気候変動には「パリ協定」という世界共通の目標があります。では、生物多様性にはないのでしょうか。実はあります。それが、昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)です。「生物多様性版パリ協定」とも呼ばれるこの枠組みは、自然をめぐる世界の取り組みの羅針盤になっています。
本記事では、GBFとは何かを整理したうえで、30by30をはじめとする主要ターゲット、COP16の成果、そしてTNFDと連動した企業への影響までを解説します。気候のパリ協定はパリ協定・COPとは、自然の開示枠組みはTNFDとはもあわせてご覧ください。
≡目次
- 1GBF(昆明・モントリオール生物多様性枠組)とは
- ►COP15で採択された「生物多様性版パリ協定」
- ►2050ビジョンと2030ミッション(ネイチャーポジティブ)
- 2GBFの主要ターゲット
- ►30by30|陸と海の30%を保全
- ►ターゲット15|企業の依存・影響の開示
- ►資金動員と有害補助金の削減
- 3COP16の成果と課題(2024年〜)
- ►カリ基金|遺伝資源のDSI利益配分
- ►先住民・地域コミュニティの位置づけ
- ►持ち越された資金・モニタリングの議論
- 4企業に求められる対応
- ►TNFDと連動した情報開示
- ►自然への依存・影響を把握する
- ►ネイチャーポジティブ経営へ
- 5気候と自然の統合|日本企業への示唆
- ►気候と生物多様性は表裏一体
- ►日本の30by30とOECM
- ►「自然」を経営に組み込む
- 6まとめ|GBFは自然をめぐる世界の羅針盤
GBF(昆明・モントリオール生物多様性枠組)とは
気候変動に「パリ協定」があるように、生物多様性にも世界共通の目標があります。それがGBFです。まずは概要を押さえましょう。
GBF(昆明・モントリオール生物多様性枠組)の全体像
気候の「パリ協定」に対応する、自然版の世界目標
GBF = 生物多様性版パリ協定
(2022年 CBD COP15 で採択)
2050年ビジョン
自然と共生する世界
2030年ミッション
損失を止め反転(ネイチャーポジティブ)
構成
4つのゴールと23のターゲット
2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させる、野心的な世界目標です。
出典:環境省・生物多様性条約(CBD)をもとにgreenote作成
COP15で採択された「生物多様性版パリ協定」
GBFは、2022年12月にカナダのモントリオールで開かれた、生物多様性条約第15回締約国会議(CBD COP15)で採択されました。世界が生物多様性の損失に歯止めをかけるために合意した、共通の目標です。
気候変動のパリ協定が「1.5℃」という旗印を掲げたように、GBFも明確な方向性を示しました。それゆえ「生物多様性版パリ協定」と呼ばれます。自然をめぐる議論が、ようやく世界共通のものさしを得たのです。
2050ビジョンと2030ミッション(ネイチャーポジティブ)
GBFには、長期と中期の2つの時間軸があります。2050年のビジョンは「自然と共生する世界」。そして2030年までのミッションが、生物多様性の損失を止め、反転させることです。
この「損失を止めて反転させる」という方向性が、近年よく聞く「ネイチャーポジティブ」です。減らさないだけでなく、プラスに転じる。GBFは、4つのゴールと23のターゲットを通じて、この野心的な目標の実現を図ります。
GBFの主要ターゲット
GBFは、2050年のゴールと2030年までの23のターゲットで構成されます。企業に関わる主要なものを見ていきます。
GBFの主要ターゲット
企業に関わる3つの柱
30by30
2030年までに陸と海の30%以上を保全
企業の開示
大企業・金融機関に依存・影響・リスクの評価開示を求める
年2000億ドル
2030年までに資金を動員
ほかに、生物多様性に有害な補助金の削減(目標18)なども掲げられています。
出典:環境省・生物多様性条約(CBD)をもとにgreenote作成
30by30|陸と海の30%を保全
