セメントの脱炭素とは|CO2排出の理由とCCUS・カーボンリサイクルコンクリートを解説

2026.07.12
気候変動

高層ビル、道路、橋、ダム。私たちの暮らしを支える構造物の多くは、コンクリートでできています。そのコンクリートに欠かせない接着剤が、セメントです。ところが、このセメントの製造が、実は大量のCO2を生み出しています。その量は世界のCO2排出量の約7〜8%にのぼるとされ、しかも再生可能エネルギーへの切り替えだけでは減らしにくい、やっかいな性質を抱えています。本記事では、セメントの脱炭素がなぜ難しいのか、そしてどのような手段で挑まれているのかを、公的機関や国際団体の情報をもとに整理します。

この記事の目次

セメントの脱炭素とは(おさらい)

まず、セメントの脱炭素がどのような取り組みで、なぜ「最も難しい」と言われるのかを、コンクリートとの関係から整理しましょう。

コンクリートのCO2は、その大半がセメントに由来する

コンクリート
骨材(砂・砂利)
セメント=重さの約1〜2割
約8割コンクリートのCO2排出はセメント(クリンカ)に由来する

セメントは骨材どうしを接着する結合材。量は少ないが、排出は一点に集中する

出典:各種公開情報をもとにgreenote作成

セメントとコンクリートの違い

セメントとコンクリートは、しばしば混同されます。しかし、両者は別のものです。コンクリートは、砂利や砂などの骨材に水とセメントを混ぜて固めた材料であり、セメントはその骨材どうしを接着する結合材の役割を担います。いわば、セメントはコンクリートの「のり」にあたる存在です。

重量でみると、コンクリートに占めるセメントの割合は、わずか1〜2割ほどにすぎません。ところが、コンクリートが排出するCO2の約8割は、このセメント(正確にはその主成分であるクリンカ)に由来するとされます。量は少ないのに、排出は一点に集中している。ここに、セメントの脱炭素が語られる理由があります。建物に内包される炭素という視点は、関連記事のエンボディドカーボンとはもあわせてご覧ください。

「減らしにくい排出」と呼ばれる理由

セメントは、鉄鋼や化学とともに「減らしにくい排出(ハード・トゥ・アベイト)」の代表格に数えられます。なぜでしょうか。

その理由は、CO2の大半が燃料を燃やして生じるのではなく、原料そのものが分解する化学反応から生まれる点にあります。工場の電気を再エネに変えても、この反応由来のCO2は残ってしまうのです。だからこそ、セメントの脱炭素は一筋縄ではいきません。脱炭素全体の見取り図は、関連記事のカーボンニュートラルとはもあわせてご覧ください。

なぜセメント製造でCO2が出るのか

セメントのCO2は、大きく2つの発生源に分かれます。ここが、ほかの多くの産業と決定的に違う点です。

セメントのCO2は、化学反応が主役

焼成温度は約1450度

約6割プロセス排出(石灰石の脱炭酸)原料の石灰石が熱で分解しCO2を放出。従来製法では避けられない
約4割燃料由来の排出焼成に化石燃料を燃やす。燃料転換で減らせる余地

減らしにくい6割減らせる4割に分けて考えると、対策の全体像が見える。

出典:各種公開情報をもとにgreenote作成(割合は概数)

石灰石の脱炭酸(プロセス排出)が約6割

セメントの原料は、主に石灰石です。この石灰石を、窯(キルン)のなかで約1450度という高温で焼き固め、セメントの中間素材であるクリンカをつくります。

このとき、石灰石の主成分である炭酸カルシウムが熱で分解し、酸化カルシウムとCO2に分かれます。この化学反応そのものから放たれるCO2が、プロセス排出(脱炭酸)です。そして、これがセメント製造で生じるCO2の約6割を占めるとされます。原料が分解する過程で出るため、従来の製法では避けようがありません。ここが、電化や再エネだけでは解決できない核心なのです。

燃料の燃焼による排出が約4割

もう1つの発生源が、燃料由来の排出です。石灰石を約1450度まで熱するには、膨大なエネルギーが要ります。その熱を得るために、石炭などの化石燃料を燃やしてきました。ここから出るCO2が、残りの約4割にあたります。

こちらは、プロセス排出とは性格が異なります。燃料を化石燃料からバイオマスや廃棄物、水素などに切り替えれば、削減できる余地があるのです。つまりセメントのCO2は、「減らせる4割」と「減らしにくい6割」に分けて考えると、対策の全体像が見えてきます。

