最終更新日:2026年8月4日
「1.5℃目標といっても、あとどれだけCO2を出せるのか」——脱炭素の議論でしばしば登場するのがカーボンバジェット(炭素予算)という考え方です。気候目標を「残りの排出量」という具体的な数字でとらえられるため、国や企業の目標設定の土台になっています。
カーボンバジェットとは、地球の気温上昇をある水準(たとえば1.5℃)に抑えるために、人類が今後排出できるCO2の累積量の上限のことです。「予算」という言葉のとおり、使える総量が決まっていて、使うほど残りが減っていきます。
本記事では、カーボンバジェットの意味と科学的な根拠、IPCC第6次評価報告書(AR6)が示す残りの量、なぜ急速に減っているのか、国・企業の目標とのつながり、そして数値を見るときの留意点を、わかりやすく整理します。
※数値は算定方法や基準時点により変わります。本記事はIPCC等の公表情報(2026年時点)に基づく解説で、最新の推計は各公式情報をご確認ください。
残余バジェット
約500億トン
(1.5℃・50%・2020年初頭)
年間のCO2排出
世界で
約400億トン規模
≡この記事の目次
カーボンバジェット(炭素予算)とは|排出できるCO2の総量の上限
カーボンバジェットは、直訳すると「炭素の予算」です。気温目標を守るために、これから世界全体で出せるCO2の合計量には上限があり、その上限をバジェット(予算)と呼びます。
累積排出量と気温上昇のほぼ比例関係
この考え方の科学的な根拠は、世界の平均気温の上昇量が、これまでに排出されたCO2の「累積量」にほぼ比例するという知見です。IPCCの報告書でも示されており、TCRE(累積排出量に対する気温応答)と呼ばれます。
つまり、いつ排出したかよりも「合計でどれだけ出したか」が気温を左右します。だからこそ、残せる総量=予算という発想が成り立ちます。
「残余カーボンバジェット」とは
すでに人類は産業革命以降、大量のCO2を排出してきました。そのうえで「これから先、あとどれだけ出せるか」を示すのが残余カーボンバジェット(remaining carbon budget)です。ニュースで「残りの炭素予算」と言われるとき、多くはこの残余の量を指します。
IPCCが示す残りのカーボンバジェット
IPCC第6次評価報告書(AR6)のWG1報告書(2021年)は、2020年初頭を起点とした残余カーボンバジェットを、気温目標と達成確率の組み合わせで次のように示しました。確率が高いほど、また目標が低いほど、使える予算は小さくなります。
| 気温目標 | 達成確率 | 残余バジェットの目安 |
|---|---|---|
| 1.5℃ | 50% | 約500 GtCO2(5,000億トン) |
| 1.5℃ | 67% | 約400 GtCO2(4,000億トン) |
| 2℃ | 67% | 約1,150 GtCO2(1兆1,500億トン) |
たとえば「1.5℃を50%の確率で達成」する場合の残余は約500 GtCO2(5,000億トン)とされました。確率を67%に上げると約400 GtCO2に減ります。数字は前提の置き方で変わるため、確率と基準時点をセットで見ることが大切です。
なぜ急速に減っているのか|年間排出量との関係
残余カーボンバジェットは、毎年の排出によって着実に取り崩されています。世界のCO2排出量は年間で約400億トン(40 GtCO2)規模とされ、単純計算では、1.5℃(50%)の予算約500億トンは十数年ほどで使い切る計算になります。
さらに、近年の研究では気候感度の見直しなどにより、残余がAR6の推計よりも小さいとする報告もあります。いずれにせよ、残された時間は非常に限られているというのが共通した見方です。
このため、ネットゼロやカーボンニュートラルに向けて、早い時期に大きく削減することが重要になります。「いつかゼロにする」だけでなく「累積でどれだけ出すか」を意識する点が、カーボンバジェットの示唆です。
カーボンバジェットの配分|国・企業の目標とのつながり
世界全体の予算が決まると、次に問題になるのが「誰がどれだけ使えるか」という配分です。国ごと、産業ごと、企業ごとにどう割り当てるかは、公平性の観点も絡む難しい論点とされています。
- 国レベル:各国の削減目標(NDC)の背景には、世界の予算をどう分けるかという考え方があります。
- 企業レベル:科学的根拠に基づく削減目標(SBT)は、世界のカーボンバジェットと整合するように企業の削減幅を定める考え方です。GHGプロトコルに沿った温室効果ガス(GHG)排出量の算定が前提になります。
- 公平性の議論:歴史的に多く排出してきた先進国と、これから発展する国とで、どう分担するかが国際交渉の争点になっています。
留意点|数値の不確実性と時点による変化
カーボンバジェットの数値を見るときは、次の点に注意が必要です。
- 確率とセットで見る:「1.5℃の予算」は達成確率(50%か67%か等)で大きく変わります。単独の数字だけでは判断できません。
- 基準時点を確認する:残余は毎年減るため、「いつ時点の残余か」が重要です。古い数字をそのまま使うと過大評価になります。
- 不確実性がある:気候感度やCO2以外の温室効果ガス、地球システムのフィードバックなどにより、推計には幅があります。
まとめ|有限の予算をどう使うか
カーボンバジェット(炭素予算)とは、気温目標を守るために人類が出せるCO2の累積量の上限です。気温上昇が累積排出量にほぼ比例するという科学に基づき、IPCCは1.5℃(50%)で約500 GtCO2などの残余を示しています。年間約400億トンの排出で取り崩されており、残された時間は限られています。
大切なのは、「いつかゼロにする」だけでなく「累積でどれだけ出すか」という視点です。有限の予算をどう公平に、どう賢く使うか——カーボンバジェットは、国や企業の脱炭素目標を考えるうえでの共通の物差しになっています。
よくある質問(FAQ)
Q. カーボンバジェットとは何ですか?
地球の気温上昇をある水準(たとえば1.5℃)に抑えるために、人類が今後排出できるCO2の累積量の上限のことです。「炭素予算」とも呼ばれ、使える総量が決まっているという考え方です。
Q. 残りのカーボンバジェットはどれくらいですか?
IPCC AR6(2021年)は、2020年初頭からの残余を、1.5℃を50%の確率で達成する場合に約500 GtCO2(5,000億トン)と示しました。ただし毎年の排出で減り続けており、最新の推計ではさらに小さいとする報告もあります。基準時点と確率をあわせて確認することが重要です。
Q. なぜ累積の排出量が問題になるのですか?
世界の平均気温の上昇量が、これまでに排出されたCO2の累積量にほぼ比例するという科学的知見(TCRE)があるためです。いつ出したかよりも、合計でどれだけ出したかが気温を左右します。
Q. カーボンバジェットと企業の削減目標はどう関係しますか?
科学的根拠に基づく削減目標(SBT)は、世界のカーボンバジェットと整合するように企業の削減幅を定める考え方です。世界の予算を各国・各企業にどう配分するかという発想が土台にあります。
Q. カーボンバジェットは今後変わりますか?
はい。残余は毎年の排出で減り続けるほか、気候感度の見直しなど科学の進展によっても更新されます。数値を引用するときは、必ず基準時点と出典を確認することが大切です。
出典・参考(一次情報)
※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の推計は各公式サイトでご確認ください。
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greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年8月6日