「この製品はバイオマス由来です」「再生原料を使っています」——そう言えるかどうかを決めるのが、原料の持続可能性を証明する認証です。化学品や包装材の分野で、その中心にあるのがISCC PLUSです。
日本の担当者にとって、この認証が急に現実味を帯びた理由があります。グリーン購入法の基本方針が2026年2月3日に改定され、文具等130品目で「マスバランス方式によりバイオマス由来特性を割り当てたプラスチック」が判断の基準に設定されたのです。公共調達がマスバランスを求め始めた、ということです。そしてマスバランスを名乗るには、それを裏づける仕組みが要ります。
この記事では、ISCC PLUSが何を証明する認証なのか、3つある管理方式の違い、サプライチェーンのどこまで認証が必要か、取得プロセスと「40日ルール」までを、ISCC公式の情報にもとづいて整理します。
※本記事は2026年9月時点の公表情報にもとづく解説です。認証の要件・手数料・スキームは改定されるため、最新の内容はISCC公式サイトおよび認証機関にご確認ください。
この記事の目次
ISCC PLUSとは|代替原料の持続可能性を証明する任意認証
何を証明する認証なのか
ISCC PLUSは、ISCC(International Sustainability and Carbon Certification)が運営する任意の認証スキームです。公式の説明では、代替原料(alternative feedstocks)の持続可能性の特性を検証するために設計された制度とされています。バイオマス由来の原料や、リサイクル由来の原料がその中心です。
ポイントは、法規制の遵守を超えた「上乗せの取り組み」を検証するという位置づけです。法律で義務づけられていることを守っているかではなく、企業が自主的に踏み込んだ部分を第三者が確かめる。だからこそ、対外的な訴求材料になります。
もうひとつの核心が、トレーサビリティです。ISCC PLUSは、代替原料がサプライチェーンを流れていく過程を追跡できるようにするために、後述する3つの管理方式(chain of custody options)を用意しています。「バイオマス由来です」という主張が、どの原料がどれだけ入ったかという記録に裏づけられている状態をつくる仕組みです。
ISCC EU・CORSIAとの違い
混乱しやすいのが、ISCCには複数のスキームがあることです。用途と根拠法が違うので、最初にどれが自社に当たるのかを確かめる必要があります。
| スキーム | 位置づけ |
|---|---|
| ISCC PLUS | 代替原料(バイオマス・リサイクル)の持続可能性を検証する任意のスキーム。化学品・プラスチック・包装・繊維・食品などが対象 |
| ISCC EU | EUの再生可能エネルギー指令(RED)などEU法令への適合を目的とするスキーム |
| ISCC CORSIA | 国際航空分野の排出削減制度CORSIA向け |
| ISCC Carbon Footprint Certification | カーボンフットプリントの認証に特化 |
| ISCC Japan FIT | 日本のFIT制度向けに用意されたスキーム |
| ISCC Canada CFR | カナダのClean Fuel Regulations向け |
出典:ISCC公式サイトの認証スキーム一覧より作成。
日本向けにISCC Japan FITが用意されている点は、あまり知られていません。バイオマス発電の燃料の持続可能性確認に関わる領域で、バイオマス発電の制度と接します。自社の目的が「製品のバイオマス/リサイクル由来を訴求したい」ならISCC PLUS、「EU法令に適合させたい」ならISCC EU、という切り分けになります。
なぜ日本で必要になってきたのか
これまでISCC PLUSは、EU向けに輸出する化学メーカーや、グローバルブランドから要請を受けた企業が取るもの、という受け止め方が強かったはずです。状況が変わりました。
2026年2月3日に変更が閣議決定されたグリーン購入法の基本方針で、文具等130品目について「マスバランス方式によりバイオマス由来特性を割り当てたプラスチック」が判断の基準に設定されたのです。同じ改定では、カーボンフットプリントの算定・開示が24品目で判断の基準または配慮事項になり、クリアーホルダー等5品目で認定プラスチック使用製品の取扱いも基準に入りました。
つまり日本の公共調達が、原料の由来をどう証明するかを問い始めたということです。国等の機関に納入する企業にとって、マスバランスは「先進的な取り組み」から「入札の要件」に近づきつつあります。ここでISCC PLUSが、証明手段の代表格として浮上してきました。
3つの管理方式|物理的分離・コントロールブレンド・マスバランス
