堤防やコンクリートだけが、防災や気候変動への答えではない——。森や湿地、都市の緑が持つ自然の力を活かして、社会の課題を解く。それが、NbS(Nature-based Solutions・自然を活用した解決策)という考え方です。しかも、うまく設計すれば、生物多様性の回復にも同時につながります。本記事では、NbSの意味と具体例、EbAやグリーンインフラとの関係、ネイチャーポジティブや気候変動対策とのつながりまでを、環境省・国土交通省・IUCNなどの一次情報をもとに、わかりやすく解説します。
自然を守り、活かす発想の全体像はネイチャーポジティブとはもあわせてご覧ください。
≡この記事の目次
- 1NbS(自然を活用した解決策)とは
- ►NbSをひとことで言うと
- ►IUCN・UNEPによる定義
- 2なぜいまNbSが注目されるのか
- ►気候と生物多様性の「2つの危機」に同時に効く
- ►国際的な後押しと日本での位置づけ
- 3NbSの具体例
- ►防災・減災(森・湿地・沿岸)
- ►都市・気候(緑地・雨庭・炭素の貯留)
- 4EbA・Eco-DRR・グリーンインフラとの関係
- ►NbSは「傘」となる包括的な概念
- ►適応(EbA)・防災(Eco-DRR)・都市基盤(グリーンインフラ)
- 5ネイチャーポジティブ・カーボンクレジットとの関係
- ►ネイチャーポジティブや自然資本との関係
- ►カーボンクレジット・ブルーカーボンとの関係
- 6NbSの課題と「本物」の見分け方
- ►グリーンウォッシュと「見せかけのNbS」
- ►IUCN世界基準という「ものさし」
- 7NbSをどう捉えるか
- 8出典・参考(一次情報)
NbS(自然を活用した解決策)とは
まず、NbSをひとことで整理します。「自然の力を活かして、社会の課題を解きながら、生物多様性にも役立てる」という発想から入りましょう。
NbSをひとことで言うと
NbSとは、生態系を守り、管理し、再生することを通じて、社会の課題に取り組むアプローチの総称です。防災、気候変動、水資源、食料、健康——。こうした課題に対して、人工の構造物だけに頼るのではなく、森・湿地・河川・沿岸などの自然が持つ働きを活かして解決を図ります。
NbSの最大の特徴は、「一石二鳥」以上をねらう点にあります。たとえば湿地を再生すれば、洪水をやわらげつつ、水質を浄化し、生き物のすみかも増える。つまり、社会課題の解決と、生物多様性への便益が同時に得られる。ここが、単なる緑化や自然保護とは違う、NbSならではの発想です。
IUCN・UNEPによる定義
言葉の出どころも押さえておきましょう。NbSを最初に体系的に定義したのは、IUCN(国際自然保護連合)です。2016年に、NbSを「社会課題に効果的かつ順応的に対処し、人の幸福と生物多様性の双方に便益をもたらす、自然の・改変された生態系の保護・管理・再生のための行動」と定義しました。
さらに、2022年3月の国連環境総会(UNEA-5.2)で、NbSの国際的な定義が採択され、日本を含む90か国以上が支持しています。いまや、気候変動枠組条約や生物多様性条約でも位置づけられる、国際的な共通言語になった。抽象的なスローガンではなく、世界が合意した政策の枠組みとして動いているのです。
なぜいまNbSが注目されるのか
気候変動と生物多様性の損失という2つの危機に、同時に効くアプローチとして期待が高まっています。背景を整理します。
2つの危機に、同時に効く
気候変動
豪雨や熱波などの被害が拡大。緩和と適応の両方が必要。
生物多様性の損失
生態系の劣化が進み、自然の恵みが失われつつある。
↓
NbS(自然を活用した解決策)
自然を守り・活かすことで、2つの課題に同時に取り組む。
気候と生物多様性は別々の問題ではなく、つながって解ける。そこにNbSの意義がある。
出典:環境省・IUCNの公開情報をもとにgreenote作成
気候と生物多様性の「2つの危機」に同時に効く
NbSが世界的に注目される最大の理由は、気候変動と生物多様性の損失という「2つの危機」に、同時に効くからです。従来、この2つは別々の問題として扱われがちでした。しかし実際には、森林の減少が気候変動を悪化させ、気候変動が生態系を痛めつけるように、両者は深く絡み合っています。
