統合報告書とは|6つの資本と価値創造ストーリー・作り方を解説

2026.06.02
IR・投資家向け情報

「統合報告書を作ることになったが、何をどう盛り込めば投資家に伝わるのか分からない」。IRやサステナビリティの現場では、そうした悩みをよく耳にします。

統合報告書とは、財務情報と非財務情報(ESG・サステナビリティ)を統合し、企業が中長期にどう価値を生み出すかを伝える報告書です。過去の実績を並べるだけでなく、将来にわたる価値創造の道筋を物語として示す点に特徴があります。投資家との対話を深める任意開示の媒体として、作成する企業は年々増えてきました。

本記事では、統合報告書の定義と他の報告書との違い、フレームワークの6つの資本、価値創造プロセス、主な構成要素、そして投資家に伝わる作り方のステップを順に解説します。実務の判断に使える形へ整理しました。お役に立てれば幸いです。

統合報告書とは(財務×非財務で価値創造を伝える)

財務情報

売上・利益・資産などの業績

非財務情報(ESG)

人的資本・知的資本・環境への取り組みなど

統合して「中長期の価値創造ストーリー」を投資家へ伝える

目次

統合報告書とは|財務×非財務で価値創造を伝える報告書

統合報告書とは、財務と非財務の情報を一つにまとめ、企業の価値創造の全体像を示す報告書です。投資家が中長期の視点で企業を評価するための、対話のツールと言えます。まずは定義と背景を押さえましょう。

統合報告書の定義と目的

統合報告書の目的は、企業が「どのように」価値を生み出し、将来も生み出し続けるのかを、筋道立てて伝えることにあります。財務数値だけでは見えない、人材・技術・ブランド・環境への取り組みといった無形の要素を、価値創造の文脈で結びつけます。

『投資に役立つ企業分析』の解説でも、統合報告書は企業の戦略や強みを深く理解するための資料だと紹介されています。単なる情報の寄せ集めではなく、自社固有の価値創造の論理を語る点に本質があります。読み手である投資家の理解を助けることが、最大の目的です。

なぜ統合報告書が増えているのか

統合報告書を作る企業は、近年大きく増えました。背景には、投資家がESGや無形資産を重視するようになった流れがあります。財務諸表に表れない要素が、企業価値を左右すると認識されてきたためです。

GPIFが「優れた統合報告書」を選定・公表していることも、作成を後押ししました。長期の資金を預かる機関投資家が注目すれば、企業の対応も加速します。ESG投資の広がりについては、関連記事のESG投資とは|評価基準・手法と企業が押さえるべきポイントもあわせてご覧ください。

任意開示という位置づけ

統合報告書は、法律で義務づけられた開示ではありません。あくまで企業が任意で作成する媒体です。だからこそ、様式や内容に自由度があり、自社らしさを打ち出せます。

一方で、有価証券報告書でのサステナビリティ情報開示は制度として進んでいます。制度開示と任意開示をどう役割分担するかが、実務のポイントです。両者を補い合う関係として捉えると整理しやすいでしょう。

アニュアルレポート・サステナビリティ報告書との違い

統合報告書は、従来のアニュアルレポート(財務中心)やサステナビリティ報告書(ESG中心)を統合し、価値創造の文脈でつなぐ点に特徴があります。それぞれの違いを整理しましょう。多くの企業様が、この役割分担で迷われます。

アニュアルレポート(財務報告)との違い

アニュアルレポートは、売上や利益といった財務実績を中心に、1年間の事業を報告する媒体です。過去から現在の業績を伝えることに重きを置きます。

これに対し統合報告書は、財務実績に非財務の要素を統合し、将来の価値創造まで視野に入れます。「いくら儲けたか」だけでなく、「どう儲け続けるのか」を語る点が異なります。時間軸が、過去から未来へと広がるわけです。

サステナビリティ報告書との違い

サステナビリティ報告書は、ESGや社会・環境への取り組みを詳しく報告する媒体です。幅広いステークホルダーに向けて、網羅的に情報を開示します。

統合報告書は、そうしたESGの取り組みを、企業価値の創造とどう結びつくかという観点で語り直します。情報の網羅よりも、価値創造との関連づけを重視する点が違いです。両者は対立せず、補い合う関係にあります。

有価証券報告書との関係

有価証券報告書は、投資家保護を目的とした法定の開示書類です。正確性と比較可能性が強く求められます。SSBJ基準への対応も、この有報での開示に関わります。詳しくは関連記事のSSBJ基準とは|適用スケジュール・開示項目・ISSBとの違いをご覧ください。