3方式の違い
ISCC PLUSは、代替原料を追跡するための管理方式(chain of custody)として3つの選択肢を提供しています。ここを理解しないまま「マスバランス認証を取る」と言ってしまうと、話が噛み合いません。マスバランスは3つのうちの1つです。
| 管理方式 | 仕組み | 向いているケース |
|---|---|---|
| 物理的分離 physical segregation |
認証原料と非認証原料を物理的に混ぜない。製品に入っているのは認証原料そのもの | 専用ラインやタンクを確保できる場合。主張がもっとも強い |
| コントロールブレンド controlled blending |
認証原料と非認証原料を管理された比率で混合し、その比率を製品の含有率として扱う | 混合は避けられないが、実際の配合率で語りたい場合 |
| マスバランス mass balance |
投入した認証原料の量を帳簿上で管理し、その量に応じて製品の一部に特性を割り当てる | 既存設備で石油由来原料と混ざることが前提の化学プロセス |
出典:ISCC公式「ISCC PLUS certification」の chain of custody options より作成。
マスバランスが選ばれる理由と、その限界
化学品の世界でマスバランスが広く使われるのは、製造プロセスの都合です。ナフサクラッカーのような設備では、投入した原料が分子レベルで混ざり合います。バイオマス由来のナフサを一部入れたとしても、出てくる製品のどの分子が由来かを物理的に分けることはできません。
そこで「入りと出の量を合わせる」という考え方を採ります。認証原料を10トン投入したなら、製品のうち10トン分に「認証原料100%」という特性を割り当てて販売する。物理的には混ざっていても、環境価値としては特定の製品に集約できる、という整理です。
この方式の強みは、専用設備を新設せずに始められることです。裏返せば、限界もはっきりしています。手にした製品の分子がバイオマス由来である保証はないのです。だからこそ、帳簿の正確さと第三者による検証が制度の生命線になります。訴求の際も「マスバランス方式による」という前提を省くと、グリーンウォッシュの指摘を受けかねません。
なお、マスバランスで割り当てられる環境価値と、製品のCO2排出量そのものは別の話です。排出量の算定はカーボンフットプリント(CFP)やLCAの枠組みで行います。どちらもグリーン購入法の2026年2月改定で基準に入っているため、両方の整備が必要になる品目もあります。
どこまで認証が必要か|サプライチェーンの7段階
実務でいちばん誤解が多いのがここです。ISCC公式は明確に述べています。サプライチェーンのすべての要素が認証されていなければならない、つまり代替原料を取り扱う各サイトが有効なISCC PLUS証明書を保有している必要がある、と。証明書はサイト単位で発行されます。
自社だけ認証を取っても、上流や下流が未認証なら鎖は切れます。公式が示す標準的な流れは次の7段階です。
Point of Origin(原産地)
農業系は農場・プランテーション・森林の調達地域から。廃棄物・残渣系は発生点から始まります。廃食用油を出すレストランが起点になる、という例が公式に挙げられています。
First Gathering Point/Collecting Point/Central Office
原料を集荷・集約し、記録します。農林バイオマスはFirst Gathering Point、廃棄物・残渣はCollecting Point、供給者グループの管理はCentral Officeが担います。
Processing Unit(処理施設)
工業的な処理工程で中間製品に変換します。この段階以降、農業由来と廃棄物由来は同じ下流構造をたどります。
Trader(貯蔵を伴う商社)
認証材料を売買します。貯蔵設備を運営する場合は保管も行えますが、トレーサビリティと管理方式の要件を満たすことが条件です。
Processing Unit(追加の処理)
精製や化学的転換によって、中間材料をより高付加価値な中間体や基礎材料に変えます。
Final Product Refinement(最終製品化)
認証材料が完成品や消費者向け製品に組み込まれます。包装材、繊維、プラスチックなどが該当します。
Market/Brand Owner(市場・ブランドオーナー)
認証材料を含む製品が、メーカー・ブランド・小売によって市場に出されます。ISCCのロゴやクレームを使って、検証済みであることを訴求できます。
この構造から分かるのは、ISCC PLUSは自社単独では完結しないということです。取得を検討する段階で、原料の供給元が認証を持っているか、下流の顧客が認証材料として受け取れる体制にあるかを確認しておかないと、認証を取っても流せません。Scope3の算定でサプライヤーを巻き込むのと同じ苦労が、ここでも発生します。
