気候正義(クライメート・ジャスティス)とは|3つの不公平と企業・社会への意味を解説

2026.07.16
気候変動

気候変動には、ひとつの理不尽があります。原因を多くつくった人と、被害を大きく受ける人が、一致しないのです。たくさん排出してきたのは先進国や富裕層。しかし、洪水や干ばつに苦しむのは、責任の小さい途上国の人々や、まだ生まれてもいない将来世代です。この不公平を「正義」の問題としてとらえ、正そうとするのが気候正義(クライメート・ジャスティス)です。本記事では、気候正義とは何か、3つの不公平、共通だが差異のある責任、そして企業・社会への意味までを、公的機関などの情報をもとにわかりやすく整理します。

この記事の目次

気候正義とは(おさらい)

まず、気候正義がどのような考え方で、なぜ「正義」が問われるのかを整理しましょう。

原因と被害の、ずれを正す

原因を多くつくった

先進国・富裕層。温室効果ガスを多く排出。

被害を大きく受ける

途上国の人々・将来世代。責任は小さい。

気候正義=この不公平を正義の問題としてとらえ、不均衡を正そうとする考え方。

出典:国立環境研究所・FoE Japanの情報をもとにgreenote作成

気候変動を「公正」の問題としてとらえる

気候正義(クライメート・ジャスティス)とは、気候変動の原因をつくった者と、その被害を受ける者が異なるという不公平を、「正義(公正)」の問題としてとらえ、その不均衡を正していこうとする考え方や行動のことです。気候変動を、単なる環境問題や技術の問題としてだけでなく、公平さや倫理の問題として問い直す点に、特徴があります。

温室効果ガスを多く排出してきたのは、主に先進国や富裕層です。ところが、その影響でより大きな被害を受けるのは、排出への責任が小さい途上国の人々や、まだ声を持たない将来世代になります。この理不尽を見過ごさず、公正な解決をめざす。そこに、気候正義の核心があります。

原因と被害のずれ

気候正義の出発点は、「原因と被害のずれ」への気づきにあります。もし、たくさん排出した人が、その分だけ被害を受けるのであれば、それは自業自得かもしれません。しかし、現実はそうではないのです。

排出という「原因」をつくった人と、災害という「被害」を受ける人が、まるで別であること。ここに、深い不公平が生じています。先進国が豊かさを享受する一方で、そのツケを、遠い国の人々や未来の子どもたちが払わされている。この構造を、そのままにしておいてよいのか。気候正義は、私たちにそう問いかけます。

3つの不公平――国家間・世代間・社会内

気候変動の不公平は、大きく3つの軸で語られます。順に見ていきましょう。

3つの軸で生じる、不公平

国家間

排出責任の小さい途上国や島しょ国が、より大きな被害を受ける。

世代間

現在世代の排出のツケを、責任のない将来世代が負う。

社会内

同じ社会でも、低所得層など立場の弱い人ほど被害を受けやすい。

共通するのは、原因と被害が一致しないという構図。

出典:国立環境研究所の情報をもとにgreenote作成

気候変動の不公平は、いくつもの層で重なっています。整理すると、大きく3つの軸に分けられます。第一が、国家間の不公平です。排出責任の小さい途上国や島しょ国ほど、干ばつや海面上昇で、より大きな被害を受けます。この点は、損失と損害の議論とも直結します。

第二が、世代間の不公平です。いま排出されている温室効果ガスの影響は、これから何十年も続きます。そのツケを負うのは、排出に責任のない将来世代です。まだ生まれていない子どもたちが、選ぶ間もなく被害を引き受ける。そして第三が、社会内の不公平になります。同じ国の中でも、低所得層や高齢者など、立場の弱い人ほど、災害や猛暑の被害を受けやすい。この3つに共通するのは、原因と被害が一致しない、という構図です。

「共通だが差異のある責任」という考え方

気候正義の土台には、国際交渉で培われてきた重要な原則があります。

みんなの責任、でも重さは違う

共通だが差異のある責任(CBDR)

共通の責任

気候変動は世界共通の課題で、すべての国に責任がある。

差異のある責任

歴史的に多く排出してきた先進国は、より重い責任を負う。

国連気候変動枠組条約などで採用されてきた原則。気候正義を国際ルールで表したもの

出典:環境省・国連気候変動枠組条約の情報をもとにgreenote作成

気候正義の考え方は、国際的なルールのなかにも、しっかりと根を下ろしています。その代表が、「共通だが差異のある責任」(CBDR)という原則です。これは、国連気候変動枠組条約などで採用されてきました。少し硬い言葉ですが、意味はシンプルです。