統合報告書は、その制度開示を土台にしつつ、より自由に価値創造の物語を描く場と言えます。制度開示で「事実」を、統合報告書で「文脈」を伝える。そんな使い分けが現実的です。

統合報告書・アニュアルレポート・サステナビリティ報告書の違い
3つの報告書の中心情報と特徴の比較
報告書中心となる情報特徴
アニュアルレポート財務情報過去〜現在の業績を中心に報告
サステナビリティ報告書非財務(ESG)幅広いステークホルダー向けに網羅的に開示
統合報告書財務+非財務価値創造の文脈で統合し、将来の道筋も語る

フレームワークと6つの資本

統合報告書の国際的な指針が、IIRC(現IFRS財団)が定めたフレームワークです。その中核にあるのが、価値創造を支える6つの資本という考え方です。各資本の意味を解説しましょう。

フレームワークとは

フレームワークは、統合報告書に盛り込むべき考え方や内容要素を示した国際的な枠組みです。もともとIIRC(国際統合報告評議会)が策定し、現在はIFRS財団に引き継がれています。

このフレームワークは、細かい記載ルールを定めるというより、価値創造をどう語るかの原則を示すものです。だからこそ各社が自社らしく工夫でき、報告書ごとの個性が生まれます。

6つの資本(財務・製造・知的・人的・社会関係・自然)

フレームワークは、企業の価値創造を支える資本を6種類に整理しました。財務資本・製造資本・知的資本・人的資本・社会関係資本・自然資本の6つです。

財務資本は資金、製造資本は設備、知的資本は技術や特許、人的資本は人材の能力を指します。社会関係資本は信頼やブランド、自然資本は水や森林などの環境資源です。これらを多面的に捉えることで、財務諸表に表れない価値が見えてきます。

資本の増減で価値創造を語る

6つの資本という考え方の優れた点は、価値創造を「資本の増減」として語れることにあります。事業活動を通じて、ある資本を使い、別の資本を増やす。その変換の物語が、価値創造にほかなりません。

たとえば、人材育成(人的資本への投資)が技術力(知的資本)を高め、収益(財務資本)につながる。そうした資本どうしのつながりを示せると、説得力が増します。

フレームワークの6つの資本
企業の価値創造を支える資本を多面的に捉える

財務資本

事業を支える資金

製造資本

設備・建物などの物的基盤

知的資本

技術・特許・ブランドなどの知的財産

人的資本

人材の能力・経験・意欲

社会関係資本

顧客・地域との信頼関係

自然資本

水・森林などの環境資源

価値創造プロセス|統合報告書の核となるストーリー

統合報告書の心臓部が、価値創造プロセスです。6つの資本をインプットとし、事業活動を経て、アウトプット・アウトカムへとつなげる流れを、一枚の図と物語で示します。考え方を解説しましょう。

インプット→事業活動→アウトプット→アウトカム

価値創造プロセスは、大きく4つの段階で描かれます。インプット(6つの資本)を、ビジネスモデル(事業活動)に投入し、製品・サービス(アウトプット)を生み、社会や企業への成果(アウトカム)を生み出す流れです。

リコーグループの統合報告書「価値創造プロセス編」でも、この一連の流れを一枚の図で示す工夫が紹介されています。資本がどう価値へと変換されるかを可視化することで、読み手の理解が一気に進みます。図と文章の両輪で語る点が肝心です。

ビジネスモデルとマテリアリティ

価値創造プロセスの中心に置かれるのが、自社のビジネスモデルです。どんな資本を使い、何を強みに価値を生むのか。その独自性が、報告書の説得力を左右します。

あわせて重要なのが、マテリアリティ(重要課題)との結びつきです。自社にとって本当に重要な課題を特定し、それが価値創造にどう関わるかを示す。この一貫性こそ、投資家の信頼につながるのです。

価値創造ストーリーの描き方

価値創造ストーリーは、きれいな図を作ることが目的ではありません。自社固有の「価値を生む論理」を、筋道立てて語ることが本質です。『読みやすい統合報告書とは』の解説でも、伝わりやすさの鍵は一貫したストーリーにあると語られています。

筆者がIR支援の現場で感じるのも、図の体裁より「なぜその活動が価値につながるのか」の説明が抜けていると、投資家に響かないという点です。論理の糸を最後まで通すことが、伝わる報告書の条件です。

