ESG Company Analysis
脱炭素は、どこから手をつけるべきか。その答えを、ソフトバンクははっきり持っている。自社の排出の、半分以上を占めるもの。それが、全国に無数にある携帯電話の基地局です。通信キャリアとしてのソフトバンクは、この最大の排出源を狙い撃ちすることで、2030年度のカーボンニュートラルをめざしています。本記事では、そのESG経営を、2つの脱炭素宣言と基地局の再エネ化を軸に、NTT・KDDIとの比較も交えながら、公式情報をもとに中立に分析します。
この記事の目次
01
ソフトバンクのESG経営とは|排出の中心は基地局
まず、ソフトバンクがどんな企業で、その脱炭素のカギがどこにあるのかを整理しましょう。
排出の中心を、見きわめる
最大の排出源である基地局の脱炭素がカギ。
出典:ソフトバンクの公表情報をもとにgreenote作成
通信を支える大手キャリア
本記事で扱うのは、携帯電話などの通信事業を手がける「ソフトバンク株式会社」です。投資会社の「ソフトバンクグループ株式会社」とは、別の会社になります。まず、この点を押さえておきましょう。
ソフトバンクは、NTTやKDDIと並ぶ通信大手の一角です。全国に基地局や通信ネットワークを持ち、多くの人のスマートフォンを支えている。すでに本連載で取り上げたNTT、KDDIと同じく、その事業には大量の電力が必要です。だからこそ、脱炭素がESG経営の重要なテーマになります。
排出の半分以上が基地局
ソフトバンクの脱炭素を理解する鍵は、排出の内訳にあります。公表情報によれば、同社の温室効果ガスの年間排出量は、CO2換算で約62万トン(2024年度実績)です。そして、そのうち半分以上が、全国の基地局で使う電力に由来するとされます。
基地局は、携帯電話の電波を送受信する設備です。全国に無数にあり、24時間動き続けています。だからこそ、電力を大量に消費します。裏を返せば、この基地局を脱炭素できれば、排出の大部分を減らせるということです。どこが最大の排出源かを見きわめ、そこに集中する。ソフトバンクの戦略は、この明快さに特徴があります。
02
カーボンニュートラル2030とネットゼロ|2つの宣言
ソフトバンクの脱炭素目標は、2つの宣言で構成されています。
2つの宣言で、段階的に
まず自社を2030年度、その先の全体を2050年度に。
出典:ソフトバンクの公表情報をもとにgreenote作成
ソフトバンクの脱炭素目標は、2つの宣言で成り立っています。ひとつ目が、2021年5月に発表した「カーボンニュートラル2030宣言」です。これは、自社の事業活動から出る温室効果ガス(Scope1・2)を、2030年度までに実質ゼロにする、という目標になります。あわせて、自社で使う電力を、実質的に再生可能エネルギー100%へ切り替える取り組みを始めました。カーボンニュートラルの考え方は、関連記事のカーボンニュートラルとはもあわせてご覧ください。
ふたつ目が、2022年8月に発表した「ネットゼロ」です。こちらは、より広い範囲を対象にします。原材料の調達などを含む、サプライチェーン全体(Scope3を含む)の排出を、2050年度までに実質ゼロにする目標です。まず自社の排出を2030年度に、その先の全体を2050年度に。2つの宣言が、段階的な道筋を描いています。脱炭素の全体像は、関連記事のネットゼロとはもあわせてご覧ください。
03
基地局の再エネ化|排出の中心を狙い撃つ
最大の排出源である基地局を、いかに脱炭素するかが勝負どころです。
最大の排出源を、狙い撃つ
最大の排出源だからこそ、集中的に手を打つ。
出典:ソフトバンクの公表情報をもとにgreenote作成
排出の半分以上が基地局なら、そこを減らすのが最も効きます。ソフトバンクは、この理屈のとおりに動いている。基地局で使う電力を、再生可能エネルギーへ切り替える取り組みを、集中的に進めてきました。その成果は、数字にはっきり表れている。公表情報によれば、2024年度には、基地局の使用電力の92.6%を実質再生可能エネルギー化したとされます。最大の排出源のほとんどを、すでに再エネでまかなう段階まで来ているのです。
さらに、その先も見据えています。注目すべきが、再エネ自家発電型基地局の実証です。これは、太陽光と風力で、基地局が使う電力を自らつくる仕組みです。ソフトバンクは、この実証を2026年から千葉県市原市で開始しました。電力を「買って再エネにする」だけでなく、「その場でつくる」段階へ。基地局という最大の排出源に、あらゆる角度から手を打とうとしています。再エネ調達については、関連記事のRE100とはもあわせてご覧ください。
04
循環経済とテクノロジーでの貢献|気候の先へ