取得プロセス|5ステップと「40日ルール」
5つのステップ
ISCC公式は、認証の手順を5つのステップとして示しています。スキームが違っても、手順の骨格は共通だとされています。
適用されるスキームの確認
市場や規制の枠組みごとに複数のスキームがあるため、まず自社の事業にどれが当たるかを確定させます。
認証機関(CB)の選定と契約
ISCC自身は監査を行いません。独立した認証機関(Certification Body)を自社で選び、直接契約します。監査は選んだCBの審査員が実施します。CBは国際的に展開していることが多く、対応地域は各CBに問い合わせる形です。
ISCC HUBでの登録申請
監査の前に、ISCC HUB経由で登録申請を提出します。先にISCC Client Sectionへサインアップし、そこからHUBにアクセスして申請を作成します。申請はまず選んだCBが審査し、次にISCCが審査します。両者の承認が下りるまで監査は実施できません。ISCCからの確認メールで登録が完了します。
認証監査の実施
選定したCBが現地で監査します。文書・データ・プロセスがレビューされ、対象サイトと業務が評価されます。不適合が見つかった場合は是正措置のリストを受け取り、40日以内に実施しなければなりません。是正措置が完了して初めて証明書が発行されます。
証明書の受領
監査が問題なく終わり、是正措置(あれば)が完了すると、CBが証明書を発行します。CBは証明書と監査報告書のサマリーをISCC HUB経由で提出し、これらは一般公開されている証明書データベースに自動で反映されます。
つまずきやすい3点
手順を並べると単純ですが、実務で詰まるのはだいたい次の3つです。
- 登録が二段階の審査を通る——CBの審査とISCCの審査、両方の承認が必要です。ここを片方だけと思っていると、監査日程の見立てが崩れます。
- 是正措置は40日以内——期限が明示されています。監査で指摘が出る前提で、文書や記録の整備に余裕を持たせておくのが安全です。
- 証明書は公開される——証明書と監査報告書サマリーは公開データベースに載ります。取引先が自社の認証状況を確認できるということは、逆に取引先の認証状況も確認できるということです。サプライチェーンの相手を調べる手段として使えます。
取得後にできること|クレームとロゴの扱い
認証を取得すると、ISCC認証材料の購入と販売ができるようになります。あわせて、ISCCのロゴやクレームを用いた訴求の道が開きます。
ただしロゴの使用には別の手続きがあります。ISCCはブランドオーナー向けにライセンス制度を設けており、ロゴ使用の申請やライセンスのデータベースが用意されています。「認証を取ったから自由にロゴを使える」わけではない、という点は押さえておきたいところです。
訴求の書き方も注意が必要です。マスバランス方式を用いた場合、その事実を明示せずに「バイオマス100%」と書けば、消費者に物理的な含有を誤解させます。表示と根拠の整合は、EUDRやデジタル製品パスポートが求める流れとも通じる論点です。
対象市場とアドオン
ISCC PLUSがカバーする市場は、化学品だけではありません。公式が挙げている領域は、持続可能な航空燃料(SAF)、代替船舶燃料、道路輸送燃料、eFuels、プラスチックと包装、繊維、その他のリサイクル・バイオ材料、電力・熱・冷熱、食品・飼料と幅広い範囲に及びます。
さらに、基本のスキームに追加できる任意のアドオンが用意されています。クレジット移転システム、再生農業(regenerative agriculture)、食料安全保障基準、そしてEU森林破壊防止規則(EUDR)への対応です。EUDR対応がアドオンとして組み込まれている点は、木材・パーム油・大豆などを扱う企業にとって実務的な意味があります。既存のISCC認証の枠内でEUDR要件に手を伸ばせる、ということです。
対象が広いぶん、自社がどの市場のどのスキームで、どの管理方式を使うのかという組み合わせを最初に固めることが重要になります。
企業が判断すべきこと
ISCC PLUSを検討する段階で決めるべきことは、3つに整理できます。
第一に、目的の明確化です。EU法令への適合が目的ならISCC EU、製品の環境価値を訴求したいならISCC PLUS。グリーン購入法の特定調達品目に納入するなら、まず自社品目の判断の基準がマスバランスを求めているかを確認するのが先です。
第二に、管理方式の選択です。物理的分離が可能なら主張は最も強くなりますが、設備の制約があります。マスバランスは始めやすい一方、訴求の際に前提の明示が欠かせません。サーキュラーエコノミーへの移行を段階的に進める手段として割り切るのか、将来的に分離へ移すのか——方針を決めておくと、設備投資の判断がぶれません。
