ESG Company Analysis
スマートフォンも、パソコンも、そしてAIも。その頭脳である半導体がなければ、動きません。その最先端の半導体を、世界でもっとも多くつくっているのがTSMC(台湾積体電路製造)です。前回まで見たGAFAMがAIを「使う」側なら、TSMCはその頭脳を「つくる」側。ところが、半導体づくりには膨大な電力と水が要るのです。本記事では、TSMCのESG経営を、半導体の電力と水を軸に、公式情報をもとに中立に分析していきます。
この記事の目次
01
TSMCのESG経営とは|半導体をつくる巨人
まず、TSMCがどんな会社で、その脱炭素がなぜ難しいのかを整理しましょう。
あらゆる機器の、頭脳をつくる
GAFAMがAIを使う側なら、TSMCはその頭脳をつくる側。
出典:TSMCの公表情報をもとにgreenote作成
あらゆる電子機器とAIの土台
TSMCは、台湾に本社を置く、世界最大の半導体ファウンドリです。ファウンドリとは、他社が設計した半導体を、専門につくる会社を指します。スマートフォンやパソコン、そしてAIに使われる最先端の半導体の多くを、TSMCが製造しています。つまり、私たちのデジタルな暮らしの、まさに土台を支える存在です。
だからこそ、TSMCのESGは、社会全体に大きな影響を持ちます。世界中の電子機器が、TSMCの工場から生まれる半導体の上に成り立っているからです。その製造を、いかに脱炭素にするか。これは、TSMC一社の問題にとどまらないのです。前回まで見たGoogleなどGAFAMがAIを「使う」側なら、TSMCはその頭脳を「つくる」側。両者は、AI時代の脱炭素という同じ課題で、深くつながっているといえます。
ネットゼロへのロードマップ
TSMCは、脱炭素の道筋を段階的に描いています。公表情報によれば、まず2025年に排出量の増加をゼロにします。生産が伸びても、排出はこれ以上増やさない、という節目です。次に、2030年には排出量を2020年の水準まで戻します。そして、2050年にバリューチェーン全体でネットゼロを達成する計画です。脱炭素の全体像は、関連記事のネットゼロとはもあわせてご覧ください。
注目したいのは、この道筋の現実味です。半導体の生産は、これからも拡大が見込まれます。その中で排出を抑えるのは、並大抵ではありません。だからこそ、一足飛びにゼロをめざすのではなく、増加を止め、いったん戻し、そして減らすという、着実な段階を踏んでいます。次に、その最大の壁である電力を見ていきましょう。
02
電力という難題|RE100を2040年に前倒し
半導体製造は、膨大な電力を必要とします。
膨大な電力を、再エネへ
省エネ策も多数実施。⚠️台湾の再エネ供給の制約が大きな壁。
出典:TSMCの公表情報をもとにgreenote作成
TSMCの脱炭素で、最大の壁となるのが電力です。半導体の製造には、極めて多くの工程と、精密な装置が欠かせません。クリーンルームの空調や装置を24時間動かし続けるため、工場は膨大な電力を消費します。この電力をいかに再エネに切り替えるかが、TSMCの脱炭素の核心になります。
その本気度は、目標の前倒しに表れています。TSMCは2023年、RE100(事業で使う電力を100%再エネにする枠組み)の達成目標を、当初の2050年から2040年へと10年前倒ししました。途中の目安として、2030年には再エネ比率60%をめざします。あわせて、数多くの省エネ策を実施し、年間で大きな電力を節約しています。RE100の枠組みは、関連記事のRE100とはもあわせてご覧ください。もっとも、台湾では再エネの供給に限りがあり、これだけの電力をまかなうのは容易ではありません。ここが、TSMCの大きな挑戦です。
03
水という難題|超純水と再生水
TSMCのESGで、電力と並ぶもうひとつの柱が水です。
使った水を、また使う
出典:TSMCの公表情報をもとにgreenote作成
TSMCのESGで、電力と並ぶもうひとつの柱が、水です。意外に思えるかもしれませんが、半導体の製造には、ウェハー(半導体の基板)を洗浄するための超純水が、大量に必要になります。しかも、TSMCの拠点がある台湾は、干ばつのリスクを抱える地域でもあります。水の確保は、環境課題であると同時に、経営を左右する課題でもあるのです。
そこでTSMCが力を注ぐのが、水を繰り返し使う取り組みです。使った水を処理して、再び使う。この再生水の活用を進め、公表情報によれば、2030年までに再生水の利用割合を60%に高める目標を掲げているのです。排水のリサイクルも、大規模に行っています。かぎりある水を、一度きりで捨てるのではなく、何度も循環させる。電力と水という2つの資源に、それぞれ具体的な目標で挑む。この姿勢が、TSMCのESGの土台だといえます。
04
製品を通じた貢献|省エネなチップ
TSMCは、つくる製品を通じても脱炭素に貢献します。
省エネなチップで、社会を助ける
効率的なチップは、自社の排出を超える削減効果を社会にもたらしうる。
