ESG Company Analysis
1枚のTシャツの向こうには、綿を育てた畑があり、糸をつむぎ、布を織り、縫った人々がいます。世界中に広がるこの長い道のりこそ、アパレル企業のESGが問われる場所です。ユニクロを展開するファーストリテイリングにとって、最大のテーマは、このサプライチェーンにおける人権への配慮にほかなりません。本記事では、「LifeWear」を掲げる同社のESG経営を、サプライチェーン人権・気候変動・RE.UNIQLOという観点から、公式情報をもとに分析します。
この記事の目次
01
ファーストリテイリングのESG経営とは|「LifeWear」が軸
まず、ファーストリテイリングのESG経営の全体像と、アパレルならではの重点課題を整理しましょう。
服の一生に、責任を持つ
(綿など)
リサイクル
ユニクロ・GUを展開。世界に広がるサプライチェーンの人権と、服の循環が重点課題。
出典:ファーストリテイリングの公表情報をもとにgreenote作成
ユニクロ・GUを展開する企業
ファーストリテイリングは、「ユニクロ」や「ジーユー」を展開する、世界有数のアパレル企業です。同社が掲げる服のコンセプトが、「LifeWear(ライフウェア)」になります。あらゆる人の生活を、より豊かで快適にする、究極の普段着。そんな服づくりを目指す考え方です。
このLifeWearという思想は、ESG経営とも深く結びついています。良い服を長く着られるかたちで届けることは、それ自体がサステナビリティにつながるからです。大量に作って大量に捨てる、という従来のアパレルのあり方とは異なる方向を、同社は模索している。ファッション産業全体の環境負荷は、関連記事のサステナブルファッションとはもあわせてご覧ください。
アパレルならではの重点課題
アパレル企業のESGには、この業界ならではの重さがあります。それが、サプライチェーンの人権です。衣料品は、原材料の綿を育てる畑から、紡績、縫製まで、多くの工程を経てつくられます。しかも、その多くは、人件費の安い国で行われている。
だからこそ、その現場での労働環境や人権が、常に問われます。低賃金や長時間労働、強制労働などのリスクが、サプライチェーンのどこかにひそんでいないか。アパレルは、こうした人権リスクが構造的に高い業界です。ファーストリテイリングにとって、この課題への対応こそが、ESG経営の最も重い柱になっている。
02
サプライチェーンの人権・労働環境|透明性とトレーサビリティ
ファーストリテイリングのESGで最も重いテーマが、サプライチェーンの人権です。
透明性で、信頼を築く
出典:ファーストリテイリングの公表情報をもとにgreenote作成
人権リスクの高い業界だからこそ、ファーストリテイリングは、この課題に正面から向き合っている。その対応は、大きく3つの柱で整理できます。第一が、行動規範(コードオブコンダクト)です。同社は2004年に、取引先工場の労働環境や人権を守るための行動規範を定めました。そして、これにもとづく人権監査を、取引先の工場に対して実施している。
第二が、工場リストの公開です。同社は、縫製工場や主要な素材工場のリストを、ウェブサイトで公開している。どこで、誰が作っているのかを明らかにする。この透明性が、信頼の土台になります。第三が、トレーサビリティです。2023年からは、ユニクロの全商品について、原材料の産地や生産のプロセスをたどれるようにしました。隠すのではなく、開いて見せる。人権への取り組みの詳細は、関連記事のビジネスと人権とはもあわせてご覧ください。
03
気候変動|RE100と2030年ロードマップ
脱炭素でも、具体的な目標とロードマップを掲げています。
自社も、生産現場も
+ サプライチェーンの2030年8月期ロードマップ
約90%削減
(2019年8月期比)
70%以上を
再生可能エネルギーへ
50%以上改善
出典:ファーストリテイリングの公表情報をもとにgreenote作成
ファーストリテイリングは、気候変動にも具体的な目標で臨んでいます。まず、自社で使う電力については、2030年8月期までに100%再生可能エネルギーにする目標(RE100)を掲げている。店舗やオフィスの電力を、再エネへと切り替えていく取り組みです。RE100について詳しくは、関連記事のRE100とはもあわせてご覧ください。