自社の削減に加え、資源循環や技術を通じた社会貢献にも取り組んでいます。
減らすだけでなく、生かす
自社の排出削減にとどまらない、幅広い取り組み。
出典:ソフトバンクの公表情報をもとにgreenote作成
ソフトバンクの取り組みは、気候だけにとどまりません。まず、循環経済(サーキュラーエコノミー)の推進です。使わなくなったスマートフォンを回収し、リユースやリサイクルへ回す。こうして資源を有効に活用し、廃棄を減らします。膨大な数の端末を扱う通信会社だからこそ、意味のある取り組みです。循環経済の考え方は、関連記事のサーキュラーエコノミーとはもあわせてご覧ください。
もうひとつが、テクノロジーや事業を通じた貢献です。通信やAIといった同社の技術は、さまざまな産業の効率化に役立ちます。それは、社会全体のエネルギーの無駄やCO2を減らすことにもつながります。自社の排出を減らす取り組みと、技術で社会の排出削減を後押しする取り組み。この両面を持つ点が、テクノロジー企業としてのソフトバンクらしさだといえます。
05
通信3社に共通する脱炭素の姿|NTT・KDDIとあわせて
NTT・KDDIとあわせて見ると、通信業界の脱炭素の全体像が見えてきます。
共通の課題、それぞれの工夫
アプローチの違いであり、優劣ではない
出典:各社の公表情報をもとにgreenote作成
ソフトバンクを、NTT・KDDIとあわせて見ると、通信業界の脱炭素の姿が立体的に見えてきます。3社に共通する課題は、明確です。通信ネットワークやデータセンター、基地局が、いずれも大量の電力を使うという点です。デジタル化が進むほど、この課題は重くなります。
一方で、その解き方には、各社の工夫の違いが表れます。NTTは、光を活用した次世代基盤IOWNで、通信基盤そのものを抜本的に省電力化しようとしています。KDDIは、データセンターの液浸冷却など、設備の省エネを進めます。そしてソフトバンクは、最大の排出源である基地局の再エネ化に集中しています。これらは、あくまでアプローチの違いであり、優劣を示すものではありません。同じ課題に、それぞれのやり方で挑む。その多様さこそ、業界全体の脱炭素を前に進める力になります。
人的資本と多様性(S)|CEO直下の女性活躍推進委員会
ソフトバンクは2021年、CEOと役員で構成する「女性活躍推進委員会」を設置し、女性管理職比率を2030年度に15%(2021年度比約2倍)、2035年度に20%(約3倍)とする長期目標を掲げたとされます。
推進体制をCEO直下に置き、期限付きの数値目標で管理する——女性活躍推進法が求める枠組みを、経営マターとして実装している例です。
ガバナンス(G)|経営直結の推進体制と開示
多様性の推進委員会をCEO関与で運営する体制は、S施策のガバナンス(実行の統治)そのものです。取り組み状況はダイバーシティ推進ページやコーポレート・ガバナンス報告書等で開示されています。
通信という社会インフラを担う企業として、人材の多様性はサービスの普遍性(あらゆる利用者への対応力)に直結する経営課題と位置づけられています。
06
まとめ|ソフトバンクのESG経営から学べること
ソフトバンクの歩みは、脱炭素を「どこから手をつけるか」の見本を示してくれます。最後に、要点を振り返りましょう。
ソフトバンクに学ぶ、3つのこと
出典:ソフトバンクの公表情報をもとにgreenote作成
ソフトバンクのESG経営を振り返ると、いくつもの学びが見えてきます。
- 通信大手の一角。温室効果ガスの半分以上が基地局の使用電力に由来する
- カーボンニュートラル2030宣言(Scope1・2を2030年度に実質ゼロ)とネットゼロ(Scope3含む全体を2050年度に)
- 最大の排出源である基地局の再エネ化に集中し、2024年度に92.6%を実質再エネ化
- 太陽光と風力の再エネ自家発電型基地局を、2026年から実証
- 循環経済(スマホの回収・リサイクル)や、テクノロジーを通じた社会全体の脱炭素にも貢献
ソフトバンクから学べるのは、最大の課題を見きわめ、そこに集中するという戦略の明快さです。排出の半分以上が基地局なら、まず基地局を再エネ化する。この当たり前を、徹底して実行しています。脱炭素は、あれもこれもと手を広げがちです。しかし、影響の大きいところから優先的に手を打つほうが、着実に前へ進みます。NTT・KDDIとあわせて見れば、同じ課題に多様なやり方で挑む通信業界の姿も見えてきます。なお本記事は、特定の投資を推奨するものではありません。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。
FAQ
よくある質問(FAQ)
