ESG情報開示とは|基礎・開示の枠組みと企業が押さえるポイントを解説

2026.06.03
ESG開示

「ESG情報開示が大事だとは分かるが、何を・どの枠組みで・どこに開示すればよいのか整理しきれない」。サステナビリティやIRの現場では、そうした声をよく耳にします。

ESG情報開示とは、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)に関する非財務情報を、投資家やステークホルダーへ開示することです。財務諸表に表れない企業の取り組みを伝え、長期的な企業価値を示す役割を担います。近年は任意開示から、有価証券報告書などの制度開示へと位置づけが移ってきました。

本記事では、ESG情報開示の定義、重要視される背景、SSBJやISSBなど主な枠組み、開示の媒体、そして企業が押さえるべきポイントとステップを順に解説します。実務の判断に使える形へ整理しました。お役に立てれば幸いです。

ESG情報開示の全体像

ESGの非財務情報

E環境・S社会・Gガバナンス

枠組みに沿って開示

SSBJ・TCFD・GRI 等/有報・統合報告書

投資家・ステークホルダー

長期の企業価値を評価

制度開示(有報)+任意開示(統合報告書等)を両立する

この記事の目次

ESG情報開示とは|環境・社会・ガバナンスの非財務情報を開示する

ESG情報開示とは、企業の環境・社会・ガバナンスへの取り組みを、外部に対して伝える行為です。財務情報と並ぶ重要な情報として、投資家の判断材料です。まずは定義と対象を押さえましょう。

ESG情報開示の定義と対象

ESG情報開示の対象は、環境・社会・ガバナンスの3分野にわたります。環境では温室効果ガス排出量や水・資源、社会では人権・労働・人的資本、ガバナンスでは取締役会の体制や企業倫理が代表例です。

これらはいずれも、財務諸表の数字には直接表れません。しかし、企業の持続可能性や将来のリスク・機会を左右します。数字の裏にある取り組みを言葉とデータで示すことが、ESG情報開示の中身です。

財務情報との違い(非財務情報)

ESG情報は、「非財務情報」と呼ばれます。売上や利益といった財務情報が過去の業績を示すのに対し、非財務情報は将来の価値創造の土台を映します。

ESG投資の広がりについては、関連記事のESG投資とは|評価基準・手法と企業が押さえるべきポイントで解説しました。投資家は、財務と非財務の両面から企業を見るようになりました。だからこそ、非財務情報を的確に開示する力が問われます。

任意開示から制度開示へ

かつてESG情報は、企業が任意で開示するものでした。しかし近年、制度として開示を求める流れが強まっています。日本では2023年3月期から、有価証券報告書にサステナビリティ情報の記載欄が設けられました。

任意の取り組みが、ルールにもとづく報告へと変わりつつある段階です。この変化を理解することが、開示の出発点になります。

なぜESG情報開示が重要なのか

ESG情報開示が重視される背景には、ESG投資の拡大と、投資家・社会からの要請があります。非財務情報が長期的なリスクと機会を映すと認識されてきたためです。重要性の理由を整理しましょう。

ESG投資の拡大と投資家の要請

最大の理由が、ESG投資の拡大です。環境・社会・ガバナンスを考慮して投資先を選ぶ動きが、世界的に広がりました。投資家は、企業のESGへの取り組みを判断材料として求めます。

開示が乏しければ、評価のしようがありません。逆に、的確な開示は資金を呼び込みます。投資家との対話の入り口として、ESG情報開示の重みが増してきました。

リスク管理と企業価値への影響

ESGの観点は、企業のリスク管理にも直結します。気候変動による事業リスクや、人権問題による信用低下などは、いずれ財務に跳ね返ります。気候関連のリスクは、関連記事の気候変動リスクとは|物理的リスク・移行リスクと企業の対応策で整理した通りです。

これらのリスクと機会を開示することは、自社の経営を見つめ直す契機にもなるのです。私たちgreenote編集部の取材でも、開示を起点に経営課題を捉え直す企業が増えていると感じます。開示は外向けの作業にとどまらず、経営の質を高める営みでもあるのです。

