ESRSとは|欧州サステナビリティ報告基準の全体像とCSRDとの関係

2026.07.08
CSRD・ISSB

「CSRDへの対応を進めているが、実際に何を開示すればよいのか分かりにくい」――。そんな担当者にとって鍵となるのがESRSです。ESRSとは、CSRD(企業サステナビリティ報告指令)に基づき、企業が具体的に何を開示すべきかを定める欧州サステナビリティ報告基準のことです。2026年7月3日、欧州委員会はこのESRSの改訂版を採択し、開示項目を大幅に絞り込みました。本記事では、ESRSの全体像とCSRDとの関係、今回の改訂の内容、日本企業への実務的な影響を、一次情報をもとに整理します。CSRD対応にすでに着手している企業ほど、この改訂の意味は無関係ではありません。

この記事の目次

ESRSとは(おさらい)

ESRSとは、CSRDに基づく開示の具体的な内容を定める基準です。似た略語のCSRDとどう役割が違うのかから整理しましょう。

指令が枠組み、基準が中身

CSRD企業サステナビリティ報告指令
誰が・いつまでに報告すべきかを定める法律
基づく
ESRS欧州サステナビリティ報告基準
具体的に何を・どう開示すべきかを定める基準

指令が義務の枠組みを、基準が開示内容の中身を定める役割分担。

出典:欧州委員会の公開情報をもとにgreenote作成

ESRS=企業が開示する内容を定める『基準』

ESRS(European Sustainability Reporting Standards、欧州サステナビリティ報告基準)とは、気候変動・生物多様性・人権といった環境・社会・ガバナンス(ESG)の情報を、企業がどのような項目・粒度で開示すべきかを定める基準です。策定はEUの技術的助言機関であるEFRAG(欧州財務報告諮問グループ)が担い、欧州委員会が委任法として採択する仕組みです。

投資家をはじめとするステークホルダーが、企業のサステナビリティ関連のリスクと、企業が人や環境に与える影響の両方を理解できるようにすることが狙いです。

CSRD=報告を義務付ける『指令』との違い

一方のCSRDとは、EU域内でどの企業が、いつからサステナビリティ報告を義務付けられるかを定める指令です。対象企業の範囲や適用時期を決めるのがCSRDの役割で、開示する内容そのものを詳細に定めるのはESRSの役割になる。

つまり、CSRDが報告義務の枠組みを、ESRSがその中身を定めるという役割分担です。CSRD対応を進める企業にとって、実際の開示作業で向き合う相手はESRSだといえます。

欧州委員会が示したこと――ESRS改訂版を採択(2026年7月3日)

今回のニュースの核心は、欧州委員会がESRSの改訂版を採択し、開示項目を大幅に絞り込んだ点です。何が変わったのかを整理します。

ESRS改訂の3つの数字(2026年7月3日採択)

6割超減義務データポイント
7割超減データポイント全体
3割超減企業の報告コスト
中小企業向けの任意基準も新設
「バリューチェーン・キャップ」で情報提供の負担に上限

基準自体もより短く明確な構成になり、新たな柔軟性が加わった。

出典:欧州委員会の公開情報をもとにgreenote作成

義務データポイントを6割超・全体を7割超削減

欧州委員会は2026年7月3日、ESRSの改訂版を採択したと発表しました。今回の改訂では、義務的なデータポイント数を6割超、データポイント全体数を7割超削減する内容です。この見直しにより、企業1社あたりの報告コストを3割超減らせる見込みだと説明されています。

基準そのものも、より短く明確な構成に整理された。新しい柔軟性が加わり、開示に至る手続きも簡素化された点が特徴です。2023年に採択された最初のESRSが情報量の多さや実務負担の重さで指摘を受けていた経緯を踏まえた見直しだといえます。

中小企業向けの任意基準と『バリューチェーン・キャップ』

同日、欧州委員会はCSRD対象外の中小企業が任意で使える簡易な報告基準も新たに採択しました。CSRD対象企業のサプライチェーンに含まれる中小企業が、取引先から過大な情報提供を求められる負担を抑える狙いがあります。

この任意基準には「バリューチェーン・キャップ」という考え方が設けられている。CSRD対象企業は、サプライチェーン上の中小企業に対し、この任意基準が定める範囲を超える情報提供を求めることができない仕組みです。サプライヤー側の情報開示の負担に、実質的な上限を設けたことになります。

ESRSの全体構成――2つの横断基準と10のトピック基準

ESRSがどのような基準の集まりなのか、全体像を整理します。

ESRS 全12基準の構成

横断基準(全社に適用)
ESRS1一般要求事項
開示の枠組み・ダブルマテリアリティ
ESRS2一般開示事項
全社共通の必須基盤項目
トピック基準(重要な場合のみ適用)