セメント・コンクリートのCO2排出はどれくらい大きいのか

セメントの脱炭素が世界的に重視されるのは、その排出量の大きさゆえです。数字で確かめておきましょう。

セメント産業の排出規模

約7〜8%世界のCO2排出に占めるセメント産業の割合
約15.7億t2023年のセメント由来CO2。国なら世界第4位級

セメントのCO2の9割超はクリンカ製造から。クリンカ比率を下げることが削減の鍵。

出典:各種公開情報をもとにgreenote作成(数値は概数)

世界のCO2の約7〜8%

セメント産業が排出するCO2は、世界全体の約7〜8%を占めるとされます。2023年のセメント製造由来のCO2は、およそ15.7億トンと推計されました。仮にこれを一国の排出量に見立てれば、世界第4位級の排出源に相当します。

一つの素材産業が、これほど大きな排出を担っている例は多くありません。都市化やインフラ整備が続く新興国を中心に、コンクリートの需要は今後も伸びると見込まれます。だからこそ、セメントの脱炭素は世界共通の課題とされているのです。

排出の大部分はクリンカが担う

セメントのなかでも、CO2排出のほとんどを生んでいるのがクリンカです。前述のとおり、クリンカは石灰石を高温で焼いてつくる中間素材であり、その製造工程でプロセス排出と燃料排出の両方が発生します。クリンカ製造は、セメント製造で生じるCO2の9割超を占めるとされます。

裏を返せば、セメントに含まれるクリンカの割合(クリンカ比率)を下げることが、削減の大きな鍵になります。この「クリンカをいかに減らすか」という発想が、次に見る脱炭素の手段の中心に据えられています。

脱炭素の主な手段

セメントの脱炭素は、単一の決め手ではなく、複数の手段を組み合わせて進めます。代表的な4つを整理しましょう。

4つの手段を組み合わせて減らす

1クリンカ代替混合材(高炉スラグ・フライアッシュ・か焼粘土)でクリンカを置き換える
2燃料転換化石燃料をバイオマス・廃棄物・水素へ
3省エネルギー廃熱回収など工程の効率化
4CCUS避けられないプロセス排出を回収する最後の砦

とくにクリンカ代替CCUSが要。燃料転換だけでは6割のプロセス排出は消えない。

出典:各種公開情報をもとにgreenote作成

クリンカを減らす(混合材・SCMの活用)

もっとも基本的な手段が、CO2排出の多いクリンカの量を減らすことです。クリンカの一部を、別の材料で置き換えます。この置き換えに使われるのが、混合材(SCM、供給される補助的な結合材)です。

代表的なのは、製鉄で生じる高炉スラグ、石炭火力で出るフライアッシュ、そして粘土を焼いたか焼粘土などです。これらをクリンカに混ぜることで、セメント全体のCO2を抑えられます。世界セメント・コンクリート協会(GCCA)のロードマップでは、クリンカ比率を2020年の0.63から、2030年に0.58、2050年に0.52へと下げる道筋が描かれました。地道ながら、確実に効く王道の手段です。

燃料転換と省エネルギー

2つ目が、燃料の切り替えと工程の効率化です。焼成に使う化石燃料を、バイオマスや廃棄物由来の燃料、さらには水素などへと転換すれば、燃料由来のCO2を減らせます。あわせて、窯の廃熱を回収して再利用するなど、省エネルギーの取り組みも重ねられてきました。

ただし、この手段が効くのは、あくまで燃料由来の排出(約4割)に対してです。原料の分解から生じるプロセス排出には、直接は届きません。燃料転換だけではゼロにできない。ここに、次のCCUSが欠かせない理由があります。グリーン水素の基礎は、関連記事のグリーン水素とはもあわせてご覧ください。

CCUS(CO2の回収・利用・貯留)

避けられないプロセス排出に立ち向かう切り札が、CCUS(CO2の回収・利用・貯留)です。工場の排ガスからCO2を回収し、地中に貯留したり、資源として再利用したりします。プロセス排出をなくせない以上、それを回収するCCUSは、セメント脱炭素の最後の砦と位置づけられています。

