ESG Company Analysis
コンクリートは、CO2を出す材料の代表とされてきました。セメントをつくる工程で、大量のCO2が発生するからです。ところが鹿島建設は、その常識をひっくり返す技術を持っています。CO2を吸って固定する、カーボンネガティブなコンクリートです。さらに同社は、自社の排出だけでなく、取引先まで含めたサプライチェーンの排出にも、はっきりした数値目標を置いています。本記事では、鹿島建設のESG経営を、Scope3の数値目標とCO2-SUICOMを軸に、公式情報をもとに中立に分析していきます。
この記事の目次
01
鹿島建設のESG経営とは|3つのゼロを掲げる
まず、鹿島建設がどんな会社で、その環境ビジョンを整理しましょう。
3つのゼロを、めざす
CO2だけでなく廃棄物と自然への影響もゼロをめざす枠組み。
出典:鹿島建設の公表情報をもとにgreenote作成
スーパーゼネコンの一角
鹿島建設は、日本を代表する大手ゼネコン(総合建設会社)のひとつで、いわゆるスーパーゼネコンの一角です。ビルや土木構造物、インフラの設計から施工までを幅広く手がけています。鹿島技術研究所という自社の研究拠点を持ち、独自の環境技術を生み出してきた点も特徴です。
建物のCO2は、「つくる時」と「使う時」の二段階で生まれます。この構造は、大成建設や清水建設の記事でも見てきたとおりです。とりわけ「つくる時」に材料の製造まで含めて出るCO2は、エンボディドカーボン(内包炭素)と呼ばれます。鹿島の強みは、この材料の段階に、技術で切り込んでいる点にあります。
鹿島環境ビジョン2050plus
鹿島の環境方針は、長い歴史を持ちます。2013年に「鹿島環境ビジョン:トリプルZero2050」として策定され、2024年に「鹿島環境ビジョン2050plus」へ改定されました。10年以上前から長期の姿を描いてきたわけです。
このビジョンは、持続可能な社会を3つの視点でとらえます。脱炭素・資源循環・自然再興です。そして2050年に達成すべき姿を、「Zero Carbon」「Zero Waste」「Zero Impact」と表現しています。CO2をゼロにするだけでなく、廃棄物もゼロへ、自然への影響もゼロへ。脱炭素の全体像は関連記事のカーボンニュートラルとは、資源循環はサーキュラーエコノミーとは、自然再興はネイチャーポジティブとはもあわせてご覧ください。環境課題を3つの軸で束ねる構えが、鹿島の枠組みの特徴です。
02
Scope3にも数値目標|サプライチェーンまで踏み込む
鹿島の脱炭素目標には、はっきりした特徴があります。
自社も、取引先も
2050年度には自社排出とサプライチェーン排出の双方でカーボンニュートラル(100%削減)をめざす。
出典:鹿島建設の公表情報をもとにgreenote作成
鹿島の目標設定で注目したいのは、Scope3の扱いです。公表情報によれば、2030年度の中間目標として、自社排出(Scope1・2)で40%削減、サプライチェーン排出(Scope3)で25%削減を掲げています。そして2050年度には、自社排出とサプライチェーン排出の双方でカーボンニュートラル(100%削減)をめざします。
なぜこれが重要なのでしょうか。建設会社の排出は、自社の施工現場よりも、資材の製造から出る分がはるかに大きいためです。鉄やセメントは、つくる段階で大量のCO2を出します。つまり、Scope3を減らさなければ、建設業の脱炭素は本質的に進みません。Scopeの分け方は、関連記事のScope3とはもあわせてご覧ください。とはいえ、Scope3は他社の排出でもあるため、目標を掲げるのは勇気の要ることです。それでも数値で約束する。ここに、鹿島の姿勢が表れています。実際、鉄の脱炭素を進める日本製鉄のような素材メーカーの努力と、建設会社の目標は、たがいに支え合う関係にあります。
03
CO2-SUICOM|CO2を吸うコンクリート
鹿島を象徴する、カーボンネガティブの技術です。
出す材料から、吸う材料へ
鹿島技術研究所が中国電力・デンカ・ランデスと共同開発。
出典:鹿島建設の公表情報をもとにgreenote作成
鹿島の技術力を象徴するのが、CO2-SUICOM(シーオーツー・スイコム)です。鹿島技術研究所が、中国電力・デンカ・ランデスと共同開発したコンクリートになります。何がすごいのか。ふつうのコンクリートは、原料のセメントをつくる工程で、大量のCO2を出します。だからこそ、建設のエンボディドカーボンの主役でもありました。
CO2-SUICOMは、この関係を逆転させます。γ-C2S(ガンマシーツーエス)という材料を使い、コンクリートが固まる過程でCO2を吸収・固定するのです。その結果、コンクリートのCO2排出量を実質ゼロ以下、すなわちカーボンネガティブにできるとされています。CO2を出していた材料が、CO2を吸う材料に変わる。これは発想の転換です。CO2を回収して固定する考え方については、関連記事の炭素除去(CDR)とはもあわせてご覧ください。建物を建てることが、CO2を地上に固定する行為になりうる。その可能性を示す技術だといえます。
