ESG Company Analysis
手ごろな価格で、暮らしを彩る家具。世界中で愛されるイケア(IKEA)は、しかし「安さ」だけの会社ではありません。カーボンニュートラルの、さらに先。排出する以上にCO2を減らす「クライメートポジティブ」を、2030年に掲げているのです。膨大な数の製品を届ける会社だからこそ、その責任は重くなります。本記事では、イケアのESG経営を、People & Planet Positive戦略と2030年の目標を軸に、公式情報をもとに中立に分析します。
この記事の目次
01
イケアのESG経営とは|暮らしから地球を考える
まず、イケアがどんな企業で、そのESG経営が何を掲げているのかを整理しましょう。
人にも、地球にも、プラスを
2018年に打ち出した、サステナビリティ戦略。
出典:IKEAの公表情報をもとにgreenote作成
ホームファニッシングの世界的企業
イケアは、スウェーデン発祥の、世界的なホームファニッシング企業です。組み立て式の家具や、手ごろな価格の生活雑貨を、世界中の店舗やオンラインで販売している。青と黄色の大きな店舗を、思い浮かべる人も多いはずです。
その事業の規模は、とてつもないものです。だからこそ、影響も大きくなります。膨大な数の製品を届けるということは、それだけ多くの木材や綿を使い、多くのCO2を排出することを意味するからです。この「規模の大きさ」こそが、イケアがサステナビリティに本気で向き合う理由になる。
People & Planet Positiveという戦略
イケアのESG経営の土台にあるのが、People & Planet Positive(ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ)という戦略です。2018年に打ち出されました。「人と地球にとってプラスになる」。そんな思いを込めた名前になります。
この戦略には、大きく3つの柱があります。第一に、健康で持続可能な暮らしをうながすこと。第二に、循環型で気候にポジティブな事業になること。第三に、公正で平等な社会をつくることです。環境だけでなく、人や社会も含めて、事業を通じて良い影響を広げる。この幅広さが、イケアの特徴を表している。ESGの全体像は、関連記事のネットゼロとはもあわせてご覧ください。
02
クライメートポジティブ2030|出す以上に減らす
イケアの気候目標の核心にある「クライメートポジティブ」という考え方を見ていきます。
ゼロの、さらに先へ
事業を成長させながら、2030年の達成をめざす。
出典:IKEAの公表情報をもとにgreenote作成
イケアの気候目標は、ひときわ高いところにあります。掲げているのは、「クライメートポジティブ」です。これは、事業のバリューチェーンが排出する量よりも、多くの温室効果ガスを削減する状態をめざす考え方になります。よく聞くカーボンニュートラルが「差し引きゼロ」だとすれば、クライメートポジティブは、その一歩先を行くものです。
では、どうやって実現するのでしょうか。イケアは、製品や事業の排出を絶対量で大幅に減らすことを土台に据えています。そのうえで、バリューチェーンの中でCO2を蓄える(貯留する)ことなども組み合わせて、「出す以上に減らす」をめざします。しかも、これを事業を成長させながら達成すると掲げている点が、際立った野心です。ただし、クライメートポジティブは、まず排出そのものを大きく減らすことが前提になります。この順序を、押さえておきたいところです。
03
気候目標|バリューチェーン全体で50%削減、再エネ100%
クライメートポジティブへ向けた、具体的な数値目標を確認しましょう。
数字で見る、2030年
出典:IKEAの公表情報をもとにgreenote作成
クライメートポジティブという大きな旗は、具体的な数字に裏づけられています。公表情報によれば、イケアはバリューチェーン全体(Scope1・2・3)の温室効果ガス排出を、FY16(2016年度)比で、2030年度までに少なくとも50%削減する目標を掲げています。さらに2050年度までには、少なくとも90%の削減をめざします。
この50%という数字は、製品1つあたりで見ると、平均70%の削減にあたるとされます。事業が成長して製品数が増えても、1つあたりの負荷を大きく下げることで、全体の絶対量を減らそうという考え方です。あわせて、2030年までにバリューチェーン全体で再生可能エネルギー100%をめざしています。自社グループは、太陽光や風力発電にも大規模に投資してきました。サプライチェーン排出の考え方は、関連記事のScope3とはもあわせてご覧ください。
04
循環型ビジネス|資源を捨てない仕組みへ
つくって売るだけでなく、資源を循環させる取り組みも進めています。
つくって、使い続ける
出典:IKEAの公表情報をもとにgreenote作成
イケアは、「つくって売って終わり」からの脱却もめざしています。掲げるのは、2030年までに循環型のビジネスになるという目標です。その中心にあるのが、循環型の設計という考え方になります。すべての製品を、再生可能な素材やリサイクル素材だけでつくることを目標に、設計の段階から見直しを進めている。
具体的な仕組みも動いています。使わなくなった家具を買い取り、再び販売するBuy Back & Resellという取り組みや、壊れた部分を直すための交換部品の提供、そしてリサイクルなどです。製品や資源を、できるだけ長く使い続けられるようにする。安く大量に売る企業というイメージとは異なる、資源を大切にする姿勢が見えてきます。循環経済の考え方は、関連記事のサーキュラーエコノミーとはもあわせてご覧ください。
05
木材・綿の責任ある調達|大量に使うからこそ
原材料を大量に使う企業だからこそ、その調達の責任が問われます。
使うからこそ、責任を持つ
大量に使う原材料だからこそ、調達の責任が問われる。
出典:IKEAの公表情報をもとにgreenote作成
