の承認が欠かせません。経営の意思として位置づけてこそ、実行力が伴うからです。
そして、一度決めたら終わりではありません。同動画でも、定期的に見直し、対話や第三者の検討を通じて妥当性や透明性を確保すると述べられていました。社会の変化に合わせて、マテリアリティも更新していくものなのです。
マテリアリティ特定の4ステップ
手順を踏んで、納得感のある重要課題を選ぶ
課題の洗い出し
国際基準・業界・ステークホルダーの声を参考に幅広く挙げる
重要度の評価
自社にとっての重要度+ステークホルダーにとっての重要度
決定
マトリックスで重要課題を選び、経営層が承認
検証・更新
定期的に見直し、対話や第三者で妥当性を確認
自社の思い込みで絞らず、外部の視点を取り入れることが独りよがりを防ぐ鍵です。
マテリアリティ・マトリックスの読み方と作り方
特定したマテリアリティを一枚で示すのが、マテリアリティ・マトリックスです。2つの軸の意味と、作成のポイントを見ていきます。
2つの軸(自社の重要度×ステークホルダーの重要度)
マテリアリティ・マトリックスは、課題を2つの軸でマッピングした図です。一般的に、横軸に「自社の事業にとっての重要度(影響度)」、縦軸に「ステークホルダーにとっての重要度(関心度)」をとります。
そして、両方が高い右上の領域にある課題が、最重要のマテリアリティと位置づけられます。どの課題に注力すべきかが、一目で伝わる仕組みです。優先順位を、社内外で共有しやすくなります。
マトリックス作成のポイント
作成のコツは、軸の評価に客観性を持たせることです。自社の都合だけで点数をつけると、マトリックスはゆがみます。ステークホルダーへのアンケートや対話、専門家の知見などを取り入れると、説得力が増します。
また、課題の粒度をそろえることも大切です。大きすぎる課題と細かすぎる課題が混在すると、比較がしにくくなります。誰が見ても納得できる配置を目指すと、開示物としての価値も高まります。
形だけにしない注意点
注意したいのは、マトリックスを「作ること」が目的化してしまう罠です。きれいな図を描いても、その後の経営につながらなければ意味がありません。図はあくまで、優先順位を共有するための道具です。
統合報告書などで見栄えのよいマトリックスを載せても、実態が伴わなければ、かえって不信を招きます。中身のある特定こそが、本質だと言えるでしょう。統合報告書の考え方は、関連記事の統合報告書とは|6つの資本と価値創造ストーリー・作り方も参考になります。
マテリアリティ・マトリックスの読み方
2つの軸で、注力すべき課題を見極める
自社影響は小
気候変動人権
関心はこれから
自社の事業にとっての重要度(影響度)→
両方が高い右上の課題を、優先して取り組む最重要マテリアリティと位置づけます。
マテリアリティを経営・開示につなげる
マテリアリティは、特定して終わりではありません。目標や開示につなげ、経営を動かして初めて価値を持ちます。その展開を整理しましょう。
目標・KPIへ展開する
特定したマテリアリティは、具体的な目標やKPI(重要業績評価指標)へと落とし込みます。たとえば「気候変動」をマテリアリティとしたなら、CO2排出量の削減目標を立てる、といった具合です。
抽象的な重要課題のままでは、行動になりません。数値目標に変換し、誰が・いつまでに・何をするかを定める。マテリアリティと目標がつながって初めて、取り組みが前に進みます。削減目標の立て方は、関連記事のSBT(科学的根拠に基づく目標)とは|認定基準・取得のメリットと設定の進め方も参考になります。
統合報告書やISSB・SSBJ開示で示す
マテリアリティと、それに紐づく目標・進捗は、開示を通じて外部に示します。統合報告書やサステナビリティ報告書、そしてISSBやSSBJといった開示基準に沿った報告が、その舞台になります。
投資家は、企業がどの課題を重要と捉え、どう取り組んでいるかを知りたがっています。マテリアリティの開示は、その問いに答える行為です。ESG投資の評価軸は、関連記事のESG投資とは|評価基準・手法と企業が押さえるべきポイントで整理しました。
言葉だけにしない(グリーンウォッシュ回避)
最後に、注意点を一つ。立派なマテリアリティを掲げても、実態が伴わなければ信頼を損ないます。重要課題と言いながら何も行動しなければ、見せかけと受け取られかねません。
実態のない美しい開示は、グリーンウォッシュと批判される恐れがあります。詳しくは関連記事のグリーンウォッシュとは|事例・問題点・規制と企業が陥らないための対策で整理しました。掲げた課題に、具体的な行動と根拠を伴わせること。それがマテリアリティを生かす条件です。