04
ZEBの推進|使う時のエネルギーをゼロへ
建物が完成した後の省エネにも、明確な数値目標があります。
使う時も、ゼロへ
設計の段階から脱炭素を織り込む。建物の省エネ性能は設計でほぼ決まる。
出典:鹿島建設の公表情報をもとにgreenote作成
材料という「つくる時」の一手に加えて、鹿島は「使う時」にも手を打っています。ZEBの推進です。ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)は、高い省エネ性能と太陽光などの創エネを組み合わせ、建物が使うエネルギーを実質ゼロに近づけたものを指します。
ここでも、鹿島は数値で約束します。公表情報によれば、2025年度に受注する設計業務のうち、ZEBが占める割合を50%以上とし、さらに2030年度以降に新築する建物はZEB/ZEH水準を実現することを目標に掲げています。注目したいのは、これが「施工」ではなく「設計」の段階の目標である点です。建物の省エネ性能は、設計でほぼ決まります。図面を引く段階から脱炭素を織り込む。そうすれば、完成した建物は何十年にもわたって省エネであり続けます。上流で決める、という考え方が表れています。
05
ゼネコン3社の対比|それぞれの得意技
大手ゼネコンを並べると、力点の違いが見えてきます。
同じゼネコン、違う得意技
得意技の違いであり、優劣ではない。
出典:各社の公表情報をもとにgreenote作成
大手ゼネコン3社を並べてみましょう。共通するのは、2050年カーボンニュートラルをめざす点、そしてZEBと施工現場の省エネを進める点です。ゼネコンとして向き合う課題は、よく似ています。
一方で、力点には各社の個性が表れます。鹿島建設は、CO2を吸うCO2-SUICOMと、Scope3の数値目標を前面に出します。大成建設は環境配慮コンクリートなど「つくる時」の材料技術に、清水建設は「Beyond Zero」の思想と施工現場のCO2モニタリングに強みを示します。どれが優れているという話ではありません。同じゴールへ、それぞれの得意技で向かっているのです。とりわけ材料に踏み込む点では鹿島と大成が近く、そのなかで鹿島はカーボンネガティブという一歩踏み込んだ立ち位置にあります。複数社を並べて見ることで、業界の脱炭素が立体的に見えてきます。なお本記事は、特定の企業や投資を推奨するものではありません。
担い手と現場の安全(S)|建設業2024年問題への対応
鹿島のSの最前線は建設現場です。時間外労働の上限規制(いわゆる建設業2024年問題)に対し、週休二日の定着や現場DX(自動化施工・遠隔管理)による生産性向上で対応を進めているとされます。担い手不足が深刻化する中、技能労働者の処遇改善は業界全体の生存戦略です。
女性技術者の現場登用や外国人材の受け入れ環境整備も進み、女性活躍推進法時代のゼネコンの姿を示しつつあります。
ガバナンス(G)|リニア談合の教訓とコンプライアンス
同社のGを語るうえで、リニア中央新幹線工事をめぐる談合事件(2018年に独占禁止法違反で立件)は避けて通れません。以降、競争法コンプライアンスの徹底と入札関与ルールの厳格化を進めたとされ、業界の歴史的課題である談合体質との決別が問われ続けています。
独立社外取締役を交えた取締役会が大型プロジェクトの受注・施工リスクを監督し、問題を言い出せる組織風土づくりがコンプライアンスの実効性を左右します。
06
まとめ|鹿島建設のESG経営から学べること
鹿島の姿は、材料から設計まで上流に踏み込むことの意味を教えてくれます。最後に、要点を振り返りましょう。
鹿島に学ぶ、3つのこと
出典:鹿島建設の公表情報・公開報道をもとにgreenote作成
鹿島建設のESG経営を振り返ると、いくつもの学びが見えてきます。
- スーパーゼネコンの一角。鹿島環境ビジョン2050plus=脱炭素・資源循環・自然再興の3つのゼロ
- 2030年度の中間目標=自社(Scope1・2)40%削減、サプライチェーン(Scope3)25%削減
- 2050年度には自社とサプライチェーンの双方でカーボンニュートラル
- CO2-SUICOM=γ-C2Sを使いCO2を吸収・固定し、コンクリートをカーボンネガティブに
- ZEB=2025年度の設計受注でZEB比率50%以上、2030年度以降の新築はZEB/ZEH水準
鹿島から学べるのは、上流に踏み込むほど、脱炭素の効果は大きくなるということです。材料の段階でCO2を吸えるようにし、設計の段階で省エネを織り込み、取引先まで含めた排出に数値で約束する。どれも、自社の現場だけを見ていては届かない領域です。もっとも、CO2-SUICOMのような技術が広く普及するには、コストや適用範囲の課題も残ります。Scope3の達成も、素材メーカーなど取引先の進み方に左右されます。自社の努力と、社会側の条件。その両方を見すえることが、企業のESGを深く理解する助けになるでしょう。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。
FAQ
よくある質問(FAQ)
