グリッドフォーミングインバータ(GFM)とは|再エネで失われる慣性力をどう補うかをわかりやすく解説

2026.06.24
国内規制

再生可能エネルギーが増えるほど、電力システムの「見えない土台」が静かに揺らいでいきます。その土台のひとつが、慣性力です。そして、失われゆく慣性力をインバータで補う切り札として期待されているのが、グリッドフォーミングインバータ(GFM)です。

本記事では、GFMとは何かを、できるだけかみ砕いて解説します。そもそも慣性力とは何か、従来のグリッドフォロイング(GFL)との違い、擬似慣性で系統を支える仕組み、そして世界と日本の動きまでを順に見ていきましょう。再エネ拡大の裏側で起きる課題なので、出力制御(カーテイルメント)とは電力系統とはとあわせて読むと、つながりが見えてきます。

この記事の目次

グリッドフォーミングインバータ(GFM)とは

まず、GFMをひとことで整理します。「自分で電気の基準をつくれるインバータ」という発想から入りましょう。

GFMをひとことで言うと

グリッドフォーミング(Grid Forming)インバータとは、その名のとおり、系統(グリッド)の電圧や周波数の基準を自ら「形づくる(forming)」ことができるインバータです。制御ソフトによって、まるで発電機のように振る舞います。

インバータとは、太陽光パネルや蓄電池の直流(DC)を、系統で使う交流(AC)に変換する装置です。従来のインバータは、すでにある系統の波に合わせて電気を流すだけでした。GFMは一歩進んで、自ら波をつくり出し、系統を内側から支えられます。再エネや蓄電池を、単なる電気の出し手から、系統の安定を担う一員へと変える技術だといえます。

なぜいま注目されるのか

GFMが脚光を浴びる理由は、再エネの急拡大にあります。太陽光や風力が増え、火力発電が減るにつれ、これまで火力が支えてきた「系統の安定」が揺らぎ始めました。

とりわけ深刻なのが、後で詳しく見る「慣性力の低下」です。このままでは、再エネをさらに増やそうとしても、系統が不安定になって受け入れきれない、という壁にぶつかります。その壁を越える鍵として、火力の役割を肩代わりできるGFMへの期待が高まっているわけです。

「慣性力」とは何か

GFMを理解するカギは、ふだん意識しない「慣性力」です。再エネが増えると、これが静かに失われていきます。

慣性力とは|周波数を支える土台

再エネが増えると静かに失われる

同期発電機(火力・水力・原子力)

タービンなど重い回転体を持つ。回転の勢い(はずみ車効果)が、需給急変時の周波数の急な変化を和らげる。

太陽光・風力(インバータ電源)

回転質量を持たない非同期電源。発電はしても慣性力は基本的に出さない。

火力が減り再エネが増えると系統の慣性が低下→周波数が大きく速く変動→大規模停電のリスク。

出典:資源エネルギー庁・NEDO等の公開情報をもとにgreenote作成

同期発電機の「はずみ車」効果

慣性力とは、周波数の急な変化を和らげる、いわば電力システムの「ふんばる力」です。その源になっているのが、火力・水力・原子力といった同期発電機の、重い回転体です。

これらの発電機は、巨大なタービンや回転子が高速で回り続けています。需要が急に増えたり、発電所が突然止まったりして需給が乱れても、この回転の勢い(はずみ車のような効果)が、周波数の急変にブレーキをかけます。重い独楽(こま)が、少しの力では揺らがないのと同じ理屈です。私たちが安定した電気を使えてきた裏には、こうした回転体の存在がありました。

再エネが増えると慣性が下がる

ところが、太陽光や風力は事情が違います。これらはインバータを介して系統につながる「非同期電源」で、同期発電機のような重い回転体を持ちません。発電はしても、慣性力は基本的に提供しないのです。

そのため、火力発電が減って再エネが増えるほど、系統全体の慣性は下がっていきます。すると、需給が急変したときに周波数が大きく・速く動きやすくなり、最悪の場合は大規模停電につながりかねません。実際、海外では慣性力の不足が一因とみられる大停電も報告されています。再エネを増やすこと自体は望ましくても、慣性という土台を別の方法で支える必要が出てきました。

