ボランタリー・カーボン市場の信頼性とは|ICVCM・コアカーボン原則(CCP)とクレジットの品質を解説

2026.08.13
気候変動

最終更新日:2026年8月4日

企業がカーボンオフセットのためにカーボンクレジットを購入するとき、最大の関心は「そのクレジットは本当に価値があるのか」です。過去には、実態の乏しいクレジットが批判を集め、市場の信頼が揺らいだこともありました。この信頼を立て直そうとする取り組みが、ボランタリー・カーボン市場(VCM)の「品質・信頼性(インテグリティ)」をめぐる動きです。

この記事では、VCMとは何か、なぜ信頼性が問われるのか、供給側の基準であるICVCM・コアカーボン原則(CCP)、需要側のルールであるVCMI、そしてパリ協定6条など制度との関係、企業がクレジットを使う際の実務ポイントまでを、中立的に整理します。

※本記事はICVCM・VCMI等の公表情報(2026年時点)に基づく解説です。基準や評価結果は更新されるため、最新は各公式情報をご確認ください。特定のクレジットや事業者を推奨するものではありません。

コアカーボン原則(CCP)の3つの柱
ガバナンス透明性・追跡・独立した第三者検証
排出へのインパクト追加性・永続性・過大計上防止・二重計上防止
持続可能な開発地域・生態系へのセーフガードと貢献
この基準を満たすプログラム・方法論に「CCP適格」ラベルが付与される

この記事の目次

ボランタリー・カーボン市場(VCM)とは|義務市場との違い

ボランタリー・カーボン市場(VCM=Voluntary Carbon Market)とは、企業などが自主的にカーボンクレジットを売買する市場です。法律で排出上限が定められ、その枠を取引する義務的な市場(コンプライアンス市場)とは区別されます。

企業は、自社の削減努力を尽くしたうえで、どうしても残る排出を埋め合わせる(カーボンオフセットする)ためにVCMのクレジットを使います。植林や再エネ、森林クレジットなど、さまざまなプロジェクトが対象です。

2つの市場の違い

ボランタリー市場(VCM)

自主的に参加する市場

  • 企業などが自主的に参加
  • 植林・再エネなど多様なプロジェクト
  • 自社削減後の残余の埋め合わせに活用
  • 質のばらつきが課題→信頼性の基準づくりが進行中

コンプライアンス市場(義務市場)

法制度にもとづく市場

  • 法律で排出上限が定められる
  • 割り当てられた排出枠を取引
  • 参加が義務づけられる場合がある
  • 例:排出量取引制度など

なぜ「信頼性」が問われるのか|質への批判の背景

VCMは長らく、質のばらつきという課題を抱えてきました。実際には削減されていない、あるいは支援がなくても起きたはずの削減が「クレジット化」されている——といった批判が、一部のプロジェクトをめぐって報じられ、市場の信頼と価格が揺らいだ局面もありました。

こうした「質の低いクレジット」がまぎれ込むと、企業のカーボンニュートラル主張がグリーンウォッシュと受け取られかねません。だからこそ、クレジットの質を客観的に測り、企業の使い方を正す仕組みが求められるようになりました。

供給側の基準|ICVCMとコアカーボン原則(CCP)

供給されるクレジットの質を担保する取り組みの中心が、独立機関のICVCM(Integrity Council for the Voluntary Carbon Market)です。ICVCMは、クレジットが満たすべきグローバルな品質基準としてコアカーボン原則(CCP=Core Carbon Principles)を定めています。

CCPは、上図のように大きく「ガバナンス」「排出へのインパクト」「持続可能な開発」の3つの柱で構成され、その下に複数の原則が置かれます。追加性(支援がなければ起きなかったか)、永続性(削減が長続きするか)、過大計上や二重計上の防止、独立した第三者検証などが含まれます。

CCP適格ラベルの意味|どう質を見分けるか

ICVCMは、クレジットを発行するプログラム(認証機関)や、削減・除去の方法論を、CCPに照らして審査します。基準を満たすと「CCP適格(CCP-labelled)」として認められ、購入者が質の高いクレジットを見分ける手がかりになります。

2025年以降は、森林などの自然由来のクレジットや、技術による炭素除去の方法論について、CCP適格の判断が段階的に進んでいるとされます。ただし、ラベルはあくまで一定の質を示すもので、森林クレジットのように種類ごとの特性や、プロジェクト個別のリスクは引き続き確認が必要です。

質の高いクレジットを見分けるチェック

追加性

その支援がなければ実現しなかった削減・除去か

永続性

削減・貯留の効果が長続きし、逆戻りしにくいか

過大計上の防止

削減量が実態より多く見積もられていないか

二重計上の防止

同じ削減が複数で重複して数えられていないか

独立した第三者検証

中立の第三者が削減量を検証しているか

相当調整(国際移転の場合)

国をまたぐ場合、二重計上を避ける調整がされているか

需要側のルール|VCMIと「主張」のガイド

質の高いクレジットがあっても、企業の使い方や対外的な主張が不適切であれば、信頼は生まれません。そこを担うのが需要側のイニシアチブVCMI(Voluntary Carbon Markets Integrity Initiative)です。

VCMIは、企業がクレジットをどう使い、どう主張してよいかの実務規範(クレーム・コード)を示しています。基本は、まず自社のネットゼロに向けた削減を最優先し、そのうえで残る排出に質の高いクレジットを使い、誇張のない範囲で主張する、という考え方です。SBTiネットゼロ基準が求める自社削減の優先と整合します。