Q. 鹿島建設とはどんな会社ですか?
鹿島建設は、日本を代表する大手ゼネコン(総合建設会社)のひとつで、いわゆるスーパーゼネコンの一角です。ビルや土木構造物、インフラの設計から施工までを手がけます。建物はつくる時にも使う時にもCO2を伴うため、建設会社のESG経営は社会全体の脱炭素に大きく関わります。鹿島は技術研究所を持ち、独自の環境技術の開発にも力を入れています。
Q. 鹿島環境ビジョン2050plusとは何ですか?
鹿島の長期の環境方針です。2013年に「鹿島環境ビジョン:トリプルZero2050」として策定され、2024年に「鹿島環境ビジョン2050plus」へ改定されました。持続可能な社会を「脱炭素」「資源循環」「自然再興」の3つの視点でとらえ、2050年に達成すべき姿を「Zero Carbon」「Zero Waste」「Zero Impact」と表現しています。CO2だけでなく、廃棄物と自然への影響もゼロをめざす枠組みです。
Q. 鹿島のCO2削減目標はどうなっていますか?
公表情報によれば、2030年度の中間目標として、自社排出(Scope1・2)で40%削減、サプライチェーン排出(Scope3)で25%削減を掲げています。そして2050年度には、自社排出とサプライチェーン排出の両方でカーボンニュートラル(100%削減)をめざします。Scope3にも明確な数値目標を置いている点が特徴です。
Q. CO2-SUICOMとは何ですか?
CO2-SUICOM(シーオーツー・スイコム)は、鹿島技術研究所が中国電力・デンカ・ランデスと共同開発したコンクリートです。γ-C2S(ガンマシーツーエス)という材料を使い、製造時にCO2を吸収・固定させます。これにより、コンクリートのCO2排出量を実質ゼロ以下、つまりカーボンネガティブにできるとされています。CO2を出す材料の代表だったコンクリートを、CO2を吸う材料に変える発想です。
Q. 鹿島のZEBの目標はどうなっていますか?
ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)は、省エネと創エネで建物が使うエネルギーを実質ゼロに近づけたものです。公表情報によれば、鹿島は2025年度に受注する設計業務のうちZEBが占める割合を50%以上とし、2030年度以降に新築する建物はZEB/ZEH水準を実現することを目標としています。設計の段階から脱炭素を織り込む姿勢が示されています。
Q. 鹿島と大成建設・清水建設は何が違いますか?
3社とも2050年カーボンニュートラルをめざし、ZEBや施工の省エネを進める点は共通します。力点には違いがあります。鹿島はCO2を吸収するCO2-SUICOMとScope3の数値目標、大成建設は環境配慮コンクリートなど材料技術、清水建設は「Beyond Zero」の思想と施工現場のCO2モニタリングを前面に出します。どちらが優れているという話ではなく、得意技の違いとして見るのが適切です。なお本記事は特定の投資を推奨するものではありません。
Sources
出典・参考(一次情報)
- 鹿島建設「鹿島環境ビジョン2050plus」
- 鹿島建設「脱炭素(サステナビリティ)」
- 鹿島建設「カーボンニュートラル技術/CO2-SUICOM(鹿島技術研究所)」
※ 本記事は上記の一次情報および公開報道をもとにgreenote編集部が整理しています。企業評価や投資判断を目的とするものではありません。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年7月12日