制度開示の進展(有価証券報告書)

制度面の進展も、重要性を押し上げました。有価証券報告書でのサステナビリティ情報開示が求められ、SSBJ基準による開示も段階的に整備されています。SSBJ基準の詳細は、関連記事のSSBJ基準とは|適用スケジュール・開示項目・ISSBとの違いをご覧ください。

制度化は、対象企業に正確な開示を迫るものです。任意の取り組みでは済まされない領域が、着実に広がる一方です。

主な開示の枠組み・基準

ESG情報開示には、SSBJ・ISSB・TCFD・TNFD・GRIなど複数の枠組みがあります。それぞれ対象や目的が異なり、近年は国際基準への収れんが進む段階です。日本取引所グループの解説も参考に、主な枠組みを整理しましょう。

ISSB(IFRS S1・S2)とSSBJ基準

国際的な軸となるのが、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)のIFRS S1・S2です。S1がサステナビリティ全般、S2が気候関連を扱います。日本では、これをベースにしたSSBJ基準が整備されました。

ISSBは、乱立していた枠組みを束ねる役割を担う存在です。投資家向けの開示を、世界共通の物差しでそろえる動きと言えます。日本企業にとっては、SSBJ基準への対応が当面の中心です。

TCFD・TNFD(気候・自然関連)

特定のテーマに焦点を当てた枠組みもあります。TCFDは気候関連、TNFDは自然関連の情報開示を扱う枠組みです。いずれもガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標の4要素で開示する構造になっています。

TCFDの考え方はISSBへ引き継がれ、TNFDは自然分野で広がっています。TNFDの詳細は、関連記事のTNFDとは|4つの柱とLEAPアプローチで解説した通りです。気候から自然へと、開示の対象は着実に広がってきました。

GRI・SASB・CDPなど

このほかにも、複数の枠組みが存在します。GRIは幅広いステークホルダー向けの報告基準、SASBは業種別の開示基準、CDPは気候変動・水・森林に関する質問票調査です。

JPXの『開示枠組みの特徴と動向』でも、これらの枠組みの整理と国際的な収れんが解説されています。複数の枠組みは競合するというより、目的に応じて使い分け、組み合わせるものと捉えると理解しやすいでしょう。

ESG情報開示の主な枠組み・基準
主な開示枠組みと対象・特徴
枠組み・基準対象・特徴
ISSB(IFRS S1・S2)国際基準。投資家向け開示の共通の物差し
SSBJ基準日本版。有価証券報告書での開示に対応
TCFD気候関連(ISSBへ継承)
TNFD自然関連(生物多様性・自然資本)
GRI幅広いステークホルダー向けの報告基準
SASB業種別の開示基準
CDP気候変動・水・森林の質問票調査

開示の媒体|有価証券報告書・統合報告書・サステナビリティ報告書

ESG情報は、有価証券報告書・統合報告書・サステナビリティ報告書など複数の媒体で開示されます。制度開示と任意開示で役割が異なります。それぞれの位置づけを整理しましょう。

有価証券報告書(制度開示)

有価証券報告書は、投資家保護を目的とした法定の開示書類です。2023年3月期から、サステナビリティに関する記載欄が設けられました。正確性と比較可能性が強く求められます。

ここでの開示は、制度にもとづく義務です。SSBJ基準への対応も、この有報での開示に関わります。事実を正確に、定められた様式で示すことが基本です。

統合報告書(価値創造の物語)

統合報告書は、財務と非財務を統合し、価値創造のストーリーを伝える任意の媒体です。制度開示よりも自由度が高く、自社らしさを打ち出せます。統合報告書の作り方は、関連記事の統合報告書とは|6つの資本と価値創造ストーリー・作り方で解説した通りです。