最もよく知られるのが、30by30(サーティ・バイ・サーティ)です。2030年までに、陸域と海域のそれぞれ30%以上を保全することを目指します(ターゲット3)。自然を守るための「面積」の目標だといえます。
注目すべきは、国立公園のような保護区だけに頼らない点です。企業の社有林や、手入れされた里山など、保護区以外でも生物多様性の保全に貢献する地域を活用します。こうした地域は「OECM」と呼ばれ、企業も30by30の担い手になり得ます。
ターゲット15|企業の依存・影響の開示
企業にとって直接関わるのが、ターゲット15です。これは、大企業や金融機関に対し、事業活動による生物多様性への依存・影響・リスクを評価し、開示することを求めるものです。
つまり、自社の事業が自然にどれだけ「頼り」、どれだけ「影響」を与えているかを、明らかにすることが期待されます。気候における排出量開示の、生物多様性版だと考えると分かりやすいでしょう。
資金動員と有害補助金の削減
目標の実現には、お金が要ります。GBFは、2030年までに少なくとも年間2000億ドルの資金を、あらゆる財源から動員することを掲げました(目標19)。生物多様性への投資を、世界規模で増やすねらいです。
あわせて、生物多様性に有害な補助金を削減することも掲げられています(目標18)。守るための資金を増やし、壊すための支出を減らす。両面から、自然へのお金の流れを変えようとしています。
COP16の成果と課題(2024年〜)
枠組みを実行に移すための会議が、COP16です。何が決まり、何が持ち越されたのかを整理します。
カリ基金|遺伝資源のDSI利益配分
2024年10月、コロンビアのカリでCOP16が開かれました。GBFを実行段階へ進めるための会議です。その大きな成果が、「カリ基金」の設立でした。
これは、遺伝資源のデジタル配列情報(DSI)の利用から得られる利益を、衡平に配分する仕組みです。製薬・バイオテクノロジー・アグリビジネスなど一定規模の企業が、DSIを使う場合に利益の1%、または売上高の0.1%を拠出することが目安として示されました。具体的な対象や率は、次回のCOP17に向けてさらに議論されます。
先住民・地域コミュニティの位置づけ
カリ基金には、もう一つ重要な意味があります。基金の50%が、先住民と地域コミュニティに配分されることが合意されました。自然と深く関わって暮らしてきた人々の役割を、正面から位置づけたのです。
生物多様性の保全は、そこに暮らす人々の権利や知恵と切り離せません。COP16は、その視点を制度に組み込む一歩となりました。
持ち越された資金・モニタリングの議論
一方で、すべてがまとまったわけではありません。GBFの進捗を測るモニタリング・レビューの仕組みや、途上国を支援する新たな資金メカニズムについては、合意が持ち越されました。
野心的な目標を掲げても、進捗を測り、資金を確保できなければ、絵に描いた餅になりかねません。これらの課題は、その後の再開会合や次のCOPへと引き継がれています。GBFの実現は、なお道半ばです。
企業に求められる対応
GBFは、政府だけの目標ではありません。企業の役割が、明確に位置づけられています。
企業に求められる対応
把握 → 開示 → ネイチャーポジティブ経営へ
1
把握
自社の自然への依存・影響を可視化する
2
開示
TNFDの枠組みを使って開示する
3
ネイチャーポジティブ経営
損失を止め反転させる取り組みを経営に組み込む
GBFのターゲット15が、企業に依存・影響の評価と開示を求めています。
出典:CBD・TNFD・環境省をもとにgreenote作成
TNFDと連動した情報開示
ターゲット15が求める「開示」の実務を支えるのが、TNFDです。TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は、企業が自然関連のリスクや機会を開示するための枠組みを示しました。気候のTCFDに対応する、自然版の枠組みです。
GBFが「開示せよ」という方向性を示し、TNFDが「どう開示するか」を提供する。両者は連動しています。企業は、TNFDの枠組みを使って、生物多様性への向き合い方を語れるようになります。
