エンボディドカーボンとは|建物の「内包炭素」とライフサイクルカーボン・削減策をわかりやすく解説

2026.07.01
気候変動

建物の脱炭素といえば、これまでは「省エネ」——つまり使うときのCO2を減らすことが中心でした。けれど、いま新たに注目されているのが、建物を「つくる・壊す」ときに出るCO2です。これを、エンボディドカーボン(内包炭素)といいます。建設業界からのCO2排出は世界の大きな割合を占めるとされ、省エネが進むほど、この「隠れた炭素」の重要性が増している。本記事では、その全体像と削減策を、国土交通省などの一次情報をもとに、わかりやすく解説します。

サプライチェーン全体の排出はScope3とは、脱炭素の全体像はカーボンニュートラルとはもあわせてご覧ください。

この記事の目次

エンボディドカーボンとは

まず、エンボディドカーボンをひとことで整理します。「建物を使うときではなく、つくる・壊すときに出るCO2」という発想から入りましょう。

エンボディドカーボンをひとことで言うと

エンボディドカーボンとは、建築物において、建材の製造・輸送・建設・修繕・解体・廃棄といった、運用(使用)以外の段階で排出されるCO2などの温室効果ガスを指します。日本語では「内包炭素」とも呼ぶ。建物そのものに、いわば「隠れて埋め込まれたCO2」——。それが、エンボディドカーボンのイメージです。

ポイントは、これが建物を使う前と後に集中することです。コンクリートや鉄を製造し、現場で組み立て、いつか解体する。その一連の過程で、大量のCO2が出る。私たちが建物を使っている最中の電気やガスとは別に、「つくる」「壊す」段階のCO2を捉えたのが、この概念なのです。

なぜ今、注目されているのか

エンボディドカーボンが注目される背景には、建設業界の排出規模があります。建材の代表であるセメントや鉄鋼は、製造時に多くのCO2を出す。建設・建物分野からのCO2排出は、世界のCO2排出量の相当な割合を占めるとされ、その削減なしに脱炭素は達成できません。

加えて、後で詳しく述べるように、建物の省エネ化が進むほど、相対的にエンボディドカーボンの比率が高まるという事情もあります。これまで光が当たってこなかった「つくる・壊す」段階のCO2に、ようやく目が向けられるようになった。建物の脱炭素を、一生(ライフサイクル)全体で捉え直す——。その流れのなかで、エンボディドカーボンは重要なテーマになっているのです。

建物のライフサイクルカーボンの全体像

エンボディドカーボンを理解するには、建物の一生で出るCO2を、2つに分けて捉えるのが近道です。

建物の一生で出るCO2は、2つに分かれる

ライフサイクルカーボン(ホールライフカーボン)=建物の一生全体のCO2

エンボディドカーボン

建材の製造・輸送・建設・修繕・解体・廃棄など、運用以外で出るCO2。

アップフロントカーボン=使用が始まる前の製造・施工段階で出るCO2

オペレーショナルカーボン

使用時の冷暖房・照明・給湯などエネルギー消費で出るCO2。

両方を合わせたのがライフサイクルカーボン。運用以外がエンボディドカーボン

出典:国土交通省・環境省・WorldGBCの公開情報をもとにgreenote作成

オペレーショナルカーボンとエンボディドカーボン

建物の一生で出るCO2の総量を、ライフサイクルカーボン(ホールライフカーボン)と呼びます。これを、大きく2つに分けて捉える。1つが、オペレーショナルカーボン。建物を使っているときに、冷暖房や照明、給湯などのエネルギー消費で出るCO2です。

もう1つが、エンボディドカーボン。オペレーショナル以外の、つくる・直す・壊す段階で出るCO2です。「使うときのCO2(オペレーショナル)」と「それ以外のCO2(エンボディド)」——。この2つを足したものが、建物の一生分のCO2になる。エンボディドカーボンは、これまで見落とされがちだったもう半分を照らす概念なのです。