出典:TSMCの公表情報をもとにgreenote作成
TSMCの脱炭素は、自社の工場の中だけの話ではありません。つくる製品を通じた貢献にも、目を向けています。半導体は、世代を追うごとに、より少ない電力で、より高い性能を出せるように進化してきました。つまり、TSMCが最先端の省エネな半導体をつくるほど、それを使う機器の消費電力は下がっていきます。
その効果は、決して小さくありません。公表情報によれば、TSMCの効率的なチップは、世界全体で見れば、自社が製造で使う電力を上回るような、大きな省エネ効果を社会にもたらしうるとされます。スマートフォンからデータセンターまで、あらゆる機器の省エネが、TSMCのチップから始まる。自社の排出を減らすだけでなく、社会全体の削減に貢献する。この視点は、電子部品で同様の貢献を掲げる村田製作所とも通じるものがあります。
05
AI時代の論点|需要側と供給側
TSMCのESGは、AIという時代の波の中にあります。
AIを使う側と、つくる側
一方でTSMCの省エネチップは社会の削減に貢献。追い風と逆風の両面があり、是非を断定しない。
出典:各社の公表情報をもとにgreenote作成
TSMCのESGを考えるとき、避けて通れないのがAIです。ここは、追い風と逆風の両面を、冷静に見ておく必要があります。AIの普及は、TSMCにとって大きな追い風です。AIには高性能な半導体が欠かせず、その需要が急増しているからです。しかし脱炭素の面では、これは逆風にもなります。生産を増やせば、その分だけ電力消費と排出が増える圧力がかかるためです。
ここで見えてくるのが、AI時代の構図です。MicrosoftなどGAFAMは、AIを「使う」需要側として、データセンターの電力増に直面します。一方TSMCは、AIチップを「つくる」供給側として、生産増による排出圧力に直面します。AIの計算が増えるほど、その電力消費が膨らむ点は、関連記事のデータセンターの電力問題とはもあわせてご覧ください。もっとも、TSMCの省エネチップは、社会全体の削減にも役立ちます。追い風と逆風、貢献と負荷。その両面を見すえることが大切です。なお本記事は、特定の企業や投資を推奨するものではありません。
人材への投資(S)|半導体人材の獲得・育成競争
世界の先端半導体の大半を担うTSMCにとって、最大の制約は設備よりも人材です。同社は研修・キャリア開発への投資や、台湾・米国・日本(JASM)などグローバル拠点での採用・育成に注力しており、従業員の処遇・安全衛生を含む社会(S)領域の情報を専用のESGサイトで開示しています。
熊本(JASM)進出では日本国内の半導体人材育成にも波及効果をもたらしており、「人材のサプライチェーン」という視点でも注目される存在です。
ガバナンス(G)|独立取締役中心の取締役会とESG委員会
ガバナンス面では、独立取締役が過半数を占める取締役会構成とされ、経営トップが関与するESG委員会がサステナビリティ戦略を統括する体制を敷いているとされます。ダウ・ジョーンズのサステナビリティ指数に20年以上連続で選定されるなど、外部評価も高水準です。
創業者退任後の統治移行を安定して進めてきた点も、アジアの同族色が強い企業と一線を画すポイントとされます。E(再エネ調達)だけでなく、G(統治の質)が世界の顧客からの信頼の土台になっています。
06
まとめ|TSMCのESG経営から学べること
TSMCの挑戦は、デジタル社会の土台を支える製造業ならではの、重さと責任を教えてくれます。最後に、要点を振り返りましょう。
TSMCに学ぶ、3つのこと
出典:TSMCの公表情報・公開報道をもとにgreenote作成
TSMCのESG経営を振り返ると、いくつもの学びが見えてきます。
- 世界最大の半導体ファウンドリ。あらゆる電子機器とAIの土台を支える
- ネットゼロ・ロードマップ=2025年に排出増ゼロ→2030年に2020年水準へ→2050年ネットゼロ
- 電力=RE100を2050年から2040年に前倒し(2030年に再エネ60%)。台湾の再エネ制約が壁
- 水=超純水を大量に使うため、再生水を2030年に60%へ。排水も大規模リサイクル
- ⚠️AIの両面=需要増は追い風だが生産増は排出の逆風。一方で省エネチップが社会の削減に貢献
TSMCから学べるのは、電力と水という2つの資源を大量に使う製造業が、それぞれに具体的な目標を掲げて挑む姿勢です。掛け声だけでなく、RE100の前倒しや再生水60%といった数字で、進む先を示しています。省エネなチップで社会全体の削減に貢献する視点も、示唆に富みます。もっとも、AIによる生産拡大や、台湾の再エネ供給の制約という現実の壁は、まだ高いままです。理想と現実の両面を見すえることが、企業のESGを深く理解する助けになります。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。
FAQ
よくある質問(FAQ)