自然への依存・影響を把握する
開示の前提となるのが、自社と自然の関係を把握することです。多くの企業は、原材料や水、土壌といった自然の恵みに、知らず知らず依存しています。同時に、事業を通じて自然に影響も与えています。
この「依存」と「影響」の両面を可視化することが、出発点です。自社のバリューチェーンのどこで、自然とどう関わっているのか。それが見えてはじめて、リスクも機会も語れます。生物多様性クレジットの活用は生物多様性クレジットとはもあわせてご覧ください。
ネイチャーポジティブ経営へ
把握し、開示したその先にあるのが、ネイチャーポジティブ経営です。自然の損失を止め、反転させる取り組みを、経営の中核に組み込む。守りのコストではなく、価値創造の機会として自然を捉える発想です。
たとえば、自然に配慮した調達、生態系の回復への投資、社有地の保全。こうした取り組みは、長期のリスクを減らし、企業の信頼を高めます。GBFは、企業に「自然と向き合う経営」を促しているのです。
気候と自然の統合|日本企業への示唆
生物多様性は、気候変動と切り離せません。両者を一体で捉える視点と、日本企業への示唆を整理します。
気候と生物多様性は表裏一体
気候と自然は、深くつながっています。気候変動は、生態系を破壊し、生物多様性を損ないます。逆に、健全な森林や湿地、海洋は、炭素を吸収・貯留し、気候変動の緩和に役立ちます。一方を傷つければ、もう一方も悪化する関係です。
だからこそ、近年は気候と自然を統合的に捉える動きが強まっています。脱炭素と生物多様性保全を、別々の課題としてではなく、一体のものとして進める。ブルーカーボンのような、両者をつなぐ取り組みも注目されています。海の炭素吸収はブルーカーボンとはもあわせてご覧ください。
日本の30by30とOECM
日本も、30by30に取り組んでいます。国立公園などの拡充に加え、企業の社有林や里山といった、保護区以外の地域を「自然共生サイト」として認定する仕組みが進んでいます。これは、OECMとして国際的にも位置づけられます。
ここに、企業の出番があります。自社が保有・管理する緑地を保全し、認定を受ける。それは、30by30への貢献であると同時に、自社の生物多様性への取り組みを示す機会にもなります。
「自然」を経営に組み込む
最後に、日本企業への示唆です。気候対応に続き、自然・生物多様性への対応が、経営の新たなテーマになりつつあります。GBFやTNFDの広がりは、その流れを後押しします。
大切なのは、自然を「コスト」ではなく「経営課題」として捉えることです。自社の事業が自然にどう支えられ、どう影響しているか。その理解を深め、戦略に組み込む。脱炭素の全体像は脱炭素・カーボンニュートラルとは?完全ガイドもあわせてご覧ください。
まとめ|GBFは自然をめぐる世界の羅針盤
GBFは、生物多様性をめぐる世界の取り組みを束ねる、共通の枠組みです。最後に、要点を振り返りましょう。
- GBFとは、2022年のCBD COP15で採択された「生物多様性版パリ協定」。2030年までに生物多様性の損失を止め反転させる(ネイチャーポジティブ)ことを目指す
- 主要ターゲットは、陸海の30%以上を保全する30by30、企業に依存・影響の開示を求めるターゲット15、年2000億ドルの資金動員など
- 2024年のCOP16で、遺伝資源のDSI利益を配分するカリ基金が設立。一方で資金・モニタリングの議論は持ち越し
- 企業は、TNFDと連動して自然への依存・影響を開示し、ネイチャーポジティブ経営へ進むことが期待される
気候に続き、自然もまた、世界共通の目標のもとで動き始めました。GBFは、その羅針盤です。気候と自然を一体で捉え、自社と自然の関係を見つめ直す。その視点が、これからの企業経営にますます求められます。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。
参考(出典):環境省、生物多様性条約事務局(CBD)、昆明・モントリオール生物多様性枠組ほか
出典・参考(一次情報)
※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年6月21日