イケアを語るうえで、原材料の話は避けて通れません。とりわけ重要なのが、家具の主原料である木材です。世界中で膨大な量の木材を使う企業だからこそ、その調達が森林破壊につながらないかが、厳しく問われます。イケアは、FSC認証を受けた責任ある森林の木材や、リサイクル木材を使うことを重視してきました。
もうひとつの主要な原材料が、綿です。こちらも、より持続可能な方法で育てられた綿を使う取り組みを進めている。大量に使う原材料だからこそ、その調達の責任は重い。裏を返せば、影響が大きいぶん、責任ある調達へ切り替えたときのインパクトも大きくなります。原材料の調達については、関連記事の責任ある調達とはもあわせてご覧ください。なお本記事は、特定の企業や投資を推奨するものではありません。
06
まとめ|イケアのESG経営から学べること
イケアの歩みは、大量に売る企業が、いかに地球への責任を果たそうとするかを見せてくれます。最後に、要点を振り返りましょう。
イケアに学ぶ、3つのこと
出典:IKEAの公表情報をもとにgreenote作成
イケアのESG経営を振り返ると、いくつもの学びが見えてきます。
- スウェーデン発のホームファニッシング企業。規模の大きさゆえ、地球への影響も大きい
- 2018年のPeople & Planet Positive戦略が土台。人・地球・社会の3本柱
- 気候では2030年クライメートポジティブ。バリューチェーン全体をFY16比で2030年度に50%以上削減、再エネ100%
- 循環型ビジネスへ。再生・リサイクル素材での設計、買い取り再販(Buy Back)、修理・リサイクル
- 主原料の木材(FSC認証など)や綿の責任ある調達を重視。大量に使うからこそ責任が重い
イケアから学べるのは、大量に売る企業ほど、地球への責任も大きいという当たり前の事実です。だからこそイケアは、クライメートポジティブという高い目標を掲げ、資源を循環させ、調達に責任を持とうとしています。安さと持続可能性は、対立するものと思われがちです。しかしイケアは、その両立に挑んでいます。事業の規模を、環境への負荷ではなく、良い変化を広げる力に変えられるか。その挑戦は、多くの企業にとってのヒントになる。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。
FAQ
よくある質問(FAQ)
Q. イケア(IKEA)とはどんな企業ですか?
イケア(IKEA)は、スウェーデン発祥の、世界的なホームファニッシング(家具・生活雑貨)の企業です。組み立て式の家具や、手ごろな価格の生活用品を、世界中の店舗やオンラインで販売しています。多くの人の暮らしに、大量の製品を届けるため、原材料の調達から製造、使用、廃棄まで、その環境・社会への影響は大きく、早くからサステナビリティに取り組んできたことで知られます。
Q. People & Planet Positiveとは何ですか?
People & Planet Positive(ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ)は、イケアのサステナビリティ戦略の名前です。2018年に打ち出されました。「人と地球にとってプラスになる」という意味で、大きく3つの柱があります。1つ目は、健康で持続可能な暮らしをうながすこと。2つ目は、循環型で気候にポジティブな事業になること。3つ目は、公正で平等な社会をつくることです。事業を通じて、人にも地球にも良い影響を広げることをめざしています。
Q. クライメートポジティブとは何ですか?
クライメートポジティブとは、事業のバリューチェーンが排出する量よりも、多くの温室効果ガスを削減する状態をめざす考え方です。カーボンニュートラル(差し引きゼロ)の、さらに先を行くものです。イケアは2030年までにこれをめざしており、製品や事業の排出を絶対量で大幅に減らしつつ、バリューチェーンの中でCO2を蓄えることなどで実現しようとしています。事業を成長させながら達成することを掲げている点が特徴です。
Q. イケアの気候目標は具体的にどうなっていますか?
イケアは、バリューチェーン全体(Scope1・2・3)の温室効果ガス排出を、2030年度までにFY16(2016年度)比で少なくとも50%削減し、2050年度までに少なくとも90%削減することを掲げています。これは製品1つあたりでは平均70%の削減にあたります。あわせて、2030年までにバリューチェーン全体で再生可能エネルギー100%をめざし、自社グループは太陽光・風力発電にも大規模に投資してきました。
Q. イケアの循環型ビジネスとは何ですか?
イケアは、2030年までに循環型のビジネスになることをめざしています。具体的には、すべての製品を、再生可能な素材やリサイクル素材だけでつくることを目標にした「循環型の設計」を進めています。また、使わなくなった家具を買い取って再販する仕組み(Buy Back & Resell)や、修理のための交換部品の提供、リサイクルなどを通じて、製品や資源をできるだけ長く使い続けられるようにしています。
Q. イケアのESG経営から学べることは何ですか?
大きく2つあります。1つ目は、カーボンニュートラルの先にある「クライメートポジティブ」という高い目標を、事業成長と両立させようとする野心です。2つ目は、木材や綿など大量に使う原材料について、責任ある調達(FSC認証や持続可能な綿など)を重視している点です。膨大な資源を使う企業だからこそ、調達と循環の両面で責任を果たそうとする姿勢が、多くの企業の参考になります。
Sources
出典・参考(一次情報)
- IKEA「Sustainability(サステナビリティ)」
- IKEA「Our climate agenda(気候アジェンダ)」
- IKEA「People & Planet Positive strategy(サステナビリティ戦略)」
※ 本記事は上記の一次情報および公開報道をもとにgreenote編集部が整理しています。企業評価や投資判断を目的とするものではありません。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年7月18日