さらに注目すべきは、自社にとどまらず、生産の現場まで含めた目標を掲げている点です。2030年8月期までのロードマップとして、サプライチェーンにおける石炭使用量を約90%削減(2019年8月期比)、使うエネルギーの70%以上を再エネに切り替え、エネルギー効率を50%以上改善する、という内容を推進している。服づくりの排出の多くは、素材の生産などサプライチェーンで生じます。だからこそ、そこに踏み込む目標が重要になります。
04
RE.UNIQLO|服を回収し、次に生かす
つくって売るだけでなく、売った服の「その後」にも責任を持つ取り組みです。
服を、次に生かす
2006年から続く全商品リサイクル活動が進化した、循環型の取り組み。
出典:ユニクロの公表情報をもとにgreenote作成
ファーストリテイリングは、服を「売った後」にも目を向けている。それが、「RE.UNIQLO」という取り組みです。ユニクロなどで販売した全商品を対象に、不要になった服を店頭で回収し、次に生かします。この活動の源流は古く、2006年から続く「全商品リサイクル活動」が進化したものになります。
回収された服は、まず仕分けられます。まだ着られるものは、難民や避難民への衣料支援などのリユース(再利用)へ。着られないものは、リサイクルへと回される。たとえば、ダウンやフェザーは新しい服の原料として生まれ変わり、服にできないものは、断熱材や防音材などの素材として活用されます。売って終わりではなく、服の一生に責任を持つ。この循環型の発想は、大量廃棄が課題のアパレル業界で、大きな意味を持ちます。循環経済の考え方は、関連記事のサーキュラーエコノミーとはもあわせてご覧ください。
05
社会貢献とガバナンス|「服のチカラ」
服を通じた社会貢献と、ガバナンスの取り組みも見ておきましょう。
服のチカラを、社会のチカラに
本業である服を通じて、社会に貢献する。
出典:ファーストリテイリングの公表情報をもとにgreenote作成
ファーストリテイリングのサステナビリティを貫く言葉が、「服のチカラを、社会のチカラに。」です。身近な「服」の持つ力を、社会をよくするために生かそう、という考え方になります。その代表が、着られなくなった服を、難民や避難民に届ける衣料支援です。RE.UNIQLOで回収した服が、世界の困っている人々のもとへ届けられる。
社会(S)の面では、店舗での障害者雇用にも積極的に取り組んできました。多様な人が働ける場をつくる姿勢です。ガバナンス(G)の面では、広大なサプライチェーンを管理する体制の構築や、多様性の尊重、公正な企業統治に取り組んでいる。本業である服を通じて社会に貢献する。この一貫した姿勢が、同社のESG経営を特徴づけている。
06
まとめ|ファーストリテイリングのESG経営から学べること
ファーストリテイリングのESG経営は、リスクの高い業界で、透明性と責任をもって応えようとする点に特徴があります。最後に、要点を振り返りましょう。
ファストリに学ぶ、3つのポイント
出典:ファーストリテイリングの公表情報をもとにgreenote作成
ファーストリテイリングのESG経営を振り返ると、いくつかの学びが見えてきます。
- ユニクロ・GUを展開。服のコンセプト「LifeWear」を軸に、アパレルの構造的な課題に向き合う
- 最重要テーマはサプライチェーンの人権。行動規範(2004年)・工場リストの公開・全商品トレーサビリティ(2023年)で対応
- 気候変動では、自社電力のRE100(2030年8月期)に加え、サプライチェーンの石炭約90%削減・再エネ70%・効率50%改善
- RE.UNIQLOで全商品を回収し、リユース(難民支援など)とリサイクルへ。売った後まで責任を持つ
- 「服のチカラ」を掲げ、衣料支援や障害者雇用など、本業を通じた社会貢献を進める
ファーストリテイリングのESG経営から学べるのは、自社の事業で最もリスクの大きい領域に、逃げずに向き合う姿勢です。アパレルは人権リスクが高い業界だからこそ、工場リストの公開やトレーサビリティといった透明性で、信頼を築こうとしている。リスクを隠すのではなく、開いて見せる。その覚悟が、これからのESG経営には求められるのかもしれません。なお本記事は、特定の投資を推奨するものではありません。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。
FAQ
よくある質問(FAQ)