使用前に出る「アップフロントカーボン」

エンボディドカーボンのなかでも、とくに重要なのが、アップフロントカーボンです。これは、建物の使用が始まる前、つまり建材の製造・輸送・施工の段階で出るCO2を指します。建物が完成して使われ始める「前」に、すでに大量のCO2が排出されている、ということです。

なぜ、ここを区別するのか。アップフロントカーボンは、新築の時点で、いわば一括して出てしまうからです。使用中に少しずつ出る運用排出と違い、つくった瞬間に確定する。だからこそ、設計・材料を決める早い段階での対策が決定的に効く。この「先に出るCO2」をどう抑えるかが、エンボディドカーボン削減の最前線になっています。

なぜ重要か――省エネが進むほど効いてくる

これまで建物の脱炭素といえば、運用時の省エネが中心でした。なぜ今、エンボディドカーボンが前面に出てきたのでしょうか。

省エネが進むほど、内包炭素が際立つ

省エネ前の建物

オペレーショナル(運用)大
エンボディド

省エネが進んだ建物

運用 減
エンボディドが相対的に目立つ
オペレーショナルカーボンエンボディドカーボン

運用時のCO2が減るほど、つくるときのCO2(エンボディド)の比率が高まる。アップフロントは新築時に出て取り返しにくい。

出典:国土交通省・WorldGBCの公開情報をもとにgreenote作成

運用排出が減るほど、相対的に比率が高まる

エンボディドカーボンが重要になった最大の理由は、省エネの進展です。断熱性能の向上や、高効率の設備、再エネの導入などで、建物を使っているときのCO2(オペレーショナル)は大きく減ってきました。これは喜ばしいことですが、ひとつの「気づき」をもたらしました。

運用時のCO2が減れば減るほど、建物の一生のCO2に占める「つくるときのCO2(エンボディド)」の割合が、相対的に高まるのです。かつては運用排出の陰に隠れていたエンボディドカーボンが、省エネが進んだ建物では、無視できない大きさとして浮かび上がる。「使うときを減らしたなら、次はつくるときだ」——。脱炭素のフロンティアが、運用からエンボディドへと移ってきたのです。

アップフロントは「取り返せない」排出

もう1つ、エンボディドカーボン、とくにアップフロントカーボンを重視すべき理由があります。それは、「取り返しがつきにくい」ことです。運用時のCO2は、後から省エネや再エネで減らす余地があります。けれど、製造・施工ですでに出てしまったCO2は、もう減らせません。

しかも、これから2050年のカーボンニュートラルに向かう過程では、新築・改修が続きます。いま建てる建物のアップフロントカーボンは、今この瞬間に排出が確定してしまう。だからこそ、「建ててから考える」のでは遅く、設計と材料を決める段階で抑え込むことが決定的に重要なのです。早く動くほど効果が大きい——。この時間軸の特性が、エンボディドカーボンの対策を急がせています。

どう減らすか――材料と設計

エンボディドカーボンは、材料の選び方と設計の工夫で減らせます。主な打ち手を見ていきます。

材料と設計で、つくるCO2を減らす

材料の工夫

  • 木材・木質材料(CLTなど)を使う
  • 製造時のCO2を抑えた低炭素コンクリート
  • リサイクル鋼材などを活用する

設計の工夫

  • 使う材料の量そのものを減らす最適化
  • 長く使い、解体せず改修して既存を活かす
  • 再利用しやすい設計にする

まずライフサイクルアセスメント(LCA)で排出量を測り、効果の大きい打ち手から減らす。

出典:国土交通省・環境省の公開情報をもとにgreenote作成

木材・低炭素コンクリートなどの材料

エンボディドカーボン削減の、まず大きな鍵が材料です。なかでも注目されるのが、木材。木は成長の過程でCO2を吸収して固定するため、鉄やコンクリートに比べて製造時のCO2が小さいとされます。CLT(直交集成板)などの木質材料を使った中高層の木造建築も、各地で広がっています。