GFLとGFMの違い

いまのインバータの多くはGFL型です。GFMとは、系統との向き合い方が根本的に違います。

GFL と GFM の違い

系統との向き合い方が根本的に違う

GFL(グリッドフォロイング)

系統の電圧・周波数を測り、追従して電気を流す

たとえると「伴奏に合わせる奏者」

系統がないと自立できない

慣性力は基本的に出さない

GFM(グリッドフォーミング)

自ら電圧・周波数の基準をつくり出す

たとえると「場をリードする指揮者」

系統がなくても自立運転できる

擬似的な慣性力を供給して系統を安定させる

短期は連系ルールに適合しやすいGFLが先行、中長期はGFMが必須とされます。

出典:資源エネルギー庁・NEDO・研究機関の公開情報をもとにgreenote作成

GFL=系統に「追従」する

いま世の中にあるインバータの多くは、GFL(グリッドフォロイング)型です。これは、すでにある系統の電圧や周波数を測り、それに「追従して」電気を流す方式です。

たとえるなら、流れている伴奏に合わせて演奏する奏者です。系統という伴奏があってこそ、きれいに電気を送り出せます。裏を返せば、頼るべき系統がないと自立して動けません。また、基本的に慣性力は提供しないため、GFLばかりが増えると、先ほどの慣性低下が進んでしまいます。

GFM=基準を「つくる」・擬似慣性を出す

これに対してGFMは、自ら電圧や周波数の基準を「つくり出す」方式です。伴奏に合わせるのではなく、自分が指揮者になって場をリードするイメージです。

この性質のおかげで、GFMは系統がなくても自立して運転でき、停電からの復旧にも役立ちます。さらに、同期発電機や仮想同期発電機(VSG)のように振る舞い、擬似的な慣性力を供給できます。つまり、これまで回転体が担ってきた「ふんばる力」を、ソフトウェア制御で再現するわけです。短期的には既存の連系ルールに合わせやすいGFLが先行しますが、再エネ比率が高まる中長期には、GFMが欠かせないとされています。

GFMで何ができるのか

GFMは、これまで火力発電などが担ってきた「系統を支える力」を、インバータで肩代わりします。

GFMの3つの働き

火力が担ってきた「系統を支える力」を肩代わり

1

擬似慣性で周波数を安定

発電所が急に止まっても瞬時に踏ん張り、周波数の急変を和らげる。

2

自立運転・復旧に貢献

系統から切り離されても電気を供給でき、停電時に一部エリアを島のように保てる。

3

蓄電池と組んで火力を代替

GFM制御の蓄電池が、火力発電が担ってきた系統安定化の役割を引き受ける。

GFMは発電する技術ではなく、系統の質を支える基盤技術です。

出典:各種公開情報をもとにgreenote作成

周波数の急変を抑え、自立運転もできる

GFMの最大の働きは、擬似慣性によって周波数の急な変動を抑えることです。発電所が突然止まるような場面でも、GFMが瞬時に踏ん張り、周波数が崩れるのを和らげます。

加えて、自ら基準をつくれるため、系統から切り離された状態でも電気を供給し続けられます。停電時に一部のエリアだけで電気を保つ、いわば「島」のような運転も可能です。災害が多い日本では、この自立運転の価値は小さくありません。火力に頼らずとも系統の質を保てる——GFMは、その実現に近づく技術です。

蓄電池×GFM・分散リソースとの関係

GFMが真価を発揮するのは、蓄電池と組み合わさったときです。GFMは「制御の方式」、蓄電池は「電気をためる設備」であり、両者は別物ですが、相性が抜群です。

GFM制御を載せた蓄電池なら、ためた電気を使って擬似慣性や周波数調整を提供できます。これは、火力発電が担ってきた役割を、蓄電池が引き受けることを意味します。VPPで束ねた分散リソースにGFMが広がれば、街じゅうの蓄電池が系統を支える日も見えてきます。系統用蓄電池の現状は系統用蓄電池(BESS)市場の今、束ねる仕組みはVPP(仮想発電所)とはもご参照ください。