自然を守り、再生するNbSは、この2つに橋を架けます。たとえば森林の保全は、CO2を吸収する気候対策であると同時に、生き物のすみかを守る生物多様性対策でもある。しかも、コンクリートの構造物に比べてコストを抑えやすく、景観やレクリエーションなど副次的な便益も生む。予算や人手が限られるなかで、一つの取り組みで複数の課題に応えられる点が、大きな魅力なのです。気候変動そのものの理解は気候変動リスクとはもご覧ください。
国際的な後押しと日本での位置づけ
NbSは、国際的な政策の後押しを受けて広がってきました。前述のIUCNやUNEAの定義に加え、気候変動と生物多様性それぞれの国際枠組みでも、NbSの活用がうたわれています。地球規模の目標を達成するうえで、自然を「使わない手はない」という認識が、各国で共有されつつある。
日本でも、複数の省庁がNbSを推進しています。環境省は、生物多様性の保全という観点からNbSを位置づけ、GBF(生物多様性枠組)が掲げる目標の達成手段としても重視する。一方、国土交通省は、都市やインフラの文脈で「グリーンインフラ」として展開してきました。防災・減災、地方創生、環境——。日本におけるNbSは、こうした複数の文脈が合流する形で、実装が進んでいるのです。
NbSの具体例
NbSは、抽象的な理念ではありません。すでに各地で実践されています。分野ごとに代表例を見ていきます。
自然の力で、課題を解く
防災・減災
森林や湿地で洪水をやわらげる。沿岸の防潮林やマングローブで高潮・津波を減らす。
水・資源
森や湿地が水を蓄え、水質を浄化する。土壌の流出を防ぐ。
都市・気候
緑地や街路樹で暑さをやわらげる。雨庭で雨水を吸収し、CO2も貯留する。
いずれも自然の働きを活かし、社会課題の解決と生物多様性の保全を同時にねらう。
出典:環境省・国土交通省の公開情報をもとにgreenote作成
防災・減災(森・湿地・沿岸)
もっともイメージしやすいのが、防災・減災の分野です。上流の森林は、雨水をいったん蓄えて、川への流れをやわらげる。遊水地や湿地は、あふれた水を一時的に受け止め、下流の洪水被害を減らします。人工の堤防やダムを補い、あるいは置き換える形で、自然の保水力を活かすわけです。
沿岸でも同じ発想が使われる。防潮林やマングローブ林は、高潮や津波の勢いをやわらげ、背後の暮らしを守る役割を果たしてきました。こうした、生態系を活用した防災・減災を、日本ではEco-DRRと呼びます。地震や気候変動で災害リスクが高まるなか、自然の力を防災に組み込む動きが、あらためて注目されているのです。
都市・気候(緑地・雨庭・炭素の貯留)
都市や気候の分野にも、NbSは広がっています。街なかの緑地や街路樹、屋上緑化は、木陰と蒸散によって気温を下げ、ヒートアイランドをやわらげる。雨庭(レインガーデン)のように、雨水を地面にしみ込ませる仕組みは、都市型の洪水を防ぎつつ、地下水を養います。
そして、炭素の貯留も、NbSの重要な働きです。森林はもちろん、藻場や干潟などの沿岸生態系は、大気中のCO2を取り込み、長く蓄える。この沿岸のしくみはブルーカーボンと呼ばれ、脱炭素の一手として関心が高い。自然は、暑さをやわらげ、水を治め、炭素をため込む——。都市においても、自然は「動くインフラ」として力を発揮するのです。
EbA・Eco-DRR・グリーンインフラとの関係
NbSは、よく似た言葉をまとめる「大きな傘」です。EbA・Eco-DRR・グリーンインフラとの関係を整理します。
NbSは、大きな傘
NbS(自然を活用した解決策)
↓
EbA
生態系を活用した、気候変動への適応
Eco-DRR
生態系を活用した、防災・減災
グリーンインフラ
自然を、都市や社会の基盤として活用する
呼び方や重点は違っても、自然を活かして課題を解く点は共通。NbSはそれらを束ねる包括的な概念。
出典:環境省・国土交通省の公開情報をもとにgreenote作成
NbSは「傘」となる包括的な概念
NbSの周辺には、EbA・Eco-DRR・グリーンインフラといった、似た言葉が並びます。混乱しやすいのですが、関係はシンプルです。NbSは、これらをまとめて束ねる「大きな傘」にあたる。それぞれは、NbSを特定の目的や場面から切り取った呼び方だと考えると、整理しやすいでしょう。
つまり、どの言葉も「自然を活かして課題を解く」という核は共通している。違うのは、どの課題に軸足を置くかです。気候変動への適応に重点を置けばEbA、防災・減災ならEco-DRR、都市や社会の基盤づくりならグリーンインフラ——。いずれもNbSの一部であり、対立する概念ではありません。