マテリアリティを経営・開示につなげる
特定して終わりにせず、サイクルを回す
マテリアリティ
重要課題を特定
目標・KPI
CO2削減目標など具体化
実行
事業に組み込む
情報開示
統合報告書・ISSB/SSBJ
見直し
定期的に更新
掲げた課題に具体的な行動と根拠を伴わせることが、グリーンウォッシュ回避の条件です。
まとめ|マテリアリティは「何に集中するか」を定める羅針盤
マテリアリティとは、ESGの数ある課題の中から、自社が優先して取り組む重要課題を特定したものでした。資源が限られるからこそ、どこに集中するかを定める羅針盤の役割を果たします。財務への影響を見るシングルと、社会へのインパクトも見るダブル。立場によって捉え方が分かれる点も押さえておきたいところです。
特定は、課題の洗い出し、2つの視点での評価、決定、そして定期的な更新という流れで進みます。マトリックスで優先順位を可視化し、目標・開示へとつなげる。特定して終わりにせず、サイクルを回すことが企業価値の向上と信頼の構築につながります。
まずは自社にとっての重要課題は何か、外部の視点も交えて洗い出すことから始めてみてはいかがでしょうか。ESG全体の見取り図はESGとは|意味・E/S/G・情報開示・投資まで完全ガイドもあわせてご覧ください。greenoteでは、ESG実務の情報をこれからもお届けしていきます。
よくある質問(FAQ)
Q. マテリアリティとは何ですか? A. マテリアリティとは、日本語で「重要課題」と訳される言葉で、企業が数あるESG・サステナビリティの課題の中から、優先的に取り組むべき重要なテーマを特定したものを指します。事業活動と社会への影響度合いを評価して優先順位をつけ、限られた経営資源をどこに集中するかを定める出発点になります。
Q. なぜマテリアリティの特定が必要なのですか? A. 企業のヒト・モノ・カネといった資源は限られており、すべての社会課題に同時に取り組むことはできないためです。重要な課題を見極めて資源を集中することで、取り組みの実効性が高まり、企業価値の向上につながります。投資家に「自社が何を重視しているか」を説明する基盤にもなります。
Q. シングルマテリアリティとダブルマテリアリティの違いは何ですか? A. シングルマテリアリティは、ESG課題が「企業の財務」に与える影響を重視する考え方で、主に投資家の視点に立ちます(ISSBなどが採用)。ダブルマテリアリティは、それに加えて「企業が環境・社会に与える影響(インパクト)」も重視する考え方です(EUのCSRDなどが採用)。財務への影響だけを見るか、社会へのインパクトも見るかが違いです。
Q. マテリアリティはどう特定するのですか? A. 一般的には、(1)国際基準や業界・ステークホルダーの声をもとにESG課題を幅広く洗い出し、(2)自社にとっての重要度とステークホルダーにとっての重要度の両面で評価し、(3)マトリックス図などを用いて重要な課題を決定し、(4)定期的に見直して更新する、という流れで進めます。経営層の承認と、対話による妥当性の確認も欠かせません。
Q. マテリアリティ・マトリックスとは何ですか? A. 特定したマテリアリティを一枚の図で示したものです。一般的に、横軸に「自社の事業にとっての重要度(影響度)」、縦軸に「ステークホルダーにとっての重要度(関心度)」をとり、両方が高い領域にある課題を最重要のマテリアリティとして位置づけます。優先順位を視覚的に共有できる点が特徴です。
Q. マテリアリティを特定した後は何をすればよいですか? A. 特定したマテリアリティごとに、具体的な目標やKPIを設定し、事業に組み込んで取り組みます。その進捗を統合報告書やISSB・SSBJなどの枠組みに沿って開示します。特定して終わりにせず、目標→実行→開示→見直しのサイクルを回すことが、企業価値の向上と信頼の構築につながります。
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※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
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greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年6月20日