まず、気候変動は世界共通の課題であり、すべての国に責任がある。これが「共通の責任」です。しかし、その責任の重さは、国によって同じではない。歴史的に多くの温室効果ガスを排出してきた先進国は、より重い責任を負う。これが「差異のある責任」です。この原則は、気候正義の理念を、国際的な約束事として表したものといえます。先進国と途上国が、責任の分担をめぐって議論を重ねてきた、その背景にある考え方です。

損失と損害・公正な移行とのつながり

気候正義は、近年の重要な概念と密接に結びついています。その関係を整理します。

理念を、かたちにする取り組み

気候正義=不公平を正すという理念

損失と損害

被害を受けた脆弱な国々を支援。国家間の不公平を正す。

公正な移行

脱炭素で影響を受ける産業や労働者を取り残さない。社会内の不公平に対応。

出典:外務省・ILO等の情報をもとにgreenote作成

気候正義は、抽象的な理念にとどまりません。それを具体的なかたちにする取り組みが、近年いくつも生まれています。そのひとつが、損失と損害(ロス&ダメージ)です。気候変動の被害を受けた脆弱な国々を、国際的な資金で支援する仕組みで、国家間の不公平を正そうとする動きにあたります。詳しくは関連記事の損失と損害とはもあわせてご覧ください。

もうひとつが、公正な移行(ジャストトランジション)です。脱炭素を進める過程で、影響を受ける産業や労働者を、置き去りにしない。これは、社会内の不公平に対応する考え方になります。気候正義という大きな理念があり、その下で、損失と損害や公正な移行といった具体策が動いている。そう理解すると、全体像が見えてきます。公正な移行は、関連記事の公正な移行とはもあわせてご覧ください。

若者気候運動と気候訴訟

気候正義は、いまや世界的な運動や法廷の場でも、大きなうねりを生んでいます。

声を上げ、権利を問う

若者気候運動

Fridays for Futureなど。将来世代が気候変動対策の強化を訴える。

気候訴訟

政府や企業の対策が不十分だとして、その責任を法廷で問う。世界的に増加。

将来世代や被害を受ける人々の権利を守るという、気候正義の考え方が根底にある。

出典:各種公開情報をもとにgreenote作成

気候正義は、教科書の中の言葉ではありません。世界中で、人々を動かす力になっています。象徴的なのが、若者たちの気候運動です。「Fridays for Future(未来のための金曜日)」に代表される運動では、将来世代である若者たちが、大人や政府に、より強い気候変動対策を訴えてきました。自分たちの未来がかかっているのだ、という切実な声です。

さらに、法廷の場でも動きが広がっています。政府や企業の気候変動対策が不十分であるとして、その責任を問う「気候訴訟」が、世界的に増えているのです。将来世代や、被害を受ける人々の権利を守る。その根底にあるのは、まさに気候正義の考え方にほかなりません。理念が、現実を動かす原動力になりつつあります。

企業・社会に求められること

気候正義の視点は、企業経営や政策にも重要な示唆を与えています。

公正な進め方が、問われる

公正な移行への配慮

脱炭素で特定の労働者や地域に負担を偏らせない。

脆弱な立場への配慮

低所得層やサプライチェーン上の人々の生活・人権。

意思決定への参加

影響を受ける人々の声を聞く。

CO2を減らすだけでなく、その進め方が公正かが問われる。

出典:ILO・環境省等の情報をもとにgreenote作成

気候正義は、遠い国や未来の話だけではありません。日本の企業や社会にとっても、無関係ではないのです。脱炭素を進める企業には、その進め方の公正さが問われるようになりました。第一に、公正な移行への配慮です。脱炭素の過程で、特定の労働者や地域に、負担が偏らないようにする。

第二に、脆弱な立場の人々への配慮です。低所得層や、サプライチェーン上の途上国の人々の生活や人権に、目を向けることが求められます。第三に、影響を受ける人々の声を、意思決定に反映させることです。CO2を減らすという「結果」だけでなく、その「進め方」が公正であるか。誰かを犠牲にしていないか。気候正義は、企業にこうした問いを突きつけています。人権への配慮は、関連記事のビジネスと人権とはもあわせてご覧ください。