適応(EbA)・防災(Eco-DRR)・都市基盤(グリーンインフラ)
具体的に見ていきます。EbA(生態系を活用した適応)は、生物多様性や生態系の働きを使って、気候変動の影響に適応する取り組みです。たとえば、水源林を守って渇水に備える、といった発想がこれにあたる。Eco-DRR(生態系を活用した防災・減災)は、先に触れたとおり、森や湿地、沿岸の生態系で災害リスクを減らす取り組みを指します。
そしてグリーンインフラは、自然が持つ多様な機能を、社会の基盤(インフラ)として計画的に活かす考え方です。日本では国土交通省が旗を振り、都市計画やまちづくりのなかで実装が進んできました。環境省がNbSを生物多様性の側から、国土交通省がグリーンインフラを都市・インフラの側から推進する——。入り口は違っても、めざす方向は重なっているのです。
ネイチャーポジティブ・カーボンクレジットとの関係
NbSは、ESGでよく聞く言葉ともつながっています。ネイチャーポジティブやカーボンクレジットとの位置関係を押さえます。
目的とのつながり
ネイチャーポジティブ
生物多様性の損失を止め、回復へ反転させる目標。NbSはその実現手段の一つ。
NbS
自然を守り・活かす具体的な行動。目的そのものではなく、目的を実現する手段。
カーボンクレジット・ブルーカーボン
森林や沿岸生態系による炭素の吸収・貯留はNbSの一例で、クレジットの対象にも。
ただし炭素の相殺だけを目的にした取り組みは、本来のNbSとはいえない。
出典:環境省・IUCNの公開情報をもとにgreenote作成
ネイチャーポジティブや自然資本との関係
NbSは、ネイチャーポジティブとセットで語られることが増えました。ネイチャーポジティブとは、生物多様性の損失を止め、回復へと反転させるという目標です。この目標を実際に達成するための「手段」の一つが、NbSだと位置づけられます。「めざす姿」がネイチャーポジティブ、「そのためにやること」がNbS、という関係です。
また、NbSは自然資本の考え方とも深くつながっています。森や水、土壌といった自然を、社会や経済を支える「資本(ストック)」として捉えるのが自然資本の発想。その資本を、守り、増やし、賢く使う具体的な行動が、NbSにほかなりません。企業が自然への依存と影響を評価する動きが強まるなか、NbSは経営と自然をつなぐ実践として注目されています。
カーボンクレジット・ブルーカーボンとの関係
脱炭素の文脈でも、NbSは存在感を増しています。森林の保全・再生や、藻場・干潟などのブルーカーボンによる炭素の吸収・貯留は、NbSの代表例であり、カーボンクレジットの対象にもなります。企業がこうしたクレジットを購入し、自らの排出の埋め合わせに使う動きも広がってきました。
ただし、ここには注意点もあります。炭素の相殺(オフセット)だけを目的にした、生物多様性への配慮を欠く取り組み——たとえば、単一の樹種を大量に植えるだけの植林などは、本来のNbSとはいえないとされます。NbSの定義には「生物多様性への便益」が組み込まれているからです。炭素の数字だけを追う「見せかけ」に陥らないこと。これが、次に見る課題にもつながります。
NbSの課題と「本物」の見分け方
期待が大きいぶん、「なんでもNbSと呼ぶ」誤用も生まれています。課題と、本物を見分ける基準を確認します。
「見せかけ」と「本物」を分ける
課題=見せかけのNbS
生物多様性への配慮を欠く単一植林など、炭素の相殺だけをねらう取り組み。効果の計測や永続性への疑問、グリーンウォッシュの懸念。
↓
ものさし=IUCN世界基準(8つの基準)
質を評価するための国際基準。基準に照らすことで、本物のNbSと見せかけを見分けやすくなる。
数字や見た目だけでなく、生物多様性に本当に役立っているかを問う姿勢が求められる。
出典:IUCN「NbS世界基準」をもとにgreenote作成
グリーンウォッシュと「見せかけのNbS」
NbSへの期待が高まる一方で、「なんでもNbSと呼んでしまう」という問題が生まれています。実態が伴わないのに、自然に関わる取り組みを都合よくNbSと称し、環境に配慮しているように見せる——。いわゆるグリーンウォッシュの懸念です。とりわけ、炭素の相殺だけをねらった取り組みが、安易にNbSと呼ばれるケースが指摘されてきました。
