最終更新日:2026年8月4日
世界最大級の産油国が、いま電力の世界で大きく舵を切っています。サウジアラビアです。石油を輸出して栄えた国が、その石油を「国内では燃やさない」方向へ——貴重な輸出資源を守り、代わりに天然ガスと、砂漠の太陽光へと発電を移し替えようとしています。
この記事は、世界の電力事情シリーズの国別深掘り編(サウジアラビア)です。中東・アフリカの電力事情で見た中東の中核として、電源構成の推移、発電燃料の転換、Vision 2030と再エネ、NEOMとグリーン水素、電力と水の関係、外資、そして日本への示唆までを、数値とともに整理します。同じ湾岸産油国のUAEの電力事情とあわせてご覧ください。
※本記事は2026年時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。電源構成の数値や政策は年・統計・情勢によって変わるため、最新・確定の内容は各公式情報をご確認ください。特定の国・企業への投資を推奨するものではありません。
この記事の目次
サウジアラビアの電力事情とは|産油国のVision 2030
石油で発電する国
サウジアラビアの電力には、他国にはあまり見られない特徴があります。発電のために、天然ガスだけでなく「原油(石油)」そのものを大量に燃やしてきたことです。石油が豊富で安く手に入るため、電力もそれで賄うのが自然な選択でした。しかし石油は、輸出すれば大きな外貨を稼げる貴重な資源です。それを国内で燃やしてしまうのは、もったいないという問題意識が高まっています。
3つの特徴
特徴は上図の3つです。世界最大級の産油国でありながら発電の脱炭素に動き出したこと、Vision 2030のもとで再エネ5割という野心的な目標を掲げたこと、そして未来都市NEOMやグリーン水素という新産業に賭けていること。「石油の国」が「脱・自国石油依存」へ進む、大きな転換の入り口にいます(IEA「Electricity 2026」)。
電源構成の今と昔|石油からガス・再エネへ
2010年と近年の比較
サウジアラビアの電源構成を、2010年ごろと近年で並べてみましょう(概数)。
概数(年により変動)。石炭・大規模水力はほぼゼロ。再エネは2030年目標に向け拡大中。出典:KAPSARC・Ember等の公開データをもとにgreenote作成
どちらの時点も、石油(茶)と天然ガス(グレー)の化石燃料がほとんどを占めます。ただし変化も始まっています。石油の比率が下がり、天然ガスへの置き換えが進み、ほぼゼロだった太陽光(黄)が数%規模で立ち上がってきました。まだ化石燃料中心ですが、方向は明確に「脱石油・再エネへ」です。
電源別シェアの推移
時系列で見ると、その動きがよくわかります。
概数(年により変動/各年の合計はおおむね100%)。出典:KAPSARC・Ember等の公開データをもとにgreenote作成
石油が緩やかに減り、天然ガスがそれを補いながら、太陽光が少しずつ立ち上がっています。2030年に向けては、この太陽光の線が一気に跳ね上がる計画です。まだ助走の段階ですが、変化は着実に始まっています(いずれも概数)。
なぜ石油を燃やして発電するのか|燃料の転換
サウジアラビアの電力戦略の核心は、「発電の燃料を、石油から天然ガス・再エネへ切り替える」ことにあります。なぜなら、発電に使う石油を減らせば、その分を輸出に回して外貨を稼げるからです。国内消費を効率化することが、そのまま国の収入増につながる——産油国ならではの動機です。
概数(年により変動)。残りは太陽光等の再エネ。出典:KAPSARC・Ember等をもとにgreenote作成
上のグラフのように、発電用の燃料は石油から天然ガスへと着実に移ってきました。ガスは石油より二酸化炭素の排出が少なく、脱炭素の面でも前進です。そしてその先に、太陽光を中心とした再エネの大量導入が控えています。
Vision 2030と再エネ|世界最安の太陽光とNEOM
世界最安級の太陽光
サウジアラビアは、国家改革計画「Vision 2030」のもとで、電力の脱炭素を進めています。2030年までに発電の約50%を再生可能エネルギーにするという、ほぼゼロからの非常に野心的な目標です。広大な砂漠と強い日射を活かした大型の太陽光発電所が、競争入札で次々と建設され、入札価格は世界最安級を記録してきました。コーポレートPPAのような長期契約が、投資を後押ししています。
NEOMとグリーン水素
その象徴が、紅海沿岸に建設中の未来都市「NEOM」です。NEOMは電力を100%再エネで賄う構想で、隣接地には世界最大級のグリーン水素・アンモニアの製造プロジェクトが進んでいます。安く豊富な再エネで水素をつくり、日本を含む世界へ輸出する——石油に代わる新たな輸出産業を、サウジアラビアは描いています。