また、製造時のCO2を抑えた低炭素コンクリートや、リサイクルされた鋼材の活用も進んでいます。鉄鋼業では、水素を使う製鉄などグリーンスチールの取り組みも始まっており、低炭素な建材の選択肢は広がりつつある。何でつくるかを見直すことが、エンボディドカーボン削減の出発点になります。

設計の最適化と、長く使う・既存を活かす

材料と並ぶもう1つの鍵が、設計です。基本は、使う材料の量そのものを減らすこと。構造を最適化し、過剰な材料を使わなければ、その分のエンボディドカーボンを丸ごと避けられる。「つくらない」のが、最も確実な削減でもあるのです。

さらに効果が大きいのが、建物を長く使い、既存を活かすことです。新築は、それ自体が大量のアップフロントカーボンを生みます。だから、解体して建て替えるより、改修して使い続けるほうが、CO2を抑えられる場合が多い。長寿命化や、将来の再利用を見すえた設計も有効です。これは、資源を循環させるサーキュラーエコノミーの発想とも重なります。

測り方と動向――LCAと規制

エンボディドカーボンを減らすには、まず測ることが欠かせません。測り方と、国内外の動向を整理します。

測って、減らす。世界は規制へ

測り方

ライフサイクルアセスメント(LCA)で、原材料の調達から製造・建設・使用・解体までの全段階のCO2を評価する。建材ごとの環境情報を示すEPD(環境製品宣言)も活用する。

欧州

すでにエンボディドカーボン削減の規制やインセンティブの導入が進む。

エンボディドカーボンは、企業のサプライチェーン排出を捉えるScope3とも関わりが深い。

出典:国土交通省・環境省・WorldGBCの公開情報をもとにgreenote作成

ライフサイクルアセスメント(LCA)で測る

エンボディドカーボンを減らすには、まず「測る」ことが出発点です。そのための手法が、ライフサイクルアセスメント(LCA)。これは、建材や建物について、原材料の調達から、製造・建設・使用・解体までの全段階の環境負荷を評価する手法です。どの段階で、どれだけのCO2が出るのかを「見える化」する。

その際に役立つのが、EPD(環境製品宣言)です。これは、建材ごとに、製造時のCO2などの環境情報を第三者の検証つきで示した宣言。設計者は、EPDを比べることで、よりCO2の少ない建材を選べます。測れないものは減らせない——。LCAとEPDは、エンボディドカーボン対策の土台となる「ものさし」なのです。

欧州の規制と日本の現状・Scope3との関係

動向を見ると、欧州が先行しています。すでに、建物のエンボディドカーボンの算定や上限を求める規制やインセンティブの導入が進んでいます。一方、日本では、現時点で法的な規制には至っておらず、国土交通省などが建築物分野の脱炭素の取り組みを進めている段階です。とはいえ、世界の流れを踏まえれば、日本でも今後、対応が求められていく可能性があります。

企業にとって見逃せないのが、Scope3との関係です。Scope3は、自社のサプライチェーン全体の排出量を捉える考え方。建物を建てる企業にとって、建材のエンボディドカーボンは、購入した製品・サービスや資本財の排出として、Scope3に深く関わります。脱炭素経営を進める企業にとって、エンボディドカーボンは避けて通れない論点になりつつあるのです。

課題――測定の標準化とコスト

重要性が高まる一方で、エンボディドカーボンの取り組みには課題も残ります。中立に整理します。

広げるうえでの、難しさ

データと測定の標準化

建材ごとのCO2データが十分にそろっていない。算定の方法や範囲が統一されていないと、比較や検証が難しい。

コストと普及の壁

低炭素な建材や算定の手間が、コスト増につながる場合がある。発注者・設計者・施工者が連携し、評価を求める動きを広げる必要がある。

測定の標準化と、関係者が一体で取り組む仕組みづくりが、普及の鍵になる。

出典:国土交通省・環境省の公開情報をもとにgreenote作成

データと測定の標準化

エンボディドカーボンの第一の課題が、データと測定の標準化です。削減には、まず正確に測る必要がありますが、そのためには建材ごとのCO2データが十分にそろっていなければなりません。EPDの整備は進みつつあるものの、すべての建材を網羅するには、まだ時間がかかります。

