気候変動と生物多様性の関係とは|統合的アプローチとシナジー・トレードオフを解説

2026.07.11
生物多様性

企業のサステナビリティ活動を見ると、「脱炭素」と「生物多様性」がまったく別のチーム・別の指標で進められていることが少なくありません。しかし、この2つを切り離して扱う発想そのものが、近年問い直されています。ある英国の環境コンサルタントは「炭素排出と生物多様性は別々のサイロに留まれない」と指摘し、両者を分断する測定・組織の壁を問題提起しています。気候変動と生物多様性の関係とは、この2つの危機が相互に強め合っており、片方だけを解決しようとすると他方を害しかねない、切り離せない関係にあるということです。本記事では、両者を統合的に捉える考え方を、国際機関の報告書をもとに整理します。

この記事の目次

気候変動と生物多様性はなぜ結びつくのか(おさらい)

まず、この2つの危機がなぜ切り離せないのか、双方向の関係から整理しましょう。

相互に強め合う2つの危機

気候変動
生息域の変化・海洋酸性化・サンゴ白化・絶滅リスク
森林・泥炭地・海洋のカーボンシンク機能が低下
生物多様性
の損失

どちらか一方だけを扱っても、両方に同時に取り組まない限り解決できない(IPCC・IPBES)。

出典:IPCC・IPBES・国立環境研究所の公開情報をもとにgreenote作成

気候変動が生物多様性を損なう

気候変動と生物多様性の損失は、どちらも人間の経済活動が引き起こす、相互に強め合う関係にあります。まず気候変動から生物多様性への影響です。気温や降水量の変化は生物の生命活動に直接作用し、植物の生息域の縮小や、海域の温暖化に伴う種の分布の移動を引き起こします。

さらに、開花の時期とそれを受粉する昆虫の活動期がずれる「フェノロジー(生物季節)の不一致」のように、生物どうしの関係そのものが壊れることもあります。海洋酸性化やサンゴの白化、種の絶滅リスクの増大も、気候変動がもたらす生物多様性への打撃です。

生態系の劣化が気候変動を悪化させる

逆方向の関係も見過ごせません。生物多様性の劣化が、気候変動を悪化させるのです。樹木の多様性が高い森林ほど炭素を吸収・固定する能力が高いことが知られています。生態系が劣化すると、このカーボンシンク(炭素吸収源)としての機能が低下し、大気中のCO2の吸収が減って気候変動が加速する、という悪循環に陥ります。

森林だけでなく、泥炭地・海洋・湿地なども重要な炭素の吸収源です。ブルーカーボンで解説したマングローブや海草藻場のように、生態系の保全がそのまま気候対策になる場面は数多くあります。気候と自然は、一方が崩れればもう一方も崩れる、表裏一体の関係なのです。

IPCCとIPBESの共同報告書(2021年)が示したこと

気候と生物多様性を統合的に扱うべきだという認識を決定づけたのが、2つの国際機関による史上初の共同報告書です。

2021年 IPCC×IPBES
史上初の共同報告書

IPCC気候変動の科学
IPBES生物多様性の科学
史上初の共同ワークショップ(2020年12月開催・専門家約50名)
一方に狭く絞った対策は、他方を害しうる(逆も然り)
両方に大きく貢献する措置も多数ある

統合的に扱えば、パリ協定と生物多様性目標の達成が容易になる

出典:IPBES-IPCC共同ワークショップ報告書(2021)をもとにgreenote作成

気候と生物多様性の科学が初めて手を組んだ

気候変動の科学を担うIPCC(気候変動に関する政府間パネル)と、生物多様性の科学を担うIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)は、2021年6月10日に共同ワークショップ報告書を公表しました。国連の発表などによれば、これは2020年12月に開催された4日間のワークショップの成果で、世界の専門家約50名が参加したものです。

重要なのは、これがこの2つの政府間機関による史上初の共同活動だった点です。それまで別々に議論されてきた気候と生物多様性の科学が、初めて公式に手を組んだ――この事実自体が、両者を統合して考えるべきだという強いメッセージになりました。

「一方だけ」の対策が他方を害しうる

報告書の核心的なメッセージは明快です。気候変動対策に狭く焦点を絞った行動は、直接的にも間接的にも自然を害しうる。その逆もまた然り。ただし同時に、両分野に大きな正の貢献をする措置も多数存在する、と整理しました。

つまり、良かれと思って進めた気候対策が生物多様性を壊してしまうことも、その逆もあり得るということです。だからこそ、両課題を別々にではなく統合的に扱えば、パリ協定が目指す気候目標と、生物多様性の目標の双方が達成しやすくなる、と報告書は結論づけています。この「統合すれば両立できる」という視点が、以降の議論の出発点になりました。