電力と水・冷房|巨大需要と課題
サウジアラビアの電力需要には、二つの大きな押し上げ要因があります。ひとつは、砂漠の猛暑に対応する冷房です。夏の電力消費の多くを冷房が占めます。もうひとつが、海水淡水化です。降水がほとんどない同国は、飲み水の多くを海水淡水化でまかなっており、その規模は世界最大級。淡水化には膨大な電力とエネルギーが必要です。
電源を脱炭素化するだけでなく、この巨大な需要そのものを効率化することも重要です。省エネ機器の普及、太陽光の活用、より少ないエネルギーで水をつくる淡水化技術への転換が、同時に求められています。
課題
発電用の石油消費。貴重な輸出資源である石油を、国内の発電で燃やしてきた。
対応
発電を天然ガスと再エネへ転換し、浮いた石油を輸出に回して外貨を得る。
課題
冷房・海水淡水化の巨大需要。猛暑の冷房と、世界最大級の海水淡水化が電力を大量に消費する。
対応
機器の省エネ化、太陽光の活用、より効率の高い淡水化(逆浸透膜など)を進める。
課題
再エネ拡大のスピード。ほぼゼロから2030年に5割という、非常に野心的な目標。
対応
大型の競争入札、送電網の増強、蓄電池の導入を一気に進める。
外資の参入状況|ACWA Powerと開かれた入札
開かれた再エネ入札
サウジアラビアの再エネは、競争入札を通じて外資に開かれています。世界各国の開発事業者や投資家が、太陽光・風力のプロジェクトに参加してきました。とくにサウジ発の電力・水事業会社ACWA Powerは、国内の大型案件を担うと同時に、中東・アフリカ・アジアで再エネ事業を展開するグローバル企業に成長しています。
参入機会
- 世界最安級の太陽光・大型プロジェクト
- ACWA Power等との連携で中東・世界へ展開
- NEOM・グリーン水素/アンモニアの輸出ハブ構想
留意点
- 猛暑・砂塵による保守(O&M)の負担
- 国有企業主導の市場構造・許認可
- 地政学・地域情勢のリスク
制度や開放度は年により変わります。最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
日本企業の動き
日本の商社・電力会社・メーカーも、サウジアラビアの発電事業や、NEOMを含むグリーン水素・アンモニアのプロジェクトに関心を寄せてきました。石油に代わるエネルギー供給源として、また脱炭素の技術・投資先として、中東は日本にとって重要です。RE100を進めるグローバル企業にとっても、安い再エネの動向は注目材料です。各社の個別戦略は変化するため、最新は各社の開示をご確認ください。
日本との比較|違いと示唆
サウジアラビアと日本を、電力の面で並べてみましょう。資源の背景は正反対ですが、目指す方向には重なる部分があります。
| 観点 | サウジアラビア | 日本 |
|---|---|---|
| 主力電源 | 石油・天然ガス(再エネは拡大初期) | 火力中心(多様な電源) |
| 再エネ目標 | 2030年に約50%(非常に野心的) | 2030年度に36〜38% |
| 原子力 | 計画段階(未稼働) | 再稼働を進める方針 |
| 特殊な需要 | 冷房・世界最大級の海水淡水化 | 冷暖房・産業用 |
| 水素 | グリーン/ブルー水素の輸出国を志向 | 主に輸入国を志向 |
最大の違いは、化石燃料の豊富さ(サウジ=産油・産ガス国/日本=資源に乏しい)と、再エネ目標の高さ(サウジ=2030年に約5割)です。サウジは潤沢な資金と広大な土地・強い日射で、一気に再エネを拡大できます。日本がそのまま真似はできませんが、「大口需要の効率化」や「水素の国際的なサプライチェーン」づくりは、輸入国・日本にとっても重要なテーマ。サウジは将来の水素供給元の候補でもあり、ネットゼロに向けた連携相手として注目されます。
まとめ|石油大国の挑戦
サウジアラビアは、世界最大級の産油国でありながら、発電を石油から天然ガス・再エネへ切り替え、貴重な石油を輸出に回そうとしています。Vision 2030のもとで掲げた再エネ5割は野心的ですが、世界最安級の太陽光やNEOM、グリーン水素構想が、その本気度を物語っています。
「石油で発展した国が、石油から離れる」——その挑戦は、化石燃料に依存する世界全体にとっての試金石です。中東全体の文脈は中東・アフリカの電力事情、同じ湾岸産油国のUAEの電力事情、資源に乏しい対極の例としてアイスランドの電力事情ともあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. サウジアラビアの電力の特徴は何ですか?