さらに、算定の方法や範囲が統一されていないと、建物どうしや製品どうしを公平に比較できません。「どこからどこまでを、どう数えるか」がばらばらでは、削減努力も正しく評価されない。LCAの手法や、対象とする範囲をそろえていく標準化が、エンボディドカーボン対策を実のあるものにするための前提になります。

コストと、普及への壁

もう1つの課題が、コストと普及です。低炭素な建材は、従来品より高価な場合があります。また、LCAによる算定にも、手間や費用がかかる。こうしたコストが、とくに価格競争の厳しい建設の現場で、エンボディドカーボン対策を後回しにさせる一因になりえます。

普及には、発注者・設計者・施工者・建材メーカーが連携することが欠かせません。建物を発注する側が「エンボディドカーボンの少なさ」を評価し、求めるようになれば、現場も動きます。規制や補助、認証制度といった後押しも重要です。つくる側だけでなく、発注する側も含めて、業界全体で取り組む——。それが、エンボディドカーボン削減を広げる鍵になります。

エンボディドカーボンをどう捉えるか

エンボディドカーボンは、建材の製造・建設・解体など、建物の運用以外で出るCO2です。使用時のオペレーショナルカーボンと合わせて、建物の一生分のライフサイクルカーボンを構成します。とくに、使用前に出るアップフロントカーボンは取り返しがつきにくく、省エネが進むほど相対的な比率も高まる。木材や低炭素コンクリートといった材料、材料を減らす設計や長寿命化・改修によって、削減を図ります。

大切なのは、建物の脱炭素を「使うときの省エネ」だけで捉えず、「つくって、使って、壊すまでの一生全体で、CO2を見る」視点を持つことでしょう。測定の標準化やコストといった課題はありますが、LCAで測り、材料と設計で減らし、業界全体で取り組む流れは着実に広がっています。Scope3やサーキュラーエコノミーとあわせて捉えると、建物の脱炭素の全体像が見えてきます。脱炭素の全体像はカーボンニュートラルとは、ESGの全体像はESG完全ガイドもご覧ください。

使うときだけでなく、つくるときから。エンボディドカーボンは、建物の脱炭素を「一生分」で問い直す、これからの重要な視点なのです。なお本記事は制度や考え方を中立に整理したものであり、最新の内容は国土交通省などの公表資料でご確認ください。

よくある質問(FAQ)

Q. エンボディドカーボンとは何ですか?

A. 建築物において、建材の製造・輸送・建設・修繕・解体・廃棄など、建物の『運用(使用)以外』の段階で排出されるCO2などの温室効果ガスのことです。『内包炭素』とも呼ばれます。建物の使用時に冷暖房や照明などで出るCO2(オペレーショナルカーボン)と対になる概念で、両方を合わせたものが建物のライフサイクルカーボン(ホールライフカーボン)です。

Q. なぜエンボディドカーボンが注目されているのですか?

A. 建物の省エネ化が進み、運用時のCO2(オペレーショナルカーボン)が減ってくると、相対的に、つくるときに出るエンボディドカーボンの比率が高まるからです。とくに、建設前の製造・施工で出る『アップフロントカーボン』は、新築の時点で一気に排出され、後から取り返すのが難しい。だからこそ、設計・材料の段階での早期の削減が重要だと考えられています。

Q. エンボディドカーボンはどうやって減らせますか?

A. 主に材料と設計の工夫です。材料では、木材(木造・CLT)や、製造時のCO2を抑えた低炭素コンクリート、リサイクル材などの活用が挙げられます。設計では、使う材料の量そのものを減らす最適化や、建物を長く使う・解体せずに改修して既存を活かすといった工夫が有効です。まずライフサイクルアセスメント(LCA)で排出量を測り、削減につなげることが基本になります。

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出典・参考(一次情報)

最終更新日:2026年7月1日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

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