環境

  • E1 気候変動
  • E2 汚染
  • E3 水・海洋資源
  • E4 生物多様性・生態系
  • E5 資源利用・循環経済

社会

  • S1 自社の労働力
  • S2 バリューチェーン上の労働者
  • S3 影響を受ける地域社会
  • S4 消費者・エンドユーザー

ガバナンス

  • G1 企業行動

トピック基準はダブルマテリアリティ評価で重要と判断された場合のみ適用される。

出典:EUR-Lex 委任規則(EU)2023/2772をもとにgreenote作成

ESRS1・ESRS2(横断基準)が定める土台

2023年7月31日に最初に採択されたESRS(委任規則(EU)2023/2772)は、12の基準から構成されています。うち2つが横断基準です。

ESRS1(一般要求事項)は、開示の枠組みやダブルマテリアリティ、バリューチェーンの考え方といったアーキテクチャそのものを定める基準で、それ自体に開示項目は含みません。ESRS2(一般開示事項)は、ガバナンス・戦略・インパクト・リスク・機会の管理・指標と目標という4領域で、すべての報告企業が開示すべき必須の基盤的項目を定めています。この2つの横断基準は、対象となるすべての企業に適用される。

環境(E1〜E5)・社会(S1〜S4)・ガバナンス(G1)の10基準

残る10のトピック基準は、環境分野のE1(気候変動)からE5(資源利用・循環経済)まで、社会分野のS1(自社の労働力)からS4(消費者・エンドユーザー)まで、ガバナンス分野のG1(企業行動)で構成されます。

横断基準と違い、トピック基準はダブルマテリアリティ評価の結果、自社にとって重要だと判断された項目にのみ適用される仕組みです。全10基準をすべて開示する必要はなく、自社の事業実態に応じて対象を絞り込める設計になっています。

ダブルマテリアリティとは(おさらい)

ESRSの開示項目を絞り込む鍵となる「ダブルマテリアリティ」を、簡単におさらいします。

ダブルマテリアリティとは、企業の開示すべき重要性を2つの視点で評価する考え方です。1つは、企業や自社のバリューチェーンが、気候変動などのサステナビリティ課題や人・環境に与える影響を評価する「インパクト重要性」。もう1つは、サステナビリティ課題が企業の財務状況に及ぼすリスクや機会を評価する「財務重要性」になります。

このどちらか一方でも重要だと判断された項目が、開示対象として選ばれる仕組みです。ESRS1がこの評価プロセスの土台を定め、実際にどのトピック基準が適用されるかは、企業ごとのダブルマテリアリティ評価の結果によって決まります。同じ業種でも事業内容によって開示対象が異なる場面が出てくる点は、押さえておきたいポイントです。

なぜ簡素化されたのか――EUオムニバスとの関係

今回の改訂は単独の出来事ではなく、EUの規制簡素化の流れの一部です。背景を整理します。

オムニバスIという大きな流れの一部

EUオムニバスI(規制簡素化パッケージ)

▼ ▼ ▼

CSRD対象企業の縮小
CSDDDの適用延期
ESRS改訂
(データポイント削減)

開示品質は維持しつつ、企業の行政負担を減らすことを目指す一連の見直し。

出典:欧州委員会・EUオムニバスIの公開情報をもとにgreenote作成

CSRD対象企業の縮小と歩調を合わせる簡素化

今回のESRS改訂は、EUオムニバスとはで解説したEUの規制簡素化パッケージ(オムニバスI)の一環として位置づけられます。オムニバスIでは、CSRDの適用対象企業を縮小する見直しも進められてきました。

対象企業の範囲を絞る動きと、開示項目そのものを軽くする今回のESRS改訂は、企業の行政負担を減らすという同じ方向を向いた取り組みだといえます。CSRD・ESRSをめぐる一連の見直しは、単発の出来事ではなく、継続する簡素化の流れの中で捉える必要があります。

『高品質な開示は維持』という欧州委員会の説明

欧州委員会は、今回の改訂について開示の質を落とすものではないという立場を示しました。データポイントを削減しても、投資家などのステークホルダーが必要とする情報の質は維持するという説明です。

行政負担の軽減と開示品質の両立という説明が、実際にどう機能するかは、今後の運用を見ていく必要がある部分です。企業側からすれば、削減された項目が自社にとって本当に不要な情報だったのかを、個別に確認する姿勢が求められます。