GCCAのネットゼロ2050ロードマップでは、2050年の削減量のうち約36%をCCUSが担うと見込まれました。すでに北米・欧州・中国・インドなどで実証が進んでいます。今回のニュースにあったセメント工場での大規模なCO2回収プロジェクトも、この世界的な流れの一つです。CCSの仕組みは、関連記事のCCS(CO2回収・貯留)とはもあわせてご覧ください。

CO2を固定する技術とカーボンリサイクルコンクリート

近年注目されるのが、コンクリートそのものにCO2を取り込んで固定するという発想です。日本も、この分野の研究開発で先行しています。

CO2を、コンクリートに閉じ込める

1 回収工場の排ガスや大気からCO2を集める
2 固定炭酸カルシウムとしてコンクリートの材料に取り込む
3 吸収使用中も中性化で少しずつCO2を吸収する

製造から見た正味のCO2を、ゼロやマイナスに近づける

吸収量には限りがあり、製造時に出る大量のCO2をすべて相殺できるわけではない。

出典:各種公開情報をもとにgreenote作成

コンクリートがCO2を吸収するという性質

意外に思われるかもしれませんが、コンクリートは使われているあいだに、大気中のCO2を少しずつ吸収します。これは中性化(炭酸化)と呼ばれる現象です。セメントの成分が、空気中のCO2とゆっくり反応して炭酸カルシウムに戻っていきます。

いったん取り込まれたCO2は、通常の環境では再び放たれることが少なく、長期間にわたって固定されます。その意味で、コンクリートはCCSに似た性質をあわせ持つといえます。近年は、この吸収を積極的に活用しようという技術開発も進んできました。ただし、吸収できる量には限りがあります。製造時に出た大量のCO2を、すべて相殺できるわけではない点には注意が必要です。

日本のカーボンリサイクルコンクリート

こうした性質を発展させたのが、カーボンリサイクルコンクリートです。製造や養生の過程で、回収したCO2をコンクリートのなかに固定します。高炉スラグなどでセメントの量を減らしつつ、CO2を炭酸カルシウムとして材料に取り込むことで、製造から見た正味のCO2を、ゼロやマイナスに近づけるという発想です。

日本では、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金などを通じて、この分野の研究開発が進められてきました。経済産業省・資源エネルギー庁も、コンクリート・セメントのカーボンニュートラルに向けた動向を整理し、政策的な後押しを示しています。CO2を資源として活用する考え方は、関連記事のカーボンリサイクル(CO2の利用)とはもあわせてご覧ください。

課題と展望

期待が大きい一方で、乗り越えるべき課題も残ります。国際的なロードマップとあわせて、現在地を整理しましょう。

課題と、ネットゼロ2050への道筋

乗り越えるべき3つの壁

コスト脱炭素セメントは割高になりやすい
規格JISなど品質・耐久性の基準に適合する必要
インフラCCUSはCO2の輸送・貯留の整備が前提

GCCA ネットゼロ2050ロードマップ(クリンカ比率)

2020年クリンカ比率 0.63
2030年0.58へ・今後10年で約25%削減
2050年0.52・ネットゼロ

クリンカ代替・燃料転換・省エネ・CCUS・コンクリートのCO2吸収を総動員する。

出典:GCCA 2050ネットゼロロードマップ等をもとにgreenote作成

コスト・規格・CCUSインフラという壁

第一の壁が、コストです。混合材の活用やCCUSの導入は、従来のセメントに比べて製造コストを押し上げがちです。脱炭素で優れた製品でも、価格が高ければ普及は進みません。

第二に、規格や基準への適合という課題があります。コンクリートは、建物や橋の安全を支える材料です。新しい材料であっても、JISなどの品質基準を満たし、長期の耐久性を証明する必要があります。そして第三に、CCUSにはCO2を運び、地中に貯留するためのインフラが欠かせません。回収したCO2の受け皿が整わなければ、対策は完結しないのです。

GCCAのネットゼロ2050ロードマップ

こうした課題をふまえ、業界は国際的な道筋を描いています。それが、世界セメント・コンクリート協会(GCCA)が2021年に公表したネットゼロ2050ロードマップです。ここでは、今後10年でさらに約25%の排出削減をめざす計画が示されました。

その中身は、本記事で見てきた手段の総動員です。クリンカ比率の低減、混合材の活用、燃料転換、省エネルギー、CCUS、そしてコンクリートによるCO2吸収。これらを積み上げて、2050年のネットゼロに到達しようという構想になります。日本でも、セメント業界や経済産業省がこの流れに歩調を合わせ、技術開発と制度整備を進めています。鉄鋼の脱炭素とあわせた産業全体の動きは、関連記事のグリーンスチールとはもあわせてご覧ください。

