パリ協定6条とは|国際炭素市場(6.2条・6.4条)とJCM・企業への影響をわかりやすく解説

2026.08.12
気候変動

最終更新日:2026年8月4日

企業や国がカーボンクレジットを使って排出を埋め合わせるとき、その「質」を誰がどう担保するのか——。その国際的な土台となるのが、パリ協定6条です。国境を越えて排出削減の成果をやり取りするための共通ルールで、2024年のCOP29で長年の交渉が大きく前進し、いよいよ本格運用の段階に入りました。

この記事では、パリ協定6条とは何か、なぜ重要なのか、6.2条・6.4条・6.8条という3つの柱、核心となる「相当調整」、最新の状況、日本のJ-クレジットやJCM、そして企業やボランタリー市場への影響までを、中立的に整理します。

※国際交渉と運用ルールは進行中で、内容は今後も変わりえます。本記事はUNFCCC等の公表情報(2026年時点)に基づく解説です。確定情報ではないため、最新の公式情報をご確認ください。

パリ協定6条の3つの柱
6.2条国同士の協力(ITMO)。日本のJCMが代表例
6.4条国連が監督する中央メカニズム(PACM)
6.8条市場によらない協力(非市場アプローチ)
国境を越えて排出削減を協力し、各国の目標(NDC)達成を後押しする

この記事の目次

パリ協定6条とは|国際的な炭素市場のルール

パリ協定6条は、各国が協力して温室効果ガスの排出削減に取り組み、その成果を国境を越えてやり取りするための仕組みを定めた条項です。ある国で実施した削減を、別の国が自国の目標達成に使える——そうした国際的な「炭素市場」の共通ルールを提供します。

背景には、各国が掲げる国別の削減目標(NDC=Nationally Determined Contributions)があります。自国だけで削減するより、削減コストの低い国・地域で減らして成果を分け合うほうが、世界全体では効率的に減らせる——という考え方が土台にあります。

なぜ6条が重要なのか|NDC達成とコスト効率

6条が重要なのは、世界全体の脱炭素をより速く・安く進める可能性があるからです。削減の機会は国によって偏在しており、コスト効率の高い場所から減らせれば、限られた資金でより多くの削減が実現できます。

一方で、成果を「移転」する以上、二重に数えられたり、質の低い削減が横行したりすれば、世界全体の削減は見かけ倒しになりかねません。だからこそ、後述する「相当調整」や質の確保のルールが、6条の信頼性を支える生命線になります。企業が使うカーボンオフセットの信頼性にも直結するテーマです。

6条の3つの柱|6.2条・6.4条・6.8条

パリ協定6条は、大きく3つの仕組みで構成されます。上図のとおり、市場を使う2つ(6.2条・6.4条)と、市場によらない1つ(6.8条)です。

6.2条|国同士の協力(ITMO・JCM)

6.2条は、国と国が直接協力して削減を実施し、その成果を「ITMO(国際的に移転される緩和成果)」として移転する仕組みです。各国が二国間などで枠組みを作り、比較的柔軟に運用できます。日本が進めるJ-クレジット(JCM=二国間クレジット制度)は、この6.2条に位置づけられる代表的な取り組みです。

6.4条|国連が監督するメカニズム(PACM)

6.4条は、国連の監督機関が管理する中央集権的なメカニズムです。PACM(Paris Agreement Crediting Mechanism)とも呼ばれ、京都議定書時代のCDM(クリーン開発メカニズム)を引き継ぐ後継と位置づけられます。共通の方法論と厳格な審査で、クレジットの質を担保することがねらいです。

6.8条|非市場アプローチ

6.8条は、クレジットの取引によらない協力(非市場アプローチ)を扱います。資金支援や技術移転、能力構築などを通じて、市場メカニズムになじまない分野の協力を進める枠組みです。

6.2条と6.4条の違い|比較で押さえる

市場メカニズムである6.2条と6.4条は、しばしば混同されます。仕組みと成果の単位が異なるため、比較で押さえておきましょう。

6.2条と6.4条の違い
パリ協定6.2条と6.4条の比較
観点6.2条(協力的アプローチ)6.4条(PACM)
仕組み国と国が直接、協力して実施国連の監督機関が管理する中央メカニズム
成果の単位ITMO(国際的に移転される緩和成果)A6.4ER(6.4条の排出削減クレジット)
代表例日本のJCM(二国間クレジット制度)京都議定書のCDMを引き継ぐ後継
特徴柔軟だが各国のルールづくりが前提国連の共通ルール・方法論で質を担保

核心は「相当調整」|ダブルカウントを防ぐ仕組み

6条の信頼性を支える最重要の概念が「相当調整(corresponding adjustment)」です。ある国が削減成果を他国へ移転したら、移転した側は自国の排出計上を増やす(=その削減を自国の達成に数えない)調整を行います。

これにより、同じ1トンの削減を移転元と移転先の両方が数える「ダブルカウント(二重計上)」を防ぎます。相当調整が正しく行われて初めて、国際的な炭素市場は「見かけ倒しでない」実効性を持ちます。企業がクレジットを使う際も、この調整の有無が質を見分ける重要なポイントになります。

最新の状況|COP29での合意とPACMの始動

6条のルールづくりは、パリ協定採択(2015年)以降も難航し、長く未確定な部分が残っていました。2024年のCOP29(バクー)で、6.4条メカニズム(PACM)の方法論や炭素除去に関する基準などが採択され、交渉は大きく前進したとされます。

これを受けて、2025年以降はPACMの方法論の登録や、最初のクレジット発行に向けた手続きが本格化する局面に入っています。ただし、細部の運用や質の確保はなお発展途上で、今後の動きを注視する必要があります。