まとめ|気候正義は「誰も取り残さない」脱炭素

気候正義は、脱炭素を、公正さという物差しで問い直す考え方です。最後に、要点を振り返りましょう。

  • 気候正義(クライメート・ジャスティス)とは、気候変動の原因と被害のずれ(不公平)を、正義の問題としてとらえ正そうとする考え方
  • 不公平は国家間・世代間・社会内の3つの軸。原因をつくった者と被害を受ける者が一致しない
  • 国際的な原則「共通だが差異のある責任」(CBDR)が、その理念を表す
  • 損失と損害(国家間)や公正な移行(社会内)は、気候正義を具体化する取り組み
  • 若者気候運動や気候訴訟の背景にあり、企業には進め方の公正さ(公正な移行・人権への配慮)が問われる

気候変動への対策は、速さだけでなく、公正さも問われる時代に入りました。誰かの犠牲の上に成り立つ脱炭素では、本当の意味で持続可能とはいえません。原因をつくった者が責任を果たし、被害を受ける者に手を差し伸べ、誰も取り残さずに進めていく。その視点こそが、気候正義の核心です。公正な移行なくして、真の脱炭素なし。この言葉を、心に留めておきたいものです。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。

よくある質問(FAQ)

Q. 気候正義(クライメート・ジャスティス)とは何ですか?

A. 気候正義とは、気候変動の原因をつくった者と、その被害を受ける者が異なるという不公平を、「正義(公正)」の問題としてとらえ、その不均衡を正していこうとする考え方や行動のことです。温室効果ガスを多く排出してきたのは主に先進国や富裕層ですが、その影響で大きな被害を受けるのは、排出への責任が小さい途上国の人々や将来世代です。この理不尽を問い直し、公正な解決をめざすのが気候正義です。

Q. 気候変動の「3つの不公平」とは何ですか?

A. 気候正義では、主に3つの不公平が語られます。1つ目は「国家間の不公平」で、排出責任の小さい途上国や島しょ国が、より大きな被害を受けることです。2つ目は「世代間の不公平」で、現在世代の排出のツケを、責任のない将来世代が負うことです。3つ目は「社会内の不公平」で、同じ社会でも、低所得層など立場の弱い人ほど被害を受けやすいことです。原因と被害が一致しない点が、共通の問題です。

Q. 「共通だが差異のある責任」とは何ですか?

A. 共通だが差異のある責任(CBDR)とは、気候変動は世界共通の課題であり、すべての国に責任がある一方で、その責任の程度は国によって異なる、という考え方です。国連気候変動枠組条約などで採用されてきました。歴史的に多くの温室効果ガスを排出してきた先進国は、より重い責任を負う、という考えが根底にあります。気候正義を、国際的なルールとして表した原則のひとつといえます。

Q. 気候正義と損失と損害・公正な移行はどう関係しますか?

A. いずれも気候正義を実現するための、具体的な取り組みや概念です。「損失と損害」は、被害を受けた脆弱な国々を支援する仕組みで、国家間の不公平を正す動きです。「公正な移行(ジャストトランジション)」は、脱炭素で影響を受ける産業や労働者を取り残さない考え方で、社会内の不公平に対応します。気候正義という理念が、これらの具体的な枠組みの背景にあると理解するとわかりやすいでしょう。

Q. 気候正義はどんな運動や動きにつながっていますか?

A. 気候正義は、世界的な社会運動を後押ししてきました。代表例が、若者たちが気候変動対策を訴える「Fridays for Future(未来のための金曜日)」などの運動です。また、政府や企業の気候変動対策が不十分だとして、その責任を法廷で問う「気候訴訟」も世界的に増えています。将来世代や被害を受ける人々の権利を守るという、気候正義の考え方が、こうした動きの根底にあります。

Q. 気候正義は企業にどう関係しますか?

A. 企業の脱炭素の取り組みにも、気候正義の視点が求められつつあります。たとえば、脱炭素を進める過程で、特定の労働者や地域に負担が偏らないよう配慮する「公正な移行」への対応です。また、サプライチェーン上の途上国の人々の人権や生活への配慮も重要になります。単にCO2を減らすだけでなく、その進め方が公正であるか、誰かを犠牲にしていないかが、問われる時代になっています。

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

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greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年7月16日

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