世界と日本の動き

GFMは、再エネ比率の高い地域から実用化が進んでいます。世界の先行事例と、日本の現在地を見ていきましょう。

海外=島嶼部で先行・豪州の教訓・要件化

GFMの導入は、再エネ比率が高く、慣性不足が起きやすい島嶼部で先行しました。英国や米国ハワイ州などが、その代表例です。系統が小さく外部とつながりにくい島では、慣性の問題が早く表面化するためです。

とりわけ大きな教訓となったのが、オーストラリアです。慣性力の不足が一因とみられる大規模停電を経験し、GFMなどの要件化に向けた議論が進みました。再エネ先進地域ほど、GFMを「あれば良いもの」ではなく「ないと困るもの」として位置づけ始めています。

日本=グリッドコードの検討と技術開発

日本でも、検討と開発が両輪で進んでいます。制度面では、資源エネルギー庁や電力広域的運営推進機関(OCCTO)が、グリッドコード(系統につなぐ際のルール)で系統安定化機能を求める検討を進めてきました(資源エネルギー庁)。短期は連系規程に適合しやすい周波数安定化機能つきのGFLが有力で、中長期にGFMが必須という整理です。

技術面では、NEDOのプロジェクトや産業技術総合研究所(産総研)が、GFMを実際の系統へ導入するための開発を進めています。富士電機や日立産機システムといったメーカーも開発に取り組み、日立産機は2025年4月から自社事業所での運用を始めました。研究室から実系統へ——日本のGFMは、着実に歩みを進めている段階です。

GFMをどう捉えるか

GFMは、再エネを「主役」にするための、縁の下の力持ちです。発電する技術が出そろっても、系統を支える慣性という土台が崩れては、再エネは安心して増やせません。その土台を、火力に頼らずソフトウェアで支え直すのが、GFMの役割です。

大切なのは、GFMを「派手な発電技術」ではなく、「電力システムの質を保つ基盤技術」として捉えることでしょう。出力制御で余りを調整し、蓄電池やLDESでため、VPPで束ね、そしてGFMで系統の安定を保つ。これらが組み合わさって初めて、再エネは主力電源になれます。

太陽や風の電気を、品質を落とさずに使い切る。その当たり前を裏で支える技術として、GFMはこれからの再エネ社会で存在感を増していくでしょう。全体像は電力システムまるわかりガイドもご覧ください。なお本記事は、特定の技術・企業・金融商品への投資を推奨するものではなく、仕組みと動向を中立に整理したものです。

最終更新日:2026年6月24日

この記事の著者

greenote編集部

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官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q. GFMとGFL(グリッドフォロイング)はどう違いますか?

A. GFL(グリッドフォロイング)は、すでに系統にある電圧・周波数を検出してそれに追従して電気を流す方式です。従来の太陽光・風力のインバータはほぼこれにあたります。対してGFM(グリッドフォーミング)は自ら電圧と周波数をつくり出す方式で、系統を「支える側」に回れる点が決定的な違いです。

Q. 「慣性力」とは何ですか?

A. 火力や水力の同期発電機が持つ、回転する重い機械としての物理的な慣性のことです。需給が急に崩れたとき、この慣性が回転を維持しようとするため、周波数の変化がゆるやかになり、対策する時間が稼げます。半導体で電気をつくるインバータ電源はこの回転体を持たないため、慣性を提供できません。

Q. なぜいまGFMが議論されているのですか?

A. 再エネ比率が上がるほど同期発電機が減り、系統全体の慣性が小さくなるためです。慣性が小さいと周波数の変化が速くなり、わずかな事故が広域停電につながるリスクが高まります。GFMは擬似的な慣性を提供して、この弱点を補う技術として位置づけられています。

Q. いつ普及するのですか?

A. 技術的にはすでに実装例があり、論点は「系統側の要件をどう決めるか」に移っています。導入が先行しやすいのは、制御装置を新設する蓄電池や洋上風力です。事業者としては、系統連系要件の改定動向を追っておくことが実務上の備えになります。

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