日本のJCM|二国間クレジットの先行例

日本は、6.2条に先駆ける形で、2013年ごろからJ-クレジットとは別の枠組みであるJCM(二国間クレジット制度)を進めてきました。途上国と協力して優れた脱炭素技術を導入し、その削減分をクレジットとして両国で分け合う仕組みです。

パートナー国は年々広がっており、日本のNDC達成の手段の一つとして位置づけられています。6.2条のルールが整うことで、JCMで得たクレジットの国際的な扱いも明確になっていくと見込まれます。日本企業がプロジェクトに参画する例もあります。

企業・ボランタリー市場への影響

6条は国と国の仕組みですが、企業にも無縁ではありません。第一に、企業が任意で購入するカーボンオフセット(ボランタリー・カーボン市場)のクレジットの質を測る「ものさし」として、6条の考え方や相当調整の有無が参照されるようになっています。

  • クレジットの質の向上:国連監督のPACMや相当調整を経たクレジットは、質の高いものとして評価されやすい。森林クレジットなど種類ごとの信頼性を見極める材料になる。
  • 航空分野(CORSIA):国際航空の排出削減制度CORSIAが、一定の基準を満たす6条クレジットを受け入れる方向で、企業の調達に影響する。EUの2040年気候目標も、最大5%を6条にもとづく国際クレジットで補える設計です。
  • ネットゼロ主張との関係:クレジットは削減の代替ではなく補完という原則は変わらない。ネットゼロ削減貢献量と同様、まず自社削減が前提。

課題|環境十全性・質・透明性

6条には期待とともに、いくつかの課題も指摘されています。

  • 環境十全性(integrity):追加性(その削減が支援なしには起きなかったか)や、過大計上を避ける厳格さが問われる。
  • 相当調整の確実な実施:移転国が調整を確実に行わなければ、ダブルカウントが生じる。
  • 透明性とデータ:どの削減がどこへ移転されたかを追える、透明な登録・報告の仕組みが不可欠。
  • 地域・人権への配慮:プロジェクトが地域社会や生態系に悪影響を与えないよう、セーフガードが求められる。
パリ協定6条の質を支える4つの論点

環境十全性(integrity)

追加性(支援なしには起きなかったか)や、過大計上を避ける厳格さが問われる。

相当調整の確実な実施

移転国が調整を確実に行わないと、ダブルカウントが生じる。

透明性とデータ

どの削減がどこへ移転されたか追える、透明な登録・報告の仕組みが不可欠。

地域・人権への配慮

プロジェクトが地域社会や生態系に悪影響を与えないよう、セーフガードが求められる。

まとめ|「質の高いクレジット」を支える国際ルール

パリ協定6条は、国境を越えて排出削減を協力し、各国のNDC達成を後押しする国際的な炭素市場のルールです。国同士で行う6.2条(ITMO・日本のJCM)、国連が監督する6.4条(PACM)、市場によらない6.8条の3本柱で構成され、「相当調整」によるダブルカウント防止が信頼の要になります。

2024年のCOP29で交渉が大きく前進し、2025年以降は本格運用の局面に入りました。企業にとっても、カーボンオフセットやクレジットの質を見極めるうえで欠かせない土台です。まず自社の削減を最優先しつつ、質の高いクレジットを見分ける目を持つことが、これからのカーボンニュートラル経営に求められます。

よくある質問(FAQ)

Q. パリ協定6条とは何ですか?

各国が協力して温室効果ガスの排出削減に取り組み、その成果を国境を越えてやり取りするための国際ルールを定めた条項です。国別目標(NDC)の達成を、より効率的に進めることをねらいとしています。

Q. 6.2条と6.4条はどう違いますか?

6.2条は国と国が直接協力して成果(ITMO)を移転する柔軟な仕組みで、日本のJCMが代表例です。6.4条は国連が監督する中央メカニズム(PACM)で、共通の方法論と審査でクレジットの質を担保します。

Q. 相当調整(corresponding adjustment)とは?

ある国が削減成果を他国へ移転した際、移転元が自国の排出計上を調整し、その削減を自国の達成に二重に数えないようにする仕組みです。ダブルカウント(二重計上)を防ぎ、国際炭素市場の信頼性を支えます。

Q. JCM(二国間クレジット制度)と6条の関係は?

JCMは、日本が途上国と協力して削減を行い、成果を分け合う制度で、パリ協定6.2条に位置づけられる代表的な取り組みです。6.2条のルール整備により、JCMクレジットの国際的な扱いも明確になっていくと見込まれます。

Q. PACMとは何ですか?

Paris Agreement Crediting Mechanismの略で、6.4条にもとづき国連が監督する中央集権的なクレジット制度です。京都議定書のCDMを引き継ぐ後継とされ、共通の方法論と厳格な審査で質を担保することをめざします。

Q. 企業のカーボンクレジット購入に影響しますか?

はい。国連監督のPACMや相当調整を経たクレジットは質が高いと評価されやすく、企業がボランタリー市場でクレジットを選ぶ際の「ものさし」になります。国際航空のCORSIAが6条クレジットを受け入れる動きも影響します。

Q. 6条があれば自社で削減しなくてよいのですか?

いいえ。クレジットは自社の削減の代替ではなく補完という原則は変わりません。まず自社のバリューチェーンで削減を進めたうえで、どうしても残る排出への対応として質の高いクレジットを使う、という順序が基本です。

Q. 6条にはどんな課題がありますか?

追加性や過大計上を避ける環境十全性、相当調整の確実な実施、透明な登録・報告、そしてプロジェクトが地域社会や生態系に悪影響を与えないためのセーフガードなどが課題として指摘されています。

出典・参考(一次情報)

※ 本記事はUNFCCC・JCM等の公表情報をもとにgreenote編集部が整理した解説です。6条の運用ルールは進行中のため、最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年8月6日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

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