第三に、サプライチェーンの点検です。前述のとおり、各サイトが証明書を持っていなければ鎖はつながりません。公開されている証明書データベースで、原料供給元と主要顧客の認証状況を先に調べておくと、取得後に「流す先がない」という事態を避けられます。
まとめ
- ISCC PLUSは、バイオマス・リサイクルなど代替原料の持続可能性を検証する任意の認証スキーム。法規制の遵守を超えた取り組みを対象とする。
- 管理方式は物理的分離・コントロールブレンド・マスバランスの3つ。マスバランスはそのうちの1つで、帳簿上で量を合わせる方式。
- サプライチェーンの全要素が認証を持つ必要があり、証明書はサイト単位で発行される。自社単独では完結しない。
- 取得は5ステップ。ISCC自身は監査せず、CBとISCCの二段階審査を経て監査、不適合の是正は40日以内、証明書は公開データベースに載る。
- 日本では、2026年2月3日のグリーン購入法基本方針の改定で文具等130品目にマスバランス方式が判断の基準として設定され、公共調達の要件に近づいた。
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出典・参考資料(一次情報)
リンク先は2026年9月時点で確認した各機関の公開情報です。最新は各公式情報をご確認ください。
ISCC公式:
ISCC「ISCC PLUS certification」(スキームの定義・3つの管理方式・サプライチェーンの7段階)/
ISCC「Certification Process」(5ステップ・二段階審査・是正措置40日・証明書データベース)/
ISCC「Certification Schemes」(ISCC EU・CORSIA・Japan FIT等の一覧)/
ISCC「Certificate Database」(認証状況の公開データベース)
日本の制度:
環境省「グリーン購入法基本方針の閣議決定及び意見募集(パブリックコメント)の結果について」(2026年2月3日・文具等130品目へのマスバランス方式の設定)/
環境省「特定調達品目及び判断の基準等の見直し一覧」(PDF)/
環境省「グリーン購入法について」
よくある質問(FAQ)
Q. ISCC PLUSとは何ですか?
A. ISCCが運営する任意の認証スキームで、バイオマス由来やリサイクル由来といった代替原料の持続可能性の特性を検証するものです。法規制の遵守を超えた自主的な取り組みを対象とし、物理的分離・コントロールブレンド・マスバランスという3つの管理方式によって、代替原料がサプライチェーンを流れる過程を追跡できるようにします。
Q. マスバランス方式とISCC PLUSはどういう関係ですか?
A. マスバランス方式は、ISCC PLUSが用意する3つの管理方式のうちの1つです。ほかに物理的分離とコントロールブレンドがあります。マスバランスは、投入した認証原料の量を帳簿上で管理し、その量に応じて製品の一部に特性を割り当てる方式で、原料が分子レベルで混ざる化学プロセスに向いています。
Q. 自社だけ認証を取れば「バイオマス由来」と言えますか?
A. 言えません。ISCC公式は、サプライチェーンのすべての要素が認証されている必要があり、代替原料を取り扱う各サイトが有効なISCC PLUS証明書を保有していなければならないとしています。証明書はサイト単位で発行されるため、原料の供給元や下流の取引先の認証状況を事前に確認しておく必要があります。
Q. 取得にはどんな手順が必要ですか?
A. 5つのステップです。①適用スキームの確認 ②認証機関(CB)の選定と直接契約 ③ISCC HUBでの登録申請 ④認証監査 ⑤証明書の受領。ISCC自身は監査を行わず、選定したCBの審査員が現地で監査します。登録申請はCBとISCCの両方の審査を通る必要があり、両者の承認が下りるまで監査は実施できません。
Q. 監査で不適合が出たらどうなりますか?
A. 是正措置のリストを受け取り、40日以内に実施する必要があります。是正措置が完了して初めて証明書が発行されます。期限が明示されているため、監査で指摘が出る前提で、文書や記録の整備に余裕を持たせておくのが安全です。
Q. 日本企業にとってなぜ今関係があるのですか?
A. 2026年2月3日に変更が閣議決定されたグリーン購入法の基本方針で、文具等130品目について「マスバランス方式によりバイオマス由来特性を割り当てたプラスチック」が判断の基準に設定されました。日本の公共調達が原料の由来の証明を求め始めたということで、国等の機関に納入する企業にとっては入札の要件に近づいています。