Q. ファーストリテイリングのESG経営の特徴は何ですか?
ファーストリテイリングは、「ユニクロ」や「ジーユー」を展開するアパレル企業です。衣料品の製造・販売には、原材料の生産から縫製まで、世界に広がるサプライチェーンが関わります。そのため、サプライチェーンにおける人権・労働環境への配慮が、ESG経営の最も重い柱になります。あわせて、服の大量生産・大量廃棄という業界の課題に対し、気候変動対策やリサイクルにも力を入れている点が特徴です。
Q. サプライチェーンの人権にどう取り組んでいますか?
アパレルは、人件費の安い国での生産が多く、労働環境や人権のリスクが高い業界です。ファーストリテイリングは、2004年に取引先工場の労働環境や人権を守る行動規範(コードオブコンダクト)を定め、これにもとづく監査を行っています。また、縫製工場や主要な素材工場のリストを公開して透明性を高め、2023年からはユニクロの全商品で、原材料の産地や生産プロセスをたどれるトレーサビリティを確保しています。
Q. ファーストリテイリングの気候変動目標は何ですか?
ファーストリテイリングは、自社で使う電力を、2030年8月期までに100%再生可能エネルギーにする目標(RE100)を掲げています。さらに、2030年8月期までのロードマップとして、サプライチェーンにおける石炭使用量を約90%削減(2019年8月期比)、使うエネルギーの70%以上を再エネに切り替え、エネルギー効率を50%以上改善することをめざしています。自社だけでなく、生産の現場まで含めた削減が特徴です。
Q. RE.UNIQLOとは何ですか?
RE.UNIQLOは、ユニクロなどで販売した全商品を対象に、不要になった服を店頭で回収し、次に生かす取り組みです。2006年から続く「全商品リサイクル活動」が進化したもので、回収した服は、まだ着られるものは難民支援などのリユース(再利用)に、着られないものはリサイクルに回されます。ダウンなどは新しい服の原料に、服にできないものは断熱材や防音材などに活用されます。売った服の「その後」まで責任を持つ、循環型の取り組みです。
Q. 「服のチカラ」とは何ですか?
「服のチカラを、社会のチカラに。」は、ファーストリテイリングのサステナビリティのスローガンです。服という身近な商品が持つ力を、社会をよくするために生かそう、という考え方を表しています。具体的には、着られなくなった服を難民や避難民に届ける衣料支援、店舗での障害者雇用、災害時の支援などがあります。本業である「服」を通じて社会に貢献する姿勢が、この言葉に込められています。
Q. ファーストリテイリングのESG経営から学べることは何ですか?
大きく3つあります。1つ目は、自社の事業で最もリスクの大きい領域(サプライチェーンの人権)に、正面から向き合っている点です。2つ目は、工場リストの公開やトレーサビリティなど、透明性を高めることで信頼を築こうとしている点です。3つ目は、RE.UNIQLOのように、売った後の服まで責任を持つ、循環型の発想です。リスクの高い業界だからこそ、透明性と責任で応えようとする姿勢が学べます。
Sources
出典・参考(一次情報)
- ファーストリテイリング「サプライチェーンの人権・労働環境の尊重」
- ファーストリテイリング「気候変動への対応」
- ユニクロ「全商品リサイクル活動(RE.UNIQLO)」
※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。企業評価や投資判断を目的とするものではありません。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年7月17日