有報が「事実」を、統合報告書が「文脈」を伝える。そんな役割分担が、実務では一般的です。

サステナビリティ報告書・ウェブ開示

より網羅的にESG情報を伝える媒体が、サステナビリティ報告書やウェブサイトです。幅広いステークホルダーに向け、詳細なデータや取り組みを開示します。

これらは、有報や統合報告書を補う役割を担います。制度開示・価値創造の物語・網羅的なデータという3層で、開示全体を設計すると整理しやすくなるはずです。

ESG情報の開示媒体3種類
3層で開示全体を設計する
制度開示

有価証券報告書

事実を正確に、定められた様式で(法定)。SSBJ対応もここ。

任意

統合報告書

財務×非財務で価値創造の物語を伝える。自社らしさを発信。

任意

サステナ報告書・ウェブ

網羅的なデータを幅広いステークホルダーへ。

企業が押さえるべきポイントとステップ

ESG情報開示は、マテリアリティの特定・データの整備・枠組みの選択・第三者保証への備えがポイントです。現状把握から始め、段階的に高度化するのが現実的です。実務のステップを示しましょう。

ステップ1:マテリアリティの特定

最初の作業は、自社にとって重要な課題(マテリアリティ)を特定することです。あらゆるESG項目を均等に開示するのではなく、自社の価値創造に深く関わるテーマを絞り込みます。

ここが定まらないと、開示の焦点がぼやけます。投資家との対話や経営層の議論を通じて、重要課題を見極める。この一歩が、開示全体の骨格を決めます。

ステップ2:データ整備と開示媒体の選択

次に、開示に必要なデータを整えます。GHG排出量のように、算定の基盤づくりが欠かせない項目もあります。算定ツールの選び方は、関連記事のCO2排出量算定ツールとは|選び方・種類と導入のポイントで詳しく取り上げています。

あわせて、どの枠組みでどの媒体に開示するかを決めます。サプライチェーン全体の排出を扱うScope3の算定も、ここで関わってきます。算定方法はスコープ3排出量の算定方法をご覧ください。

ステップ3:第三者保証と継続的な改善

開示の信頼性を高める手段が、第三者保証です。算定の根拠やデータの履歴を残しておけば、保証にも対応しやすくなるはずです。SSBJ基準などで保証が求められる流れも見据えたい点です。

筆者がESG開示の支援現場で感じるのも、一度で完成を目指すより、毎年改善する前提で始める企業ほど開示の質が育つという点です。継続こそが、信頼される開示を支えます。

ESG情報開示を進める3ステップ
1

マテリアリティの特定

価値創造に深く関わる重要課題を絞り込む。

2

データ整備と開示媒体の選択

GHG算定など基盤を整え、枠組みと媒体(有報・統合報告書等)を決める。

3

第三者保証と継続的な改善

根拠を残し、毎年改善する前提で開示の質を高める。

ESG情報開示でつまずきやすいポイントと対応策

ESG情報開示では、枠組みの乱立への戸惑い・データ収集・グリーンウォッシュという3点でつまずきやすい傾向があります。先に知っておくと、無駄のない開示につながります。よくある課題を整理しましょう。

枠組みが多くて選べない

最も多い戸惑いが、枠組みの多さです。SSBJ、ISSB、TCFD、GRIなどが並び、どれに対応すべきか迷います。すべてに完璧に応えようとすると、負担が膨らみます。

対応策は、まず自社に求められる制度開示(有報・SSBJ)を軸に据えることです。国際基準への収れんが進む今、ISSB系を中心に押さえれば、多くの枠組みと整合がとれます。軸を決めれば、迷いは小さくなるはずです。

データ収集と部門連携

次に多いのが、データ収集の難しさです。ESG情報は、環境・人事・調達など複数の部門に分散しています。集約の仕組みがないまま開示時期を迎えると、現場が混乱します。

対応策は、データ収集の担当と手順を決め、年間業務に組み込むことです。部門横断の連携が、開示の質と効率を支えます。仕組みとして根づかせることが肝心です。

グリーンウォッシュを避ける

開示の拡大とともに、グリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)への懸念も無視できません。成果を誇張すれば、かえって信頼を損ないかねません。