供給側と需要側|2つの整合性を押さえる

VCMの信頼性は、「良いクレジットを作る(供給側=ICVCM)」と「正しく使い主張する(需要側=VCMI)」の両輪で成り立ちます。

供給側(ICVCM)と需要側(VCMI)の役割
ICVCMとVCMIの違い
観点ICVCM(供給側)VCMI(需要側)
問いそのクレジットは「良いクレジット」か企業はクレジットを「正しく使い、主張」しているか
手段コアカーボン原則(CCP)とCCP適格ラベルクレーム・コード(主張の実務規範)
対象クレジット発行プログラム・方法論クレジットを購入・活用する企業

クレジットを購入する企業にとっては、CCP適格かどうか(供給側)と、自社の使い方・主張がVCMIの考え方に沿うか(需要側)の両面を確認することが、信頼される取り組みの条件になります。

コンプライアンス市場(6条・CORSIA)との関係

品質をめぐる基準は、任意の市場だけの話ではありません。パリ協定6条にもとづく国際的な炭素市場や、国際航空のカーボンオフセット制度CORSIAでも、質の高いクレジットを求める方向で基準が収斂しつつあります。

CCPのような品質のものさしは、任意市場と義務・国際制度の橋渡しにもなります。企業にとっては、どの市場のクレジットであっても「質を確認する」姿勢が共通して重要になっています。

企業がクレジットを使うときの実務ポイント

クレジットを使うときの4ステップ
1

まず自社で削減する(最優先)

バリューチェーン全体で排出そのものを減らす。クレジットは削減の代わりにはならない。

2

残る排出を把握する

努力しても削減しきれない排出量を明確にする。

3

質の高いクレジットで埋め合わせ

CCP適格か、追加性・永続性・第三者検証などを確認して選ぶ。

4

誠実に主張する

「削減した」と「相殺した」を区別し、誇張しない(VCMIの考え方)。

  • まず自社削減を優先:クレジットは削減の代替ではなく補完。削減貢献量と同様、順序が重要。
  • 質を確認する:CCP適格か、追加性・永続性・第三者検証・相当調整(国際移転の場合)を確認する。
  • 主張は誠実に:VCMIの考え方に沿い、「相殺した」と「削減した」を混同せず、誇張しない。
  • 種類ごとの特性を理解森林クレジットや除去・回避など、クレジットの種類でリスクや意味が異なる点を押さえる。

まとめ|「量」から「質」への転換

ボランタリー・カーボン市場は、かつての「量」重視から、「質」を問う段階へと移りつつあります。供給側のICVCM・コアカーボン原則(CCP)が良いクレジットの基準を示し、需要側のVCMIが企業の正しい使い方と主張を導く——この両輪が、市場の信頼を支えます。

企業にとって大切なのは、まず自社の削減を尽くし、そのうえで質の確かなクレジットを、誇張なく使うことです。カーボンニュートラルの主張が信頼されるかは、クレジットの「質」を見極める目にかかっています。パリ協定6条などの制度と合わせ、質を軸にした市場の成熟が進むと見込まれます。

よくある質問(FAQ)

Q. ボランタリー・カーボン市場(VCM)とは何ですか?

企業などが自主的にカーボンクレジットを売買する市場です。法律で排出上限が定められ枠を取引する義務的な市場(コンプライアンス市場)とは区別され、企業は自社の削減を尽くしたうえで残る排出の埋め合わせなどに利用します。

Q. コアカーボン原則(CCP)とは?

独立機関ICVCMが定める、カーボンクレジットの品質のグローバルな基準です。ガバナンス、排出へのインパクト(追加性・永続性・過大計上防止など)、持続可能な開発の3つの柱で構成され、基準を満たすと「CCP適格」と認められます。

Q. ICVCMとVCMIはどう違いますか?

ICVCMは供給側で、クレジット自体の質をCCPで担保します。VCMIは需要側で、企業がクレジットをどう使い・主張してよいかの実務規範を示します。良いクレジットを作る側と、正しく使う側の両輪です。

Q. CCP適格ラベルがあれば安心ですか?

CCP適格は一定の質を示す有力な手がかりですが、万能ではありません。クレジットの種類(森林・除去・回避など)ごとの特性や、プロジェクト個別のリスクは引き続き確認が必要です。

Q. なぜクレジットの質が問題になったのですか?

実際には削減されていない、あるいは支援がなくても起きたはずの削減がクレジット化されている、といった批判が一部のプロジェクトで報じられ、市場の信頼と価格が揺らいだためです。質を客観的に測る仕組みが求められました。

Q. パリ協定6条やCORSIAとの関係は?

いずれも質の高いクレジットを求める方向で基準が近づいています。CCPのような品質のものさしは、任意市場と国際・義務制度の橋渡しにもなり、どの市場でも「質の確認」が共通して重要になっています。

Q. クレジットを買えば自社で削減しなくてよいのですか?

いいえ。クレジットは削減の代替ではなく補完です。まず自社のバリューチェーンで削減を尽くし、どうしても残る排出に質の高いクレジットを使う、という順序が基本です。

Q. 企業はまず何を確認すべきですか?

CCP適格かどうか、追加性・永続性・第三者検証(国際移転なら相当調整)といった質の要件を確認することです。そのうえで、VCMIの考え方に沿って、誇張のない誠実な主張を心がけることが大切です。

出典・参考(一次情報)

※ 本記事はICVCM・VCMI等の公表情報をもとにgreenote編集部が整理した解説です。品質基準や評価結果は更新されるため、最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年8月6日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

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