まとめ|セメントの脱炭素は「プロセス排出」との闘い

セメントの脱炭素は、現代社会を支える素材の宿命的な課題です。最後に、要点を振り返りましょう。

  • セメントは世界のCO2排出の約7〜8%を占める。コンクリートのCO2の約8割はセメント(クリンカ)に由来する
  • CO2の約6割は石灰石の脱炭酸(プロセス排出)から生じ、従来の製法では避けられない。残る約4割が燃料由来
  • 主な手段は、クリンカ代替(混合材・SCM)・燃料転換・省エネ・CCUSの組み合わせ。避けられないプロセス排出にはCCUSが要
  • カーボンリサイクルコンクリートなど、CO2をコンクリートに固定する技術も進む。日本はNEDOの基金などで先行する
  • 課題はコスト・規格・CCUSインフラ。GCCAはネットゼロ2050ロードマップで道筋を示した

セメントの脱炭素は、燃料を変えるだけでは終わらない、原料の化学反応そのものとの闘いです。だからこそ、あらゆる手段を組み合わせ、最後はCO2を回収し、あるいはコンクリートに閉じ込める。その一つひとつの積み重ねが、私たちの足元を支えるインフラを、脱炭素の時代へと橋渡ししていきます。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。

よくある質問(FAQ)

Q. セメントの脱炭素はなぜ難しいのですか?

A. セメントのCO2排出の大部分が、燃料の燃焼ではなく、原料である石灰石を熱分解する化学反応そのもの(プロセス排出)から生じるためです。この反応は従来の製法では避けられず、再生可能エネルギーへの切り替えだけではゼロにできません。そのため、鉄鋼などと並んで「減らしにくい排出(hard to abate)」の代表とされ、最終的にはCCUS(CO2の回収)などが欠かせないと考えられています。

Q. セメント製造でCO2が出る理由は何ですか?

A. 発生源は大きく2つです。1つは、原料の石灰石(炭酸カルシウム)を約1450度で焼いてクリンカをつくる際に、石灰石が分解してCO2を放出する「プロセス排出(脱炭酸)」で、これがセメントのCO2の約6割を占めるとされます。もう1つは、その高温を得るために化石燃料を燃やす「燃料由来の排出」で、残りの約4割にあたります。

Q. セメント・コンクリートは世界のCO2のどれくらいを占めますか?

A. セメント産業は、世界のCO2排出量の約7〜8%を占めるとされます。仮に国であれば世界第4位級の排出源にあたる規模です。コンクリートの重量に占めるセメントの割合は1〜2割ほどですが、コンクリートのCO2排出の約8割はセメント(正確にはクリンカ)に由来します。

Q. セメントを脱炭素する方法にはどんなものがありますか?

A. 主な手段は4つを組み合わせます。CO2排出の多いクリンカを高炉スラグやフライアッシュ、か焼粘土などの混合材(SCM)で置き換える「クリンカ代替」、化石燃料をバイオマスや廃棄物・水素などに切り替える「燃料転換」、製造工程の「省エネルギー」、そして避けられないプロセス排出を回収する「CCUS(CO2の回収・利用・貯留)」です。CCUSは残る排出を処理する最後の砦と位置づけられます。

Q. カーボンリサイクルコンクリートとは何ですか?

A. 製造や養生の過程でCO2を取り込み、コンクリートの中に固定するタイプのコンクリートです。高炉スラグなどでセメント量を減らしつつ、回収したCO2を炭酸カルシウムとして材料に固定することで、製造から見た正味のCO2をゼロやマイナスに近づけます。日本ではNEDOのグリーンイノベーション基金などを通じて研究開発が進められています。

Q. コンクリートがCO2を吸収するというのは本当ですか?

A. 本当です。コンクリートは、使用されている長い年月のあいだに大気中のCO2を少しずつ吸収する「中性化(炭酸化)」という性質を持ちます。この吸収を積極的に活用し、CO2を材料に固定する技術も開発されています。ただし吸収量には限りがあり、製造時に出る大量のCO2をすべて相殺できるわけではない点には注意が必要です。

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

最終更新日:2026年7月12日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

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