統合報告書の価値創造プロセス
マテリアリティ(重要課題)が全体を貫く
インプット

6つの資本

事業活動

ビジネスモデル・戦略

アウトプット

製品・サービス

アウトカム

社会・企業への価値(資本の増加)

統合報告書の主な構成要素

フレームワークは、統合報告書に盛り込むべき内容要素を示しています。組織概要から戦略、ガバナンス、実績、見通しまで、一貫した流れで構成する点が重要です。主な要素を整理しましょう。

組織概要・外部環境とガバナンス

最初に置かれるのが、組織の概要と、企業を取り巻く外部環境です。自社が何者で、どんな事業環境にあるのかを示します。続いてガバナンスでは、価値創造を支える経営の監督体制を説明します。

ガバナンスは、戦略や取り組みの実効性を裏づける土台です。誰が、どのように意思決定し、監督するのか。その仕組みが見えると、報告書全体の信頼性が高まります。

戦略・リスクと機会・資源配分

中核を成すのが、戦略とリスク・機会、そして資源配分です。外部環境の変化をリスクと機会として捉え、それにどう戦略で応えるかを語ります。気候変動などのリスクの捉え方は、関連記事の気候変動リスクとは|物理的リスク・移行リスクと企業の対応策でも整理しました。

資源配分では、6つの資本をどこに重点的に投じるかを示します。戦略と資源配分が結びついて初めて、価値創造の道筋に現実味が生まれます。

実績(KPI)と将来の見通し

最後に、取り組みの実績をKPIで示し、将来の見通しを語ります。掲げた戦略がどこまで進んだのかを、数値で裏づける部分です。

KPIは、価値創造ストーリーと結びついていることが大切です。物語と無関係な指標を並べても、説得力は生まれません。ストーリーの進捗を測る指標を選ぶことが、伝わる実績開示の条件です。

投資家に伝わる統合報告書の作り方ステップ

統合報告書は、マテリアリティの特定・価値創造ストーリーの設計・KPIでの裏づけという順序で作ると、投資家に伝わる一冊になるはずです。社内を巻き込みながら進めるのが現実的です。実務の進め方を整理しましょう。

ステップ1:マテリアリティの特定

最初の作業は、自社にとって重要な課題(マテリアリティ)を特定することです。数ある社会課題のうち、自社の価値創造に深く関わるものを絞り込みます。

ここが曖昧なまま進めると、報告書全体の焦点がぼやけてしまいます。投資家との対話や経営層の議論を通じて、重要課題を見極める。この一歩が、報告書の骨格を決めます。

ステップ2:価値創造ストーリーの設計

次に、マテリアリティを踏まえた価値創造ストーリーを設計します。6つの資本をどう使い、どんな価値を生むのか。その論理を一枚の図と文章に落とし込む作業です。

ストーリーは、経営トップの言葉と整合していることが望まれます。トップメッセージと価値創造プロセスがかみ合うと、報告書に一本の筋が通ります。社内の合意形成も、この段階で進めておくと後が楽になります。

ステップ3:KPIと実績で裏づける

最後に、ストーリーをKPIと実績で裏づけます。掲げた戦略の進捗を、具体的な数値で示す段階です。目標と実績を並べれば、取り組みの本気度が伝わります。

筆者が統合報告書づくりの相談を受けるなかでも、ストーリーとKPIがつながっている報告書ほど、投資家から高く評価される傾向があります。語った物語を数字で支える。この往復が、信頼を育てます。

投資家に伝わる統合報告書の作り方3ステップ
1

マテリアリティの特定

価値創造に深く関わる重要課題を絞り込む。報告書の骨格を決める出発点。

2

価値創造ストーリーの設計

6つの資本で論理を描き、トップメッセージと整合させる。

3

KPIと実績で裏づける

ストーリーの各段階に対応するKPIで、戦略の進捗を数値で示す。

統合報告書でつまずきやすいポイントと対応策

統合報告書づくりでは、「網羅」と「ストーリー」の両立・部門間の連携・KPIの裏づけという3点でつまずきやすい傾向があります。先に知っておくと、伝わる一冊に近づきます。よくある課題を整理しましょう。

「網羅」と「ストーリー」の両立

最も多い悩みが、情報の網羅と物語性の両立です。あれもこれもと盛り込むうちに、肝心の価値創造ストーリーが埋もれてしまいます。

対応策は、マテリアリティを軸に情報を取捨選択することです。すべてを語るのではなく、価値創造に関わる情報に絞る。網羅性はサステナビリティ報告書やデータ集に委ね、統合報告書は物語に徹する。そんな役割分担が有効でしょう。