対応策は、根拠のあるデータにもとづき、できていない点も含めて誠実に開示することです。算定の前提や対象範囲を明示し、第三者保証や国際枠組みを活用する。透明性こそが、グリーンウォッシュ批判を避ける最善の道です。

ESG情報開示でつまずきやすい3点と対応策
ESG情報開示のつまずきと対応策
つまずきやすいポイント対応策
枠組みが多くて選べない制度開示(有報・SSBJ)を軸に、ISSB系を中心に押さえる。
データ収集・部門連携担当と手順を決め、年間業務に組み込む。
グリーンウォッシュ根拠あるデータで誠実に開示し、第三者保証・国際枠組みを活用。

あわせて読みたい:環境対応を「仕組み」にする国際規格 → ISO14001とは|取得の流れ・費用とエコアクション21との違い

まとめ|ESG情報開示は「制度対応」と「価値創造の発信」を両立する

ESG情報開示とは、環境・社会・ガバナンスの非財務情報を、投資家やステークホルダーへ伝える取り組みです。ESG投資の拡大と制度開示の進展を背景に、その重要性は年々高まってきました。

開示には、ISSB・SSBJ・TCFD・TNFD・GRIなど複数の枠組みがあり、有価証券報告書・統合報告書・サステナビリティ報告書といった媒体で発信します。国際基準への収れんを踏まえ、制度開示を軸に据えると整理しやすくなるはずです。

実務では、マテリアリティの特定から始め、データを整え、第三者保証と継続的な改善へとつなげます。制度への対応と、自社の価値創造の発信。この両立こそが、これからのESG情報開示の核になります。投資の観点は、関連記事のESG投資とはもあわせてご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q. ESG情報開示とは何ですか?

ESG情報開示とは、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)に関する非財務情報を、投資家やステークホルダーに向けて開示することです。温室効果ガス排出量や人的資本、ガバナンス体制などが対象で、財務諸表に表れない企業の取り組みや長期的な価値を伝える役割を担います。

Q. ESG情報開示は義務ですか?

従来は任意の開示が中心でしたが、制度化が進んでいます。日本では2023年3月期から有価証券報告書にサステナビリティ情報の記載欄が設けられ、SSBJ基準による開示も段階的に求められる見込みです。対象となる上場企業では、実質的に制度開示へと移行しつつあります。

Q. ESG情報開示の主な枠組みには何がありますか?

国際基準のISSB(IFRS S1・S2)と、その日本版であるSSBJ基準、気候関連のTCFD、自然関連のTNFD、サステナビリティ報告のGRI、業種別のSASB、気候・水のCDPなどがあります。近年はISSBを軸に国際的な収れんが進んでいます。

Q. ESG情報はどの媒体で開示すればよいですか?

有価証券報告書(制度開示)、統合報告書(価値創造の物語)、サステナビリティ報告書やウェブサイト(網羅的な開示)などがあります。制度で求められる情報は有価証券報告書で、価値創造のストーリーは統合報告書で、というように媒体ごとの役割を踏まえて使い分けます。

Q. ESG情報開示は何から始めればよいですか?

まずは自社のマテリアリティ(重要課題)を特定することから始めます。そのうえで、必要なデータを整備し、適した開示枠組みと媒体を選びます。GHG排出量の算定など、データの基盤づくりが土台になります。完璧を目指さず、段階的に高度化する進め方が現実的です。

Q. ESG情報開示でグリーンウォッシュを避けるには?

根拠のあるデータにもとづき、できていない点も含めて誠実に開示することが基本です。成果を誇張せず、算定の前提や対象範囲を明示します。第三者保証を受けたり、国際的な枠組みに沿って開示したりすることも、信頼性を高め、グリーンウォッシュ批判を避ける助けになります。

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出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

編集責任

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サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年6月20日

この記事の著者

greenote編集部

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