世界最大級の産油国でありながら、発電の脱炭素に動き出していることです。発電は石油と天然ガスの化石燃料が中心ですが、貴重な石油を輸出に回すため国内発電をガス・再エネへ切り替え、Vision 2030のもとで再エネの大量導入を進めています。
Q. サウジアラビアは何で発電しているのですか?
天然ガスと石油(原油)を中心とする化石燃料です。近年は石油の比率を下げて天然ガスへ切り替えを進め、太陽光を中心とした再生可能エネルギーが数%規模で立ち上がっています(いずれも概数・年により変動)。
Q. なぜ石油を燃やして発電するのですか?
石油が豊富で安く手に入るため、歴史的に発電にも使われてきました。ただし石油は輸出すれば外貨を稼げる貴重な資源のため、近年は発電を天然ガスや再エネへ切り替え、浮いた石油を輸出に回す方針を進めています。
Q. Vision 2030と電力の関係は?
Vision 2030はサウジアラビアの国家改革計画で、脱・石油依存の経済多角化を掲げます。電力面では2030年までに発電の約50%を再生可能エネルギーにする野心的な目標があり、世界最安級の大型太陽光の建設が進んでいます。
Q. NEOMとは何ですか?
紅海沿岸に建設中の未来都市構想です。電力を100%再生可能エネルギーで賄う計画で、隣接地では世界最大級のグリーン水素・アンモニア製造プロジェクトが進み、石油に代わる新たな輸出産業として期待されています。
Q. サウジアラビアの電力の課題は何ですか?
貴重な石油を国内発電で消費してきたこと、猛暑の冷房と世界最大級の海水淡水化による巨大な電力需要、そしてほぼゼロから2030年に再エネ5割という野心的目標の達成スピードです。ガス転換・再エネ・省エネ・蓄電で対応を進めています。
Q. サウジアラビアと日本の電力の違いは何ですか?
化石燃料の豊富さ(サウジは産油・産ガス国、日本は資源に乏しい)と再エネ目標の高さ(サウジは2030年に約5割)が対照的です。サウジは冷房と海水淡水化という特殊な巨大需要も抱えています。
Q. サウジアラビアから日本が学べることは何ですか?
大口の電力需要を効率化する発想や、水素・アンモニアの国際的なサプライチェーンづくりが参考になります。サウジは将来の水素供給元の候補でもあり、資源を持たない輸入国・日本にとって重要な連携相手になり得ます。
出典・参考資料(一次情報)
- Vision 2030(サウジアラビア政府 公式)
- KAPSARC(King Abdullah Petroleum Studies and Research Center)|エネルギー研究
- Ember|電源構成データ・分析
※ 本記事は上記の公表情報をもとにgreenote編集部が整理した一般的な解説です。電源構成・政策は年・統計・情勢で変わるため、最新・確定の内容は各公式情報でご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年8月14日