部門横断の体制づくり

統合報告書は、財務・IR・経営企画・サステナビリティなど、多くの部門の情報を束ねます。一部門だけでは作り切れません。連携が滞ると、内容の一貫性が損なわれます。

対応策は、早い段階で部門横断のチームを組むことです。誰が何を担うかを決め、トップの関与も得ておく。横のつながりが、ストーリーの一貫性を支えます。

KPIと実績の裏づけ不足

立派なストーリーを描いても、KPIや実績の裏づけが弱いと説得力を欠きます。「言っていること」と「示せる数字」がずれていると、投資家はすぐに見抜きます。

対応策は、ストーリーの各段階に対応するKPIをあらかじめ設計することです。語る内容と測る指標をそろえておけば、裏づけの抜けを防げます。数値で語れる範囲を見極めることも欠かせません。

統合報告書でつまずきやすい3点と対応策
統合報告書づくりのつまずきと対応策
つまずきやすいポイント対応策
「網羅」と「ストーリー」の両立マテリアリティを軸に情報を取捨選択し、物語に徹する。網羅はデータ集に委ねる。
部門間の連携不足早期に部門横断チームを組み、トップの関与を得る。
KPI・実績の裏づけ不足ストーリーの各段階に対応するKPIをあらかじめ設計する。

まとめ|統合報告書は「価値創造の物語」で投資家と対話する

統合報告書とは、財務情報と非財務情報を統合し、企業の価値創造の道筋を伝える任意開示の媒体です。アニュアルレポートやサステナビリティ報告書を、価値創造の文脈でつなぎ直す点に特徴があります。

国際的な指針であるフレームワークは、6つの資本という考え方を示しました。これらの資本をインプットに、事業活動を通じてアウトカムへと変換する流れが、価値創造プロセスです。ESG情報開示の基礎は、関連記事のESG情報開示とは?基礎と企業が押さえるべきポイントもあわせてご覧ください。

作成では、マテリアリティの特定から始め、価値創造ストーリーを設計し、KPIと実績で裏づけます。きれいな体裁よりも、自社固有の価値創造の論理を一貫して語ることが、投資家との対話を深める鍵です。

よくある質問(FAQ)

Q. 統合報告書とは何ですか?

統合報告書とは、財務情報と非財務情報(ESG・サステナビリティ)を統合し、企業が中長期にどのように価値を生み出すかを示す報告書です。IIRC(現IFRS財団)のフレームワークが国際的な指針になっています。投資家との対話を深める任意開示の媒体として広く活用されています。

Q. 統合報告書とアニュアルレポートはどう違いますか?

アニュアルレポートは財務実績を中心に報告するのに対し、統合報告書は財務情報に非財務情報(ESGや無形資産)を統合し、価値創造の文脈でつなぐ点が異なります。過去の実績だけでなく、将来にわたる価値創造の道筋を語ることに重きを置きます。

Q. 6つの資本とは何ですか?

フレームワークが示す、企業の価値創造を支える6種類の資本です。財務資本・製造資本・知的資本・人的資本・社会関係資本・自然資本を指します。これらの資本をインプットし、事業活動を通じて価値(アウトカム)へと変換する流れを示すのが、統合報告書の考え方です。

Q. 統合報告書の作成は義務ですか?

統合報告書そのものの作成は、法律で義務づけられた開示ではありません。任意で作成する媒体です。ただし、有価証券報告書でのサステナビリティ情報開示やSSBJ基準への対応が進むなか、統合報告書を価値創造のストーリーを伝える場として活用する企業が増えています。

Q. 統合報告書は何から作り始めればよいですか?

まずは自社のマテリアリティ(重要課題)を特定することから始めます。そのうえで、6つの資本を使った価値創造ストーリーを設計し、KPIと実績で裏づけます。財務・IR・サステナビリティなど複数部門の連携が欠かせないため、早めに体制を整えることが大切です。

Q. 投資家は統合報告書のどこを見ていますか?

投資家は、価値創造ストーリーの一貫性、マテリアリティと戦略の結びつき、KPIによる進捗の裏づけ、そしてガバナンスの実効性などを重視します。きれいな体裁よりも、自社固有の価値創造の論理が説得力をもって語られているかが評価の分かれ目になります。

この記事の著者

greenote編集部

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