Q. TSMC(台湾積体電路製造)とはどんな会社ですか?
TSMCは、台湾に本社を置く、世界最大の半導体ファウンドリ(受託製造)です。ファウンドリとは、他社が設計した半導体を専門につくる会社を指します。スマートフォンやパソコン、そしてAIに使われる最先端の半導体の多くを、TSMCが製造しています。あらゆる電子機器やAIの「土台」を支える、なくてはならない存在です。
Q. TSMCの脱炭素目標はどうなっていますか?
TSMCは、段階的なネットゼロ・ロードマップを掲げています。公表情報によれば、2025年に排出量の増加をゼロにし、2030年には排出量を2020年の水準まで戻し、そして2050年にバリューチェーン全体でネットゼロを達成する計画です。生産が拡大するなかで排出を抑えるのは容易ではなく、段階を追って着実に減らす道筋を示しています。
Q. なぜ半導体製造は電力を大量に使うのですか?
半導体の製造には、極めて多くの工程と、精密な装置の稼働が必要だからです。クリーンルームの空調や装置を24時間動かし続けるため、工場は膨大な電力を消費します。TSMCは、この電力を再エネに切り替えるため、RE100(事業の電力を100%再エネにする枠組み)の達成目標を、当初の2050年から2040年へと前倒ししました。2030年には再エネ比率60%をめざしています。
Q. TSMCの水への取り組みは何ですか?
半導体の製造には、ウェハーを洗浄するための「超純水」が大量に必要です。そのため水は、TSMCにとって電力と並ぶ重要なテーマです。台湾は干ばつのリスクもあり、水の確保は経営上の課題でもあります。TSMCは、使った水を処理して再び使う「再生水」の活用を進め、2030年までに再生水の利用割合を60%に高める目標を掲げています。排水のリサイクルも大規模に行っています。
Q. TSMCはAIブームでどんな課題に直面していますか?
AIの普及は、TSMCにとって追い風であると同時に、脱炭素では逆風にもなります。AI向けの高性能な半導体の需要が急増し、生産を増やせば、その分だけ電力消費と排出が増える圧力がかかるためです。一方で、TSMCがつくる省エネなチップは、それを使う機器の消費電力を下げ、社会全体のCO2削減にも貢献します。需要側(GAFAMなど)と供給側(TSMC)が、ともにAI時代の脱炭素という課題に向き合っています。
Q. TSMCのESG経営から学べることは何ですか?
大きく2つあります。1つ目は、電力と水という2つの資源を大量に使う製造業が、それぞれに具体的な削減目標を掲げて挑む姿勢です。2つ目は、自社の排出削減だけでなく、省エネなチップという製品を通じて社会全体の削減に貢献するという視点です。もっとも、AIによる生産拡大や、台湾の再エネ供給の制約という課題も残ります。理想と現実の両面を見ることが大切です。なお本記事は特定の投資を推奨するものではありません。
Sources
出典・参考(一次情報)
- TSMC「ESG / Sustainability(サステナビリティ)」
- TSMC「A Practitioner of Green Power(気候・エネルギー目標)」
- TSMC「Sustainability Report(サステナビリティ報告書)」および各種公開報道
※ 本記事は上記の一次情報および公開報道をもとにgreenote編集部が整理しています。企業評価や投資判断を目的とするものではありません。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年7月12日