Q. ここでいうソフトバンクとは、どの会社ですか?
本記事で扱うのは、携帯電話などの通信事業を手がける「ソフトバンク株式会社」です。投資会社である「ソフトバンクグループ株式会社」とは別の会社になります。ソフトバンクは、NTTやKDDIと並ぶ通信大手の一角で、全国に基地局や通信ネットワークを持ちます。その事業には大量の電力が必要なため、脱炭素がESG経営の重要なテーマになっています。
Q. ソフトバンクの脱炭素目標はどうなっていますか?
大きく2つの宣言があります。1つ目は、2021年5月の「カーボンニュートラル2030宣言」で、自社の事業活動から出る温室効果ガス(Scope1・2)を2030年度までに実質ゼロにする目標です。2つ目は、2022年8月に発表した「ネットゼロ」で、サプライチェーン全体(Scope3を含む)の排出を2050年度までに実質ゼロにする目標です。まず自社排出を2030年度に、その先の全体を2050年度にと、段階的に脱炭素を進めます。
Q. なぜ基地局の脱炭素が重要なのですか?
ソフトバンクの温室効果ガス排出量は、公表情報によれば年間でCO2換算約62万トン(2024年度)で、そのうち半分以上が全国の基地局で使う電力に由来します。基地局は、携帯電話の電波を送受信する設備で、全国に無数にあり、24時間動き続けています。つまり、基地局の使用電力を脱炭素できるかどうかが、ソフトバンク全体のカーボンニュートラルを左右するのです。
Q. 基地局の再エネ化はどこまで進んでいますか?
ソフトバンクは、基地局で使う電力を、再生可能エネルギーへ切り替える取り組みを進めています。公表情報によれば、2024年度には、基地局の使用電力の92.6%を実質再生可能エネルギー化したとされます。さらに、太陽光と風力で電力をまかなう「再エネ自家発電型基地局」の実証を、2026年から千葉県市原市で開始するなど、次世代の基地局のあり方も模索しています。
Q. ソフトバンクは気候変動以外にどんな取り組みをしていますか?
循環経済(サーキュラーエコノミー)の推進に取り組んでいます。使わなくなったスマートフォンの回収・リユースやリサイクルなどを通じて、資源を有効に活用し、廃棄を減らす取り組みです。また、通信やAIなどのテクノロジーや事業そのものを通じて、社会全体の気候変動対策に貢献することもめざしています。自社の排出削減にとどまらない、幅広い取り組みが特徴です。
Q. ソフトバンクのESG経営から学べることは何ですか?
大きく2つあります。1つ目は、自社の排出のうち、どこが最も大きいか(基地局)を明確にし、そこに集中して手を打っている点です。課題を数字でとらえ、優先順位をつける姿勢が学べます。2つ目は、NTT・KDDIと同様に、通信インフラという電力を多く使う事業で、高い脱炭素目標に挑んでいる点です。3社を比べると、通信業界に共通する課題と、それぞれの工夫の違いが見えてきます。
Sources
出典・参考(一次情報)
- ソフトバンク「ソフトバンクのネットゼロ」
- ソフトバンク「カーボンニュートラル2030宣言(2021年5月)」
- ソフトバンク「気候変動対策への貢献」
- ソフトバンク|ダイバーシティの推進
※ 本記事は上記の一次情報および公開報道をもとにgreenote編集部が整理しています。企業評価や投資判断を目的とするものではありません。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年7月19日