シナジーとトレードオフ――統合の要点

気候と自然の両方に効く解決策もあれば、一方が他方を害する対策もあります。この見極めが統合の核心です。

両方に効くか、一方を害するか

シナジー(両方に良い)

森林・湿地・泥炭地・草原の保全再生

マングローブ・海草藻場など沿岸生態系の修復

NbS(自然を活用した解決策)

トレードオフ(一方を害する)

大規模モノカルチャーのバイオエネルギー作物

非森林への植林・単一樹種の再植林

再エネ開発の土地消費・ダムや防潮堤による生息地の分断

統合的な設計とトレードオフの見極めが重要。すべてでwin-winは達成できない場合もある。

出典:IPBES-IPCC共同ワークショップ報告書(2021)をもとにgreenote作成

両方に効く「シナジー」の例

統合的アプローチで目指すべきは、気候と自然の両方に良いシナジーです。IPBES-IPCC報告書は、その代表例として、森林・湿地・泥炭地・草原・サバンナや、マングローブ・塩性湿地・海草藻場などの沿岸生態系といった、炭素と種の両方が豊富な生態系の損失・劣化を止め、修復することを挙げています。

生態系の修復は、生物に生息地を提供して生物多様性の回復力を高めると同時に、炭素を吸収・固定して気候緩和にも寄与します。NbS(自然を活用した解決策)は、まさにこのシナジーを体現する考え方です。自然の力を活かすことが、気候と生物多様性の両方への貢献になるのです。

見落とせない「トレードオフ」の例

一方で、注意すべきがトレードオフ――一方の対策が他方を害するケースです。報告書は具体例を挙げています。大規模な単一栽培(モノカルチャー)のバイオエネルギー作物は、非常に大規模に展開すると生態系に有害です。もともと森林でない生態系への植林や、単一樹種による再植林も、しばしば生物多様性を損ないます。

ほかにも、灌漑の拡大が水紛争や土壌劣化を招くこと、再生可能エネルギー開発が大量の土地を消費すること、ダムや防潮堤といった適応策が回遊性の種を妨げ生息地を分断することが挙げられています。報告書は、すべての場所でwin-winのシナジーを達成することは不可能な場合もあると率直に認めており、だからこそ統合的な設計と、トレードオフの見極めが重要になります。「木を植えれば気候にも自然にも良い」といった単純な発想は、時に逆効果になり得るのです。

国際枠組みと開示の連動――パリ協定とGBF

気候と生物多様性は、別々の条約でありながら、政策・企業開示の両面で連動が進んでいます。

別々の条約でも、連動する

気候|パリ協定国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下
生物多様性|GBF生物多様性条約(CBD)の下・2022年採択・30by30・ネイチャーポジティブ
企業開示も連動:気候のTCFD ⇔ 自然のTNFD/ISSB・ESRSが気候と自然の双方をカバーへ

政策も開示も、気候と自然を一体で捉える方向へ

出典:環境省・国連等の公開情報をもとにgreenote作成

気候変動対策の国際枠組みであるパリ協定は国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下にあり、生物多様性の昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)は生物多様性条約(CBD)の下にあります。両者は別々の条約です。GBFは2022年12月にカナダ・モントリオールで開催されたCBD-COP15で採択され、2030年までに自然の損失を止めてプラスに転じる「ネイチャーポジティブ」を掲げ、陸と海の30%保全(30by30)を含む23の目標を定めました。

条約は別でも、両者は相互に関連しています。統合的に対応すれば、パリ協定の気候目標と生物多様性の目標の双方が達成しやすくなります。この連動は企業開示にも及んでおり、気候のTCFDと自然のTNFDが連携し、CSRDに基づくESRSやISSBの基準が気候と自然の双方をカバーする方向にあります。政策も開示も、気候と自然を一体で捉える流れが強まっているのです。

企業に求められる統合的アプローチと課題

気候と自然を別々のサイロで管理する時代は終わりつつあります。統合の実務と、その難しさを整理します。

サイロを越えて、統合的に

これまで(サイロ化)

気候=気候・エネルギー部門/CO2で管理
生物多様性=CSR・土地管理部門/別々の指標

これから(統合)

カーボンニュートラルとネイチャーポジティブを一体で追求
FLAG(森林・土地・農業)にシナジー機会が集中

別々に管理するとリスク・機会が隙間から抜け落ちる

出典:各種公開情報をもとにgreenote作成

サイロを越えた統合的なリスク管理へ

企業が気候と自然を別々のサイロで管理すると、両者にまたがるリスクや機会が「隙間から抜け落ちて」しまいます。冒頭で触れたように、炭素は気候・エネルギー部門が、生物多様性はCSRや土地管理の部門が担当し、指標も体制も分断されがちだという指摘があります。