今後のスケジュールと日本企業への影響

改訂版はまだ発効前です。今後の手続きと、日本企業への実務的な影響を考えます。

発効までの道のり

2026年7月3日欧州委員会が改訂版を採択
精査期間欧州議会・理事会(2か月、延長可で最大4か月)
適用開始精査終了後に発効

日本企業への影響

直接の対象EU域内に一定規模の拠点を持つ場合
間接的な影響CSRD対象企業のサプライチェーンに含まれる場合

バリューチェーン・キャップが、間接的な情報提供の負担にも上限を設ける。

出典:欧州委員会の公開情報をもとにgreenote作成

欧州議会・理事会による精査期間

2026年7月3日に採択されたESRS改訂版と中小企業向け任意基準は、いずれも委任法という形式で採択されています。今後、欧州議会と理事会による精査期間(2か月、さらに2か月延長可能)を経てから適用される見通しです。つまり、この記事の執筆時点では、改訂版はまだ確定した最終形ではありません。

精査の過程で内容が修正される可能性もゼロではないため、実務対応にあたっては最新の一次情報を継続的に確認する姿勢が欠かせません。

サプライチェーン経由で日本企業にも及ぶ影響

ESRSは主にEU域内で活動する企業を対象としますが、EU域内に一定規模の事業拠点を持つ日本企業は、直接の適用対象になり得ます。直接の対象でない企業も無関係とはいえません。CSRD対象のEU企業のサプライチェーンに含まれる場合、取引先から関連情報の提供を求められる場面が出てきます。

今回新設されたバリューチェーン・キャップは、こうした間接的な情報提供の負担にも上限を設ける狙いを持つ仕組みです。EU企業と取引がある日本企業にとって、自社が求められる情報提供の範囲がどこまでかを把握しておくことが、今後の実務対応の出発点になります。

ESRSをどう捉えるか

ESRSは、CSRDに基づいて企業が開示すべき内容を定める基準です。2023年に最初の12基準が採択され、2026年7月には開示項目を大幅に絞り込んだ改訂版が採択されました。ESRS1・ESRS2の横断基準がすべての企業に適用され、残る10のトピック基準はダブルマテリアリティ評価の結果に応じて選ばれる仕組みになっています。

今回の改訂は、CSRD対象企業の縮小などを含むEUオムニバスIという規制簡素化の流れの一部であり、行政負担の軽減と開示品質の維持を両立させる狙いを持つ。日本企業にとっても、EU拠点の有無やサプライチェーン上の位置づけによって、影響の及び方が変わってきます。まだ欧州議会・理事会の精査を経ていない段階のため、今後の一次情報の確認が引き続き必要です。

なお本記事は、欧州委員会などの公開情報をもとに動向を整理したものです。特定の対応方針を推奨するものではありません。基準の詳細は今後の精査で変わりうるため、対応にあたっては最新の一次情報をご確認ください。

あわせて読みたい:基準が多すぎて混乱したら、まず全体地図から → サステナビリティ開示基準の全体像|ISSB・SSBJ・CSRD/ESRS・GRIの違いと優先順位

よくある質問(FAQ)

Q. ESRSとCSRDはどう違いますか?

A. CSRD(企業サステナビリティ報告指令)は、どの企業がいつまでにサステナビリティ情報を報告すべきかを定めるEUの『指令(法律)』です。一方のESRS(欧州サステナビリティ報告基準)は、CSRDに基づいて報告する際に『具体的に何を、どのように開示すべきか』を定める『基準』です。指令が報告義務の枠組みを、基準がその中身を定めるという役割分担になっています。

Q. ESRSは2023年に一度採択されたはずですが、2026年の『最終版採択』とは何が違うのですか?

A. 2023年7月に採択された最初のESRS(委任規則2023/2772)は現在も有効な基準です。2026年7月3日に採択されたのは、その内容を見直した『改訂版』で、義務的な開示データポイントを大幅に削減し、企業の報告負担を軽くする内容になっています。あわせて、CSRD対象外の中小企業向けに、任意で使える簡易な報告基準も新たに採択されました。どちらもEUの規制簡素化(オムニバスI)の流れの一部で、今後欧州議会・理事会の精査を経て適用される見通しです。

Q. 日本企業にも関係がありますか?

A. ESRSはEU域内で活動する企業を主な対象とする基準ですが、EU域内に一定規模の事業拠点を持つ日本企業は直接の対象になり得ます。また、直接の対象でなくても、CSRD対象のEU企業のサプライチェーンに含まれる場合、取引先から関連情報の提供を求められることがあります。今回新設された中小企業向け任意基準の『バリューチェーン・キャップ』は、こうした間接的な情報提供の負担にも上限を設ける狙いを持っています。

出典・参考(一次情報)

最終更新日:2026年7月8日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

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サステナビリティ実務・編集統括

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