技術的な難しさもあります。自然を相手にする以上、その効果を正確に計測するのは簡単ではない。植えた森が、本当に長く炭素を蓄え続けるのか(永続性)、災害でどれだけ被害を減らせたのか——。定量化しにくいがゆえに、成果が過大に見積もられるリスクもつきまといます。NbSは万能薬ではなく、排出削減そのものの代わりにはならない、という冷静な視点も欠かせません。
IUCN世界基準という「ものさし」
そこで役立つのが、IUCNの「NbS世界基準(Global Standard)」です。IUCNは2020年、NbSの質を評価するための8つの基準を示しました。社会課題への対応、生物多様性への純便益、経済的な実現性、包摂的なガバナンス、トレードオフの公正な考慮、科学的根拠と順応的な管理、持続性と主流化——。これらに照らすことで、「本物のNbS」と「見せかけ」を見分けやすくなるわけです。
改訂された世界基準では、グリーンウォッシュを避ける仕組みがいっそう強化されました。何がNbSで、何がそうでないかを、より明確に判定できるようにするためです。企業や自治体がNbSに取り組むなら、こうした国際基準を「ものさし」として使うことが、信頼性を保つうえで欠かせません。数字や見た目だけでなく、生物多様性に本当に役立っているかを問う姿勢が求められます。
NbSをどう捉えるか
NbSとは、生態系を守り、管理し、再生することを通じて、防災や気候変動、水といった社会課題に取り組みながら、生物多様性にも便益をもたらす取り組みの総称です。IUCNが2016年に定義し、2022年には国連環境総会でも国際的な定義が採択されました。EbA・Eco-DRR・グリーンインフラを束ねる「大きな傘」であり、ネイチャーポジティブの実現手段、そしてブルーカーボンなどを通じた脱炭素の一手でもあります。
大切なのは、NbSを「自然保護という追加のコスト」と捉えるのではなく、「社会や経済の課題を解くための、費用対効果の高い解決策」として捉え直すことでしょう。ただし、炭素の相殺だけを追う「見せかけ」に陥らず、生物多様性への便益や地域・住民との協働を大切にしてこそ、本物のNbSになります。自然資本やネイチャーポジティブとあわせて捉えると、その意義が見えてきます。ESGの全体像はESG完全ガイドもご覧ください。
自然は、守るべき対象であると同時に、頼れるパートナーでもある——。NbSは、人と自然の関係を「対立」から「協働」へと描き直す、これからの時代の合言葉なのです。なお本記事は制度や考え方を中立に整理したものであり、最新の内容は環境省・国土交通省・IUCNなどの公表資料でご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q. NbS(自然を活用した解決策)とは何ですか?
A. 自然や生態系を守り、管理し、再生することを通じて、防災や気候変動、水資源といった社会課題に取り組みながら、同時に生物多様性や人々の暮らしにも便益をもたらす取り組みの総称です。IUCN(国際自然保護連合)が2016年に定義し、2022年には国連環境総会でも国際的な定義が採択されました。
Q. NbSとグリーンインフラ・EbA・Eco-DRRはどう違いますか?
A. NbSはこれらをまとめる大きな傘のような概念です。生態系を活用した気候変動への適応をEbA、防災・減災に活かすものをEco-DRR、都市や社会の基盤として自然を活用するものをグリーンインフラと呼び、いずれもNbSの一部と位置づけられます。日本では環境省が生物多様性、国土交通省がグリーンインフラの観点から推進しています。
Q. NbSはカーボンクレジットやネイチャーポジティブと関係がありますか?
A. 関係があります。森林や沿岸生態系(ブルーカーボン)による炭素の吸収・貯留はNbSの一例で、カーボンクレジットの対象にもなります。またNbSは生物多様性の損失を反転させるネイチャーポジティブの実現手段の一つでもあります。ただし炭素の相殺だけを目的にした単一樹種の植林など、生物多様性への便益を欠く取り組みは本来のNbSとはいえないとされます。
出典・参考(一次情報)
- 環境省「自然を活用した解決策(NbS:Nature-based Solutions)」
- 国土交通省「グリーンインフラ」
- IUCN日本委員会「IUCN NbS世界基準(Global Standard)」
最終更新日:2026年7月1日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。