そこで、カーボンニュートラルとネイチャーポジティブを一体で追求する動きが強まっています。特に、森林・土地・農業に関わる事業(FLAGと呼ばれます)では、気候と自然の両方に効くシナジーの機会が集中するとされます。自然資本を経営に組み込む発想は、まさに気候対策と自然保全を統合的に捉える取り組みだといえます。

測定の非対称性という課題

ただし、統合には難しさもあります。最大の課題が測定の非対称性です。気候はCO2(正確にはCO2換算トン)という単一の指標で標準化されているのに対し、生物多様性は地域・生態系・種ごとに異なり、単一の数値では表せません。そのため、炭素向けに作られてきた報告体系に、生物多様性をうまく組み込みにくいのです。

加えて、前述のトレードオフをゼロにすることは現実には難しく、影響を最小化する方針と具体策を一貫して説明できるかが問われます。見かけだけの統合はグリーンウォッシュと批判され、評判リスクにつながりかねません。統合的アプローチは、掛け声だけでなく、測定・説明の裏付けを伴って初めて機能します。

気候と生物多様性をどう捉えるか

気候変動と生物多様性の損失は、相互に強め合う切り離せない関係にあります。気候変動が生態系を脅かし、生態系の劣化がカーボンシンクを弱めて気候変動を加速させる――この悪循環を断つには、両者を統合的に扱うしかありません。IPCCとIPBESは2021年の史上初の共同報告書で、一方に狭く絞った対策は他方を害しうる一方、両方に効くシナジーも多数あると示しました。森林や湿地の保全というシナジーを選び、大規模なバイオ燃料作物や単一樹種植林のようなトレードオフを避ける――その見極めが統合の要点です。

企業にとっての要点は、気候と自然を別々のサイロで管理せず、カーボンニュートラルとネイチャーポジティブを一体で捉えることです。政策(パリ協定とGBF)も開示(TCFDとTNFD)も連動が進むなか、統合的な視点は避けて通れません。生物多様性の測定の難しさやトレードオフの見極めという課題は残りますが、気候と自然を切り離さずに考える姿勢こそが、これからのサステナビリティ経営の土台になります。

なお本記事は、IPCC・IPBES・国連・環境省などの公開情報をもとに整理したものです。冒頭で触れた英国のコンサルタントの指摘は報道等に基づくものです。特定の対策や事業者を推奨するものではありません。最新の状況や各枠組みの詳細は一次情報をご確認ください。

あわせて読みたい:開発と環境保全を両立させる意思決定プロセス → 環境アセスメント(環境影響評価)とは|対象13事業・手続きの流れを解説

あわせて読みたい:「自然版TCFD」の全体像とLEAPアプローチ → TNFDとは|4つの柱・14の開示提言とLEAPアプローチをわかりやすく解説

よくある質問(FAQ)

Q. 気候変動と生物多様性は、なぜ一緒に考える必要があるのですか?

A. 2つが相互に強め合う関係にあるためです。気候変動は、生息域の変化やサンゴの白化などを通じて生物多様性の損失を加速させます。逆に、森林や泥炭地、海洋といった生態系が劣化すると、それらが持つ炭素の吸収源(カーボンシンク)としての機能が低下し、気候変動をさらに悪化させます。IPCCとIPBESは2021年の共同報告書で、どちらか一方だけを扱っても、両方に同時に取り組まない限り解決できないと明言しています。片方の対策がもう片方を害することもあるため、統合的に取り組む必要があります。

Q. 気候対策が生物多様性を害することはあるのですか?

A. あります。これがトレードオフと呼ばれる問題です。IPBES-IPCCの共同報告書は、大規模な単一栽培のバイオエネルギー作物や、もともと森林でない生態系への植林、単一樹種による再植林などが、生物多様性を損なう例として挙げています。再生可能エネルギー開発による土地の大量消費や、ダム・防潮堤といった適応策による生息地の分断も同様です。だからこそ、気候対策を設計する際には、それが自然に与える影響まで見て、両方に効く解決策(シナジー)を選ぶことが重要になります。

Q. 企業は気候と生物多様性をどう扱えばよいですか?

A. 気候と自然を別々の部署・別々の指標で管理する「サイロ化」を避け、統合的に捉えることが求められています。カーボンニュートラルとネイチャーポジティブを一体で追求する動きが強まっており、特に森林・土地・農業に関わる事業ではシナジーの機会が多いとされます。ただし、生物多様性は気候(CO2という単一指標)と違って地域・生態系・種ごとに複雑で標準的な測定が難しいという課題があります。見かけだけの統合はグリーンウォッシュと批判されるリスクもあるため、影響の見極めと一貫した説明が欠かせません。

出典・参考(一次情報)

最終更新日:2026年7月11日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

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サステナビリティ実務・編集統括

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